厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

文字の大きさ
上 下
254 / 280
第九部 一章「魔女と魔銃使い」

「魔女物語:魔銃使い編 5」

しおりを挟む
 クロトが魔銃使いになって4年近くが経過する。
 一人で人里に通う事も増え、世間の情報などはもはや一般人と変わらず、幼き頃から蓄えてきた知識も有効活用してきた。数年間での魔科学による技術の発展にも難なく追いつき活用、彼が魔銃を表に出さなければさほど周囲に目立つこともない。
 いわば、普通の人間となんら変わらず溶け込めていた。
 ただ、人との関りというものが極限まで避けられている。他者と関わるのは最低限、必要な分のみ。それ以外は不必要と脳が判断するのも自然。時折、まだ子供なためガラの悪い他人に絡まれる事はよくある。
 今もまた数人、その犠牲に会っている。

「がっ、ぁあ!?」
「なんだよこのガキ!? 銃、だと!?」

 路地裏ではガタイの良い男二人が地面に倒れ伏せていた。
 どちらの身にも銃で一発撃たれた痕があり、動けずに顔色を蒼白とさせている。
 
「先に喧嘩売ったのはお前らだろうが? なんで自分がやられる側になるっていう考えはねーんだよ?」

 人の世でも同族を売り買いする者はいる。子供はその標的として狙われやすいものだ。魔科学の実験として。奴隷として。臓器売買や魔族への生贄。使い道はいくらでもある。理由は多々、その内としてこういった人さらいに遭遇する事もある。要は狩られるという立場。
 だが、クロトは逆にそういった害を反撃として撃つ。障害は排除すべきと、そう手が動く。それに対して、どうして躊躇いと罪悪感が湧こうか? 
 自分の行いが間違いだろうと正当であろうと、どちらでもいい。自身にとって、目の前の赤の他人は、ただの鬱陶しいモノでしかないのだから。
 これ以上騒がれれば面倒だ。大きな街には警備兵もいる。クロトはすぐに二人の頭を撃ち抜き、静止させた。
 静寂に耳が慣れた時だ。

「礼儀知らずよねぇ~。私とクロトが楽しくお話していたというのに、割り込んで入ってくるなんて」

 背丈の成長したクロトの背に、魔女はそっと寄り添い呆気なく死んだ男たちを見る。
 殺されて当然だったと、不思議な事などなに一つもないという顔で。そして、クロトの行いを肯定する。

「大丈夫よクロト。この辺の音は遮断してあるから、兵は来ないわ。なんだったら、もっと残酷に仕留めてもよかったんじゃないかしら?」

「うるさい。それで恩を売ったつもりか?」

「そんな事ないわ。ただの配慮だもの。そこまで恩着せがましくないから」

「……」

「……そういう切り替えの早さも素敵よクロト」

 背に寄り添った魔女。それに向け、クロトは既に銃口を向けていた。
 まるで、本命はこちらだったと、そういう様に。

「撃たないのかしら?」

「どうせ当たらないんだろ? 無駄弾撃つほど俺は馬鹿じゃない」

「よくわかってるじゃない。さすがクロトね」

「……いい加減そうやって背後に引っ付くのをやめろ。お前はいっつもそうだ。最後はいっつもお前が背後をとっている。こっちとしては不快でしかない」

「そんなつもりはないのだけど、何故かしらね。きっと勝敗の結末に相手の無様な顔を見るのが好きなのかもしれないわね。ほら、後ろをとると、驚いた顔をよくされるじゃない? クロトのそういうところも可愛いから、ついやりたくなるのかもしれないわね。ふふ」

 撃ちたい。すぐにでもこの至近距離にいる魔女を撃ちたいと不快感が溜まっていく。
 だが、この状況で撃つなど先ほど馬鹿のする事だと言ったばかりだ。苛立ちをグッと堪え、魔女を振り払うようにその場から去ることとした。
 徐々に開く間隔。後方で魔女は再度葬られた二人を見下ろし、くすっと笑ってから呟く。

「早くこんな人間がいなくなればいいのにね……」

 魔女は、これまでもずっとそうだった。
 自分たち以外はどうでもよく、生死どちらに傾こうがどうということはない。それにはクロトも同意していた。自分ではない赤の他人が生きようが死のうが、自分には関係のないことなのだから。その分、魔女は必要以上の好意と期待を向けてくる。
 世界が嫌いで。人間が嫌いで。魔族も嫌いな魔女。
 納得は行くが、むしろ、種族など関係などないとクロト自身は思っている。信頼できるのは自分だけ。自分だけが自分を裏切らない。他者への期待は裏切られるくらいならしなければいい。他者からの好意は偽善である。ただ使えるモノを使う、それだけだ。
 これが一番自分を守り、自分が肯定できる、過去の様な間違いを繰り返さないための、クロト自身が考えた最大の自己防衛。
 誰も納得しなくとも、理解しなくてもいい。自分だけがその生き方を信じていたい。
 唯一、肯定するとすれば、クロトのその生き方を間違いと言わなかった魔女だけだろう。
 
『順調……というのが結果でしょうか? 我が主』

「ええ。今のあの子はとっても素敵。思った通り、あの子は頑張って強くなっていってる」

 数分前のクロトを思い返す。
 同じ人間を撃つことへの抵抗、躊躇い、違和感。それらが全て微塵も感じられなかった。クロトの目には、生き物とモノの区別が同じに映っているにすぎない。人間だから殺さないというものもなく、相手がなんであろうと平等に撃つことができる。
 その非人道な姿が、魔女には好ましく映る。自分にとって下等で愚かな存在を、クロトも同じように葬りさる行動に共感も得る事ができたのだから。
 
『このまま、何事もなく時が来れば良いのですが……』

「……そうね」

 不安のある言葉に、魔女は静かに頷く。
 気分よくあったというのに、魔女の表情は曇り思いつめた様子でいた。

『申し訳ありません。過去の一時のものでしかなく、不確かな事を思い返させてしまい……』

「……確かに、そうね。でも、私もあの言われようからから始めた様なものだったし」




 それは、魔女が幼き頃の事。今からおよそ100年近く前の事だ。
 ダンタリオンの言う通り、不確かなもの。何故なら、それは魔女が見たという夢の内容だったのだから。
 実際に現実で体験したのではなく、幻聴とも思える、不安が聞かせただけな、嫌がらせの様な夢。
 自分は本当に世界を変える事ができるのか。その迷いに悩まされる時期があった。これは、その時の夢である。
 夢の内容は、頭の中で描かれるようなモノとは違っており、ただ、誰かの自分に対して発せられた言葉のみだった。
 姿形もなく、男か、女かも確認できない。おそらく、言葉遣いから男ではないかと思えるもの。
 彼はこう言った。

 ――魔女。お前はいつか世界を終わらせようとする。お前がどれだけ世界を嫌おうと、お前の身勝手な【願い】だったとしても、その道を進んで救われた奴らは確かにいる。
 ――だが、忘れるな。お前の【願い】を阻止する奴は必ずいるという事を。
 ――俺が絶対にお前をぶっ潰してやるから、覚悟しておけ。

 



 まるで、宣戦布告された気分だった。
 夢から覚めてもその言葉が鮮明に残っており、しばらく腹立たしい時間を過ごしたものだ。世界の意志か、それとも予知夢というものなのか。その声の主が誰だったのかなど未だ不明である。
 しかし、全く身に覚えのない声がただの夢と思えず、その様な未来があるのならばと挑む勢いで魔女は世界の改変を強く決心したのも事実だ。
 
「あれが本当にただの夢だったのか。最後に邪魔しに来るのか。……でも、その時は全力で相手するわ。そして、私の【願い】を叶える」

『……』

「まあ、今そんな事悩んでも仕方ないわ。今はあの子の成長が一番だもの」

『仰せのままに。それなりに一人でも生きて行けれるようになってまいりましたね』

「そうねぇ。寂しいけど、……そろそろ独り立ちしてもらわないといけないかしらね」

 数日後を境に、魔女はクロトに別れを告げる。呪いを背負わせ、死ぬ気で追い求め強く生きる様に。役目を果たし、約束の日に再会し【願い】を叶えるその時を待ち望んで。
 
 
 
 そして今。二人は約束の日に再会し、――対立する。

************************** 

『やくまが 次回予告』

 過去を共に過ごしてきた魔銃使いと魔女。
 二人は今、己の信念のため譲らない意志と共に衝突する。
 
 これまでの旅にどれだけ魔女が関与していたのか。魔女のこれまでの裏が明るみに。

 全ては愛娘のために。全ては愛する愛おしい者たちのために。
 ならば何故と、クロトは問う。
 
 何故、愛娘でなければならなかったのか。
 愛おしいなら、何故愛娘の傍にいてやらなかったのか。
 何故死や恐怖を植え付けたのか。
 
 何故、――自分を魔銃使いとしたのか……。

 魔女は語る。
 刃を交えながら、怒りを露にしながら。
 
 「――クロト。貴方と私は似ているから……」

次回、【厄災の姫と魔銃使い】第九部 二章「選ばれた理由」
しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...