上 下
110 / 115
第十一章 冬が来る

◇110 エバニスグラタン

しおりを挟む
 ナカムラ家が来訪してから二日後、私とお母様とお父様とお兄様の4人でお出かけする事になりました。行き先? 決まってるじゃないですか。


「いやぁ、何ヶ月ぶりかな」

「そうねぇ、それに4人で来るのも初めてよね」


 そう、【なかむら】です。お父様達は本当に久しぶりなと思う。あ、私は……数日前にも行きましたね。とは言っても、お父様とお兄様は王城で【なかむら】料理を食べたけれど。


「最後尾はここかな」

「え”っ、げっ元帥!?」

「えっごっご機嫌麗しゅう……!!」


 今日も大盛況で列が出来ている為、私達四人は列の最後尾に並んだら、先に来ていた方々はもう大慌て。顎が外れちゃうんじゃないかってくらい口を開けてる人もいれば、目が飛び出ちゃってる人まで。

 もうさ、私達が揃って王城の中歩いただけで驚く人達がいるんだからこれも当然よね。


「今日はプライベートだ。だから、気を遣わなくていい」


 無理ですっっっ!!!

 と、皆さんの心の声が揃って聞こえてきたような気がした。

 ここに来る貴族の方々の我儘っぷりは酷かったけど、お父様達が来たって噂が広まれば収まるんじゃないかな? なんて思ったり。


「えっこっ……!?」


 リカルドさん、吃驚しすぎ。というか、顔知ってたんだね。まぁ、一度お兄様来てるし、お兄様と顔そっくりだから考えてみれば分かるか。

 唖然としていたら、途中で正気に戻ったみたい。すぐに空いている席に案内してくれた。


「さて、今日は何があるのかな」

「私は絶対エバニス料理よ」

「はは、私もそのつもりさ」


 メニューの中には……あ、エバニス料理が二種類。あとお肉料理が一つだ。とは言っても、皆さんエバニス料理にしか目がいってないみたい。


「いらっしゃいませ。ご来店いただきありがとうございます」

「忙しそうだな、タクミ君」

「おかげさまで」


 タクミが来てくれた。まぁ、お父様達が来てれば来なきゃ駄目だもんね。忙しいのに大丈夫?


「ご注文お決まりでしたら伺いますよ」

「そうね~」


 ん~、何がいいかな~。いつもみたいに特別メニュー? 社交界では〝秘密のメニュー〟って言われてるんだっけ。でも、今の私の目に移っているのはメニュー欄に書かれているこの料理。


「グラタン!」

「これはエバニスか?」

「はい」

「じゃあ~、私もそれね!」

「なら私は、春巻きにしよう。フレッドはどうする」

「私も春巻きにします」


 おぉ、見事に綺麗に分かれたな。説明は全くしなかったんだけど、出てくるまでの楽しみにしたいらしい。

 ではお待ちください、と戻っていったタクミ。

 周りを見渡すと、あぁ、皆さん此方をちらちら見てる。耳をこちらに向けてるんだろうなぁ。まぁ、パーティーとかそういうのではいつもの事だからいいんだけどさ。


「そういえば、そろそろアヤメちゃんの誕生日よね」

「あ」


 今はもう11月が終わろうとしている。そう、私の誕生日は12月なのだ。ちょっと忘れてたかも。


「アヤメちゃんの誕生日パーティーは前日にしたいと思ってるんだけど、どう?」

「え、前日ですか?」

「そう。当日はアヤメちゃんのしたい事を一緒にしましょ」

「あぁ、私達もその二日間は必ず休みを取るから、家族で一緒に過ごそうか」


 家族、皆で……そっか、一日、家族皆で……う、嬉しい……!


「ありがとうございます!」

「えぇ、思いついたらすぐに言ってね」

「はい!」


 ん~、何して過ごそうかな~、ここって雪は降るのかな? 雪、積もったら雪だるま作りたい! あ、雪合戦でもする? いや、お父様とお兄様強そうだしなぁ。二人で戦ったら一体どっちが勝つんだろう。

 考えていると、リカルドさんが私達の料理を運んでくれた。レディーファースト? で最初に私達のグラタン。それから次に春巻き。ん~美味しそう!

 いい感じの焦げ具合、そしてチーズの良い匂い。ん~早くスプーンを入れたい!


「もしかして、この中にエバニスが入ってるのかしら」

「そうです! チーズの下を見てみてください!」

「春巻きも中に入っているのかな、油で揚げているようだ」

「皮がぱりぱりして美味しいですよ!」


 スプーンを入れてみると、何やら大きなナニカが。すくい上げてみるとこれまたビックリ。え、ちょっと待って、エビ、多すぎやしませんか!? マカロニとか青い野菜も入ってるけど、一体いくつ入ってるのよこれ! しかも大きいし!

 ウチの領地から仕入れてるって聞いたんだけど、あ、なんか味が違う? 隣国から仕入れていたのも美味しかったけれど、こっちも負けずぷりぷりとしてて味もいい。


「ん~エバニスぷりぷりね~♡」

「美味ぁ~!」

「確かにパリパリとしていて美味い。中のこれは一体何だろうか、麺のようだが」

「それは春雨って言うんです」

「ほぉ、エバニスとも相性がいいな」


 隣のお兄様も、かぶりついて良い食べっぷり! ちょっと表情筋動いてる! うんうん分かります、美味しいですよね!! ……あれ、もうご飯なくなっちゃった?

 でもすかさずナオさんがおかわりを聞いてきた。知らず知らずにお父様のお茶碗も空っぽ。いやぁ、騎士の方々はお腹空いちゃいますよね。


「アヤメの食べたエビフライも今度食べてみたいものだな」

「あ、他にもエバニスのパスタとか、エバニスしゅうまいとか出してるみたいですよ」

「ほぅ、しゅうまいか」


 あ、パスタは食べた事あったけどしゅうまいは食べた事なかったんだっけ。今度タクミ達に言ってみようかな。あ、勿論私もお手伝いしますよ! 今度こそ上手に包んでみせますとも!

 美味しいエバニス料理でお母様達はもう大満足。今度もまた家族で行こう、と約束もしたのだ。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜

楠ノ木雫
恋愛
 朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。  テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。ある日先輩方と城下町でお酒を飲みべろんべろんになって帰ってきた次の日、ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服……!? ※他の投稿サイトにも掲載しています。

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!

枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」 そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。 「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」 「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」  外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

処理中です...