上 下
22 / 29
第五章 太陽さんご無沙汰です

◇22 こんなに大変なのね

しおりを挟む
 今日もとっても素敵な晴天。


「あち”~~~~~溶けそうだよシャロン君ん”~~~~~!」


 マジで死にそうです。海の上ってこんなに暑いの? それともこの異世界が異常気象なの?

 そんな時、何かが落ちる音がした。


「……お前、何してんの」


「は?」


 ちょっと遠くから、ヴィンスの声がした。

 今私が何をしてるのかって? 大きなバケツを見つけたから氷と水を入れて足を突っ込んでただけ。あぁあと手にはアイスね。

 でも、何でそんな反応なのよ。

 口、あんぐりしてるけど。


「……それ、船の外でやるなよ。あと誰か見てるとき以外」

「は?」

「おいシャロンこっち来い」


 と、言われたけれどシャロン君はヴィンスに見向きもしなかった。聞いてないふり、と言ったほうがいいか。


「シャ~ロ~ン~!!」


 と言われても、そっぽを向いていて。え、何々これどういう状況よ。


「どしたの」

「……」


 心なしか、ヴィンスさんほっぺた赤くなってません? 暑いから?


「……それ、お前の国じゃどうだか知らないけど、こっちじゃ足出すの、裸見せてるのと一緒だからな」

「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 え、うっそ、なにそれ!?

 じゃあ短パン履けないじゃん!! こんな夏に短パン履けないとか地獄でしょ!!


「……スケベ」

「それはこっちのセリフだアホ。さっさと仕舞え」

「え、やだ」

「んだと?」

「熱中症で死んじゃう」

「……はぁぁぁ、あと5分な」

「10分」

「経ったら仕舞え」

「はーい」


 ちぇ、氷水冷たくて気持ちよかったのに。

 ……あ。

 じゃあ浅い氷水ならズボン履いてても大丈夫? 今私スカートでめくってるけど、ズボンで足首ちょっとまくればOKじゃない?

 という事でやってみました。


「ヴィンス~! これならOK?」

「……はいはい、降参。だけど船だけだからな。外じゃダメだからな」

「は~い!」


 やったぁ! ヴィンスからOKもらえた!

 これで夏を越せそうです。


「それより、お前今日やる事あったろ」

「あ、そういえば」


 暑さで忘れてたよ。

 ほら、と渡してくれたタオルで足を拭き、サンダルを履いた。そして冷暗所に。

 冷暗所に置いてある袋。結構大きいんだけど、中身は……


「これで油作るのか」

「うん、オリーブって言うの」


 そう、これからオリーブオイルを作ります!

 そろそろ油がギリギリになってきたし、もうこんなに集まったから作っちゃおうと思ってたんだ。


「こんなにいっぱい使うのか」

「こんなにあっても出来る油は少しなんだよ」

「マジかよ」

「で、これも根気のいる作業ですのでヴィンスさんよろしくお願いします」

「まぁそうだろうと思った」

「けど量が量だから私も一緒にやるから安心してね」


 という事で、オリーブを全部洗いましょう!

 ゴミはちゃんと洗い流して、傷んでいるものは弾かないとね。


「で、頑丈な厚手の袋を二重にしてその中にオリーブを入れましょう」

「ほい」

「そして……ひたすら揉みます」

「ひたすら?」

「そう、ひたすら。水分とオイルが分離するまで」

「マジかよ」


 そう、ここが一番大変な作業なのです。

 よ~し揉むぞ~!


「なんか変な感じ」

「感触が?」

「そう」


 これ本当に分離するのかな、なんて思いつつ揉む事数十分。

 これ、出来た? 分離してる?


「……出来てる?」

「のか?」


 よく分からん。とりあえずもうちょっと揉んでみる?

 と思ったら、うん、これくらいなら大丈夫でしょ。分離してると思う。


「じゃあこのネットに入れて絞ります。力入れ過ぎはアウトです」

「マジ?」


 手袋をしたヴィンスが絞ってくれました。

 うわぁ、変な色。ぎゅ~っと液体が出てきたけど、これからあの透き通ったオリーブオイルが出てくるなんて想像出来ないな。あ、まぁネットで調べた時にはちゃんと綺麗なオリーブオイル出てきてた動画見たけどさ。

 でもいざ自分でやるとなると心配じゃん?


「こんなもんか」

「うん、じゃあこのまま一日置こうか」

「え? 一日?」

「水分と油分が分離して油が上に浮いてくるの」

「へぇ、面白いもんだな」

「でしょ?」


 という事で続きは明日です!



 はい、次の日になりました。

 え、早すぎ? そんなの気にしない気にしない。


「さて続きといきましょう」

「へぇ、上と下に分かれてる」

「上が油、下が沈殿物」

「じゃあ上がオリーブオイル?」

「そう、掬い上げて漉します」

「おっけー」


 用意したのが、コーヒーを豆で淹れる時に使われるコーヒードリップとコーヒーフィルター。ドリップにフィルターをセットする。

 本来ならここには砕いたコーヒー豆を入れるのだが、今日はオリーブオイルを入れます。

 掬ったオリーブオイルをドリップの中に。

 ぽた、ぽた、と一滴一滴ゆっくりと下にセットした容器に入っていく。


「……結構時間かかるな」

「オリーブオイルを作るのには結構時間と労力がいるんだよ」

「これ、とんかつ揚げたら美味そう」

「苦労した分ね」

「そう、それ」


 もうヴィンス君の頭の中はとんかつなのね。

 そんな話をしていても全然たまらないオリーブオイル。早く全部漉せないかな。

 でもこれは根気のいる作業だし。頑張ろう。


 そして、ようやく全部漉すことができた。

 と言っても、まだオリーブは残っているからまたやらなきゃいけないんだけど。

 今日だって、これったけのオリーブオイルしか作れなかった。

 これじゃあとんかつ揚げられない。


「俺、オリーブオイル係やるわ。とんかつ揚げるのに結構必要だろ」

「え、まじ?」

「この前言ってたさ、かつ丼? 食いたい」

「お願いします」

「よっしゃ」


 という事で、ヴィンスがオリーブオイル係となりました。

 どんだけ食べたいのよ。


「……とんかつ、唐揚げ、メンチカツ、コロッケ」

「めんちかつ? ころっけ?」

「めっちゃ美味しいの作ってあげる」

「まじ? よっしゃあ!」


 料理に一番必要な油。こんなに苦労しないと作れないなんて、昨日今日で十分味わった。

 よろしくお願いします、ヴィンス様。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

虐げられていた黒魔術師は辺境伯に溺愛される

朝露ココア
恋愛
リナルディ伯爵令嬢のクラーラ。 クラーラは白魔術の名門に生まれながらも、黒魔術を得意としていた。 そのため実家では冷遇され、いつも両親や姉から蔑まれる日々を送っている。 父の強引な婚約の取り付けにより、彼女はとある辺境伯のもとに嫁ぐことになる。 縁談相手のハルトリー辺境伯は社交界でも評判がよくない人物。 しかし、逃げ場のないクラーラは黙って縁談を受け入れるしかなかった。 実際に会った辺境伯は臆病ながらも誠実な人物で。 クラーラと日々を過ごす中で、彼は次第に成長し……そして彼にまつわる『呪い』も明らかになっていく。 「二度と君を手放すつもりはない。俺を幸せにしてくれた君を……これから先、俺が幸せにする」

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。

処理中です...