上 下
87 / 115
第九章 異世界人集結!

◇87 今日はお客さん

しおりを挟む
 今日もまた、馬車に乗っています。一人じゃありません。


「どったの、お前」

「ん~、どうしたら恋のキューピットになれるか考え中」

「誰の」

「凄く高貴な方」

「もしかして……今やり取りしてる手紙の相手?」

「正解」

「……マジか」


 そう、タクミです。またまたデートです。でも頭の中はあのパーティーの事でいっぱいです。公爵令嬢の私が高貴な方って言うんだからその相手は分かっちゃうよね。


「相手が強敵中の強敵だから、どう言ってあげればいいのか分かんないのよ」

「強敵か……一体誰なんだよ、だって高貴な方だろ? 結婚したら玉の輿だろ」

「う~ん、強敵も十分高い地位よ。因みに言うと、私がよく知ってる人」

「……まさか」


 あ、分かった? だってこの国唯一の公爵家であるアドマンス家の後継者よ? しかもイケメンだし近衛騎士団の副団長だし。そんな人と結婚できるなんて将来安泰でしょ。


「……俺、聞かない方が良かったか?」

「タクミにならいいでしょ。口外する気?」

「いや、恐れ多くて出来ないっつの。お前んちは本当に恐ろしい家だな」

「タクミには言われたくない」


 ナカムラ家だって十分恐ろしい家だもん。王様と裕孝さんが仲良しで、裕孝さんの奥さんが王様の初恋相手ですって? しかもタクミ達のお母様が元近衛騎士団団長。国の中でその方の近く以外に安全な所はないだなんて王太子殿下言っちゃってたし。十分恐ろしい家ですよ。

 今日私達が向かっている先は、彼の職場。そう、【お食事処・なかむら】です。前から一緒にお客さんしようね、って約束していたから今日果たされる事になりました。あらら、今日も忙しいのかな。


「この時間なら、ちょっと待てば大丈夫か」

「ちょっとぶらぶらしてくる?」

「それもいいな」


 という事で、大通りの方をぶらぶらしてくることになりました。勿論手は繋いでますとも。というかタクミが繋ぎたいみたい。しょうがないなぁ、優しいこのアヤメちゃんが手を繋いであげましょうか。

 いつも馬車だから、ここら辺はあまり歩いた事がない。でも、見る景色が違うからちょっと新鮮。

 いろんなお店があって、働いている人達がいて、元気な子供達もいて、お買い物に来ている人達もいて。馬車からでは見られない景色が沢山ある。


「ここを抜けると広場な。何か噴水ショーとかやったりするんだと」

「タクミは見た事ないの?」

「俺は見た事ないけど、ナナミとナオが見に行ったの聞いた」


 噴水ショーか、遊園地とかにあるああいうやつ? 見れるなら見てみたいかも。


「いつやるの?」

「毎週日曜日。見たい?」

「見たい!」


 んじゃ決まりな、と次のデートの約束をした。楽しみだなぁ。テレビとかでは噴水ショーをちらっと見た事あるんだけど、こっちだとどんな感じなんだろう。気になる。

 じゃあそろそろ戻るか、と【なかむら】に戻ったのだ。



「こんにちは~」


「いらっ……しゃいませぇ!?」


 うん、やっぱりそうなるよね。ナオさんだいぶびっくり顔。その声を聞いたナナミちゃんも厨房から頭だけ出して驚いている。


「客に向かってなんて顔だよ」

「いやいやいや、何来ちゃってるのよ」

「アヤメが来たいって言ったから。だから今日は二人でお客さんだってよ」

「あらまぁ、折角のデートの時間をここで使っちゃうなんてねぇ。こっちとしては嬉しいけどね♪」

「煩いな、さっさと客を席に案内しろや」

「二名様ご案内で~す!」
 

 あはは、やっぱり驚いちゃうよね。でも楽しそうだからよくない?

 周りはまだお客さんがちらほら。だけど洋服姿のタクミに気付いてない? いや、気付いている人もいるか?

 いつもと同じ席、厨房から一番近い席に案内してくれて私達はその席に座った。さてさて、今日のメニューは?


「特別メニュー、いくか?」

「え”っ」

「何食おうかな~」


 あ、これはもう最初からそのつもりだったのね。でも作るのナナミちゃんだよね。いつもはタクミが作ってたけど、大丈夫?

 でも目の前の人滅茶苦茶楽しそうじゃない?


「もしや、アドマンス嬢でしょうか」


「え?」


 何にしよう、とメニューを見ていた所に、知らない男性が声をかけてきたのだ。う~ん、誰だろ。見た事のない人だ。


「ずっとご令嬢にお会いしたいと思っていたんです。ですが、社交界では中々お会いできずにいたので、今日会えた事は幸運でした。いえ、もしかしたら運命だったのかもしれませんね」


 なんか、一人で話し出したぞ。運命だとか何だとかって言ってるけど。

 彼は伯爵家の嫡男だそうだ。名前は、知らないし聞いた事もない。家の名前は何となく知ってるけど。


「して、このお連れの者はこの店の店主でしょうか。なぜこんな所に座っているのでしょう」

「今日は休みで今はプライベートなんです。アドマンス嬢に誘われただけですよ」

「ほぉ。確か君はナカムラ男爵家の者だったかな。だが、私は伯爵家の後継者だ。君は私が名乗った時点でその席を譲るべきだったのではないか?」

「あぁ、それは失礼」


 あぁ、私と話がしたいのね。でも私達プライベートなんですけど、これからご飯なんですけど。

 でも、タクミが席を立つ前に視線を送ってきたから、私は自分の座っているソファーの奥に座り直した。そして隣にタクミが座ってきたのだ。


「な”っ!!」

「はいどうぞ」


 滅茶苦茶笑顔じゃないですか、タクミさんよ。まぁ私も笑顔なんだけど。この人の反応面白いし。

 あら、座らないんですか? って顔で言ってるし。ちょっと、楽しんでませんか?


「そちらはこの国唯一の公女様だぞ。隣に座っていいわけがないだろ!」

「私が許可したのにダメなんですか?」

「ッ……だとしても! 隣に座らせる者は身分を考えて下さらなければ!! こいつはただの男爵家の次男、男爵家すら継げない男です!!」

「そんなの関係ないじゃないですか。私は楽しく食事をしたい相手は自分で選びたいです」

「ですがッ……」


 はぁ、仕方ないな。これは簡単に引き下がってくれなそうだ。


「貴方は身分を気にしているようですけど、この人、サミットの会食で料理作った人ですよ」

「えっ」

「こちらにいらした王族の方々に料理を振る舞った方です。そんな彼の話を聞きながら、故郷の味を楽しもうと思ってたんですけど、それは許されない事なんですか?」

「それは男爵家の先代様がお作りになられた料理で、こいつはただ隣にいただけでしょう!」

「いいえ、先代様はずっと私の隣に座って料理を楽しんでいましたよ?」

「えッ……」


 信じられないようでしたら、本人に聞いてみましょうか。今アドマンス家の邸宅に滞在していますよ。そう笑顔で言ってみた。もう満面の笑みで。


「ッ……たかが料理でっ」

「おい」


 そう話を遮ったのはタクミだった。


「お前今何つった? たかが料理? お前、今料理を侮辱したのか? 人間誰しも飯食わなきゃ生きていけねぇって知らねぇのか? お前、今いくつだ。そこまで健康的に生きてこれたのは、バランスのいい美味い料理を屋敷のコックが作ってくれたお陰だろーが。それを、たかが料理? ふざけんな。お前みたいな食に感謝する事すら知らないやつは飯食う権利は全くねぇよ。さっさと帰れ!」


 ……あらら、タクミ、切れちゃた。何か、圧が凄い、圧が。私も怖いんですけど。でも、何となぁく裕孝さんに見えるような、見えないような。さすが親子だわ。

 その後もタクミはだいぶ口が止まらず、子息は暴言を一言吐き捨てて帰っていったのだった。負け犬の捨て台詞みたいだったよ。


「煩くしてしまい大変失礼いたしました。どうぞこの後もお食事をお楽しみください」


 と、満面の笑みでお店のお客さんに謝ったタクミ。もうイケメンはこういう時有効活用しちゃうんだからずるいよね。自分の顔の使い方分かってるわ。


「これだから周りにちやほやされて育った坊ちゃんは。マジで疲れたわぁ」

「あはは、ありがと」

「マジで迷惑だっつの。んで、何食う?」

「ん~、甘いの食べたいな」

「んじゃフレンチトースト?」

「美味しそう!」

「じゃあ……チーズ入りハンバーグ」


 サンスさんが来てくれて、注文をお願いした。メニューにない料理だったから困ってたけど、冷蔵庫の中身をちゃ~んと把握しているタクミが材料はあるから大丈夫と通してしまった。ナナミちゃん、ごめんね。どっちもメニューにないやつで。


「それで……タクミさん、ずっとここ?」

「向こうに戻った方がいい?」

「いや、周りの目もあるし」


 ほら、さっき私の隣に座ったじゃん。その顔だと、向こう側に戻る気はないな? まぁ私的には別にいいけどさ、周りのお客さんの目もあるわけだし。


「何?」

「いや、何でもない。さっさと戻って」

「はいはい」


 それから、ニヤニヤしたナオさんが私のフレンチトーストとタクミのハンバーグを持ってきてくれた。


「血は争えないわね」

「煩いな」

「うふふ、ごゆっくり~」


 ちょっと待って、なんか豪華じゃありませんか!!


「バニラアイスに、フルーツいっぱい!」

「あの野郎、アヤメが食べるからって……」


 ん~香ばしい匂い! しかもてんこ盛りだし! アイスが溶けない内に食べなきゃ。いただきます!


「ん~~! 甘ぁ♡」

「……俺のも食う?」

「うんっ!」


 まぁ色々あったけど、楽しい時間を過ごすことが出来ました。また一緒にお客さんやろうね。



「それでですね、タクミ君よ」

「え? 何々」


 屋敷前に馬車が停まったタイミングで、彼にとある物を見せた。綺麗にラッピングされた袋だ。


「どーぞ」

「俺に?」

「そう」

「開けていい?」

「どーぞどーぞ」


 その中身とは、レース編みされたコースターだ。パトラさんに教えてもらいながら作ったものの一つ。お父様とお母様とお兄様にも作って、そしてタクミにも作ったのだ。


「パトラさんに教えてもらったの。ひと編みひと編み愛情を込めて編まないと作ったものが光らないって。だからい~っぱい愛情込めて編みました~!」

「へぇ、綺麗に出来てる」

「ほんと!」

「うん、大事に使う」


 よかったぁ、何度も解いてやり直した所あったから自信なかったんだけど、気に入ってくれたのであれば満足です。


「んじゃお返し」

「っ!?」


 腕を引っ張られてキスをされてしまった。だから言ってからしてください! びっくりするでしょ!

 じゃあまたな、と屋敷前で別れた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!

楠ノ木雫
恋愛
 突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員奈央。私に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。  ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!  これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に吊り上げてしまった……私の好みドンピシャなイケメン!!  何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!

えっ、じいちゃん昔勇者だったのっ!?〜祖父の遺品整理をしてたら異世界に飛ばされ、行方不明だった父に魔王の心臓を要求されたので逃げる事にした〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 まだ16歳の奥村留衣は、ずっと一人で育ててくれていた祖父を亡くした。親戚も両親もいないため、一人で遺品整理をしていた時に偶然見つけた腕輪。ふとそれを嵌めてみたら、いきなり違う世界に飛ばされてしまった。  目の前に浮かんでいた、よくあるシステムウィンドウというものに書かれていたものは『勇者の孫』。そう、亡くなった祖父はこの世界の勇者だったのだ。  そして、行方不明だと言われていた両親に会う事に。だが、祖父が以前討伐した魔王の心臓を渡すよう要求されたのでドラゴンを召喚して逃げた!  追われつつも、故郷らしい異世界での楽しい(?)セカンドライフが今始まる!  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!

枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」 そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。 「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」 「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」  外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...