えっ、じいちゃん昔勇者だったのっ!?〜祖父の遺品整理をしてたら異世界に飛ばされ、行方不明だった父に魔王の心臓を要求されたので逃げる事にした〜

楠ノ木雫

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◇36 やりすぎはダメですよ!

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 見えてきた。

 海に面してるって言ってたから、確かに大荒れの海が向こう側に見える。じゃあ、あそこが悪魔族の国か。


「あそこっ!!」


 エルフお姉さんの指さす先には、パラウェス帝国で見た武装した人達の列と同じものが見えた。よかった、まだ攻め込んでない。


「アグスティン」

『どうするつもりだ』


 どうする、ねぇ。

 まぁ考えてはいたけれど、どうすっかなと思ってもいた。


「……腹くくるかぁ」

「え?」

「エルフお姉さんはどうする? 群は俺が何とか……できるか分からないけどやってみる」

「……じゃあ、私は悪魔族の領地に行ってこのことを知らせてくる」

「大丈夫?」

「やってみるよ、面識はないけど。幸いもう結界は解除されているみたいだし何とかなる」


 精霊の鳥を呼び出したエルフお姉さんは、じゃあまた、とアグスティンから降りて行った。結界は解除されてるからすぐに行けるだろう。

 さて、と。


「【変身魔法】――解除」


『ルアン……』

「いいよ、とりあえず、あのクソの顔面殴ってくっから」

『……うん、やっちゃえ!』

『いいぞいいぞ~! 俺らもいるからとことんやっちゃえ!』

『我もいる、好きなようにやれ』


 やばいな、俺の家族はこんなにも頼もしかったのか。普段はあんなだけどこういう時に頼もしいって、なんかずるいな。


「よしっ、行くぞ!」



 俺らが降りたのは、長い軍の列の最前線。後ろには、悪魔族の国がある。

 アグスティンを見た瞬間、軍の列が止まった。いきなり止まったから後ろの列が少しずつ乱れていっている。そして、アグスティンは元の大きさよりもっと大きく変化した。

 え、こんなに大きくなれるの? と思ったけれど、でもこっちのほうが後ろのほうまで見えるはず。そして、俺も見つけた。――あのクソ野郎を。

 視力が良いっていいね、すーぐ見つけられた。後ろのほうにふんぞり返ってんじゃん。

 そして、すぅぅぅぅぅぅ、っと大きく息を吸って……



「こんの馬鹿皇帝ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」



 と、叫んでやった。

 聞こえたか? と思ったけれど、なんか腹から声出したら拡声器使ったみたいに声出たんだよね。これもステータス効果とか?



『グア”ァァァ”ァァァ”ァァ”ァァァ”ァァァ”ァァァ!!!』



 おぉ、アグスティンの雄叫びってやつ? 結構迫力あって皆ビビってんじゃん。


「これ以上進むんなら俺を相手にしな!! 通さないけど!!」


 バンッ、と地面を叩いたアグスティン。そして、顔を前線の奴らに近づけてぎろりと睨んでて。うわぁ怖そ~、俺だったらまじでビビってたかも。最初に会った時もだいぶビビったし。

 そんなアグスティンを見た軍の連中は、恐れをなして散り散りになっていった。逃げろ~! って。撤退~!! って叫び声が聞こえてくる。腰抜け達め。俺もそうするかもしれないけど。



「いやはや、強そうな龍が出てくるとは思わなんだ」



 逃げる奴らの中で、5人の人物が残った。身なり的に、魔法使い三人と剣士二人か。なんか強そうなんだけど、身なり的に。

 なんかパーティー的な? えーなんかかっこいいな、いいなそれ。でも中におじいちゃんがいる。貫禄ありそうな強そうな魔法使いおじいちゃんなんだけど。

 って、



「【錬金術】――空斬ノ刃」



 え、何あれ錬金術!? え~かっこいいなあれ! なんか地面から刀出てきたんだけど! 長いやつ! あ、まぁ俺も一応いろいろ持ってるけどさ。無限倉庫の中に。まぁ入ってる倉庫の名前は言わないけど。

 【神聖】とかなんかめっちゃすごそうな名前ついてるやつとかね。あ、俺もなんか出したほうがいい? 張り合ったほうがいいのかな。

 本当ならここで立ち去ってもらいたかったんだけど、なんかやる気満々そうだし……

 なんて思いつつ、無限倉庫を開いた。



 ______________
 【無限倉庫】
 【No.9 ゴミ】
 ・神聖剣(両手剣) ・神聖剣(片手剣)
 ・神聖剣(双剣)  ・神聖刀(長刀)
 ・神聖刀(短刀)  ・神聖槌
 ・神聖斧     ・神聖弓
 ・神聖杖     ・神聖槍
 ・神聖爪     ・神聖銃
 ・神聖鞭     ・神聖盾
 ・神聖ハンマー  ・神殺しの釜
 ・太陽神ノ鏡   ・叡智ノ書
 ・虚構ノローブ  ・士魂ノ腕輪
 ・宵闇ノ刀    ・宵闇ノ剣
 ・宵闇ノ短剣   ・深紅ノ剣
 ・深海ノ聖槍
  etc.
 ______________




「うわっ!?」


 いきなり足元が動いた。アグスティンが動いたんだ。


『あれには当たらないほうがよさそうだな』

「え?」

『あれ、龍殺しに使われたやつじゃない。あれヤバいんじゃない?』

『ヤバくなどない』

『あーららー強がっちゃって~』

『強がってなどない』


 え、マジ? そんなのがあるんだ。まぁドラゴンってのがいるからそういうのもあっても不思議じゃないよな。


『暴れるがよいか』

「え、マジ? 俺振り落とされるけど」

『なら降りろ』

『なら俺のに乗ってよ! ルアン!』

『え~』


 そっか、避けなきゃいけないってことだよな。でも、ちょっと待てよ。


「じゃあ俺やろっか」

『何』

「なんかやってみたい。使った事がないもん色々あるからさ、知っておくのもいいと思うんだけど、いい?」

『仕方ないな、兄弟よ。危ないと思えば避ける、いいな』

「あいあいさ~!」

『ルアン! ルアン! 俺もやる~!』

『ずるい! 私も!!』


 お前らは暴れたらどうなるか予想がつかないから怖いんだけど。


「じゃあ、【武器召喚】――太陽神ノ鏡」



 ______________

 アイテム:太陽神ノ鏡
 ランク:SSS
 物理攻撃・魔法攻撃を全て吸収し10倍にして相手に返す。

 ______________



「【超能力】!」


 昨日【全反射の鏡】っていうスキルを使ったんだけど、そういえば無限倉庫の中にそんなのあったなって思ってみてみたらこれがあってさ。なんか良さそうじゃん? じゃあ5人いるならこれのほうがよくない? 全部引き受けてくれるんだからさ。


『私も欲しい! ハンマー!』

「え、お前がハンマー使うのか」

『ルアンだけずるい!』

「あーはいはい、絶対に殺すなよ」

『は~い!』


 しょうがなく【神聖ハンマー】を渡してやった。こんな恐ろしいものを恐ろしいやつに渡していいものかとも思ったけれど、まぁ本人がやりたいようにさせればいっかと諦めた。

 こんなにおっきいハンマーをいとも簡単に肩に担いだトロワ。見た目子供で宙に浮いてるってのによく持てたな。まぁ軽量化されてるけどさ。まぁやってくれるのであればそれでいいかな。

 て、うわっ!?



「おっと」



 いや、いきなり来るなよ。向こうの剣士さんがいきなりこっちまで迫ってきてたんですけど。まぁアグスティンが手で払おうとして後退してったからいいけどさ。恐ろしいなおい。



「これは一筋縄ではいかんな。では――〝melum imber〟」



 そんな呪文みたいなのを貫禄ありありのおじいちゃんが唱えると、どんどんあたりが暗くなってきた。

 ……は? 雨雲ぉ!?


「〝melum Innumerabilis gladius〟」


 今度は空に無数の……剣!? はぁ!? 見た目によらずえげつないなあのじじいっ!!


「〝melum tonitruum〟」


 うげぇ!? 今度は雷ぃ!?

 雨雲に剣に雷!! え、雷をまとった剣を降らせる気!?



「切り裂け」



「【全域バリア】ッ!! 太陽神ノ鏡ッ!!」


 間一髪、とはこの事を言うのだろう。俺らを覆うようにバリアを張り、太陽神ノ鏡を超能力でバリアの外側、俺らの真上に持ってきて、全ての剣を吸収させた。



「なッ」



 吸収した剣はその魔法を作り出した貫禄じじいに10倍で返される。



「師匠ッ!!」

「あぁッ!!」



 あ、なんか魔法使い三人揃ってバリアみたいなの張って防いじゃったよ。なんかその連係プレイって言うの? なんかいいな、それ。かっけぇな、羨ましい。

 あれ、そういえば剣士たちは? と思ったらトロワが一人相手してたわ。なんかせっかくの妖精像が台無しになってないですかトロワさんよ。可愛いのにえげつないハンマー振り回しちゃってるし。



『あらやだこれ結構楽しいのね。もっと早く貸してもらえばよかった。モグラ叩き? 楽しそうじゃない? あーそんで♡』



 あーあ、色々と台無しだな。あの場所大変なことになりそうだな。地形変わりそう。まぁ見なかったことにしよう。

 てか、あれ、バリスは……あ、いた。もう一人の剣士と戦ってんじゃん。通常の大きさに戻ってなんか楽しそうに遊んじゃってんじゃんあれ。

 とりあえず、保護者の俺があいつら何とかしなきゃいけないわけだけど、あのままじゃなんかやりすぎになりそうな気もしなくもない。


「……」


 と、り、あ、え、ず。


「これいっとく? なんかカッコ良さそうで厨二病っぽいやつ」


 ――【絶対領域】


 そのスキルを発動した瞬間、何かが自分を中心に広がった。何となく景色の色がモノクロっぽくなって。


 ______________

 スキル:絶対領域
 この領域全ての者に以下の命令を下すことが出来る。
  1,身体にかかっている重力を10倍に加圧。
  2,体内にある魔力を10分の1にする。
  3.魔法道具の使用禁止。
 スキル発動時の魔力消費の他に一つ一つの命令に魔力消費量が加算される。
 ______________



「へぇ、なるほどなるほど。じゃあ……――全部!」


 その言葉で、辺りの空気が、ずんっと重くなったように感じた。と言っても、俺自身にそんな重さはかかってない。

 だが、周りにいる5人の魔法使いと剣士達は地に足を付けて何かに耐えているように見えた。もちろん、俺の家族たちには何も起こってはいない。

 遠くには、逃げていった奴らも地面にはいつくばっているのが見える。やっぱりこのスキル結構強力なんだな。魔力消費はこれっぽっちもないけど。


「よし、じゃあ【超能力】」


 両手を前に出し、感覚でこの領域に神経を渡らせるような、そんな感じで手を上げた。そして、地面に倒れている全員を、空中に起き上がらせる。


「さ、全員帰れっ!!」


 奥のほうまで、後ろにいる皇帝がいる地点よりもっと奥まで全員を下がらせた。というか、軽ーく投げた。すまんな、まだ初めてで加減とか分からないから。

 よし、これでこの領域はすっからかんだ。


『兄弟よ』

「あぁ、残りの俺の仕事は……あれだ」


 俺の指さす先は……
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