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二章 えっちな3Pシェアハウス
溺愛の定義
しおりを挟むそれから一か月が過ぎた。季節は秋。どこかの庭で咲いた金木犀が香る、初秋。航と綾瀬と凛の毎日は特に何も変わらなかった。相変わらず当番制は続いていた。今日は日曜日。三人で遊ぶ日だった。
朝八時。綾瀬が部屋を覗くと、凛がぐっすりと寝ていた。いたずらをして起こしたいけど、疲れているから起こすのはかわいそう。そっと綾瀬はドアを閉めてリビングに移動した。航がキッチンに立って温かい飲み物を飲んでいた。ふんわりと漂うココアの香り。
「おはよう」
「ん、おはよう……」
挨拶をした。綾瀬もココアをスプーンでコップの中に入れてお湯を注ぐ。かき混ぜる。黒い渦がコップの中に生まれる。
二人は普通の友人同士である。小学生の頃からの同級生。一緒に遊ぶ仲。二年たっても変わらない。そんなものだった。お互いに友人同士以上の関心はない。仮に凛を抜いたら何も起きない関係だ。
「冷静に考えたら、アーヤとこうして住んでるのって変なかんじがする」
「もう二年たつけど、あんまり慣れないな」
「……そういえばさ、聞きたい事あった。凛を自分だけのものにしたいと思ったことはないの?」
「あるよ。でも……凛ちゃんはお前の事も好きだろ……俺は、やりたいことをやりたい放題にやっている凛ちゃんが好きだ」
綾瀬はココアを飲みながら、そう言った。聞いている航が恥ずかしくなるほどに真っ直ぐに綾瀬は愛を囁く。
溺愛。航の頭にそんな単語がよぎる。 「理性や分別を欠くほど、ひたすらに可愛がること」だ。相手を冷静に見ることができない状態での盲目的な愛。それは果たして健康的な愛と言えるのだろうか。
そして、航もまた凛を溺愛している。人生丸ごとをあげたっていい。凛のする事なら何でも許し、甘やかす。これは本当に愛なのか。ふと、航はそう思った。
「……僕の事はどう思っているの」
ふと、そんな言葉が出てきた。
「友達だよ。ちょっと怖い時あるけど、小さい時から一緒だし……好敵手と書いてライバルって読むタイプのともだち」
答えはもちろん分かり切っていた。
凛の事を考える。目に入れても痛くないくらい可愛い弟だ。小さな頃から一心に後ろをついてきて、ぷにぷにの幼子特有の手足で抱きついてくる。日の匂いのする弟。成長するにつれてどこか陰のある妖しげな魅力を持つ少年になっていく弟。大人になって……二人の男の人生を大きく狂わせる青年になった凛。
綾瀬と航は、二人で溺れるように……凛との関係に深く入り込み過ぎて出て来られない。凛を愛するがゆえに、狂気に似た関係を続けている。そして二人ともそれに対して不満が全くない。明日どうなるのかも分からない、脆く壊れやすい硝子のような関係だ。
「そうだね……ずっと友達だ。小さな頃、三人で遊んでいたように、ずっと……」
航はそう言って少し冷めたココアを混ぜた。真っ黒な液体にできる渦。ぐるぐる、とかきまぜて……渦を飲み込む。甘い味、それからほろ苦さ。
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