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第九部 一章「魔女と魔銃使い」
★序章★
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魔銃使いと魔女。
二人の出会いから今に至る、殺したいほどの因縁と、それでも尚愛おしいまでの不変。
世界の終焉を目前に語られるは魔女の全てに向けた【嫌悪】【怒り】。魔女の【憤怒】は刃となって魔銃使いを圧倒する。
「嫌い。嫌い嫌い嫌い、大っ嫌い!! あの子を苦しめた世界が憎い! 貴方たちの様な可哀想な子を生み出すこの世界が嫌い! だから終わらせる! それの何が間違いだって言うの!?」
魔女の見せる本当の素顔。彼女のずっと叶えたいという【願い】。
それを阻むのは、魔女が見据えた最初の魔銃使い。その銃口は、ずっと魔女にへと向く。
「お前には……感謝してるよ。…………【願い】を叶えてくれて、力を与えてくれて――」
この日、この時。一つの【願い】が成就される。
終焉か、それとも…………。
【厄災の姫と魔銃使い】第九部 願い星編:後編 開幕
時に。彼女の住まう空間は空虚と化してしまう。
どれだけの書物を積み重ねても、飽きるほど目にしらそれらなど無いに等しい。暇を潰すだけの、有り余る無意味とも思える時間を過ごすための道具。家具のほとんどを埋め尽くすほどの書物を下に敷き、少女は傍らの窓から外を見る。
広いとは言いづらい街並み。多いとも言いづらい住人たち。大人は働き、子供は遊びのびのびと暮らす。
そんな光景など見飽きたと、少女は心底不満を抱き呆れてそれらから目を背ける。
「……問い、一」
膝の上に置く本のページをめくり、少女は問いかける。
「どうして彼らはいつも同じように過ごしているの?」
一日一日で違いはあれど、少女にとってはどれも同じに見えた。
なんの変哲もなく、誰もが時が巻き戻ったかのように同じことを繰り返し日々を過ごしている。
問いに答えるが如く。少女の隣で頭を垂れる者が一体。黒のスーツを着こなす長身。執事のようにふるまうも、彼の首から上は異様なものでしかない。竜を模したような被り物。骨でできている様にも見えるし、そこらのガラクタをつぎはぎにして組み立てた様にも見える。
そして、彼は答える。
「はい、我が主。人間は生きるために働き、稼ぎ、それを糧にする必要があるのでございます。幼き者はああやって遊び、他者とのコミュニケーションをとり、成長してゆくのです。……ですが、彼らも大雑把には同じように見えて、実は違う事もしているのですよ?」
説明し終えると、彼は少女の思い込みを指摘する。
しかし、余計な言葉だったのか、少女は不満の表情を向ける。
「そんなことはどうでもいいの。……人間はあんなつまらないことで満たされるのね。小さい」
「種族も違えば、生き方も違いますからね」
「……問い一。もし私があそこに行って、あの人間たちはどう反応するかしら?」
少女は窓の外で見える子供たちに指を差す。
丁度少女とは歳も近くある。……が。
「はい、我が主。…………おそらく、騒ぎになるのではと」
少々戸惑いつつも答える。
それも当然の話だ。わかっていた、と、少女は自分の瞼に手を重ねる。
開く瞳よは鮮やかな赤。それはまごうことなき、魔女の証である。
歯を噛み合わせ苛立つ。
「魔女の中には瞳の色を隠す事ができない者もいます。ですがその多くは強大な魔力を有しているためとあります。……我が主。貴方様は他の魔女よりも優れているのです」
「好きでこんな無駄にある力を持っているわけじゃないわよ……。本当にイライラする。なによあの人間たちはっ? 普通でいられるのを当たり前と思うあの愚者たちは!?」
「……我が主。申し訳ありません。余計な事を言いましたね」
「べつに、貴方に怒ってるわけじゃないわよ……ダンタリオン。ただ、普通を享受してのうのうとしている彼らが、私は嫌いなだけ。私をこんな風にこの世に生み出した世界が……私は嫌いなだけ」
「……」
「嫌い……。大嫌い……。時々ね、何もかも怒りが世界に向いちゃうの。こんな世界、なくなればいい……って。私も……こんな普通じゃないのを捨てれたら…………って」
いつか。この不平等な世界を変えれたら。
いつか。自分も周囲と変わらない、普通になれたら……。
少女はただ、その【願い】を思いながら虚しく日々を過ごし続ける。
人を、魔を、世界の全てを恨みつつ。幼き魔女はその【憤怒】を抱え続ける。
世界を書き換えるほどの力。神すら殺し、神の座を得る事のできるほどの奇跡。
何をしてでも叶えたい【願い】がある。
例え世界の全てを敵にしようとも…………。
二人の出会いから今に至る、殺したいほどの因縁と、それでも尚愛おしいまでの不変。
世界の終焉を目前に語られるは魔女の全てに向けた【嫌悪】【怒り】。魔女の【憤怒】は刃となって魔銃使いを圧倒する。
「嫌い。嫌い嫌い嫌い、大っ嫌い!! あの子を苦しめた世界が憎い! 貴方たちの様な可哀想な子を生み出すこの世界が嫌い! だから終わらせる! それの何が間違いだって言うの!?」
魔女の見せる本当の素顔。彼女のずっと叶えたいという【願い】。
それを阻むのは、魔女が見据えた最初の魔銃使い。その銃口は、ずっと魔女にへと向く。
「お前には……感謝してるよ。…………【願い】を叶えてくれて、力を与えてくれて――」
この日、この時。一つの【願い】が成就される。
終焉か、それとも…………。
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どれだけの書物を積み重ねても、飽きるほど目にしらそれらなど無いに等しい。暇を潰すだけの、有り余る無意味とも思える時間を過ごすための道具。家具のほとんどを埋め尽くすほどの書物を下に敷き、少女は傍らの窓から外を見る。
広いとは言いづらい街並み。多いとも言いづらい住人たち。大人は働き、子供は遊びのびのびと暮らす。
そんな光景など見飽きたと、少女は心底不満を抱き呆れてそれらから目を背ける。
「……問い、一」
膝の上に置く本のページをめくり、少女は問いかける。
「どうして彼らはいつも同じように過ごしているの?」
一日一日で違いはあれど、少女にとってはどれも同じに見えた。
なんの変哲もなく、誰もが時が巻き戻ったかのように同じことを繰り返し日々を過ごしている。
問いに答えるが如く。少女の隣で頭を垂れる者が一体。黒のスーツを着こなす長身。執事のようにふるまうも、彼の首から上は異様なものでしかない。竜を模したような被り物。骨でできている様にも見えるし、そこらのガラクタをつぎはぎにして組み立てた様にも見える。
そして、彼は答える。
「はい、我が主。人間は生きるために働き、稼ぎ、それを糧にする必要があるのでございます。幼き者はああやって遊び、他者とのコミュニケーションをとり、成長してゆくのです。……ですが、彼らも大雑把には同じように見えて、実は違う事もしているのですよ?」
説明し終えると、彼は少女の思い込みを指摘する。
しかし、余計な言葉だったのか、少女は不満の表情を向ける。
「そんなことはどうでもいいの。……人間はあんなつまらないことで満たされるのね。小さい」
「種族も違えば、生き方も違いますからね」
「……問い一。もし私があそこに行って、あの人間たちはどう反応するかしら?」
少女は窓の外で見える子供たちに指を差す。
丁度少女とは歳も近くある。……が。
「はい、我が主。…………おそらく、騒ぎになるのではと」
少々戸惑いつつも答える。
それも当然の話だ。わかっていた、と、少女は自分の瞼に手を重ねる。
開く瞳よは鮮やかな赤。それはまごうことなき、魔女の証である。
歯を噛み合わせ苛立つ。
「魔女の中には瞳の色を隠す事ができない者もいます。ですがその多くは強大な魔力を有しているためとあります。……我が主。貴方様は他の魔女よりも優れているのです」
「好きでこんな無駄にある力を持っているわけじゃないわよ……。本当にイライラする。なによあの人間たちはっ? 普通でいられるのを当たり前と思うあの愚者たちは!?」
「……我が主。申し訳ありません。余計な事を言いましたね」
「べつに、貴方に怒ってるわけじゃないわよ……ダンタリオン。ただ、普通を享受してのうのうとしている彼らが、私は嫌いなだけ。私をこんな風にこの世に生み出した世界が……私は嫌いなだけ」
「……」
「嫌い……。大嫌い……。時々ね、何もかも怒りが世界に向いちゃうの。こんな世界、なくなればいい……って。私も……こんな普通じゃないのを捨てれたら…………って」
いつか。この不平等な世界を変えれたら。
いつか。自分も周囲と変わらない、普通になれたら……。
少女はただ、その【願い】を思いながら虚しく日々を過ごし続ける。
人を、魔を、世界の全てを恨みつつ。幼き魔女はその【憤怒】を抱え続ける。
世界を書き換えるほどの力。神すら殺し、神の座を得る事のできるほどの奇跡。
何をしてでも叶えたい【願い】がある。
例え世界の全てを敵にしようとも…………。
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