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第六章 カーネリアン王国の夏

◇48 次の日

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「はい、今日も問題ないですね」

「ありがとうございます、先生」


 お母様の言いつけ通り一緒に来たシモン先生に毎朝健康チェックを受ける事になり、ここに到着した次の日の朝も先生に診てもらった。大袈裟な、とは思ったけれど、ここに来るまで4日間ずっと移動だったから、お母様の気持ちは分からなくもない。

 おはようございます、とお母様と挨拶をして食事になった。け、ど……?


「あれ? これ、って……」

「オムレツですよ」

「朝から頑張っちゃいました~!」


 まさかの朝ご飯は【お食事処・なかむら】料理です。え、ここでも食べれちゃうの?

 彼らは、今回の旅行に調味料諸々を持ってきていたらしい。抜かりないな。


「今日から滞在中は俺らが料理を作りますので、お楽しみに」

「え?」

「ず~っと料理作らなかったら手が鈍りますからね」

「と、いう事でお願いしちゃった♪」


 お、母様……いいの? 長期休暇みたいなものなのに。まぁでも、自分達で言い出したんだから、いいのか。

 お母様は忙しくて最近は【なかむら】に行けてなかったし、隣にいるリアさんは二人の料理を食べるのはこれで二回目。だからとっても嬉しそう。私だって、毎日二人の料理を食べられるなんて嬉しいしね。

 でも、ここって首都から離れてるし、いつものような仕入れも出来ないから、いつも使ってる食材もない。ここに来るまで4日かかったから、持ってこれるものも限定されてしまう。大丈夫なのかな?



 領地の屋敷のお庭は、首都の屋敷のお庭に負けず劣らず素晴らしい。首都とは違った自然あふれる感じ。カラフルではあるんだけど、緑が多いって感じかな?

 ここの庭は広いから、全て見て回るには1日かかってしまいそうな気がする。


「後で図書室行きたいな」

「図書室、ですか?」

「うん、お花図鑑が見たいの。知らないのばかりだから」

「なるほど、でしたらこれからご案内いたします」

「うん、ありがとマリア」


 私達は屋敷に戻った。


 図書室に行く最中に、ナナミちゃんとばったり出会った。あら? 洋服? さっきまで着物だったよね?


「洋服にしたの?」

「あぁこれ? 着物だと目立っちゃうから」

「え?」

「今からね、市場に行くの」


 ここにある食材の把握と、夕食の分の調達に行くのだとか。ここからちょっと離れているけれど、お母様が馬車を貸してくれるみたいで。


「い~な~、私も行っちゃダメ?」

「え?」

「お嬢様」

「シモン先生は朝体調は問題なしって言ってくれたんだけど……ダメ?」


 はぁ、と深いため息をしつつ奥様にご相談いたしましょう、と言ってくれたマリア。ナナミちゃんの方は、別に大丈夫だよ、と言ってくれた。むしろ楽しそう! と。我儘言ってすみません。

 そしてお母様は、マリア達と行くならいいわよ、と許可を出してくださった。ありがとうございます。さ、お出かけ用の洋服に着替えなきゃ!


「……んで? その後ろの3人は?」

「えへへ~、来ちゃった♪」

「一緒に行きたいんだって」

「はぁ、分かった分かった」

「ありがとっ!」

「あーはいはい」


 お邪魔しますね、タクミ君、ナナミちゃん。邪魔はしないから安心してね。


 屋敷を出て馬車の外を覗くと、元気な領民さん達が見える。昨日ここに来た時と同じく皆さん楽しそうにお仕事してて。それだけこの領地が豊かって事だよね。

 この領地にはとても大きな市場があるらしく、毎日賑わっているのだとか。この屋敷には、その市場から毎朝新鮮な野菜などが届けられているらしい。


「皆元気だね」

「領地に奥様方が戻ってこられたのでいつも以上に活気があるのですよ」

「そっか~」

「あ! なんか噴水の前に集まってるよ!」

「あ、ほんとだ!」

「あれはきっと人形劇場ですね」


 へ~、手に嵌めて動かす人形なのかな? 面白そう!


「終わったら見に行こ~よ~!」

「お前さぁ、何しに来たか分かってんの?」

「うるさいな~も~お兄ちゃんは黙っててよ~!」


 今日は天気が良いから余計気分が上がるよね。首都は初夏でちょっと暑かったけど、ここはまだ気温は暑くないし。と言っても、ピークになってもここはあまり気温が上がらないって言ってた。来てよかったぁ~。

 窓の外を見ながらわいわい盛り上がっていたら、あっという間に目的地、市場に着いてしまった。おぉ~、人がいっぱい!

 逸れないように気を付けてくださいね、とマリアに念押しされてしまったけど、そこまで私は子供じゃありません。


「わ、見た事ないものばっかりだね」

「そうだな、まぁいくつか扱った事のあるものもあるけど……」

「アドマンス領には他の領地とは違って海に面していますから、港があるんです。他国との船での貿易を任されていますので、珍しい食材などが出回っているのですよ」

「なるほどな」


 なんか、アドマンス家って知っていくたびに凄い家なんだって思い知らされていく感じがするな。前から知ってたけど、今改めて思っちゃった。凄いなぁ。

 新鮮な野菜もあって、獲れたての魚もあって。加工されたものもあって。人も沢山いて。こういうのって、なんかいいね。


「そこのお嬢さん、味見していくかい」

「え?」


 声をかけてくれたのは、果物を売っているおばさん。採れたての果物を試食させてくれるそうだ。じゃあ、これ。と何となくマスカットに似ているものを選んだ。どうぞ、と渡してくれて。

 口に入れた瞬間の果汁、そして甘味もあって。とっても美味しい!! マスカットの様な見た目なのに、何というか……苺みたいな? そんな感じがする。でも粒々がないから不思議。


「それ、美味い?」

「うんっ!」


 ナナミちゃんとタクミ君も来て一緒に試食。二人も気に入ったみたい。じゃあこれ下さい、と注文していた。


「見ない顔だねぇ、兄妹で来たのかい」

「あ、」


 うん、まぁ二人は兄妹だけど……私は違います。

 こっちが兄妹でこっちは友達、とおばさんに言うとそうかいそうかい、と果物を持ってきた籠に入れながら笑っていて。うん、まぁ顔は日本人顔だし髪色とかも一緒だし、そう思うのは不思議な事じゃないもんね。

 他にも、いろんな所で買い物をして。一緒に来ていたジルベルトが沢山持ってくれた。力持ち~。


「厨房の人達がね、料理を教えてって言ってくれたの」

「皆さんが?」

「そ。だからねぇ、とりあえずハンバーグを教えてあげよっかなって思ってるの。だから今日の夕食はハンバーグよ!」

「やったぁ~!」


 そっか、和食を気に入ってくれた方がまた増えたのか。日本人である私もとっても嬉しいな。……と、思っていたら、あれ? さっきまで隣にいたナナミちゃんが、いなくなっちゃった。

 どこに行ったんだろう、とキョロキョロしたけど見つからない。如何しました? とマリアに言われてナナミちゃんは? と聞いてみたけど見失ったみたい。さっきまで私と会話してたよね?


「あ、いた」

「え、どこ?」

「ほら、あっち」


 タクミ君が指さした先に、ナナミちゃんを発見。兄妹だから見つけるのが早い。あ、これ違う?


「アイツ偶に暴走するからな」

「え?」

「見てみ」


 ナナミちゃんが見ていたもの、それは……何か、匂いがする?


「ナツメグだぁ~!」

「お嬢ちゃん、これはメルドアって言うんだよ」

「あ、そっか」


 成程、香辛料か。

 ナナミちゃんは香辛料が好きらしい。じゃあ、カレー好き?


「アイツは香辛料好きなだけに使い方をよく知ってるからな、気持ち悪い程に」

「え?」

「喋らせたら日が暮れるくらい」

「あ、はは……」


 まさかナナミちゃんにそんな一面があったとは驚いたな。……あれ、ちょっとお姉さん? その手にある大量の袋は?

 帰りの馬車の中はきっと凄い匂いになるだろうなと覚悟しておこう、うん。


「そういえばさ、【なかむら】で出してる食材とかって叔父さんの商会で持ってきてもらってるの?」

「そう。と言っても保存の効くものばかりだけどな。米とか、調味料とか。なんせ母国から20日もかかる距離にあるんだぜ?」

「え? じゃあ、他は?」

「ここの国で揃う食材を工夫して料理を作ってるって事だよ」

「え?」


 そ、そんな事出来るんだ……す、すごい……!!


「凄いね……」

「いや? まだそんなに店のメニュー増やせてないからさ」

「へぇ……」


 ん? ちょっと待って、私、いつもメニューにないもの頼んじゃってるよね……? でも、どれもすっごく美味しいし。


「……やっぱり凄いよ、タクミ君」

「そうか?」

「うん」

「じゃあ……アヤメが美味そうに食ってくれるからだろうな」

「え!?」

「本物を食べた事があるアヤメが美味そうに食ってくれるって事は、ちゃんとその料理を美味く再現出来たって事だろ」


 ……何か、ちょっと嬉しい。役に立ててたって事だよね? 日本人で良かったかも。


 私達は、大体買い物は終わったので馬車に荷物を運んで乗り込んだ。

 もちろん、途中で人形劇場は見ましたとも。思った通り手に嵌めて動かすお人形だった。とっても可愛かった。悪役のキャラクターがいたけど、それも可愛かった。

 そんな私達を見ていたタクミ君は、「おこちゃま」と言ってきた。違います~! ナナミちゃんも私も成人してます~!

 そんな楽しい時間を過ごしながら屋敷に戻っていった。

 夕食は言っていた通りハンバーグ。ナナミちゃんが今日見つけた戦利品? のナツメグもちゃんと使われていた。美味しかったです、とっても。ごちそうさまでした。

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