43 / 115
第五章 恋の行方
◇43 お兄様とおでかけ
しおりを挟む今、私はリアさんのお店、【ブティック・シェリシア】にいます。どうして? それはですね……
「お兄様、これなんて如何ですか?」
「あぁ」
「こっちとこっち、どっちがいいですか?」
「アヤメが選んでくれ」
お兄様の私服が全くなかったからです。お父様が私服が2枚しか持ってなかったから、もしかして、と思ったら正解だった。
本当は今日、お兄様と【なかむら】に行く予定だった。でも、お父様と同じパターンで仕事服で出てきたのだ。すっごく深いため息をしたお母様に、服を買いに行かせてちょうだい、と任務を課せられて今ここにいる。
お兄様、何でも似合うな。背も高いし、顔もいいし。
「じゃあ今日は……これはどうです?」
「あぁ」
「……ちゃんと思ってます?」
「あぁ」
おんなじ返答。変な組み合わせにしちゃうぞ。まぁそれでも似合っちゃいそうだけど。イケメンってズルいよね、そういう所。
「俺はよく分からないから、アヤメが選んだほうがいい」
「……はい」
この人、天然なのね。ちょっと私の好みも入っちゃった気もしなくもないけれど、青系の服で決まった。何時もは騎士団の制服の赤だからこっちもいいんじゃないかと思って。うんうん、私の目に狂いはなかった。
他の洋服も何着か選んで、そっちは屋敷にそのまま送ってもらう事に。
さ、【なかむら】に行きましょうか。とリアさんの店を後にして馬車に乗り込んだ。あ、ちゃんとさっき買ったお洋服を着て、です。
私から誘った時には、もうお兄様は嬉しそうで。と言っても表情筋はあまり働いてなかったけど。
【なかむら】は今日も大盛況みたい。遅めの時間に来たんだけど、それでもまだお客さんいっぱい。
「い、らっしゃい!」
「こんにちは、ナナミちゃん」
「あ、うん、どうぞ!」
……ん? ナナミちゃん、ぎこちない? あ、もしかしてお兄様? ナナミちゃん達はウチには何回も出入りしていても、お兄様が帰ってくる頃にはいないから会った事がなかったのか。
紹介しよう、とも思ったけれど忙しそうだしなぁ。と思いつつ案内してくれた席に。あ、また厨房に近い席ね。いつもここ空いてて案内してくれるの。
……あれ? タクミ君?
厨房の方から見えたタクミ君、口、空いてるよ?
「あ、とんかつだ」
「とんかつ?」
「お肉に衣を付けて油で揚げた料理です」
他にもメニューがあって説明をしたけれど、お兄様はとんかつ定食にする事に。私は……と思っていた所でさっき口をあんぐりしていた方が登場。
「こんにちは、タクミ君」
「いらっしゃい」
この人は、と説明する途中で厨房からタクミ君を呼ぶナナミちゃんの声が。忙しそうだったから、お兄様のとんかつ定食と、オムライスを急いで注文して。すぐにタクミ君は戻っていった。
「似てるな」
「彼らのお爺様が異世界人で、しかも同じ故郷出身だったんです」
「なるほどな。日本、だったか」
「そうです。ここで作られてるものは私のいた地球って星にあった料理なんです」
最近、お兄様と喋る時間が増えたので何となくだけどお兄様との会話が攻略できている気がする。今まではすぐに会話終了となってしまっていたけれど、今はちゃんとした言葉のキャッチボールが出来ている……と思う。うん。頑張った、私。
そんな他愛ない話をしていた所で、新しい従業員さんの男性の方が私達の注文した料理を持ってきてくれた。ん~! とっても良い匂い!
お兄様の反応は……うん、いいみたい。サクッ、と音を立てて食べて……あ、気に入ったみたいです。珍しく表情筋仕事しました。ちょっとだけど。
さてさて、私もオムライス冷めないうちに食べなきゃ。
「ん~!」
うまぁ~! うん、最高です。これよこれ、私が求めたはこれよ。最高! 文句なしよ!
そういえば、今日お兄様もお箸を購入したいと言っていたような。私とお母様とお父様が箸で食べている所を何度も見ていたから、今日の馬車の中でそう言っていた。興味ないって思ってたのに、意外だったな。どんな箸が似合うだろう、お兄様。
と考えながら食べていたら、もうお兄様のお皿にはご飯がなくて。すかさず新しい女性の方の従業員さんが、おかわりいかがですか? と来てくれた。まだとんかつは残っているから、頼むとお願いしていて。食べっぷりは流石親子だなって笑ってしまった。
お兄様のごはんを持ってきてくれた従業員のお姉さんは、営業終了まで待っててくれる? とコッソリ言っていて。自己紹介したいから、だそうだ。デザートも頼んでゆっくり食べていれば終わるから、そんなに待つわけじゃないし。それにこの後も何かあるわけではないから、分かりました、と答えた。
あ、デザートはわらび餅にした。お兄様は水まんじゅう。お兄様はあんこがお気に入りらしい。私が頼んだわらび餅も一口あげたら、美味しそうに食べていたけど。やっぱりお兄様は甘党なのね。
食べ終わったお客さんが一組、また一組と帰っていき、やっと私達のみとなった所で営業終了となった。
「お疲れさま」
「ありがとぉ~!」
それでそれで、とニヤニヤしながら私に話しかけてくるナナミちゃん。その人は? と言ってきて。あ、なるほどなるほどそういうやつね。残念でした。違いますよ、全然。
「私のお兄様の、アルフレッドお兄様です」
「……えっ」
そう、素っ頓狂な声を出したのは、ついさっき厨房から出てきたタクミ君だった。ちょっと、ナナミさん? そんな残念な顔しないでくださいます?
ナカムラ兄妹は、貴族スタイルでお兄様にご挨拶をしていて。お兄様もいつも通り返していた。
「それで、こっちの二人は一週間前から入ってくれた新しい従業員です」
男性の方はリカルドさん、女性の方がナオさんというらしい。二人とも、ナカムラ領の領民だそうだ。
「一ついいか」
「はい、どうぞ」
「こいつ、男だから」
……ん?
タクミ君が、親指を指した人物。それは……ナオさん?
え、女性、ですよね?
「ここには女性は一人のみですよ?」
「ほらな」
あー、あー、と声を出してから、どんどん低くなってきて……
「そうでーす!」
あ、男の人の声だ。嘘、そしたら、これ、女装?
「そういう趣味の奴って事だ。勘違いすんなよ?」
「あ、はい、なるほど」
あ、もしかしてこの前カリナと来た時の事根に持ってる感じ? 半分悪ふざけみたいなもんだったんだけど。
てかお兄様、表情筋仕事してない。興味なしですか。……え、気付いてた? 何言ってるんだ、って顔してない? あ、もしかして近衛騎士だから? さすがです、近衛騎士団副団長様。
「あの、どうして?」
「え? 似合うから」
「あ、はい」
後でカリナに教えておこ、この前私達なんて話してしまったんだ。あ、ちょっと待てよ? この人が男性って事は……
「……BL?」
「びーえる?」
「ボーイズラブ、男性同士の恋愛の事」
「ち・が・うっっ!!!」
いや、タクミ君力入りすぎ。でも怒らせちゃってごめんなさい。謝ります。
「私はそれでもいいよ?」
「お前は黙ってろっ!!」
あ、はは。楽しそうで何よりです。
色々と二人の話を聞き、最後にはちゃんとお兄様専用の箸を購入、あとようかんも一緒に買って帰った。
68
お気に入りに追加
2,436
あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!
枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」
そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。
「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」
「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」
外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる