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第二章 なんてものを釣り上げてしまったんだ

◇4 すごいものを引き上げてしまった

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 私は今、無言で大きな鍋の中にある液体を木べらでかき混ぜている。

 その中身は……海水だ。持ってたスマホで検索して《塩》を作ってるという事だ。

 ぐっつぐっつ海水を煮詰めている最中なんだけど、強火だからちょっと暑いな。でも塩は大切でしょ? それにやる事ないし。

 え? どうして海面からずっと高い位置にある甲板で海水を汲めたのかって? 実はね、見つけてしまったのだよ。魔法のバケツを。

 大きめのバケツなんだけど、見てよこれ。



 ______________
 アイテム:魔法のバケツ(ロープ付き)
  海に落とすと、バケツ一杯に掬い、ロープを軽く引っ張ると手元に戻ります。
  軽量化されており、中に何か入っていても簡単に運ぶ事が可能です。
 ______________




 と、いう事だ。さすが異世界。他にも魔法アイテムを探してみたけれど、使えそうなものが沢山あった。使うのが楽しみ。


「よーし完成!」


 食品用のビニール袋に、こぼさないよう入れて保存!

 実は、今まで作ったの、結構あるんだよね。料理に使えるからいいんだけどさ、流石に作りすぎた? まぁでもこのあと使うし、いっか。

 今は、三日で実っちゃった野菜たちに、塩に、そして魚が食材として手に入っている。まだ向こうの世界での食材も残っている。だからしばらくは困らないと思う。安心安心。

 さてさて、今日のお昼ご飯ですが……じゃじゃ~ん!



 ______________
 アイテム:魔法の網(ロープ付き)
  海に落とすと、その場にいた魚を捕まえ、軽い力で引き上げる事が出来ます。
  軽量化されており、中に何か入っていても簡単に運ぶ事が可能です。
 ______________



 滑車の付いた機械が取り付けられているのだ。滑車を利用して引き上げられるみたいなの。だから女性の私でも簡単に引き上げられるの! 不思議よね~。

 さ、今日はお魚さんを捕まえて魚の塩焼きに挑戦したいと思います! ネットで調べて魚の下処理は何回もやってるから大丈夫! 大量にある塩も使えて丁度いい! まさにピッタリの料理だ!


「さ、行ってらっしゃ~い!」


 ボトン、と網を落とした。

 少しして、上がってきて……


「……は?」


 私は、何が起きたのかよく分からなかった。いや、分かってはいたけれどこの状況が本当に起こった事なのか理解に苦しんだ。

 変な魚が網にかかったから? いいや、違う。

 魚じゃなくて……――人だ。

 服とかボロボロで何かわかめとかくっついてるけど、成人の男性って所?

 とりあえず、降ろして寝かせた。

 死んでる? いや、ちゃんと脈はある。気絶してるだけか。こんな海のど真ん中に流れてきてるんだ、そりゃそうなるわな。てか生きてるのが奇跡でしょ。


「おーい、聞こえますかー」


 とんとん、肩を叩いてみても反応なし。駄目だなこりゃ。取り敢えず、このままじゃ風邪を引いちゃうから家に行ってタオルを持ってこよう。


 沢山タオルを抱えて戻ったけれど、まだ意識は戻ってなかった。こんな大きい男の人は流石に運べないから、そのまま頭とかを拭いてあげた。

 あらやだ、ちょっとちょっと……結構イケメンじゃない。アイドルとか俳優とかのレベルよこの人。しかも私の好みドンピシャ。ここ大事ね。ダークブルーの綺麗な短髪だし。濡れてて余計綺麗だわ。水の滴るいい男状態だわ。わかめ付いてるけど。

 でも、そんな人がどうしてこんな所にいるわけ?

 まぁ起きてくれなきゃ分からないんだけどさ。


「……ン……」


 お、気が付いたかな? 眩しいのか眉間に皺が寄って、そしてゆっくり目を開けた。


「大丈夫で、す……っ!?」


 あら、あらあらあら? 背中に、芝生の感触。目の前に、さっきのイケメン。そしてその後ろにとっても晴天で大きな青空。

 もしかして、押し倒されちゃった……?

 しかも、両手が頭の上で押さえられてる。片手で押さえられていて、もう片方は……私の首。力は入ってないけど、これって、マズい……?


「誰だ」


 すっごく怖い顔。警戒されちゃってる? 普通、名前を聞く時はまず自分からって言うけどさ、そんな事言ったら首絞められちゃいそう。


「江口、奈央、です」

「……? どこの者だ。ここはどこだ」


 質問多いな。まぁ分かるけどさ。でも、なんて答えたらいいのやら。う~ん。


「ここは私の船の上で、私以外いません」


 あら、信じてもらえてないみたい。まぁそうだよね。こんな大きな船に女一人だなんて普通思わない。


「どこの所属だ。出身は」

「いや、所属してませんって。出身は……たぶん聞いても分からないと思います。もうありませんから」

「もう、だと……?」

「はい」


 嘘ではない。だって私の家は外と繋がってないんだから。ここは異世界。日本です、って言った所で首をかしげるくらいしか出来ないはずだし。


「ステータスを開示しろ」


 ん? ステータスを開示? ステータスって人に見せることってできるの?



 ______________
 STATUS
 名前:江口奈央 Lv.9
 職業:船長
 称号:なし
 ______________
 栽培 Lv.7
 料理 Lv.3
 漁 Lv.2
 ______________
 自動管理システム
 自動防衛システム
 ______________



 試しに開いてみた。けど、早くしろと言われてしまって。ただ開いただけじゃ相手に見せられないらしい。どこかにボタンが何かあるのかしら。じゃあ、開示!

 お、心で念じてみたけど出来たみたい。イケメン男性が驚いてる。でも、え、そんなに驚く事?


「……ダメでした?」

「あ、いや……名前は……」


 あら、もしかして読めない? 日本語は分からないって事? でも言葉は交わせてるし……


「エグチ、ナオです。初めまして」


 こんな首絞められてしまいかもしれない状況でよくこんな態度でいられるなって思った? いやいや、もう心臓バクバクですよ。目の前にめっちゃ好みドンピシャの男性が至近距離でいるんですよ? しかもめっちゃ綺麗なきんの瞳に見つめられちゃってるし!! 普通耐えられます?


「……船長、なのか」


 あ、でもそういうところは分かるのか。じゃあ、名前だけ? あ、異世界だから外国みたいにカタカナなのかな。

 そしたら、あっさり解放してくれた。首と手首の手を離し、気を抜いたかのように近くに座っていて。すまん、って謝罪まで。

 私はそんな彼を見つつも起き上がった。


「一人、と聞いたが」

「あ、はい。一人ですよ」


 この船のステータスも開示した。クルーの人数が私1人と書かれていて、驚きを隠せないようだ。だけど、さっき見た私のステータス。自動管理システムと自動防衛システムがあったからすぐ納得出来たようだ。


「……普通なら、自分のステータスを他人に見せる事はだいぶ嫌がられる行為だ。まぁあんな状況ではあったがこんなにあっさりと……変わってるな」

「え、そうなの?」

「……知らないのか」

「あー、えぇと、あまり人と会わないですから」

「……そうか」


 ……何か、勘違いされた? なんです、その顔。何か悲しい事情があるのかとか、そう思われてる? 同情されてる?


「先程は本当にすまなかった。命の恩人に、なんて事を……本当に、感謝している。助けてくれてありがとう」

「あ、いえ、ただ魚獲ろうとしたら貴方が釣れちゃっただけですから」

「……魚?」

「これです、これ」


 さっきの網を見せた。ぽかん、といった顔をしてて。そのあと笑っていた。まさか自分が魚を獲る編で釣られたとは思わなかったみたい。


「俺は、ヴィンス・レイトだ。よろしく」

「こ、こちらこそ」


 ……眩しい。イケメンの笑顔ほど最強なものはない。やばいな、耐えられる気がしない。


「そ、それで、送り届けたいって思ってるんですけど、どこから来たんです?」

「……」


 あら、考え込んじゃった。なにか事情があるのかな? まぁ海にいたんだから何かはあるよね。


「君は俺の命の恩人だ。だから、恩返しがしたい。見たところ、君はこんなに大きな船に一人だ。システムがあるが、一人だと何かと大変なことがあるんじゃないのか? 男手が必要な時もあるかもしれないし。
 だから手伝わせてくれ。もちろん、置いてもらえるのであればなんでもする。好きに使ってくれ」


 そ、そこまで言うのか……何か事情がありそう。聞かないけどさ。

 でも、色々と知られちゃいけないこともあるし……そもそも、送り届けたいとは言ったもののどこかの国の港に入れてもらえるか分からない。


「ずっと一人で、ちょっと寂しかったし……居てくれると嬉しいです」

「そうか、ありがとう」


 イケメンスマイル、危険。


 ______________
 STATUS
 名前:なし Lv.1
 船長:江口奈央
 称号:なし
 クルー:2人
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