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第七部 一章 「紫電の記憶」
「嫌いな者同士の付き合い方:後編」
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「というわけで、要件は説明した通り。この村の付近の森で暴れている魔物の討伐よ。アンタの腕はそーれーなーりーにあるみたいだし、そこら辺の野郎に手伝わせるよりはまともそうだわ。私が男なんか誘うなんて滅多にないことなんだから、感謝するのね」
「お前に感謝する用途がいったいどこにある? お前がどうしてもっつーから仕方なくだろうが。逆に俺に感謝しろ。俺が他人の頼み事なんて聞くことすら皆無な話なんだからな」
村を離れ、問題の魔物のいる場所にへと向かう道中。
わかってはいた事だが、クロトの年上に対する礼儀のなさには心底呆れてしまう。
――本当に礼儀を知らない奴ねっ。とことんぶっ飛ばしてやりたいけど、コイツ見た目に寄らずタフなのよね。アレをくらって生きていた事が一番の驚きだわ……。感電死してたはずだと思ったけど……、もっと自然に情報を出させるか。
サキアヌの国内はほとんどが荒野で、今いる森林は少なくしか存在していない。そこには小さな土地に押し込められたように魔物が群れを成し固まっていることがある。ここしばらくはおとなしくしていたようだが、ちょっとしたことが原因で突如凶暴化し村に害を出す危険性があった。
この事態に運悪く関わり立ち寄ってしまったネアは情報だけでなく戦いに関しても一流。そのため魔物の討伐を任されていた。
しかし、彼女にも予想外の事があったのか、取引としてクロトを利用する事にした。
「そういえば、アンタってその魔武器何処で手に入れたの? 普通ないわよ? そういうすごそうな魔武器」
「べつにいいだろうが、そんなもん。……ムカツク奴から貰っただけだ」
道中の暇つぶしか、クロトも話にのる。
だが、返ってくる言葉はできれば常識の範囲内に収めてほしいものだ。
――も、貰った……。貰ったですって!? そんな軽く言われるとすごく不安なのよっ。そんな物騒なもんを無償でくれる奴の気が知れないわよ!! やっぱりそっちが一番の問題かしら?
「へぇ~。アンタって意外に知り合いがいたりするんだ。パッと見、アンタって誰かと一緒にいようとは思わないタイプみたいだし」
「んなもんいてもうっとうしくて邪魔なだけだろうが」
「それにしても、クレイディアントの襲撃時にいたとはねぇ。しかも城に。なーにしてたのかしら? ひょっとしてレガル側の人間だったりして。その方が話の内容的にはしっくりくる」
当時のクレイディアントには二つの勢力が攻めていた。
魔族と、レガルの軍だ。
クロトも人間であるなら、レガルの陣営に加わっていた可能性も有り得た。
しかし、クロトは鼻で笑う。
「国とか関係ねぇな。他人がどうなろうが知ったこっちゃねぇし」
「じゃあ逆にクレイディアント側だったのかしら? ……それとも魔族側?」
「どっちでもねーっつってんだろうが。俺は俺のためにしか行動しないんだよ」
「うわっ、自己中。男ってそういうのばっかで困るわぁ……」
苦笑し応答するも、ネアは更に不可解であると懸念を抱く。
――コイツ、まさか単独行動で戦場にいたの? 死にたいわけ? ……なんのためにそんなところに。理由もなく行くわけがない。……そろそろコイツの目的をまとめておくか。
一つ。クロトは何故そんな間の悪い時にクレイディアントにいたのか。
どちら側でもないのなら関わらないことが普通だ。身を危険にしてまで行く必要があったことになる。理由が一つ考えられる。それはクロトが脱出の際に一緒にいたと思われる人物の存在だ。それがクロトをその場に行くきっかけとなっていた。
そして、その人物こそが滅亡の引き金となった人物。クレイディアント第一皇女、通称――【厄災の姫】。
二つ。クロトが何故【厄災の姫】を探しているか。
誤作動なのかはわからないが、二人が飛ばされた先は異なっていた。クロトはなにかしらの意図があって、その子を探さなければならない義務がある。別の国の刺客……はありえないか?
それなりにクロトの事は知った。そんな奴がなんで世界に破滅をもたらすなんて子を探しているのか。
殺すなら勝手に死ぬのを待てばいい。私がもしクロトなら、そうする。それでも探しているのにはそれ以外の理由があるからに違いない。
別の者からの強制。それが魔族か人間か。
それをした奴によって、私が情報を与えるか与えないかが決まってもくる。
魔族側なら、彼女は生贄となる。他の魔王か、力のない魔族でもその力は喉から手が出るほど欲しいものだろう。
魔族側は最悪でしかない……。
かといって、人間側はありえない。人にとって、彼女の使い道などロクにないのだから。
それ以外……。
三つ。以下の推測から考えて……コイツ、いつか自滅するタイプだ。
止まらずにいた歩みが、ふと止まる。
ネアは考察を止め、重いため息を吐く。晴れていた表情は失せ、心底後ろを付いてくる者に呆れてしまったのだ。
――これはもう、踏み切らなければならない。
「……アンタさぁ。人を探しているような口ぶりだったわね。私の考えでは、それってあの国の、厄災の子じゃないの?」
ネアは冷めた眼差しでクロトに振り返る。
この質問だけは避けようと思っていたつもりだった。追求するということは深入りする事になる。しかし、聞く必要があった。
問いにクロトは不快な表情をした。
バレたかと思っているのだろうが、予想よりも驚いた感じではない。
「だったらなんなんだよ……?」
「アンタはその子を捜してどうする気なのかしら? アンタは他人と一緒にいれるような奴じゃない。自身の障害になろうとする者を容赦なく排除するようなアンタが、一番面倒な事になりそうな子を殺す以外にどうするというの?」
明らかにリスクを背負うことになる。
そして、
「仮に生かして手元に置いておくつもりだったとしても、アンタがそれに耐えられるようには見えない。少しでも癇に障れば無意識に手にかけることだってあり得る。……わかる? アンタは自滅するってこと。理由は知らないけど、私は情報を与えて、そのせいで後悔するような奴には一切情報を与えたくない。私が情報を与えるのは必要とされ、ちゃんとした道を歩めるものじゃないとダメなの。でなければ、たった一つの過ちで多くの犠牲者が出ることだってあるの。アンタは平気でも、私はそうしない」
「つまりあれか……。返答しだいで答えない。そう言いたいのか?」
「そういう事になるわね。それとも意外なことに、アンタとその子ってそんな深い関係なわけ……?」
四つ。意外な事に深い関係者であるという可能性。
――まあ、これはさすがにないわよねぇ……。
その可能性を破棄しようとした時だ。
少し戸惑った様子でいるクロトが、口を開く。
「……い、生き別れの……」
「へったな嘘言わなくていいから。そんなバレバレな嘘言う奴初めて見たわ。絶対浅い関係ね。お姉さんよくわかったわ」
まさか、嘘でもそんな事をこの状況で言おうとしたなど、呆れを通り越してしまう。
顔をそらして苦い顔をしながら言われても見事なまでの嘘でしかない。しかも目元がひきつっている。必死にそんなことを言いたくないと言わんばかりの表情だ。
おまけに、最後には舌打ちをした。
「この際だから正直に言いなさいよ! もうアンタの事は五割をとっくに超えてるのっ。下手な嘘よりも、事実の方が私も信じやすい! いくら何でもこの話は世間にとっては大きすぎる! 私だってわずかでも、協力するのが怖いのよ! アンタだけの問題じゃないの!!」
あれこれ隠しながら、知らずのふりのままこの関係を維持する事ができない。
この事に協力する事が、その先が破滅ならと思うと、恐怖でしかない。
――私は、……もう二度と自分のせいで他の人に迷惑かけたくないの!
こんな事なら、最初の段階で話を聞かなければよかった。
興味本位で探ろうとしなければよかった。
――後悔は……今の私だけでいい。
今ならまだ間に合う。馬鹿な自分だけで済む。
そう思っていた時だ。
「――っるっせぇんだよ!! 俺にはそのガキが必要なんだよ!! あのクソ魔女の呪いを――」
その本音であろう発言に、ネアはハッとした。
クロトも途端に口を塞ぐ。
不快な顔。苛立つ表情。それは周囲に、そして同時に自身にも向けているようだ。
しばらくそうやって黙り続けるクロトをネアは驚いた目で眺めてしまう。
――嘘……。コイツ、魔女なんかと関わってるの……? だとすれば、合点がいく。魔武器の事も。あんな魔武器を作れるのは、魔女ぐらいだ。
思わず頬を汗がつたい、信じられない一言が何度も脳内で再生されてしまう。
その言葉は「魔女」というものだ。
ネアですら得体の知れない存在。そんな者に関わっている者など、見極めきれないのも当然だった。
――なによ。アンタも、相当厄介な奴じゃない。そんなの聞いたら……、私だって、考えを一変しないわけにはいかないでしょうね。
男は嫌いだ。野蛮な男はもっと嫌いだ。礼儀のない男は、心底嫌いだ。
だが、この魔銃使いもまた、大きな存在を抱えた、ある意味の被害者である。
関わるべきではない。関われば、最終的に世界を敵に回すかもしれない。
だが、目の前の人物を見て見ぬふりをして、見過ごすという選択を躊躇う。
魔女と、厄災。世界の命運すら左右する事件に巻き込まれているのは、自分なんかよりも年下な子供ではないか。
誰がこのような運命を押し付けた? こんな子供に荷の重い物を抱えさせたのは誰だ?
これまでのクロトの言動が霞むほど、その根源らに怒りが湧く。
「……もういいわよ。一応忠告もしといたし、とりあえずこの話は置いておきましょ」
「……うるさい」
「はいはい、可愛くない可愛くない。男ってこれだから嫌なのよね。無駄に強がって恩義を感じようとしない。でも、とりあえず私としては気持ちはまとまったわ」
ネアは人差し指を立てて、ふと微笑する。
「お姉さんの優しさに感謝しなさい。今頼んでる一件が終わったら、情報をあげる。再度言うけど、情報はあくまで情報でしかないわ。それが本当にアンタの欲しているものかどうかわからない。私はアンタに聞かれたことを答えるだけだからね」
クロトの両目は丸く、パチッ瞬きをさせた。
それは一瞬でしかなく、彼はいつものふてくされたような愛想のない顔をしてそっぽを向く。
「……そういう他人の好意は嫌いだ」
「好意じゃないわ、仕事なだけ。私だってアンタとはそろそろお別れしたいしね。言わなきゃしつこく付き纏われるかもだし。ストーカーとか最悪」
「俺もお前みたいな女は嫌いだ」
「そういうこと。私もアンタのこと好きじゃないもの。男なんて大がつくほど嫌いなの。だから、仕事で仕方なくなんだからね」
ネアもクロトも納得した。
自分たちはただ偶然知り合って情報屋と依頼主の関係でしかない。
彼女がどんな理由でも与える対象と認めれば情報を提供するのは当然である。
だからこれは好意ではない。ただの仕事。それだけで片付けられる簡単なことだ。
だから二人は仲が良いわけでもなく、仲間でもなんでもない。
どちらも仕方なくの関係でしかない。
――子供にこんなもん、押し付けんじゃないわよ。いいわよ、付き合ってあげる。救ってあげたいなんて良心じゃない。アンタはそんなもの嫌いだものね。私がアンタに向けるのは、押し付けるようなおせっかいよ。その方が、アンタとは接しやすい。
**********************
『やくまが 次回予告』
ネア
「ああ~、本当に会った頃のコイツって生意気なクソガキだったわね。失礼にもほどがあるわ」
クロト
「お前も人の事言えねーだろうが。無視したあげくに蹴り飛ばすんだからな。……此処までの暴力女は俺も初めて見たぞ」
ネア
「ええ~。あれよあれ。銃向けられたから正当防衛ってやつー。だって急にそんな物騒なもん向けられたら、乙女な私も怖くなっちゃうし」
クロト
「は? 誰が怖いって? お前に一番似合わない言葉一位はそれじゃねーの? 逆にお前の方がこえーよ。よく言えたなそんなセリフ」
ネア
「初対面で銃向ける奴は大抵怖がられるわよ」
クロト
「嫌ってくれて結構っ。俺は他人に好かれたくなんかねーっての」
ネア
「まあ、アンタがモテてる姿とか見ただけでキモいものね」
クロト
「お前が黙りまくって妙な様子醸し出すのもキモいんだが?」
ネア
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第七部 二章「分かれ道」。アンタとの付き合いに終わりってあるのかしらね?」
クロト
「あるだろそりゃ」
ネア
「……それもそうね」
「お前に感謝する用途がいったいどこにある? お前がどうしてもっつーから仕方なくだろうが。逆に俺に感謝しろ。俺が他人の頼み事なんて聞くことすら皆無な話なんだからな」
村を離れ、問題の魔物のいる場所にへと向かう道中。
わかってはいた事だが、クロトの年上に対する礼儀のなさには心底呆れてしまう。
――本当に礼儀を知らない奴ねっ。とことんぶっ飛ばしてやりたいけど、コイツ見た目に寄らずタフなのよね。アレをくらって生きていた事が一番の驚きだわ……。感電死してたはずだと思ったけど……、もっと自然に情報を出させるか。
サキアヌの国内はほとんどが荒野で、今いる森林は少なくしか存在していない。そこには小さな土地に押し込められたように魔物が群れを成し固まっていることがある。ここしばらくはおとなしくしていたようだが、ちょっとしたことが原因で突如凶暴化し村に害を出す危険性があった。
この事態に運悪く関わり立ち寄ってしまったネアは情報だけでなく戦いに関しても一流。そのため魔物の討伐を任されていた。
しかし、彼女にも予想外の事があったのか、取引としてクロトを利用する事にした。
「そういえば、アンタってその魔武器何処で手に入れたの? 普通ないわよ? そういうすごそうな魔武器」
「べつにいいだろうが、そんなもん。……ムカツク奴から貰っただけだ」
道中の暇つぶしか、クロトも話にのる。
だが、返ってくる言葉はできれば常識の範囲内に収めてほしいものだ。
――も、貰った……。貰ったですって!? そんな軽く言われるとすごく不安なのよっ。そんな物騒なもんを無償でくれる奴の気が知れないわよ!! やっぱりそっちが一番の問題かしら?
「へぇ~。アンタって意外に知り合いがいたりするんだ。パッと見、アンタって誰かと一緒にいようとは思わないタイプみたいだし」
「んなもんいてもうっとうしくて邪魔なだけだろうが」
「それにしても、クレイディアントの襲撃時にいたとはねぇ。しかも城に。なーにしてたのかしら? ひょっとしてレガル側の人間だったりして。その方が話の内容的にはしっくりくる」
当時のクレイディアントには二つの勢力が攻めていた。
魔族と、レガルの軍だ。
クロトも人間であるなら、レガルの陣営に加わっていた可能性も有り得た。
しかし、クロトは鼻で笑う。
「国とか関係ねぇな。他人がどうなろうが知ったこっちゃねぇし」
「じゃあ逆にクレイディアント側だったのかしら? ……それとも魔族側?」
「どっちでもねーっつってんだろうが。俺は俺のためにしか行動しないんだよ」
「うわっ、自己中。男ってそういうのばっかで困るわぁ……」
苦笑し応答するも、ネアは更に不可解であると懸念を抱く。
――コイツ、まさか単独行動で戦場にいたの? 死にたいわけ? ……なんのためにそんなところに。理由もなく行くわけがない。……そろそろコイツの目的をまとめておくか。
一つ。クロトは何故そんな間の悪い時にクレイディアントにいたのか。
どちら側でもないのなら関わらないことが普通だ。身を危険にしてまで行く必要があったことになる。理由が一つ考えられる。それはクロトが脱出の際に一緒にいたと思われる人物の存在だ。それがクロトをその場に行くきっかけとなっていた。
そして、その人物こそが滅亡の引き金となった人物。クレイディアント第一皇女、通称――【厄災の姫】。
二つ。クロトが何故【厄災の姫】を探しているか。
誤作動なのかはわからないが、二人が飛ばされた先は異なっていた。クロトはなにかしらの意図があって、その子を探さなければならない義務がある。別の国の刺客……はありえないか?
それなりにクロトの事は知った。そんな奴がなんで世界に破滅をもたらすなんて子を探しているのか。
殺すなら勝手に死ぬのを待てばいい。私がもしクロトなら、そうする。それでも探しているのにはそれ以外の理由があるからに違いない。
別の者からの強制。それが魔族か人間か。
それをした奴によって、私が情報を与えるか与えないかが決まってもくる。
魔族側なら、彼女は生贄となる。他の魔王か、力のない魔族でもその力は喉から手が出るほど欲しいものだろう。
魔族側は最悪でしかない……。
かといって、人間側はありえない。人にとって、彼女の使い道などロクにないのだから。
それ以外……。
三つ。以下の推測から考えて……コイツ、いつか自滅するタイプだ。
止まらずにいた歩みが、ふと止まる。
ネアは考察を止め、重いため息を吐く。晴れていた表情は失せ、心底後ろを付いてくる者に呆れてしまったのだ。
――これはもう、踏み切らなければならない。
「……アンタさぁ。人を探しているような口ぶりだったわね。私の考えでは、それってあの国の、厄災の子じゃないの?」
ネアは冷めた眼差しでクロトに振り返る。
この質問だけは避けようと思っていたつもりだった。追求するということは深入りする事になる。しかし、聞く必要があった。
問いにクロトは不快な表情をした。
バレたかと思っているのだろうが、予想よりも驚いた感じではない。
「だったらなんなんだよ……?」
「アンタはその子を捜してどうする気なのかしら? アンタは他人と一緒にいれるような奴じゃない。自身の障害になろうとする者を容赦なく排除するようなアンタが、一番面倒な事になりそうな子を殺す以外にどうするというの?」
明らかにリスクを背負うことになる。
そして、
「仮に生かして手元に置いておくつもりだったとしても、アンタがそれに耐えられるようには見えない。少しでも癇に障れば無意識に手にかけることだってあり得る。……わかる? アンタは自滅するってこと。理由は知らないけど、私は情報を与えて、そのせいで後悔するような奴には一切情報を与えたくない。私が情報を与えるのは必要とされ、ちゃんとした道を歩めるものじゃないとダメなの。でなければ、たった一つの過ちで多くの犠牲者が出ることだってあるの。アンタは平気でも、私はそうしない」
「つまりあれか……。返答しだいで答えない。そう言いたいのか?」
「そういう事になるわね。それとも意外なことに、アンタとその子ってそんな深い関係なわけ……?」
四つ。意外な事に深い関係者であるという可能性。
――まあ、これはさすがにないわよねぇ……。
その可能性を破棄しようとした時だ。
少し戸惑った様子でいるクロトが、口を開く。
「……い、生き別れの……」
「へったな嘘言わなくていいから。そんなバレバレな嘘言う奴初めて見たわ。絶対浅い関係ね。お姉さんよくわかったわ」
まさか、嘘でもそんな事をこの状況で言おうとしたなど、呆れを通り越してしまう。
顔をそらして苦い顔をしながら言われても見事なまでの嘘でしかない。しかも目元がひきつっている。必死にそんなことを言いたくないと言わんばかりの表情だ。
おまけに、最後には舌打ちをした。
「この際だから正直に言いなさいよ! もうアンタの事は五割をとっくに超えてるのっ。下手な嘘よりも、事実の方が私も信じやすい! いくら何でもこの話は世間にとっては大きすぎる! 私だってわずかでも、協力するのが怖いのよ! アンタだけの問題じゃないの!!」
あれこれ隠しながら、知らずのふりのままこの関係を維持する事ができない。
この事に協力する事が、その先が破滅ならと思うと、恐怖でしかない。
――私は、……もう二度と自分のせいで他の人に迷惑かけたくないの!
こんな事なら、最初の段階で話を聞かなければよかった。
興味本位で探ろうとしなければよかった。
――後悔は……今の私だけでいい。
今ならまだ間に合う。馬鹿な自分だけで済む。
そう思っていた時だ。
「――っるっせぇんだよ!! 俺にはそのガキが必要なんだよ!! あのクソ魔女の呪いを――」
その本音であろう発言に、ネアはハッとした。
クロトも途端に口を塞ぐ。
不快な顔。苛立つ表情。それは周囲に、そして同時に自身にも向けているようだ。
しばらくそうやって黙り続けるクロトをネアは驚いた目で眺めてしまう。
――嘘……。コイツ、魔女なんかと関わってるの……? だとすれば、合点がいく。魔武器の事も。あんな魔武器を作れるのは、魔女ぐらいだ。
思わず頬を汗がつたい、信じられない一言が何度も脳内で再生されてしまう。
その言葉は「魔女」というものだ。
ネアですら得体の知れない存在。そんな者に関わっている者など、見極めきれないのも当然だった。
――なによ。アンタも、相当厄介な奴じゃない。そんなの聞いたら……、私だって、考えを一変しないわけにはいかないでしょうね。
男は嫌いだ。野蛮な男はもっと嫌いだ。礼儀のない男は、心底嫌いだ。
だが、この魔銃使いもまた、大きな存在を抱えた、ある意味の被害者である。
関わるべきではない。関われば、最終的に世界を敵に回すかもしれない。
だが、目の前の人物を見て見ぬふりをして、見過ごすという選択を躊躇う。
魔女と、厄災。世界の命運すら左右する事件に巻き込まれているのは、自分なんかよりも年下な子供ではないか。
誰がこのような運命を押し付けた? こんな子供に荷の重い物を抱えさせたのは誰だ?
これまでのクロトの言動が霞むほど、その根源らに怒りが湧く。
「……もういいわよ。一応忠告もしといたし、とりあえずこの話は置いておきましょ」
「……うるさい」
「はいはい、可愛くない可愛くない。男ってこれだから嫌なのよね。無駄に強がって恩義を感じようとしない。でも、とりあえず私としては気持ちはまとまったわ」
ネアは人差し指を立てて、ふと微笑する。
「お姉さんの優しさに感謝しなさい。今頼んでる一件が終わったら、情報をあげる。再度言うけど、情報はあくまで情報でしかないわ。それが本当にアンタの欲しているものかどうかわからない。私はアンタに聞かれたことを答えるだけだからね」
クロトの両目は丸く、パチッ瞬きをさせた。
それは一瞬でしかなく、彼はいつものふてくされたような愛想のない顔をしてそっぽを向く。
「……そういう他人の好意は嫌いだ」
「好意じゃないわ、仕事なだけ。私だってアンタとはそろそろお別れしたいしね。言わなきゃしつこく付き纏われるかもだし。ストーカーとか最悪」
「俺もお前みたいな女は嫌いだ」
「そういうこと。私もアンタのこと好きじゃないもの。男なんて大がつくほど嫌いなの。だから、仕事で仕方なくなんだからね」
ネアもクロトも納得した。
自分たちはただ偶然知り合って情報屋と依頼主の関係でしかない。
彼女がどんな理由でも与える対象と認めれば情報を提供するのは当然である。
だからこれは好意ではない。ただの仕事。それだけで片付けられる簡単なことだ。
だから二人は仲が良いわけでもなく、仲間でもなんでもない。
どちらも仕方なくの関係でしかない。
――子供にこんなもん、押し付けんじゃないわよ。いいわよ、付き合ってあげる。救ってあげたいなんて良心じゃない。アンタはそんなもの嫌いだものね。私がアンタに向けるのは、押し付けるようなおせっかいよ。その方が、アンタとは接しやすい。
**********************
『やくまが 次回予告』
ネア
「ああ~、本当に会った頃のコイツって生意気なクソガキだったわね。失礼にもほどがあるわ」
クロト
「お前も人の事言えねーだろうが。無視したあげくに蹴り飛ばすんだからな。……此処までの暴力女は俺も初めて見たぞ」
ネア
「ええ~。あれよあれ。銃向けられたから正当防衛ってやつー。だって急にそんな物騒なもん向けられたら、乙女な私も怖くなっちゃうし」
クロト
「は? 誰が怖いって? お前に一番似合わない言葉一位はそれじゃねーの? 逆にお前の方がこえーよ。よく言えたなそんなセリフ」
ネア
「初対面で銃向ける奴は大抵怖がられるわよ」
クロト
「嫌ってくれて結構っ。俺は他人に好かれたくなんかねーっての」
ネア
「まあ、アンタがモテてる姿とか見ただけでキモいものね」
クロト
「お前が黙りまくって妙な様子醸し出すのもキモいんだが?」
ネア
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第七部 二章「分かれ道」。アンタとの付き合いに終わりってあるのかしらね?」
クロト
「あるだろそりゃ」
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常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
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