11 / 13
◇11
しおりを挟む団長様の言った通り、会場は通らずすぐに玄関に。そして屋敷を出て待機していた馬車に乗り込んだのだ。
「あの、任務は……」
「あぁ、無事完了したから安心してくれ。後処理は他の団員達が行うから、私達はこのまま屋敷に戻ろう」
そ、そっか……あの商人は無事捕まったのか。それはよかった。さすが、近衛騎士団だ。私達なんかより、断然優秀な人達。
何だか、こう実力を見せつけられると自分がいかに未熟なのか思い知らされてしまう。騎士として入団した時から、憧れの存在だった。団長様は厳しくて怖い人だからと言われてたけど、それでも入れたらいいなぁ、と思ってはいた。まぁ無理だとは分かっていたけれど。
だから余計、自分がこの程度の力しかない騎士なんだと痛感させらされた。
気落ちしていたその時、目の前の団長様がこちらへ迫ってきていることに気が付いた。両足を、団長様の両足で挟まれ、両手を私の背にある壁に付き顔が接近していて。
「で、あの男は?」
「あっ……」
「開けたのか、私の言いつけを守らず」
「あっちっ違います! 私は開けてませんっ! その、何故か勝手に入ってきて……」
「勝手に?」
団長様の、鋭い視線が、怖い。
「ちゃんと鍵は閉めました。本当です。確認は出来ていませんが、もしかしたら鍵を持っていたのかもしれません……!」
「……」
そう言うと、目の前の彼は黙り込んでしまった。視線が合わせられず、下を向いてしまう。けれど、顎を掴まれ前を向かされる。団長様と視線がぶつかった。
「あの男に、触れられたか」
「えっ……」
「答えろ」
鋭い言葉に、怯えてしまいそうになる。団長様は、怒ってるのだろうか。じゃあ、何に?
「か、仮面と、腕には、触れられてしまいましたが、他は触れられていません……」
「……それほど、近くに寄られたのか」
「っ……」
いきなり、キスをされた。けれど、いつものような優しいキスではない。乱暴な、まるでこのまま喰われてしまうのではないかと思わせるようなキス。
でも、不思議と怖くない。むしろ、欲しがってしまいそうになる。相手が団長様だから? 分からない。けど、私の方から欲してしまう。
どれくらい経っただろか。ようやく離してもらえた時には、もう腰が砕けてしまっていた。それなのに、またキスを再開してくる。頭がくらくらしてきて、飲んでないはずなのに、軽く酔ってしまったかのような気分になる。
気が付けば、馬車は止まっていた。団長様に抱き上げられ、そのまま馬車から降りたのだ。辿り着いていた団長様の屋敷に入った。
こんなに人目のあるところで横抱きにされるなんて、普通だったらすごく恥ずかしがる場面のはず。だけど今の私にはそんな余裕なんてなかった。
辿り着いた部屋には、大きなベッドがあって。そこに、降ろされた。けど、私は力いっぱいに待ったをかけた。
「あのっ団……リアムっ!」
「……」
私に覆いかぶさってきそうになっていた団長様を止めた。上半身を頑張って起こしてから団長様の肩を抑えたのだ。
「あのっ、懐中時計っ!」
「あぁ、あれか」
止めたはいいものの何と言えばいいのか、と戸惑いつつその単語が口から出てきた。
でも、あれって言った? なくした事には気付いていただろうけど、私が持っていること、知ってたの!?
「わ、忘れ物を、お、お返し、したくて……」
「それは君のものだ。返す必要はない」
えっ、私の? どういう事か聞きたかったけれど、キスをされてしまって。
「知らなかったようだが、さっき聞いただろう」
「っ!?」
貴方を想っていますという、言葉を表しているっていう……
じゃあ、団長様が、私を……?
「まだ分からないか? そこまで鈍感だったとは思わなかった」
「ぁ……」
「私は、君を好いているんだ」
今、団長様は何と言ったのだろう。
私を、好いている? 好いている、なんて言葉をどうして私に向かって言っているの? この私に。
そんな、愛おしいものを見るような視線で、こちらを見てくるの?
おかしい、そんなの、おかしい。
「わ、私は、騎士です……!」
そう、私は騎士なんだ。
「例え貴族の娘であっても、ドレスではなく制服を着て、日頃から剣を持ち、訓練もして、日焼けもしていて……可愛らしいご令嬢達とはかけ離れた存在です……だから、やめた方がいいと思います……!」
そう、私はあのご令嬢達と全く違う。
「そんな君の事を好きになった事はいけない事ではないだろう。私は、か弱く誰かに頼る事しか出来ないご令嬢より、騎士の誇りを持ち己を守れる強さを兼ね備えた凛々しいご令嬢の方が実に魅力的に見える」
団長様のその言葉に、戸惑いを隠せなかった。そんな事を言われた事なんて一度もない。この関係はただの興味本位で続いているだけ、そう思っていたのに……
「最初の出会いのせいで混乱させてしまっただろうが、私は最初からそのつもりだ」
私の両頬を手で包み、キスを一つしてきた。少し触れるだけの、甘いキス。
「もっと自分のそばにいてほしい、私の事を好きになってほしい、その視線を、私だけに向けてほしい、そんな事ばかりを考えてしまっているんだ。今回は君と一緒にいたくて、違う姿も見てみたいという下心で利用してしまったんだ。正直自分でも驚いている」
あの、冷徹と言われた団長様が、公私混同を……下心だなんて言葉を口にしたことに驚きが隠せない。
「君が私をお受け入れてくれるのであれば、大切に、幸せに、ずっと笑っていられるよう最善を尽くそう。だから、この手を取ってくれないか」
私の前に差し出された、団長様の大きな手。これまで、何度も何度も私に触れてきた手だ。
私は、この手を取りたいという思いと、こんな私がおこがましいのではという思いの二つで迷ってしまった。
大切にしてくれる。幸せにしてくれる。笑っていられるようにしてくれる。
でも、私は団長様の前で笑った事は恐らくない。驚き、戸惑い、困惑。そればかりだった。私は、団長様の前でどう笑えばいいんだろうか。
「……やはり、すぐには難しいか」
「……」
「だが、焦らせる気はない。君からいい返事がもらえるよう努力もするつもりだ。だから、そのつもりでいてくれ」
そう言って、キスをしてきた。
私は、どうしたらいいんだろう。
その日は、女子寮には戻らずここに泊まらせてもらう事になった。団長様の寝室に呼ばれてしまったけれど、無理をさせてしまってすまなかったなと謝られて、ぎゅっと抱きしめられながらの就寝となったのだ。
163
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
【コミカライズ決定】無敵のシスコン三兄弟は、断罪を力技で回避する。
櫻野くるみ
恋愛
地味な侯爵令嬢のエミリーには、「麗しのシスコン三兄弟」と呼ばれる兄たちと弟がいる。
才能溢れる彼らがエミリーを溺愛していることは有名なのにも関わらず、エミリーのポンコツ婚約者は夜会で婚約破棄と断罪を目論む……。
敵にもならないポンコツな婚約者相手に、力技であっという間に断罪を回避した上、断罪返しまで行い、重すぎる溺愛を見せつける三兄弟のお話。
新たな婚約者候補も…。
ざまぁは少しだけです。
短編
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる