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第六部 四章 「愛情と言う名の鎖」
「知識への好奇心」
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見てはいけない。エリーはその有様に言葉を失ってしまう。
クロトは、まるでそんなものないかの様に。もしくは、それを当たり前というふうに自然としていた。
これを口に出すべきかと青ざめた顔でいれば、視界を湯気が多い、ハッとして我に返る。
「……ん」
固まっていたエリーに、クロトはスープの入った器を近づけていた。
一足先に、クロトはスープを絡めたパンを咀嚼している。
「それだけじゃ味気ないだろ? アンタも付けて食べなよ」
「え……っ、えっと、……はい」
今はどう言い出せばいいかわからない。
とにかく、今のは見なかった事にしようと、エリーは鎖から目を背ける。
クロトにはクロトの事情があるはずだ。そしてここはクロトの悪夢の中。下手な刺激は、こうして関わってしまっている以上できない。
スープにパンを絡めてから、息を吹きかけて冷まし、口に含む。
「……美味しいですね」
わずかに眉は傾くが、エリーは笑みを浮かべる。
「さすがに不味いはねーからな。……久しぶりだな、誰かと喰うのは」
ぼそっ、と。小声で呟く。
聞こえてしまったが、エリーは食べ物と一緒に飲み込むこととした。
そうやって静かに食し、一人分の料理はすぐになくなってしまった。
物足りなくもなくあったのは救いだ。この後になって、また腹の虫が悲鳴をあげるようなら、恥ずかしさのあまりに目的を忘れてしまいそうだ。
クロトも特に言うことなく、グラスの水を飲む。
終わればまた本を読みだすという流れ。
――クロトさんって、本が好きなのかな?
あまりそういった一面を見た事がなかったせいか、暇があれば本を読もうとするところは意外とすら捉えられる。
再度眺めてみるが、やはり難しい文字の羅列に、すぐ頭が混乱してしまう。
「クロトさん……、難しくないんですか?」
対するクロトは、何故頭を抱えているのかと、キョトンとしていた。
「いや……、普通に読めるけど?」
「そうなんですね……。やっぱり、すごいです」
「読むくらいですごいもないだろ? ……なんなら、俺が教えてやろうか?」
読んでいた本をエリーにへと傾ける。
「今読んでんのはヴァイスレットの研究書籍の一部でな。俺の父さんは研究者で、一時期南に行ってたことがあるんだ」
南の国。ヴァイスレットには訪れた事があるため、話に混ざれるかと興味が引かれた。
以前クロトは、ヴァイスレットの魔道障壁について語っていたことを思い出す。
語りだすクロトの表情は、どこか活き活きとしていた。
「ヴァイスレットの技術もすごいんだ。魔科学なたアイルカーヌも負けてないけど、ヴァイスレットの障壁も名に恥じないもんでさ。昔、魔王を退いたこともあるんだっ。アイルカーヌの魔化学兵器も強力なのあるけど、たぶん破るのは無理かな。……ほら、これっ。王都はこうなってて、上層、中層、下層と、それぞれに四つの塔を建ててるんだ」
ページをめくり、そこにはヴァイスレットの王都が真上から見た図である。
各場所に四つの塔。それは魔道障壁を作り出すためのものだ。
「合計十二の塔で形成される三重の壁。それもすごいし、ヴァイスレットの歴史も長くあって、南の国はこの盾を今でも改良し続けている。更に周辺の街にもこういった盾を作る予定でいるんだってさ。街もそれを計算して配置されている。先のことまで見通している事から、歴代のヴァイスレット王はかなりの策士や未来視とも言われているらしいんだ。そこら辺は眉唾だと思うけど、俺も直にヴァイスレットに行って塔を見学してみたいもんだなっ。北は守りよりも攻め派だから、学べることは多いに決まってるし」
いつの間にか、エリーにクロトは寄り添い、熱くヴァイスレットの事を語ってくれた。
目は好奇心に輝き、早くも難しい勉学に興味を示しているが、やはり幼さの顔立ちはあり、そこは可愛らしくもあった。
思わず、胸にキュンとくるものがある。
――どうしよう……っ。クロトさん、……可愛いです。
それはもう、ギュッとしたくなる愛らしさがある。
現実のクロトも、寝ている時は可愛いという印象があるが、これはこれで見ていて眼福というもの。
「それでさ…………、アンタなににやついてるんだよ?」
視線がエリーを向いた時、その心情が表情に出てしまっていたらしい。
つい愛らしさに緩んでしまった表情に、また仏頂面で呆れられた。
「す、すいません。……クロトさんが、その……、か……可愛らしかったので……」
「ちょっ! 男を可愛いとか、それって侮辱じゃないか!? 俺はそういうの言われたくないしっ」
「すいませんっ」
わずかに赤らめて、ぷいっとそっぽを向く。
謝りはするが、その仕草もエリーにとっては可愛いとしか思えず。これ以上口に出すのはやめておこうと心に止める。
「ちゃんと話聞いてたのかよ? せっかく教えてやってるのに」
「き、聞いてましたよっ」
「ホントかぁ? じゃあ、ヴァイスレット王都にある塔の数は幾つだよ?」
急な問題。しかし、これはつい先ほど出たばかりだ。まだ覚えてはいる。
「えっと……、十二……です!」
しばらく、静寂の間が開く。
あっているはずなのだが、この数秒間の静寂には緊張に心拍数が上がってしまう。
ドキドキしながらエリーは真剣とクロトを見つめる。
そして、ついに答えが――
「残念。答えは二十だ」
「えっ!? ど、どうしてですか!? 確か、壁を作るための数は…………」
困惑し、確認をしようとする。が、クロトはふっと鼻で笑った。
「俺、魔道障壁の塔だなんて、言ってねーけど? 俺が聞いたのは、ヴァイスレット王都にある全ての塔が幾つあるかって話だ」
意地の悪い顔で、王都の全体図のページを見せつける。
そこには様々な施設などが記号となって存在し、塔の数は全てで二十となっていた。
これはいわゆる、ひっかけ問題というものだ。
「そ、そんなぁ……。そんなの、確か言われてませんでしたよね?」
問題の解答は、本をよく見ていないと答えられないものだ。
もちろん。クロトも魔道障壁の塔しか話していない。
「ああ。言ってねーからな。今のはアンタがどれだけこの本をしっかり見れていたか、それを確認しただけだ」
「ひ、酷いですよっ」
「ハハッ。悪い悪い」
クロトは、まるでそんなものないかの様に。もしくは、それを当たり前というふうに自然としていた。
これを口に出すべきかと青ざめた顔でいれば、視界を湯気が多い、ハッとして我に返る。
「……ん」
固まっていたエリーに、クロトはスープの入った器を近づけていた。
一足先に、クロトはスープを絡めたパンを咀嚼している。
「それだけじゃ味気ないだろ? アンタも付けて食べなよ」
「え……っ、えっと、……はい」
今はどう言い出せばいいかわからない。
とにかく、今のは見なかった事にしようと、エリーは鎖から目を背ける。
クロトにはクロトの事情があるはずだ。そしてここはクロトの悪夢の中。下手な刺激は、こうして関わってしまっている以上できない。
スープにパンを絡めてから、息を吹きかけて冷まし、口に含む。
「……美味しいですね」
わずかに眉は傾くが、エリーは笑みを浮かべる。
「さすがに不味いはねーからな。……久しぶりだな、誰かと喰うのは」
ぼそっ、と。小声で呟く。
聞こえてしまったが、エリーは食べ物と一緒に飲み込むこととした。
そうやって静かに食し、一人分の料理はすぐになくなってしまった。
物足りなくもなくあったのは救いだ。この後になって、また腹の虫が悲鳴をあげるようなら、恥ずかしさのあまりに目的を忘れてしまいそうだ。
クロトも特に言うことなく、グラスの水を飲む。
終わればまた本を読みだすという流れ。
――クロトさんって、本が好きなのかな?
あまりそういった一面を見た事がなかったせいか、暇があれば本を読もうとするところは意外とすら捉えられる。
再度眺めてみるが、やはり難しい文字の羅列に、すぐ頭が混乱してしまう。
「クロトさん……、難しくないんですか?」
対するクロトは、何故頭を抱えているのかと、キョトンとしていた。
「いや……、普通に読めるけど?」
「そうなんですね……。やっぱり、すごいです」
「読むくらいですごいもないだろ? ……なんなら、俺が教えてやろうか?」
読んでいた本をエリーにへと傾ける。
「今読んでんのはヴァイスレットの研究書籍の一部でな。俺の父さんは研究者で、一時期南に行ってたことがあるんだ」
南の国。ヴァイスレットには訪れた事があるため、話に混ざれるかと興味が引かれた。
以前クロトは、ヴァイスレットの魔道障壁について語っていたことを思い出す。
語りだすクロトの表情は、どこか活き活きとしていた。
「ヴァイスレットの技術もすごいんだ。魔科学なたアイルカーヌも負けてないけど、ヴァイスレットの障壁も名に恥じないもんでさ。昔、魔王を退いたこともあるんだっ。アイルカーヌの魔化学兵器も強力なのあるけど、たぶん破るのは無理かな。……ほら、これっ。王都はこうなってて、上層、中層、下層と、それぞれに四つの塔を建ててるんだ」
ページをめくり、そこにはヴァイスレットの王都が真上から見た図である。
各場所に四つの塔。それは魔道障壁を作り出すためのものだ。
「合計十二の塔で形成される三重の壁。それもすごいし、ヴァイスレットの歴史も長くあって、南の国はこの盾を今でも改良し続けている。更に周辺の街にもこういった盾を作る予定でいるんだってさ。街もそれを計算して配置されている。先のことまで見通している事から、歴代のヴァイスレット王はかなりの策士や未来視とも言われているらしいんだ。そこら辺は眉唾だと思うけど、俺も直にヴァイスレットに行って塔を見学してみたいもんだなっ。北は守りよりも攻め派だから、学べることは多いに決まってるし」
いつの間にか、エリーにクロトは寄り添い、熱くヴァイスレットの事を語ってくれた。
目は好奇心に輝き、早くも難しい勉学に興味を示しているが、やはり幼さの顔立ちはあり、そこは可愛らしくもあった。
思わず、胸にキュンとくるものがある。
――どうしよう……っ。クロトさん、……可愛いです。
それはもう、ギュッとしたくなる愛らしさがある。
現実のクロトも、寝ている時は可愛いという印象があるが、これはこれで見ていて眼福というもの。
「それでさ…………、アンタなににやついてるんだよ?」
視線がエリーを向いた時、その心情が表情に出てしまっていたらしい。
つい愛らしさに緩んでしまった表情に、また仏頂面で呆れられた。
「す、すいません。……クロトさんが、その……、か……可愛らしかったので……」
「ちょっ! 男を可愛いとか、それって侮辱じゃないか!? 俺はそういうの言われたくないしっ」
「すいませんっ」
わずかに赤らめて、ぷいっとそっぽを向く。
謝りはするが、その仕草もエリーにとっては可愛いとしか思えず。これ以上口に出すのはやめておこうと心に止める。
「ちゃんと話聞いてたのかよ? せっかく教えてやってるのに」
「き、聞いてましたよっ」
「ホントかぁ? じゃあ、ヴァイスレット王都にある塔の数は幾つだよ?」
急な問題。しかし、これはつい先ほど出たばかりだ。まだ覚えてはいる。
「えっと……、十二……です!」
しばらく、静寂の間が開く。
あっているはずなのだが、この数秒間の静寂には緊張に心拍数が上がってしまう。
ドキドキしながらエリーは真剣とクロトを見つめる。
そして、ついに答えが――
「残念。答えは二十だ」
「えっ!? ど、どうしてですか!? 確か、壁を作るための数は…………」
困惑し、確認をしようとする。が、クロトはふっと鼻で笑った。
「俺、魔道障壁の塔だなんて、言ってねーけど? 俺が聞いたのは、ヴァイスレット王都にある全ての塔が幾つあるかって話だ」
意地の悪い顔で、王都の全体図のページを見せつける。
そこには様々な施設などが記号となって存在し、塔の数は全てで二十となっていた。
これはいわゆる、ひっかけ問題というものだ。
「そ、そんなぁ……。そんなの、確か言われてませんでしたよね?」
問題の解答は、本をよく見ていないと答えられないものだ。
もちろん。クロトも魔道障壁の塔しか話していない。
「ああ。言ってねーからな。今のはアンタがどれだけこの本をしっかり見れていたか、それを確認しただけだ」
「ひ、酷いですよっ」
「ハハッ。悪い悪い」
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