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第七章 フェリアス王立学院
◇60 フェリアス王立学院
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【フェリアス王立学院】
カーネリアン王国で一番歴史のある学院だ。
当時の国王が、学問は重要な財産だと説きこの王立学院を設立させた。その後も学びの場を数多く作った。それは貴族のみではなく、お金のない平民、そして孤児も学べるよう作ったのだ。
身分に囚われず、一人一人が学ぶことによってこの国を豊かにしていく。そう考えたそうだ。
当時の王様は偉大な人だ。
私のいた国、日本でも子供達は学校に行くことが義務だった。まぁ事情があって中退する人もいるけれど。
「アドマンス公爵様から直接話を頂いた時には驚いてしまいました。ご令嬢の話は聞いています。別の星からいらっしゃり、今は素晴らしい事業を展開されていると。そんな偉大な方がこの王立学院に興味を示していただいた事、とても嬉しく思います」
「いえ、そんな……」
王立学院の見学の日、ここの学長先生が快くお出迎えをしてくれた。学長室で色々と説明を聞いたのだけれど、いや~褒める褒める。私、異世界人だけどただの16歳の小娘なんですけど。
はい、ありがとうございます、いえいえそんなことは、なんて繰り返し繰り返し返していって、やぁっと話が終わった。では院内を案内しましょうか、と。
この建物って、この国にある建物、あと王宮とはまた違った造りなのよね。地球にあるような、どこかの国のお城みたいな感じ。
もちろん、私の知ってる学校とはまるっきし違う。
「ここは高等の学生のクラスです。丁度今、授業中ですね」
部屋の廊下側の窓を覗いてみた。私と同じような年頃の生徒達が、机に広げたノートと教科書を見つつ目の前にいる先生の話を聞いている。あ、ちゃんと黒板もあるんだ。
でも、一つずつの机ではなくて、部屋いっぱいに横に繋がっている。弧を描いたような感じで曲がっていて、それが階段のように並んでいる。
「ここは、医療の授業を専攻した生徒達のクラスです。この学院では、高等の学年になると授業を選ぶことが出来るのです。武術、魔術、経済、医療、学問、美術ですね」
「自分の進みたい職業を考えて選ぶという事ですね」
「えぇ。毎年そうなのですが、男性は武術、女性は美術が人気ですね。武術は、王宮の騎士団に入団する事を志す者達が多いからです。そして美術は、嫁ぐための花嫁修業の一環、という訳です」
「なるほど……」
花嫁修業の一環、かぁ。じゃあ、嫁ぐための準備期間でもあるって事か。だって、卒業したらデビュタントになるんだから。卒業は16歳、成人の歳だ。となると、デビュタントをする歳でもある。もう結婚できますよ~! って事だ。
花嫁修業って、礼儀作法や社交界での決まり、貴族夫人としての在り方、あと裁縫に音楽にと色々盛りだくさんだとラル夫人から聞いた。じゃあ、ここには他の家に嫁ぐために勉強をしに来たって事にもなるわけだ。うわぁ、女の子って大変だね。
「授業を一緒に受けたいとの事でしたが、今留学されている王太子殿下がいらっしゃるクラスで如何ですか」
「はい、大丈夫です」
「分かりました、ではご案内します」
そういえば、第一王女様の婚約者なんだっけ。オリコット王国の王太子でしょ? どんな人なんだろう。
そんな事を考えつつ、学長先生に付いていった。結構ドキドキである。だって授業に参加していいんだよ? 嬉しいじゃない!
とは言っても緊張するものはする。だから一体どうしたらいいのかと聞こうとしていた時、声が聞こえてきた。ここです、と言われ、到着したのはとある教室。
中の生徒達は起立をしていて、授業の終わりの挨拶をしている所だった。では行きましょう、とその教室のドアをノックした学長先生。え、今入るの!? という私の心の声は学長先生には届かず。教室に入って行った学長先生に大人しく付いていくしか出来なかった。
当然教室内の人達全員が私達に注目するわけで。まぁデビュタントでもこんな事はあったけれど、向けられる視線が違うというか。
「こちら、アドマンス公爵家の令嬢でいらっしゃいます、アヤメ・アドマンスさんです。本日、学院見学という事で来て頂き、これから2科目授業をここで受けて頂く事になりました」
ざわざわする生徒達。まぁそうなるよね。
さ、アヤメ嬢、と振られてしまって。さて、何と言ったらいいのやら。
「2時間という短い間ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
もっと何か言ったほうが良かっただろうか、とも思ったけれど学長先生が話を終わらせてしまい、ではまた後程と戻っていってしまった。私を残して。
一体どうしたらいいのだろうか。付いてきてくれて、今少し遠くにいるマリアに助けを求めようとしたけれど……
「初めまして、アドマンス嬢」
ご令嬢達が集まってきてしまった。挨拶しなきゃ、と制服のスカートを抓もうとしたら……
「失礼」
男性二人が集まっているご令嬢達の間を開けて道を作っていて。そこを通ってきたのは、とある男性。ごめんね、と周りに謝りながら。
「初めまして、アドマンス嬢。僕はエドガルド・シス・ファラスレス。隣国オリコット王国から留学してきた者です」
あっ!! もしかして!!
「もっ申し訳ありません! お初にお目にかかります、王太子殿下……!」
「いえ、お気になさらず、ご令嬢」
本来なら私の方から挨拶に行くべきなのに、悪い事をしてしまった。
「ミレイアさんからお話を聞いています。今はご気分如何でしょう?」
「あ、いえ、大丈夫です。お気遣い感謝します」
「それはよかった」
ではまた後程、と戻っていってしまった。きっとあの二人の男性も一緒に留学してきたお付きの人達ね。
背の高い、王子様系の人だった。15歳でしょ? 大人だ。王太子だから? いや、それは関係ないか。22歳の王女殿下と並ぶと、全然歳の差を感じなさそう。
「あの、ご令嬢」
「は、はい」
王太子殿下が去った所でまたご令嬢達が話しかけてきた。
「セリア・ホリトンと申します。もしよければ、この後の授業の説明をさせて頂けないでしょうか」
あ、そっか。私今日が初めてだからいきなり聞いても分からないもんね。それより、ホリトンって言った? もしかしてこの人、殿下の……想い人の妹さん!? だって、プリシラ・ホリトンさんは今17歳だもん、ここは卒業してるわけだし、そういう事よね!
「あら、何を言ってらっしゃるの? セリアさん」
そう声をかけてきたのは、また違ったご令嬢。あれ、なんかどこかで見た事のあるような顔。
「クリスティア・ルセロと申します、アドマンス嬢」
あ、ルセロ! ルセロ侯爵家の方! って事は、ルイシーナ・ルセロ侯爵令嬢の妹さん!? うんうん、似てる!! 髪の色とか、顔とか!!
「アドマンス嬢はこの国唯一の公爵家のご令嬢でいらっしゃいます。下位貴族である子爵家の者より、高位貴族である侯爵家の令嬢である私が適任だと思いますの。それに貴方、この前の期末テスト、何位でしたか? アドマンス嬢にご説明をするのであれば5位以内の者でなければいけません」
「……」
あらまぁ、だいぶグサグサストレートに言う方なのね。何かそういう所、お姉さんとそっくり。でも、これだとホリトン嬢可哀想だよね。
「ルセロ嬢のお心遣い、感謝いたします。ですが、ホリトン嬢のお気遣いもとても嬉しかったです。ですので、この後の授業ではホリトン嬢にお願いしてもいいでしょうか」
「えっ」
「なっ!!」
「その次の授業で、ルセロ嬢に教えていただきたいのですが、如何でしょう」
どうせ授業は2回受けるんだから、そうすればいいじゃないかな。でも、今更だけど欲張りすぎたかな?
その提案にホリトン嬢は嬉しそうに了承してくれて。ルセロ嬢は不満げな顔で、仕方ありませんね、と受け入れて下さった。上手く収まったかな? 分からないけれど。
遠くにいたマリアが、私の筆記用具とノートを渡してくれて。ホリトン嬢と一緒に隣同士で席に座った。
「以前から、アドマンス嬢にお会いしたかったんです。こんなに若くていらっしゃるのに、素晴らしい事業を立ち上げられているなんて、とても尊敬しています」
フラワーメールの切手、私もやっと手に入れて今は宝物になっています。と言ってくれた。いやいや、使ってほしいんだけどな。とは言えなかった。地球に切手収集家という人達がいたからね。まぁ、喜んでくださっているのであれば私はいいかな。でも、宝物だなんておこがましいな。
「私には姉がいるのですが、姉もご令嬢に会いたいと常日頃から言っていました。もし、卒業後にお茶会を開いたらご招待させていただいてもいいでしょうか……?」
「えぇ、楽しみに待っていますね」
「ありがとうございます!」
ここは全寮制、何か用事がない限りずっとこの学院にいる事になっている。だから学院内ではお茶会を開いても構わないのだがそれには外部の者達は参加する事は出来ない。だからホリトン嬢の開いたお茶会に私が参加するには、彼女が卒業しなければならないのだ。
でも、卒業はもう目の前。地球とは違って、秋に卒業式が行われるのだ。もう夏も終わりを迎える頃。だからもう少しの辛抱という訳だ。
楽しみだなぁ、殿下の想い人に会える機会があるって事よね。一体殿下が惚れ込んだ方はどんな方なのだろうか。
授業が始まると、ホリトン嬢はとても丁寧に説明してくれた。一応教科書は貰っているからそれを使って授業を聞いて。幸い、ラル夫人に教えてもらった内容だったから、それもあって何とか授業についていけた。
周りの環境は違うけれど、高校時代に戻ったような、そんな気がして嬉しかった。
「アドマンス嬢は本当に優秀でいらっしゃいますね」
「いえ、一度習ったところでしたから」
「そんな事ありません。私、お恥ずかしながらあまり勉強は得意ではなくて。何度も復習しないと覚えられないんです」
なぁんて会話をしていたらすぐにルセロ嬢が来た。次の授業はルセロ嬢が教えてくれる事になっているから、またあとで、とホリトン嬢とは別れて別の席に移った。
「先程の授業は大丈夫でしたでしょうか」
「はい、知っていた内容でしたし、ホリトン嬢が分かりやすく教えてくださいましたから」
「そうでしたか。でしたら、この後の授業は私が丁寧にご説明させていただきますね」
「ありがとうございます」
さっき、彼女は期末テスト5位以内に入ってるような口ぶりだった。その通り、彼女も色々な事を授業中に教えてくれた。知識が豊富だと感じた。
授業後も、字が綺麗だとか、とても優秀だとか、そういった誉め言葉を沢山貰った。学長先生に負けないくらい。フラワーメールも姉とのやり取りで何度も利用させてくれてるみたい。
そうだよね、ここは全寮制で実家とは手紙のやり取りしか出来ない。手紙はこの学院の先生が出してくれているみたいだけど、でも手紙を出す人は多いみたい。やり取りがこれだけなんだもん、当たり前だよね。
となると……王宮みたいにここも直接手紙を取りに行ったほうがいいのかしら。最近配達員を増やしたから、一度検討してみよう。
お嬢様、とマリアが声をかけてきて、お話をしていた令嬢達と別れた。またどこかでお会いしましょう、と一言残して。彼女達は秋で卒業、その後社交界で会えるだろう。
「楽しそうでしたね」
「うん、皆さんお優しくて楽しかったよ」
「それは良かったです」
学長先生の所に行き、ありがとうございましたと学院を後にした。
「おかえりアヤメちゃ~ん!」
「ただいまかえりました、お母様」
屋敷に帰ると、お母様が出迎えてくれた。あ、お父様とお兄様も。だいぶ早いお帰りでは? と思ったら、執事のセバスが何かを持っていた。四角い板?
「これは魔道具でな、特定の景色を絵に残せるんだ」
「え!?」
じゃあ、カメラみたいな!? へぇ~! やっぱり魔道具って凄い!
「アヤメちゃんの可愛い制服姿を絵に残そうと思って! どうせだったら家族で絵を残しましょうって事にしたの!」
「わぁ! 嬉しいです!」
玄関ホールで撮りましょう、という事になり用意されていたらしい椅子に私とお母様が座った。その後ろにお父様とお兄様。
「さぁ、撮りますよ! 笑って下さい!」
果たしてお兄様は笑えるでしょうか、とも思ったけれどその言葉は口には出さず笑顔でカメラ(?)に顔を向けた。
3、2、1! とカウントダウンをしてくれて。そして撮れたのはとても素敵な絵だった。うんうん、お兄様笑ってない! でもお母様もお父様もいい笑顔です!
後でこれを複写してくれるみたいで、私にも一枚くれるらしい。さて、どこに飾ろうかな。私室? それとも作業部屋? ん~迷うな。
そんな時、マリアがお母様に何かを渡している所が目に入った。あれ、なんか小さな水晶みたい。
「あぁ、これは映像を残す魔道具なんです。こうして……」
何かのスイッチを押したマリア。それから何か映像みたいなものが大きくその場に映し出された。え、あ、あれ……!?
「授業中!?」
「はい! お嬢様の授業風景をこれで撮影してきてほしいとの事でしたので」
「うふふ、これからバートと一緒に見るの♡」
はっ恥ずかしいぃ~! ま、まぁ授業受けてるだけだけれど、何となく恥ずかしいじゃない!
それを聞いていたお兄様も、俺にも見せてくださいと言い出して。やめて下さい、お願いですから。
カーネリアン王国で一番歴史のある学院だ。
当時の国王が、学問は重要な財産だと説きこの王立学院を設立させた。その後も学びの場を数多く作った。それは貴族のみではなく、お金のない平民、そして孤児も学べるよう作ったのだ。
身分に囚われず、一人一人が学ぶことによってこの国を豊かにしていく。そう考えたそうだ。
当時の王様は偉大な人だ。
私のいた国、日本でも子供達は学校に行くことが義務だった。まぁ事情があって中退する人もいるけれど。
「アドマンス公爵様から直接話を頂いた時には驚いてしまいました。ご令嬢の話は聞いています。別の星からいらっしゃり、今は素晴らしい事業を展開されていると。そんな偉大な方がこの王立学院に興味を示していただいた事、とても嬉しく思います」
「いえ、そんな……」
王立学院の見学の日、ここの学長先生が快くお出迎えをしてくれた。学長室で色々と説明を聞いたのだけれど、いや~褒める褒める。私、異世界人だけどただの16歳の小娘なんですけど。
はい、ありがとうございます、いえいえそんなことは、なんて繰り返し繰り返し返していって、やぁっと話が終わった。では院内を案内しましょうか、と。
この建物って、この国にある建物、あと王宮とはまた違った造りなのよね。地球にあるような、どこかの国のお城みたいな感じ。
もちろん、私の知ってる学校とはまるっきし違う。
「ここは高等の学生のクラスです。丁度今、授業中ですね」
部屋の廊下側の窓を覗いてみた。私と同じような年頃の生徒達が、机に広げたノートと教科書を見つつ目の前にいる先生の話を聞いている。あ、ちゃんと黒板もあるんだ。
でも、一つずつの机ではなくて、部屋いっぱいに横に繋がっている。弧を描いたような感じで曲がっていて、それが階段のように並んでいる。
「ここは、医療の授業を専攻した生徒達のクラスです。この学院では、高等の学年になると授業を選ぶことが出来るのです。武術、魔術、経済、医療、学問、美術ですね」
「自分の進みたい職業を考えて選ぶという事ですね」
「えぇ。毎年そうなのですが、男性は武術、女性は美術が人気ですね。武術は、王宮の騎士団に入団する事を志す者達が多いからです。そして美術は、嫁ぐための花嫁修業の一環、という訳です」
「なるほど……」
花嫁修業の一環、かぁ。じゃあ、嫁ぐための準備期間でもあるって事か。だって、卒業したらデビュタントになるんだから。卒業は16歳、成人の歳だ。となると、デビュタントをする歳でもある。もう結婚できますよ~! って事だ。
花嫁修業って、礼儀作法や社交界での決まり、貴族夫人としての在り方、あと裁縫に音楽にと色々盛りだくさんだとラル夫人から聞いた。じゃあ、ここには他の家に嫁ぐために勉強をしに来たって事にもなるわけだ。うわぁ、女の子って大変だね。
「授業を一緒に受けたいとの事でしたが、今留学されている王太子殿下がいらっしゃるクラスで如何ですか」
「はい、大丈夫です」
「分かりました、ではご案内します」
そういえば、第一王女様の婚約者なんだっけ。オリコット王国の王太子でしょ? どんな人なんだろう。
そんな事を考えつつ、学長先生に付いていった。結構ドキドキである。だって授業に参加していいんだよ? 嬉しいじゃない!
とは言っても緊張するものはする。だから一体どうしたらいいのかと聞こうとしていた時、声が聞こえてきた。ここです、と言われ、到着したのはとある教室。
中の生徒達は起立をしていて、授業の終わりの挨拶をしている所だった。では行きましょう、とその教室のドアをノックした学長先生。え、今入るの!? という私の心の声は学長先生には届かず。教室に入って行った学長先生に大人しく付いていくしか出来なかった。
当然教室内の人達全員が私達に注目するわけで。まぁデビュタントでもこんな事はあったけれど、向けられる視線が違うというか。
「こちら、アドマンス公爵家の令嬢でいらっしゃいます、アヤメ・アドマンスさんです。本日、学院見学という事で来て頂き、これから2科目授業をここで受けて頂く事になりました」
ざわざわする生徒達。まぁそうなるよね。
さ、アヤメ嬢、と振られてしまって。さて、何と言ったらいいのやら。
「2時間という短い間ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
もっと何か言ったほうが良かっただろうか、とも思ったけれど学長先生が話を終わらせてしまい、ではまた後程と戻っていってしまった。私を残して。
一体どうしたらいいのだろうか。付いてきてくれて、今少し遠くにいるマリアに助けを求めようとしたけれど……
「初めまして、アドマンス嬢」
ご令嬢達が集まってきてしまった。挨拶しなきゃ、と制服のスカートを抓もうとしたら……
「失礼」
男性二人が集まっているご令嬢達の間を開けて道を作っていて。そこを通ってきたのは、とある男性。ごめんね、と周りに謝りながら。
「初めまして、アドマンス嬢。僕はエドガルド・シス・ファラスレス。隣国オリコット王国から留学してきた者です」
あっ!! もしかして!!
「もっ申し訳ありません! お初にお目にかかります、王太子殿下……!」
「いえ、お気になさらず、ご令嬢」
本来なら私の方から挨拶に行くべきなのに、悪い事をしてしまった。
「ミレイアさんからお話を聞いています。今はご気分如何でしょう?」
「あ、いえ、大丈夫です。お気遣い感謝します」
「それはよかった」
ではまた後程、と戻っていってしまった。きっとあの二人の男性も一緒に留学してきたお付きの人達ね。
背の高い、王子様系の人だった。15歳でしょ? 大人だ。王太子だから? いや、それは関係ないか。22歳の王女殿下と並ぶと、全然歳の差を感じなさそう。
「あの、ご令嬢」
「は、はい」
王太子殿下が去った所でまたご令嬢達が話しかけてきた。
「セリア・ホリトンと申します。もしよければ、この後の授業の説明をさせて頂けないでしょうか」
あ、そっか。私今日が初めてだからいきなり聞いても分からないもんね。それより、ホリトンって言った? もしかしてこの人、殿下の……想い人の妹さん!? だって、プリシラ・ホリトンさんは今17歳だもん、ここは卒業してるわけだし、そういう事よね!
「あら、何を言ってらっしゃるの? セリアさん」
そう声をかけてきたのは、また違ったご令嬢。あれ、なんかどこかで見た事のあるような顔。
「クリスティア・ルセロと申します、アドマンス嬢」
あ、ルセロ! ルセロ侯爵家の方! って事は、ルイシーナ・ルセロ侯爵令嬢の妹さん!? うんうん、似てる!! 髪の色とか、顔とか!!
「アドマンス嬢はこの国唯一の公爵家のご令嬢でいらっしゃいます。下位貴族である子爵家の者より、高位貴族である侯爵家の令嬢である私が適任だと思いますの。それに貴方、この前の期末テスト、何位でしたか? アドマンス嬢にご説明をするのであれば5位以内の者でなければいけません」
「……」
あらまぁ、だいぶグサグサストレートに言う方なのね。何かそういう所、お姉さんとそっくり。でも、これだとホリトン嬢可哀想だよね。
「ルセロ嬢のお心遣い、感謝いたします。ですが、ホリトン嬢のお気遣いもとても嬉しかったです。ですので、この後の授業ではホリトン嬢にお願いしてもいいでしょうか」
「えっ」
「なっ!!」
「その次の授業で、ルセロ嬢に教えていただきたいのですが、如何でしょう」
どうせ授業は2回受けるんだから、そうすればいいじゃないかな。でも、今更だけど欲張りすぎたかな?
その提案にホリトン嬢は嬉しそうに了承してくれて。ルセロ嬢は不満げな顔で、仕方ありませんね、と受け入れて下さった。上手く収まったかな? 分からないけれど。
遠くにいたマリアが、私の筆記用具とノートを渡してくれて。ホリトン嬢と一緒に隣同士で席に座った。
「以前から、アドマンス嬢にお会いしたかったんです。こんなに若くていらっしゃるのに、素晴らしい事業を立ち上げられているなんて、とても尊敬しています」
フラワーメールの切手、私もやっと手に入れて今は宝物になっています。と言ってくれた。いやいや、使ってほしいんだけどな。とは言えなかった。地球に切手収集家という人達がいたからね。まぁ、喜んでくださっているのであれば私はいいかな。でも、宝物だなんておこがましいな。
「私には姉がいるのですが、姉もご令嬢に会いたいと常日頃から言っていました。もし、卒業後にお茶会を開いたらご招待させていただいてもいいでしょうか……?」
「えぇ、楽しみに待っていますね」
「ありがとうございます!」
ここは全寮制、何か用事がない限りずっとこの学院にいる事になっている。だから学院内ではお茶会を開いても構わないのだがそれには外部の者達は参加する事は出来ない。だからホリトン嬢の開いたお茶会に私が参加するには、彼女が卒業しなければならないのだ。
でも、卒業はもう目の前。地球とは違って、秋に卒業式が行われるのだ。もう夏も終わりを迎える頃。だからもう少しの辛抱という訳だ。
楽しみだなぁ、殿下の想い人に会える機会があるって事よね。一体殿下が惚れ込んだ方はどんな方なのだろうか。
授業が始まると、ホリトン嬢はとても丁寧に説明してくれた。一応教科書は貰っているからそれを使って授業を聞いて。幸い、ラル夫人に教えてもらった内容だったから、それもあって何とか授業についていけた。
周りの環境は違うけれど、高校時代に戻ったような、そんな気がして嬉しかった。
「アドマンス嬢は本当に優秀でいらっしゃいますね」
「いえ、一度習ったところでしたから」
「そんな事ありません。私、お恥ずかしながらあまり勉強は得意ではなくて。何度も復習しないと覚えられないんです」
なぁんて会話をしていたらすぐにルセロ嬢が来た。次の授業はルセロ嬢が教えてくれる事になっているから、またあとで、とホリトン嬢とは別れて別の席に移った。
「先程の授業は大丈夫でしたでしょうか」
「はい、知っていた内容でしたし、ホリトン嬢が分かりやすく教えてくださいましたから」
「そうでしたか。でしたら、この後の授業は私が丁寧にご説明させていただきますね」
「ありがとうございます」
さっき、彼女は期末テスト5位以内に入ってるような口ぶりだった。その通り、彼女も色々な事を授業中に教えてくれた。知識が豊富だと感じた。
授業後も、字が綺麗だとか、とても優秀だとか、そういった誉め言葉を沢山貰った。学長先生に負けないくらい。フラワーメールも姉とのやり取りで何度も利用させてくれてるみたい。
そうだよね、ここは全寮制で実家とは手紙のやり取りしか出来ない。手紙はこの学院の先生が出してくれているみたいだけど、でも手紙を出す人は多いみたい。やり取りがこれだけなんだもん、当たり前だよね。
となると……王宮みたいにここも直接手紙を取りに行ったほうがいいのかしら。最近配達員を増やしたから、一度検討してみよう。
お嬢様、とマリアが声をかけてきて、お話をしていた令嬢達と別れた。またどこかでお会いしましょう、と一言残して。彼女達は秋で卒業、その後社交界で会えるだろう。
「楽しそうでしたね」
「うん、皆さんお優しくて楽しかったよ」
「それは良かったです」
学長先生の所に行き、ありがとうございましたと学院を後にした。
「おかえりアヤメちゃ~ん!」
「ただいまかえりました、お母様」
屋敷に帰ると、お母様が出迎えてくれた。あ、お父様とお兄様も。だいぶ早いお帰りでは? と思ったら、執事のセバスが何かを持っていた。四角い板?
「これは魔道具でな、特定の景色を絵に残せるんだ」
「え!?」
じゃあ、カメラみたいな!? へぇ~! やっぱり魔道具って凄い!
「アヤメちゃんの可愛い制服姿を絵に残そうと思って! どうせだったら家族で絵を残しましょうって事にしたの!」
「わぁ! 嬉しいです!」
玄関ホールで撮りましょう、という事になり用意されていたらしい椅子に私とお母様が座った。その後ろにお父様とお兄様。
「さぁ、撮りますよ! 笑って下さい!」
果たしてお兄様は笑えるでしょうか、とも思ったけれどその言葉は口には出さず笑顔でカメラ(?)に顔を向けた。
3、2、1! とカウントダウンをしてくれて。そして撮れたのはとても素敵な絵だった。うんうん、お兄様笑ってない! でもお母様もお父様もいい笑顔です!
後でこれを複写してくれるみたいで、私にも一枚くれるらしい。さて、どこに飾ろうかな。私室? それとも作業部屋? ん~迷うな。
そんな時、マリアがお母様に何かを渡している所が目に入った。あれ、なんか小さな水晶みたい。
「あぁ、これは映像を残す魔道具なんです。こうして……」
何かのスイッチを押したマリア。それから何か映像みたいなものが大きくその場に映し出された。え、あ、あれ……!?
「授業中!?」
「はい! お嬢様の授業風景をこれで撮影してきてほしいとの事でしたので」
「うふふ、これからバートと一緒に見るの♡」
はっ恥ずかしいぃ~! ま、まぁ授業受けてるだけだけれど、何となく恥ずかしいじゃない!
それを聞いていたお兄様も、俺にも見せてくださいと言い出して。やめて下さい、お願いですから。
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