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第十章 幸せとは
◇88 また会う日まで
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その後、【なかむら】で絡んできたあの人が店側に訴えて来るかなと思ったら、びっくり仰天伯爵が自ら謝ってきたのだ。子息を連れて。本当に申し訳ございませんでした、と。
今色々と有名なナカムラ家に喧嘩を売ったんだからそうなるよね。他にも何かあるのかな、とも思ったけど。
でもこれで一件落着だからいっか。
「じゃあな嬢ちゃん、元気でな」
「こちらこそ、お身体に気を付けて。あと、無事に出産が終わる事を祈っていますね」
「おう、ユウゴ達に言っとく」
そう、裕孝さんはそろそろ息子の奥さんの出産がそろそろだからと自国に帰ることになったのだ。毎日美味しい裕孝さんの料理、ありがとうございました。幸せでした。
裕孝さんは、隣国セオリシア王国を通って帰る事となった。もうサミット前から準備していたんじゃないかと思ってしまうくらいの早い開通。何か、恐ろしく感じてしまうのは私だけだろうか。でも安全な道を通って帰れるんだから良かったよね。しかも10日で帰れちゃうんだから。
それと、このタイミングでパトラさんも自国に帰る事となった。
「旦那が帰ってこいって煩いのよ」
「……ん? だ、旦那さんですか?」
確か、離婚されたのでは? 考え直してくれって煩かったからこっちに来たっていってたような……?
「あぁ、私には旦那が二人いるのよ」
「え”っ!?」
だ、旦那さんが、二人も!?
あ、そういえば二番目の異世界人の方って奥さん3人もいたんだっけ。そう考えると、普通? いやいや、稀だよねこれ。
最後まで凄い人でした。パトラさんも。
お爺様が帰っちゃってタクミ達は寂しいんじゃないかな、と思ったけれど……
「ジジイが帰って清々したわ」
「早く帰らないとお婆様が寂しがって厨房に立っちゃうよ」
「それ危険だって、厨房無事かな」
「え”っ!?」
え、ちゅ、厨房……? 一体お婆様が厨房に立つとどうなってしまうのだろうか。
なんか、彼らの反応を見るに恐ろしいことが起こるみたいだけれど、私は全く予想が付かなかった。厨房が悲惨になるっていったいどういう事?
その日は、裕孝さんを迎えに来た人達の中にナカムラ男爵様がいらっしゃった。何でも私に用があるらしく、彼が残り他の者達は裕孝さんと一緒に帰っていったのだ。
「本当に、アヤメ嬢には感謝してもしきれません。ありがとうございました」
「いえ、私だけの力ではありませんから」
「そんなご謙遜を。アヤメ嬢だけの力ではない、とおっしゃってもきっかけを作ったのはまごう事なくアドマンス嬢です」
しゅうまいをタクミと作った時、この話をされた。男爵様が感謝の気持ちを直接伝えたいって。でもタクミと同じことを言われるとは。
でも、これは私が異世界人で、地球の知識を偶然持っていただけで、だから出来た事だ。私自身の力ではない。
でも、喜ばれる事は嬉しくない訳ではない。お手伝い出来た、それだけで嬉しい。
「こちらこそ、男爵様には感謝しているんですいつもご助力いただきありがとうございます」
「いえいえ、微力ながらアヤメ嬢のお役に立てていたのであれば光栄です。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。あの、それで……噂の件は、お聞きになっているでしょうか」
噂、とは私とタクミに関する噂だ。アドマンス家のご令嬢に相手が出来た、と。しかも相手もバレてしまっている。前からそういう話は出てたみたいなんだけど、ただの噂。それにあまり広がっていなかったみたいで、あまり社交界に出ない私は知らなかったというのがいいわけだ。
でもまさかこんなに広まってしまうとは思いもしなかった。あ、因みにこれはカリナが教えてくれた。お茶会でこの話が出てきて、すぐに私に知らせてくれたのだ。もう社交界で持ちきりよ! って。
「はい、噂の件も、お付き合いさせていただいていた事も。サミットから帰ってきたウチの者達から聞き及んでいます。まさかウチのやんちゃ坊主と……アドマンス嬢に何か迷惑をかけていないかとこちらはずっと冷や冷やしている次第です」
「いえいえ、私の方こそタクミさんは私には勿体ない方ですから、本当に私でいいのかと思っています」
「滅相もない! あの子はまだアヤメ嬢の前で猫をかぶってるようですが、本性は本っっ当に雑で口が悪くてでやんちゃで大雑把なんです。はぁ、教育を間違ってしまったことを今更ながらに後悔しています。売られた喧嘩は買って倍返ししろだなんて言葉を聞かされて育ってしまったので……それなのにアヤメ嬢がお付き合いしてくださっていたなんて、もう感謝してもしきれません。あの、本当にウチの息子でいいのですか?」
あの、だいぶ言われてますけど。いいんですか、タクミさんよ。しかも自分の父親に。
でも、その売られた喧嘩は、なんて言葉は一体誰から聞かされたのだろうか。……裕孝さん? いやいや、まさか。
「私の中では、タクミさん以上に素敵な方はいませんよ。この前なんて、見た事も食べた事もないデザートを私の簡単な説明を聞いただけで作ってくださったんです。何度も試行錯誤して作ってくださったみたいで、本当に嬉しかったんです。そんな優しくて頑張り屋さんなタクミさんの恋人になれて、私は幸せ者です」
「アヤメ嬢……ありがとうございます!!」
やば、男爵様泣きそうになってる。
この前お会いした時とだいぶ違う様子なんだけど、本当に心配しちゃってる感じ? 一体家ではどんな様子なのだろうか、タクミは。今度ナナミちゃんに聞いてみようかな。もちろんタクミがいない時ね。
「噂の件は、本当に申し訳ありません。もうちょっと周りの目を気にしていれば良かったのですが……」
「いえいえ、こちらとしても噂の件はさして問題ではありません。家内も私も、タクミとアヤメ嬢の好きなようにさせてあげようと思っておりますから」
「あ……ありがとうございます」
好きなように、だなんて……お母様達にも言われたけれど、本当にいいのだろうか。国も違うし、私異世界人だし、地球とは全然違うから大変だよね。
これはもう一度、タクミと話をしなくてはならないよね。後で【なかむら】に行かなきゃ。
ナカムラ男爵様は、その後お母様達ともお話をしてから一目散に帰っていった。弟の奥さんの出産が間近なんだからそうだよね。無事に生まれるといいな。
今色々と有名なナカムラ家に喧嘩を売ったんだからそうなるよね。他にも何かあるのかな、とも思ったけど。
でもこれで一件落着だからいっか。
「じゃあな嬢ちゃん、元気でな」
「こちらこそ、お身体に気を付けて。あと、無事に出産が終わる事を祈っていますね」
「おう、ユウゴ達に言っとく」
そう、裕孝さんはそろそろ息子の奥さんの出産がそろそろだからと自国に帰ることになったのだ。毎日美味しい裕孝さんの料理、ありがとうございました。幸せでした。
裕孝さんは、隣国セオリシア王国を通って帰る事となった。もうサミット前から準備していたんじゃないかと思ってしまうくらいの早い開通。何か、恐ろしく感じてしまうのは私だけだろうか。でも安全な道を通って帰れるんだから良かったよね。しかも10日で帰れちゃうんだから。
それと、このタイミングでパトラさんも自国に帰る事となった。
「旦那が帰ってこいって煩いのよ」
「……ん? だ、旦那さんですか?」
確か、離婚されたのでは? 考え直してくれって煩かったからこっちに来たっていってたような……?
「あぁ、私には旦那が二人いるのよ」
「え”っ!?」
だ、旦那さんが、二人も!?
あ、そういえば二番目の異世界人の方って奥さん3人もいたんだっけ。そう考えると、普通? いやいや、稀だよねこれ。
最後まで凄い人でした。パトラさんも。
お爺様が帰っちゃってタクミ達は寂しいんじゃないかな、と思ったけれど……
「ジジイが帰って清々したわ」
「早く帰らないとお婆様が寂しがって厨房に立っちゃうよ」
「それ危険だって、厨房無事かな」
「え”っ!?」
え、ちゅ、厨房……? 一体お婆様が厨房に立つとどうなってしまうのだろうか。
なんか、彼らの反応を見るに恐ろしいことが起こるみたいだけれど、私は全く予想が付かなかった。厨房が悲惨になるっていったいどういう事?
その日は、裕孝さんを迎えに来た人達の中にナカムラ男爵様がいらっしゃった。何でも私に用があるらしく、彼が残り他の者達は裕孝さんと一緒に帰っていったのだ。
「本当に、アヤメ嬢には感謝してもしきれません。ありがとうございました」
「いえ、私だけの力ではありませんから」
「そんなご謙遜を。アヤメ嬢だけの力ではない、とおっしゃってもきっかけを作ったのはまごう事なくアドマンス嬢です」
しゅうまいをタクミと作った時、この話をされた。男爵様が感謝の気持ちを直接伝えたいって。でもタクミと同じことを言われるとは。
でも、これは私が異世界人で、地球の知識を偶然持っていただけで、だから出来た事だ。私自身の力ではない。
でも、喜ばれる事は嬉しくない訳ではない。お手伝い出来た、それだけで嬉しい。
「こちらこそ、男爵様には感謝しているんですいつもご助力いただきありがとうございます」
「いえいえ、微力ながらアヤメ嬢のお役に立てていたのであれば光栄です。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。あの、それで……噂の件は、お聞きになっているでしょうか」
噂、とは私とタクミに関する噂だ。アドマンス家のご令嬢に相手が出来た、と。しかも相手もバレてしまっている。前からそういう話は出てたみたいなんだけど、ただの噂。それにあまり広がっていなかったみたいで、あまり社交界に出ない私は知らなかったというのがいいわけだ。
でもまさかこんなに広まってしまうとは思いもしなかった。あ、因みにこれはカリナが教えてくれた。お茶会でこの話が出てきて、すぐに私に知らせてくれたのだ。もう社交界で持ちきりよ! って。
「はい、噂の件も、お付き合いさせていただいていた事も。サミットから帰ってきたウチの者達から聞き及んでいます。まさかウチのやんちゃ坊主と……アドマンス嬢に何か迷惑をかけていないかとこちらはずっと冷や冷やしている次第です」
「いえいえ、私の方こそタクミさんは私には勿体ない方ですから、本当に私でいいのかと思っています」
「滅相もない! あの子はまだアヤメ嬢の前で猫をかぶってるようですが、本性は本っっ当に雑で口が悪くてでやんちゃで大雑把なんです。はぁ、教育を間違ってしまったことを今更ながらに後悔しています。売られた喧嘩は買って倍返ししろだなんて言葉を聞かされて育ってしまったので……それなのにアヤメ嬢がお付き合いしてくださっていたなんて、もう感謝してもしきれません。あの、本当にウチの息子でいいのですか?」
あの、だいぶ言われてますけど。いいんですか、タクミさんよ。しかも自分の父親に。
でも、その売られた喧嘩は、なんて言葉は一体誰から聞かされたのだろうか。……裕孝さん? いやいや、まさか。
「私の中では、タクミさん以上に素敵な方はいませんよ。この前なんて、見た事も食べた事もないデザートを私の簡単な説明を聞いただけで作ってくださったんです。何度も試行錯誤して作ってくださったみたいで、本当に嬉しかったんです。そんな優しくて頑張り屋さんなタクミさんの恋人になれて、私は幸せ者です」
「アヤメ嬢……ありがとうございます!!」
やば、男爵様泣きそうになってる。
この前お会いした時とだいぶ違う様子なんだけど、本当に心配しちゃってる感じ? 一体家ではどんな様子なのだろうか、タクミは。今度ナナミちゃんに聞いてみようかな。もちろんタクミがいない時ね。
「噂の件は、本当に申し訳ありません。もうちょっと周りの目を気にしていれば良かったのですが……」
「いえいえ、こちらとしても噂の件はさして問題ではありません。家内も私も、タクミとアヤメ嬢の好きなようにさせてあげようと思っておりますから」
「あ……ありがとうございます」
好きなように、だなんて……お母様達にも言われたけれど、本当にいいのだろうか。国も違うし、私異世界人だし、地球とは全然違うから大変だよね。
これはもう一度、タクミと話をしなくてはならないよね。後で【なかむら】に行かなきゃ。
ナカムラ男爵様は、その後お母様達ともお話をしてから一目散に帰っていった。弟の奥さんの出産が間近なんだからそうだよね。無事に生まれるといいな。
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