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26.美味しい珈琲の秘密(1)
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リドル様が我が家を訪ねられたのは、それから数日後のことだったと思う。
これから辺境伯様のところに行かれるとのことで、その前に少しお立ち寄りくださったとのことだった。
「やあ、アメリア。久しぶり!もう急に帰っちゃうから、びっくりしたよ!」
結局、リドル様やソフィア様には直接ご挨拶もできないまま帰ってきてしまったのだ。
大変申し訳ないことをしたと頭を下げる。
「ちゃんとしたご挨拶もせずに、大変申し訳ありませんでした。」
帰郷してから手紙は書いたのだが、やはり不義理をしたと反省する。
「いや、俺はいいんだよ。ずっとあっちこっち行ってて、王都にいなかったし。それよりも、ソフィアが大騒ぎして大変だったよ。アメリアに何かあったんじゃないかって、自分も辺境伯領まで付いて行くって言い張るから、なんとか押し留めてきた。あいつ、もう来月が産み月なのにさ。全く、相変わらずだよ。」
やはり、ソフィア様だけでもお会いしてから帰るのだったと心から後悔する。
今、第二子をご懐妊中のソフィア様のお気を煩わせてしまうなんて、本当に申し訳ない。
でも、ソフィア様の前で嘘をつける自信がなかった。
何故急に帰るのかと聞かれたら、答えに窮するのは分かっていた。
「いや、俺はさ。アメリアが元気ならいいんだ。でも、どうやらそうじゃないみたいだね。ルバートと何があったの?あいつ、なんかやらかした?」
リドル様にそう聞かれて、やはり隠し事はできないなと思う。
リドル様は私の気持ちに気付かれているはずなのだから。
「ルバート様は何も悪くありません。」
ルバート様は何も悪くない。
私が勝手に勘違いして、勝手に苦しくなって、そして逃げてきた。
私のことを単なる助手としてしか見ておられなかったルバート様に、何の非もない。
新しく領地を得られたルバート様が、これまで仕えた助手に、これからも務めるように誘ってくださろうとしただけなのに、遮って帰ってきた。
「いや、あいつが悪いよ。アメリアにそんな顔させるなんて、あいつが悪い。で、ルバートは何て言ったの?」
リドル様が真剣な表情で私を見ていた。
何か誤解されているような気がしたので、これは正直に申し上げた方がいいと覚悟を決める。
「ルバート様は、これからも仕事を手伝うようにと言われただけです。コーヒーを淹れて、口述筆記をするようにと。新しい屋敷には屋根裏部屋があるから、そこに住んでいいともおっしゃってくれました。」
口にすると、全く当たり前のことを言われただけだなと改めて思う。
ずっと助手を務めていたんだから、場所を変えるよう言われただけで、何もおかしいことはない。むしろ、通勤の心配をして住み込むように言ってくださったというのに。
けれど、私がそう言うと、リドル様は酷く驚いた顔をされた。
「はあ?!あいつ、そんなこと言ったの?」
「はい、確か、そのようなことをおっしゃいました。」
正確には覚えていないけれど、大体は合っているはずだ。
途中で話を遮ってしまったのだけど。
「はああああ。」
リドル様が、床に穴が開きそうなほどの大きなため息を落とされた。
「あいつ、ほんっとに馬鹿だ。何にも伝わってないじゃないか。」
リドル様は頭をぐしゃぐしゃと掻き乱しながら、独り言のように呟かれた。
「で、アメリアがそれを聞いて急に帰ってきたのは、何で?結婚準備って言うのは、断る口実なんだろ?」
リドル様がそう思われるのも無理はない。
普通なら、引き受けるだろう。
ルバート様の元で働くのは楽しかった。
できる限りお側に仕えたいと思っていた。
けれど、それを引き受けられなかったのは、私の不相応な想いのせいだ。
これから辺境伯様のところに行かれるとのことで、その前に少しお立ち寄りくださったとのことだった。
「やあ、アメリア。久しぶり!もう急に帰っちゃうから、びっくりしたよ!」
結局、リドル様やソフィア様には直接ご挨拶もできないまま帰ってきてしまったのだ。
大変申し訳ないことをしたと頭を下げる。
「ちゃんとしたご挨拶もせずに、大変申し訳ありませんでした。」
帰郷してから手紙は書いたのだが、やはり不義理をしたと反省する。
「いや、俺はいいんだよ。ずっとあっちこっち行ってて、王都にいなかったし。それよりも、ソフィアが大騒ぎして大変だったよ。アメリアに何かあったんじゃないかって、自分も辺境伯領まで付いて行くって言い張るから、なんとか押し留めてきた。あいつ、もう来月が産み月なのにさ。全く、相変わらずだよ。」
やはり、ソフィア様だけでもお会いしてから帰るのだったと心から後悔する。
今、第二子をご懐妊中のソフィア様のお気を煩わせてしまうなんて、本当に申し訳ない。
でも、ソフィア様の前で嘘をつける自信がなかった。
何故急に帰るのかと聞かれたら、答えに窮するのは分かっていた。
「いや、俺はさ。アメリアが元気ならいいんだ。でも、どうやらそうじゃないみたいだね。ルバートと何があったの?あいつ、なんかやらかした?」
リドル様にそう聞かれて、やはり隠し事はできないなと思う。
リドル様は私の気持ちに気付かれているはずなのだから。
「ルバート様は何も悪くありません。」
ルバート様は何も悪くない。
私が勝手に勘違いして、勝手に苦しくなって、そして逃げてきた。
私のことを単なる助手としてしか見ておられなかったルバート様に、何の非もない。
新しく領地を得られたルバート様が、これまで仕えた助手に、これからも務めるように誘ってくださろうとしただけなのに、遮って帰ってきた。
「いや、あいつが悪いよ。アメリアにそんな顔させるなんて、あいつが悪い。で、ルバートは何て言ったの?」
リドル様が真剣な表情で私を見ていた。
何か誤解されているような気がしたので、これは正直に申し上げた方がいいと覚悟を決める。
「ルバート様は、これからも仕事を手伝うようにと言われただけです。コーヒーを淹れて、口述筆記をするようにと。新しい屋敷には屋根裏部屋があるから、そこに住んでいいともおっしゃってくれました。」
口にすると、全く当たり前のことを言われただけだなと改めて思う。
ずっと助手を務めていたんだから、場所を変えるよう言われただけで、何もおかしいことはない。むしろ、通勤の心配をして住み込むように言ってくださったというのに。
けれど、私がそう言うと、リドル様は酷く驚いた顔をされた。
「はあ?!あいつ、そんなこと言ったの?」
「はい、確か、そのようなことをおっしゃいました。」
正確には覚えていないけれど、大体は合っているはずだ。
途中で話を遮ってしまったのだけど。
「はああああ。」
リドル様が、床に穴が開きそうなほどの大きなため息を落とされた。
「あいつ、ほんっとに馬鹿だ。何にも伝わってないじゃないか。」
リドル様は頭をぐしゃぐしゃと掻き乱しながら、独り言のように呟かれた。
「で、アメリアがそれを聞いて急に帰ってきたのは、何で?結婚準備って言うのは、断る口実なんだろ?」
リドル様がそう思われるのも無理はない。
普通なら、引き受けるだろう。
ルバート様の元で働くのは楽しかった。
できる限りお側に仕えたいと思っていた。
けれど、それを引き受けられなかったのは、私の不相応な想いのせいだ。
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