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第七部 一章 「紫電の記憶」
★序章★
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日の当たる人の世に帰還した一行はレガルの地を進む。
だが、魔銃使いたちは一つ気掛かりな事があった。
それはネアの様子がおかしい事だ。
悪夢の後。目覚めた彼女はずっと思いつめた表情をしている。
気掛かりはしだいに変化し、気付いた時には新たな障害が魔銃使いを阻む。
「――アンタにはわからないわよ。……誰も想えないアンタなんかには」
これまで行動を共にしてきたネアが突如対立し、呪われた少女を奪う。
エリーを取り戻すべく、残る二人の魔銃使いが向かうのは貴族の屋敷。
待ち受けるは本領を発揮した【紫電の獣】。
半魔として産まれた獣の後悔と、努力と、抱き続ける【願い】。
互いを嫌い合い均衡をたもち協力しあってきた魔銃使いと情報屋が、譲れない道を抱き衝突する。
【厄災の姫と魔銃使い】第七部 悲雷心編 開幕
**************************
「だからぁ……、よく覚えてないんだって~」
目覚めを誘ったのは、もめ事を悟らせるようなものだった。
それはとても目覚めたくないという気分にもなる。
起きた途端それらに巻き込まれると思えば、気が削がれて二度寝したい思い。
……だが、この時は二度寝をしようという気には一切なれなかった。
むしろ、目覚めて何かから解放されたい。そういうものが普段の自分を無理矢理覚醒させようとする。
「よくこんな所で馬鹿みたいに寝てられるな。下手したら寝てる間に死んでんたぞ?」
「そんな事言われてもぉ……。先輩も寝てたんじゃないの?」
事象により、眠ってしまったイロハは事の状況を振り返る。
本人としては悪い夢を見た。その程度であるが、この様な場でどうして眠ってしまったのか。原因である闇精霊の存在に気付くことはできなかったのか。危機感はなかったのか。
此処は魔界。誰もが眠りに落ち、最悪死の恐れもあった状況に、クロトは責任を押し付けるようにイロハを責めていた。
が。イロハはそれはクロトも同じように罠にはまったのでは? という感覚で考えもなく呟く。
それから数秒。クロトが黙ってしまったのは言うまでもない。
クロトもイロハ同様、深い眠りに落とされていたのだから。
『なに自分だけは違うという様でいるのだ? お前が言うな。……あっ。さーせん我が主。これ俺も思ったけど、ぜってーフレズベルグも言ってるだろうな~、って思っただけでしてね。はい。』
追い打ちの様にニーズヘッグが呟く。
事実も事実。その抗いようもない意外なまでの正論に、クロトが口論をやめ武器を手にしたのは容易に予想できたものだ。
「うるせぇクソ蛇!! 要はこの虫が原因なんだろうが!?」
諸悪の根源である闇精霊を虫と称し、今度は精霊にへとその怒りが向けられた。
今でも羽衣の檻に入っている一体。それに目を向けた時、ひらひらと籠から抜け出した蝶のように光は飛翔し、既に手の届かない場所へ。
クロトがイロハを責めている隙に、エリーが可哀想とでも思ったのか逃がしてしまっていた。
「お前何してんだよ!!?」
「きゃう!? す、すみません! やっぱり可哀想かな~っと思って……、つい」
『それはいかんでしょ姫君ぃ。アイツらこりねーからそれなりにキツめに対応しとかねーと』
不意に、上空を見上げると闇精霊と目が合い、からかうように「べーっ」と舌を出されて、そこからは逃げる速さで飛び去って行った。
あれはこりてない。絶対にまた同じように他者を貶めるに決まっている。
自然に。あくどく。
そして、次に怒りの路線がエリーにへと変更されてしまう。
「よくも勝手な事したなクソガキぃ……っ。どうしてくれんだよ?」
「お、落ち着いてくださいクロトさんっ」
「そうだよ先輩ぃっ。そんな怒んないでよぉ~」
『クソガキはいいが姫君は許してやれよクロト。姫君のおかげでおめーら目覚めてんだからよ』
『むしろ一番ややこしくしたのはこの愚か者ではないか?』
批難などの声にこの魔銃使いが簡単に鎮まるはずもなく、直後何発か発砲がされた。
騒がしくなる中。ようやく最後の一人が目を覚ます。
「……あっ。ネ、ネアさん!」
途端に、ピタリと音が止む。
ネアが起きた。起きた直後にこの様な騒ぎをしていれば、真っ先に騒ぎの原因であるクロトが狙われ鉄槌が下される可能性が高い。
その事をクロト本人も理解していたのか。体が勝手に反応して発砲を止めた。イロハもエリーの後ろに隠れ、何をされてしまうかと怯えている。
「……」
しかし、ネアの様子はどこかおかしくもあった。
普段。起床しても活力にみなぎっている彼女だというのに、ぼーっとして眠気がやや取り除けていないようにも見える。
クロトたちの騒動に気付いている様子もなく、いつまでも呆然としている事には気になって仕方がない。
「……ネアさ? 大丈夫ですか?」
「…………エリーちゃん? 私……寝てたの?」
「精霊の仕業だってよ。胸糞悪いもん見せられてたようだぜ?」
「……夢?」
ネアは思い出す様に黙り込む。
いったい彼女がどのような夢を見たのか。それを知る事はできない。
ネアも話す様子がなく、ただただしばらくは彼女の呆然と多少困惑した様子をうかがうのみでいた。
――夢? …………違う。
――あれは…………、実際にあった事で…………私は…………
だが、魔銃使いたちは一つ気掛かりな事があった。
それはネアの様子がおかしい事だ。
悪夢の後。目覚めた彼女はずっと思いつめた表情をしている。
気掛かりはしだいに変化し、気付いた時には新たな障害が魔銃使いを阻む。
「――アンタにはわからないわよ。……誰も想えないアンタなんかには」
これまで行動を共にしてきたネアが突如対立し、呪われた少女を奪う。
エリーを取り戻すべく、残る二人の魔銃使いが向かうのは貴族の屋敷。
待ち受けるは本領を発揮した【紫電の獣】。
半魔として産まれた獣の後悔と、努力と、抱き続ける【願い】。
互いを嫌い合い均衡をたもち協力しあってきた魔銃使いと情報屋が、譲れない道を抱き衝突する。
【厄災の姫と魔銃使い】第七部 悲雷心編 開幕
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「だからぁ……、よく覚えてないんだって~」
目覚めを誘ったのは、もめ事を悟らせるようなものだった。
それはとても目覚めたくないという気分にもなる。
起きた途端それらに巻き込まれると思えば、気が削がれて二度寝したい思い。
……だが、この時は二度寝をしようという気には一切なれなかった。
むしろ、目覚めて何かから解放されたい。そういうものが普段の自分を無理矢理覚醒させようとする。
「よくこんな所で馬鹿みたいに寝てられるな。下手したら寝てる間に死んでんたぞ?」
「そんな事言われてもぉ……。先輩も寝てたんじゃないの?」
事象により、眠ってしまったイロハは事の状況を振り返る。
本人としては悪い夢を見た。その程度であるが、この様な場でどうして眠ってしまったのか。原因である闇精霊の存在に気付くことはできなかったのか。危機感はなかったのか。
此処は魔界。誰もが眠りに落ち、最悪死の恐れもあった状況に、クロトは責任を押し付けるようにイロハを責めていた。
が。イロハはそれはクロトも同じように罠にはまったのでは? という感覚で考えもなく呟く。
それから数秒。クロトが黙ってしまったのは言うまでもない。
クロトもイロハ同様、深い眠りに落とされていたのだから。
『なに自分だけは違うという様でいるのだ? お前が言うな。……あっ。さーせん我が主。これ俺も思ったけど、ぜってーフレズベルグも言ってるだろうな~、って思っただけでしてね。はい。』
追い打ちの様にニーズヘッグが呟く。
事実も事実。その抗いようもない意外なまでの正論に、クロトが口論をやめ武器を手にしたのは容易に予想できたものだ。
「うるせぇクソ蛇!! 要はこの虫が原因なんだろうが!?」
諸悪の根源である闇精霊を虫と称し、今度は精霊にへとその怒りが向けられた。
今でも羽衣の檻に入っている一体。それに目を向けた時、ひらひらと籠から抜け出した蝶のように光は飛翔し、既に手の届かない場所へ。
クロトがイロハを責めている隙に、エリーが可哀想とでも思ったのか逃がしてしまっていた。
「お前何してんだよ!!?」
「きゃう!? す、すみません! やっぱり可哀想かな~っと思って……、つい」
『それはいかんでしょ姫君ぃ。アイツらこりねーからそれなりにキツめに対応しとかねーと』
不意に、上空を見上げると闇精霊と目が合い、からかうように「べーっ」と舌を出されて、そこからは逃げる速さで飛び去って行った。
あれはこりてない。絶対にまた同じように他者を貶めるに決まっている。
自然に。あくどく。
そして、次に怒りの路線がエリーにへと変更されてしまう。
「よくも勝手な事したなクソガキぃ……っ。どうしてくれんだよ?」
「お、落ち着いてくださいクロトさんっ」
「そうだよ先輩ぃっ。そんな怒んないでよぉ~」
『クソガキはいいが姫君は許してやれよクロト。姫君のおかげでおめーら目覚めてんだからよ』
『むしろ一番ややこしくしたのはこの愚か者ではないか?』
批難などの声にこの魔銃使いが簡単に鎮まるはずもなく、直後何発か発砲がされた。
騒がしくなる中。ようやく最後の一人が目を覚ます。
「……あっ。ネ、ネアさん!」
途端に、ピタリと音が止む。
ネアが起きた。起きた直後にこの様な騒ぎをしていれば、真っ先に騒ぎの原因であるクロトが狙われ鉄槌が下される可能性が高い。
その事をクロト本人も理解していたのか。体が勝手に反応して発砲を止めた。イロハもエリーの後ろに隠れ、何をされてしまうかと怯えている。
「……」
しかし、ネアの様子はどこかおかしくもあった。
普段。起床しても活力にみなぎっている彼女だというのに、ぼーっとして眠気がやや取り除けていないようにも見える。
クロトたちの騒動に気付いている様子もなく、いつまでも呆然としている事には気になって仕方がない。
「……ネアさ? 大丈夫ですか?」
「…………エリーちゃん? 私……寝てたの?」
「精霊の仕業だってよ。胸糞悪いもん見せられてたようだぜ?」
「……夢?」
ネアは思い出す様に黙り込む。
いったい彼女がどのような夢を見たのか。それを知る事はできない。
ネアも話す様子がなく、ただただしばらくは彼女の呆然と多少困惑した様子をうかがうのみでいた。
――夢? …………違う。
――あれは…………、実際にあった事で…………私は…………
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