無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜

楠ノ木雫

文字の大きさ
上 下
8 / 13

◇8

しおりを挟む
 任務で向かう事となっている仮面パーティーの会場となるお屋敷は、首都から少し外れたところにあった。そのお屋敷の持ち主とは違った人物が主催しているのだとか。仮面を付けているのだから、身分などは明かさずにただパーティーを楽しむ。それがこのパーティーの趣旨だそうだ。

 ……それで、さ。

 何で私、知らない家のお風呂に入れられちゃってるんだろう。


「マーフィス卿、行くぞ」


 なんて事を早朝に近衛騎士団団長様に言われ、馬車に突っ込まれ、そしてロドリエス侯爵家、団長様の屋敷に誘拐されてしまったのだ。

 何が何だか分からず……


「やれ」

「かしこまりました!」


 出てきたメイド達の言いなりとなってこうなった。ちなみに言うと、めっちゃいいお風呂。実家の屋敷よりもめっちゃいいお風呂。まぁ、上位貴族である侯爵家と違ってうちは下位貴族の中でも一番下の貴族だし当たり前か。

 そもそも、こんな大きな屋敷にお邪魔した事すらなかった。だからどうしたらいいか全く分からない。ただ大人しく言われる事聞いていればいいのだろうか。

 これから私は任務だ。近衛騎士団に同行するあの任務。だからこれから仮面パーティーに参加するのだけれど……あぁ、ただの騎士にしか見えないからちゃんと女性に見える様に何とかしろという事か。お風呂に入れられてるって事は、私土臭いって事? すみませんね、生まれてこの方デビュタントに出ただけで他はずっと剣を握ってきたものですから。

 ご令嬢と違って鍛えているから筋肉も付いてるし、野外が多いから肌も焼けてるし。とはいえ、四六時中長袖だから顔だけだけれど。でも、手だってボロボロだ。まぁ、ご令嬢にあるまじきことではあるが、そんな道を選んだのは私だ。だから問題ない。

 なんて思いつつ、貰った紅茶を頂き、マッサージまでしてもらいと何とも極楽な時間を過ごさせてもらってしまった。そして……


「……マジか」

「お客様は細くて背が高くいらっしゃいますからね」

「騎士でいるのが勿体ないくらいですわ!」


 大きな鏡の前には、信じられないくらいのちゃんとしたご令嬢が立っていた。そう、ちゃんとしたご令嬢。数日前に近衛騎士団持ちで購入してもらったドレスもちゃんと着せてもらったけど……私もちゃんとご令嬢になれたのね。

 団長様が選んでくださったこのドレス。青のドレスに、金色の刺繍が施されている。スカートは、白い生地に、青い生地が何枚も重なっている。手はボロボロでタコだらけだけど手袋を用意してくださったから隠せている。

 こんなドレス、きっと重いだろうな、って思っていたけれどそれほどではなかった。肩は出ているけれどちゃんと肩紐が付いているから、もし走ったりしても大丈夫だと思う。

 でも、これでは何かあった時逃げづらいのでは?


「……剣、は……駄目か」


 なんて事を呟きつつ鏡の前で後ろを見たりしていたら、部屋に入ってきた人物が一人。そう、この屋敷の主である団長様だった。私と目が合った瞬間、口を少し開けて目を見開いていた。

 けれど、少し微笑み私の元へ近づいてきて。そして、両手を取られてしまった。


「これにしてよかった。よく似合ってる」


 よく似合ってる、だなんて……そんな事を言われた事があるのは両親くらいだ。王宮騎士団に入れて制服を着た時に言われたくらい。

 でも、顔が熱くなってしまって、きっと手袋ごしでも今握られてる手も熱くなってしまってる。


「……これでは剣を持てません」

「だがナイフくらいは隠せる」

「……」


 何も言えなくなり、咄嗟にそう言ってしまった。こんなの、普通の令嬢だったら言わない。

 本当に、私は普通の令嬢とは違う。残念な女、と言われても何も言えない。


「普段の騎士団の制服もよく似合ってるが、ドレス姿もいいものだな。今日のテレシアも綺麗だ」

「っ!?」


 こんな事言われたら……期待してしまいますよ、リアム。


「……そろそろ、向かいましょうか」

「あぁ。だがもう一つ忘れものだ」


 そう言いつつ、懐から何かを取り出した団長様。私を鏡の方に向かせて後ろに立つと……


「これで完璧だ」


 私の首元に、キラキラ光るネックレスが付けられた。とても綺麗な、スカイブルーの宝石の付いた、ネックレス。

 まるで、団長様の瞳のような、綺麗な宝石。

 つい、一緒に映る団長様を鏡ごしに見つめてしまった。何か言いたくても言えなくて。でもそんな私の心境を汲み取ったのかまた少し微笑んできた。


「さぁ、行こうか、レディ」

「あっ……」


 そう言って手を引かれてしまったのだ。

 というか……え、私のパートナーって団長様なの!? なんて言う私の心の叫びに気が付いた団長様は……目を光らせていたような、ないような。

 もう何も言えなくなってしまい、大人しく団長様と一緒に馬車に乗る事となってしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

Mee.
恋愛
 王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。  森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。  オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。  行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。  そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。 ※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。

強面な騎士の彼は、わたしを番と言い張ります

絹乃
恋愛
わたしのことを「俺の番だ」「運命の相手だ」という大人な彼は、強面でとても怖いんです。助けて、逃げられないの。

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

無能だと捨てられた王子を押し付けられた結果、溺愛されてます

佐崎咲
恋愛
「殿下にはもっとふさわしい人がいると思うんです。私は殿下の婚約者を辞退させていただきますわ」 いきなりそんなことを言い出したのは、私の姉ジュリエンヌ。 第二王子ウォルス殿下と私の婚約話が持ち上がったとき、お姉様は王家に嫁ぐのに相応しいのは自分だと父にねだりその座を勝ち取ったのに。 ウォルス殿下は穏やかで王位継承権を争うことを望んでいないと知り、他国の王太子に鞍替えしたのだ。 だが当人であるウォルス殿下は、淡々と受け入れてしまう。 それどころか、お姉様の代わりに婚約者となった私には、これまでとは打って変わって毎日花束を届けてくれ、ドレスをプレゼントしてくれる。   私は姉のやらかしにひたすら申し訳ないと思うばかりなのに、何やら殿下は生き生きとして見えて―― ========= お姉様のスピンオフ始めました。 「国を追い出された悪女は、隣国を立て直す」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/465693299/193448482   ※無断転載・複写はお断りいたします。

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。 キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。 その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。 ※ざまあの回には★がついています。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

処理中です...