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第五章 恋の行方
◇35 王太子殿下の秘密
しおりを挟む今日、またまた金色の封筒が届いてしまった。私宛に。そして、送ってきた相手は……王太子殿下だ。内容は……
「……来るって」
「え?」
「この屋敷に、明日来るって……」
「えぇえ!?」
と、いう事です。
トリストン王太子殿下が、明日いらっしゃいます。
それからは忙しかった。殿下がいらっしゃるとの事でもう皆大騒ぎ。ただお茶をしたいとだけだったんだけどもう高級なお茶を準備したりお茶菓子を用意したりとで。私も心の準備をしていた。お母様は、あぁ、成程。と悟っていたようで。私も分かってます、絶対陛下と王妃様の仕業でしょ。
そして、次の日。
「……ご機嫌麗しゅう、王太子殿下……」
「お久しぶりでございます、殿下」
「あぁ、元気そうで何よりだ。アヤメ嬢、アドマンス夫人」
殿下が来訪してくるという事でお母様も参戦してくださった。ありがとうございます、お母様。とても心強いです。
殿下は、プレゼントにポプランの花を持ってきてくれた。しかも、切り花じゃなくて鉢に入ったものを。とても親切な方だ。
けどポプランの花って、とっても希少性の高い花じゃ、ありませんでしたっけ。そんな凄いもの、貰っちゃっていいんですか? ま、まぁ、頂いたんだからありがたくお庭に植えさせていただきます。
そして殿下は、とんでもない事を言い出した。
「アヤメ嬢と二人きりで話がしたいのだが、いいだろうか」
……と。
え、私と二人で? 二人きりで、ですか?
つい、顔が強張ってしまった。それに気が付かれてしまった殿下は、クスクスと笑っていて。あ、すみません。
ではこちらへどうぞ、とお庭にご案内した。あぁ、お母様助けて……いや、グッドサインはいりません。貴方なら大丈夫、じゃありません。
「やはり、アドマンス家の庭園は素晴らしいな」
「あ、ありがとうございます。庭師が毎日丹精込めて作ってくれてるんです。あとで伝えておきますね、きっと喜びます」
「あぁ、そうしてくれ」
でも、王城の庭もとても綺麗だと聞いた事がある。私、行った事がないから見た事がないんだけど。だから一度行ってみたいなとは思ってる。
「アヤメ嬢との手紙のやり取り、とても楽しくさせてもらっている」
「あ、はい、そう思っていただけて、光栄です」
「君が始めた事業、【フラワーメール】もとても素晴らしい事業だと感心したよ。その事業のきっかけが私との手紙のやり取りだと聞き、とても嬉しかった」
「あ、ありがとうございます」
いつも手紙を書く時だいぶ緊張して頭を高速回転させているけどね。でも、殿下のお陰で手紙の書き方とか勉強になっています。事業の事も、ありがとうございます。
「それで、だな……実はアヤメ嬢に聞きたい事があってだな……」
「え?」
聞きたい事、ですか……? なんか、言いづらい事みたいだな、目が泳いでるし。え、一体何です……?
「その……アヤメ嬢には好いている人物、はいるだろうか……?」
「……へ?」
す、好いている人物……? え、私が好きな人物って事? え、何でそれ、聞くのです……?
「い、いません」
「そうか……まぁ、こちらに来てまだ日は浅いから仕方ないな……では、私の事はどう思っているだろうか……?」
「あ……えぇと……」
これ、まさか……王妃様から何か言われた感じ? 友人にしたがってたし、お父様が、あわよくばとかって言ってたし。え、待って、私そういうの無理なんですけど……
「その、まだ、お会いして全然日が経っていませんから……」
「そ、そうか……」
え、どうしてそこでホッとしてるんです……?
「その、だな……アヤメ嬢にはまことに申し訳ないのだが……」
と、頬をポリポリかいていて。え、一体何を言い出すのです。この会話の意図が全く分からないのですが。え、怖いんですけど。
「その……母上が君を私の婚約者にしたがっているのだが、私はそうは思ってないのだ」
「え?」
「その……私には想い人がいて、な……」
……あぁ~、そういう事か。読めたぞ。なるほどなるほど。
「だから、母上に何か言われた時には断ってくれると嬉しいのだが、よいだろうか……?」
本当に申し訳ないと思っている、と頭まで下げられてしまって。上げてくださいと慌ててお願いしてしまった。王族の方に頭を下げられてしまうなんて呼吸が止まりますって。誰かに見られたらどうするんですか。お願いです、やめて下さい。
「あの、私もそういった事は考えていませんでしたので、えぇと、その、婚約者とか、今はちょっとよく分からなくて、だから大丈夫です、お断りさせていただきますから」
「本当か! ありがとう、感謝するよ」
おぉ、そこまで言われてしまうとは。でも、すごく嬉しそうだな。
それより、殿下に想い人かぁ。失礼でなければ、どういった方なのかお聞きしてもいいでしょうか? と聞くと、もう嬉しそうに話してくださった。え、殿下ってそういうキャラだったんですか?
その相手は、プリシラ・ホリトン子爵令嬢と言うらしい。しかも、一目惚れ! 彼女のデビュタント、初めての社交界デビューの際挨拶をされた時、心を射抜かれたのだとか。
それからは挨拶しかしたことがなかったらしい。というか、そこまでしか出来なかったらしい。
殿下、可愛いな。27歳だったよね、確か。え、ちょっと殿下、耳赤くなってません!? ご令嬢の話をしただけでそれですか!?
「私、殿下の事応援しますよ! 頑張ってください!」
「ほ、本当か! ありがとう、アヤメ嬢」
「何かございましたら、私、お話をお聞きしますので言って下さい」
「何から何まで、君には頭が上がらないな。ありがとう」
もう、こういう話って結構好きなのよね。だって美味しくない? しかもこの国の次期国王様だよ? もう絶対応援したくなっちゃうよね! ファイトです! 殿下!
では、何かあれば手紙で伝える。そう言い残して殿下は帰っていった。
「あら、アヤメちゃん。何か楽しい事でもあった?」
「え? あぁ、結構話が盛り上がっちゃって」
「へぇ~」
「……いや、そういうのではないですから」
ちょっとお母様、そういう目、しないでくださいませんか。殿下には想い人がいらっしゃるんですよ。
でもこれ、言わない方がいいよね。この国の王太子殿下だもん。だから、内密にしますね。
でも、好いている人物、か……
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