59 / 65
三章 湯けむり温泉、ぬるぬるおふろ
お兄ちゃんと凛は、ずっと一緒だよ
しおりを挟むそれは航と凛が手を繋いで温泉から出ていく時の話。
凛の心境は複雑だった。二人で綾瀬さんにとんでもないことをしてしまった。そのうえ、色々あって気まずいお兄ちゃんとキスしながら綾瀬さんの精液を……思い出すだけで、凛の頬は赤くなる。
前を歩く航をちらりと見た。水にぬれた髪の毛と流れる水滴がとにかく性的だった。今日もかっこいいな、そう思った。
……凛は、航の事が嫌いになったわけではない。ただ、複雑だった。好きな人が、自分ではない人に好きだって言っている所。自分の知らない所で何かをしている事。本当は色々と謝りたい。でも素直になれない。
複雑な気持ちで、脱衣所と露天風呂を繋ぐガラス張りの引き戸を通る。と、段差に足を取られてバランスを崩す。転ぶ、そう思って凛は目をぎゅっと閉じた。
「大丈夫!?」
でも転ぶ前に、航が手を引っ張って支えてくれた。目を開ける。お風呂上がり、まだ服を来ていなくて洗面用品しか持っていない航に、力強く掴まれて……凛の胸は早鐘を打つ。
「うん……」
「……良かった。怪我したら大変だから、足元には気を付けようね」
うつむいて頷くと、抱きしめられた。引き戸が閉まった脱衣所の中。洗面台の大きな鏡に兄弟の姿が映る。航からふんわりと漂うシャンプーの香りは、爽やかなグリーンシトラス。裸で抱きしめられている。素肌が触れ合い、体温が伝わる。凛の胸の鼓動がどんどん早くなっていく。
「ねえ、おにいちゃん……もし、綾瀬さんと両思いになったら、俺はどうなるの?」
どうしても気になった事を聞いてしまった。凛の怒りの原因、そしてずっと気になっていた事。航は首を傾げる。
「どうって……凛とはずっと一緒だよ?」
「で、でも、好きな人がいるのに……?」
「凛だって僕とも臨とも付き合ってるじゃないか。それと同じだよ」
今凛が味わっている気持ち。好きな人を独占したい気持ちは、かつて綾瀬が味わっていたもの。そのことにようやく凛は気づいた。でも、綾瀬はずっと我慢していたのだ。凛が義兄との関係も望んでいたから、それを尊重して。とても優しい人なのだ。
それなのに……なんて残酷な事をしていたんだろう。凛はしょんぼりとする。
「そうだよね……」
「心配しなくても凛と別れたり捨てたりなんかしない。だって………………だもんね」
航が耳元で囁いた。それは、悲しみに暮れていた凛の頬を真っ赤にする魔法の言葉だった。兄弟以外の単語で、凛が今まで気が付かなかった事。その事を思うだけで心が温かくなる。
「そうだった! そうだったよね!!」
「まぁ、凛の許可なしに臨と性行為したのは良くなかったかな……」
「それは確かに……あれ、俺めちゃめちゃ傷ついた……綾瀬さんを取られちゃんじゃないかって……お兄ちゃんが俺の事、嫌いになっちゃうんじゃないかって……思った」
一応脱衣所には暖房が入っている。しかし、裸のまま抱き合っているので、少し冷えてきた。その凛の背を温めるようにしっかりと抱いた。
「絶対、そんなことないよ」
「そうだよね、だって………………だもんね……!」
先ほど言われた言葉を凛は繰り返してみた。冷える身体と反比例するように、凛の心が温かくなっていく。航は微笑んだ。腕の中にいる、健気で可愛らしい義理の弟。たまらなくなって、キスをした。逃げていく熱を二人で分け合うみたいに。体温と同じ温度の舌で、唇を舐めた。そっと触れ合わせて、こすりつけるようにして離した。
「そうだよ、お兄ちゃんと凛は、ずっとずっと一緒だよ……」
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
僕の兄は◯◯です。
山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。
兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。
「僕の弟を知らないか?」
「はい?」
これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。
文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。
ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。
ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです!
ーーーーーーーー✂︎
この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。
今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
『僕は肉便器です』
眠りん
BL
「僕は肉便器です。どうぞ僕を使って精液や聖水をおかけください」その言葉で肉便器へと変貌する青年、河中悠璃。
彼は週に一度の乱交パーティーを楽しんでいた。
そんな時、肉便器となる悦びを悠璃に与えた原因の男が現れて肉便器をやめるよう脅してきた。
便器でなければ射精が出来ない身体となってしまっている悠璃は、彼の要求を拒むが……。
※小スカあり
2020.5.26
表紙イラストを描いていただきました。
イラスト:右京 梓様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる