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第六章 カーネリアン王国の夏

◇52 鍛錬場

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 今、私の手には大きな籠。中身はですね、カロットが入っています。見た目人参の野菜です。隣にいるジルベルトは大きな荷車を引いていて、ここの騎士さんに後ろから押してもらっています。荷車の中身も大量の野菜です。

 え、そんな大量の野菜をどうするのかって? それはですね、馬さん達にあげるんです!

 これらは今馬小屋に運んでいる最中でして、この前トワさんに背中に乗せてもらったからそのお礼も兼ねてる訳です。

 もうそろそろで、ここアドマンス領も気温が上がるそうなので、それだと私は屋敷にこもりっきりになってしまう。だから外で出来る事は今のうちにやってしまおうと思ってジルベルトにお願いしたのだ。


「こんにちは~!」


 馬小屋には大きさ通り沢山の馬がいて。白と茶色の馬ばかりだ。うんうん、皆元気そうです。


「トワさんこんにちは!」


 グルルルル、と声を出してきたトワさん。この前は背中に乗せてくれてありがとう。その意味を込めて籠に入れてきた人参をあげてみた。手まで食べられちゃうんじゃないかな、と思ったけれど案外普通に食べてくれた。動物園の餌やりコーナーってこんな感じなのかな?


「他の馬にもあげてみますか?」

「やる!」

「あはは、お嬢様がいらっしゃったから馬たちも嬉しそうですよ」

「ほんと?」

「えぇ」


 うん、確かに皆餌ちょうだいって私に言ってるみたいに聞こえるような……ないような? 頭撫でさせてくれるし。結構触ってて気持ちいい。

 はいどうぞ、と一匹一匹順番にあげてるけれど、隣の馬が横取りしそうになったり、喧嘩しちゃったり。あはは、元気だねぇ。

 いつも馬と一緒に訓練している騎士さんは、馬となんか仲良しに見える。大人しくしろ! と言っても顔を舐められそうになってしまっていて。早く寄こせ、って言ってるみたいな? ふふ、見てて楽しい。


「この後は鍛錬場ですか?」

「うん、皆に差し入れするんだぁ~」

「い~な~、俺も今日非番じゃなかったらなぁ~」


 こら、とジルベルトに怒られてたけど、そういうの別にいいのにな。と思いつつ、一緒に厨房行こっか、と誘った。とっても嬉しそうだったからよかった。

 戻ろうとした時は、馬さん達が騒ぎ出しちゃって。え、帰るなって? でも困ったな、早く行かないと鍛錬終わっちゃう。だから、また来るねと手を振ってその場を後にした。



「こんにちは、ニコラス団長」

「おぉ、ようこそいらっしゃいました、アヤメお嬢様」


 厨房から差し入れのクッキーを受け取り、鍛錬場に向かったら騎士様達の掛け声がまた聞こえてきて。良かった、終わってなかった。と安心しつつ鍛錬場にお邪魔した。

 これ持ってきました、とクッキーを見せたら団長さんはお礼を言ってくれて。きっと皆喜びますと言ってくれた。

 あ、やっぱりいた! 端っこの方に木刀を持ってるナナミちゃんとタクミ君!


「あぁ、ナカムラ家の方々ですか」

「はい、私見た事なくて」

「お二人も良い太刀筋ですよ。さすが元近衛騎士団団長様のお子さんです。と言っても、彼らは対人ではなく対動物ですがね」

「あ、なるほど」


 畑を荒らす大型動物達を狩る事があるって言ってたもんね。それに、今戦ってるけど全部受け身だけだ。他の騎士様達と違って。騎士道、みたいな? あ、騎士じゃないのか。じゃあ……剣道?


「わぁ、かっこいい……!!」

「ナナミ嬢ですか、男達の中でよくあそこまで出来るなと感心していますよ。子息も、剣筋が素晴らしいです。他の者達も見習ってほしいですな。はっはっはっ」


 おぉ、こんなに凄いとは。いつもは包丁握ってるはずなんだけど、同一人物に考えられないかも。

 ここの皆さんは、私が来ていた事に気が付いていたらしい。休憩が入った瞬間私の方にばっと向いてきて、団長さんの掛け声で挨拶をされてしまった。これ、恥ずかしいな……


「その……おやつを持ってきたので、どうぞ食べてください」


「ありがとうございます!」

「光栄です!」


 だなんて声をかけてくれるけど、甘いものが苦手な人がいたらどうしようか。甘くないのも用意するべきだった? まぁ今更なんだけど。


「お嬢様の話はこの領地にまで聞こえてきていますよ」

「え?」

「素晴らしい事業を立ち上げたのだとお聞きしました! しかも二つも!」

「絶対にお会いしたいって皆言っていたんですよ」

「本当ですか?」

「はい!」


 わぁ、知ってくれてたなんて! ここまで事業を拡げられてないから、話しか聞けないみたいだけど、定期的に首都に行って領地の事の報告をしに来る人達がいるらしく、その際に【フラワーメール】の切手やレターセットを買ってくれたのだとか。もう取り合いになったと言っていて。

 とっても素晴らしい事業ですね! と何度も褒めてくれた。

 まさかここまで噂が広がっているとは、知らなかった。ちょっと、いやだいぶ嬉しい。ありがとうございます。


「アヤメちゃ~ん!!」

「ナナミちゃん! お疲れ様! タクミ君も!」


 カッコ良かったよ! と言うとありがと~! と手を握ってくれて。でもすぐにパッと離したナナミちゃん。汗臭いから、だそうだ。別にそんなの気にしないのに。

 いいなぁ~、私もカッコよくなりたい。と言ってもスポーツは全くした事がないし、というか出来ないし。弱っちいし。

 まぁ、仕方ないか。


「なぁ、アヤメ」

「ん?」


 鍛練場から帰ろうとしていた私に、突然声をかけてきたタクミ君。何かあった?


「……タクミ君?」

「いや、今日何食べたい?」

「ん~、冷やしそうめん?」

「お前すごいな、今日の昼そうめん」

「え~! 当てちゃった! じゃあ夕飯はハンバーグ!」

「おっけ~」


 何か、間があったな。違う事言いたそうな顔してたけど、気のせい?まぁ何かあったら聞きに来るよね。すごく気になるけど。

 でも……


「ん? 何」

「んーん、何でもない」


 鍛練でお疲れだろうし、とにかくお腹空いたし。だからまた今度。

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