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どうすんじゃいこれ!
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俺は今、窮地に立たされている。
「これまで、エバンス男爵令嬢にしてきた悪事。どうお考えですか」
あーマジかー、これってあれだろ? 女性向け漫画とかでよくある断罪シーンってやつ。
確かこれ、姉ちゃんがめっちゃハマってたゲームだよな。俺に何回も話してきたから覚えてる。さすがに俺男だからゲームをやれとは言ってこなかったけどさ。
ここは、とある国の学園卒業パーティーだ。このタイミングで、俺はこのキャラクターに乗り移ったって所か? てか、これって……
「殿下」
そう、不運な事に俺は今この国の皇太子に乗り移ってしまったのだ。そこに立つエレノア・テイラー公爵令嬢の婚約者である。そう、俺の立ち位置はそこなのだ。
テイラー公爵令嬢との婚約を破棄しこの俺の隣にいる、ポピー・エバンズ男爵令嬢を次の婚約者にしようとしているこの人物。
あ~まじか~俺今めっちゃ危うい状況じゃん。だってこの後の展開知ってるもん。姉ちゃんがビール飲んで酔っ払いながら何度も何度も嫌っちゅう程聞かされたからな。この皇太子だってボロクソ言ってたし。え、何そのアホ皇太子。頭ポンコツか? そう俺だって思ったし。
さ~てさて、これどうするんだ? え、何? 破棄する~とかって言わなきゃ駄目? でもエレノアちゃん(姉ちゃんがそう呼んでた)可愛いしクール美人でかっけぇからそんなの言いたくないんだけど。ほら、この状況に至ってもあんなに凜と立ってられるなんてやっぱりすげぇよな。マジで惚れそう。
さっきから俺の隣にいる秘書(なる予定)がこれまでの学園での悪事をつらつらと述べてるんだけどさ、でも俺この後馬鹿皇太子って言う称号貰っちゃうし、皇太子の座降ろされて第二皇子が後継者になるって未来が待ってるわけだ。
まぁ、皇帝に何てなりたくないしその点に関しては万々歳なんだけど。
ん”~、これはどうしたものか。
学園内でのいじめ、男爵令嬢に届くはずの招待状が届かない、私物が無くなったり壊されたりだとか何だとかって言ってるけどさ、俺それ知ってるんだよなぁ。全部嘘だって。
「以上の事から、テイラー公爵令嬢には皇太子殿下の婚約者にふさわしくないとみなし、婚約破……」
「そういえば、エバンズ嬢」
俺が口を挟んだ。その言葉に、周り全員が目を見張る。そう、俺は『エバンズ嬢』と言ったからだ。これまで、彼女に対して俺(正確にはこの皇太子)は『ポピー』と、名前で呼んでいた。それを今俺は他人行儀にファミリーネームで呼んだのだ。
「今回の学園卒業試験、君は何位だったか」
「で、殿下……?」
困惑しているようだ。彼女も、周りにいる俺の連れ(?)も。
「に、237位、です」
「そうか、あぁそうだったな。600人いる中で237位。まぁちょっと上の方か」
まぁ、テスト前に俺らが教えたからな。あ、因みに皇太子は主席だからな。そりゃもう猛勉強してましたよ。皇太子とあって小さい頃から勉強ばかりさせられて頭に叩き込まれてましたから。それと、あとはこの皇族の血ってやつ? いや~優秀ですな。
「俺はこれから学園を卒業し、本格的に皇太子として動き出す事になる。それと同時に、婚約者も毎日宮廷に通い本格的な妃教育を受ける事になり、近々皇太子妃になる予定だ。それまでに、令嬢は全て身に付けられるか?」
「えっ……」
「皇太子妃になるという事は、将来皇妃になるという事。皇妃とは、皇帝を支え国民に手を差し伸べる存在だ。完璧な皇妃でないと、その使命を果たす事は出来ない」
「が、頑張ります! 殿下の為なら、私は……」
「ほぅ、そこまで意気込んでくれるのか。ーーテイラー公爵令嬢」
「は、はい、殿下」
「令嬢は、確か学年2位だったかな」
「は、はい」
「妃教育は、6歳からだったか。10年間以上受けてきたという事だ」
いや~小さい頃からお疲れ様です。もう頑張っちゃってマジ可愛いよな。姉ちゃんも言ってたわ、断罪で追放なんて可哀想だってな。俺もそう思ったよ。
「そんなテイラー嬢よりも上に行けると思うか?」
「ッ……」
「少なくとも、婚約者がいる男にずっとくっついて回る所からして、貴族としての教育がなっていないようだが」
彼女は、婚約者のいる俺は勿論、俺が連れて回っていた階級の高い子息達とも長い時間交流していた。さぞかし、相手側の婚約者達は不安がった事だろう。
いやぁ、すっごく悔しそうだな。滑稽滑稽。あ、でもちょっと言い過ぎたか? でもこれくらい言わなきゃな。俺のこれからの未来がかかってるんだ。
「でっですがっ!! 私と違ってエレノアさんは悪質な行動をする方です!!」
「そうか、そうだな……だが、確かな証拠はあっただろうか」
今までの悪事を調べ上げたレオ君は黙り込んだ。ま、調べるのであればもっと完璧にしないとこうなってしまうのだよ。てか、未来の秘書君よ、大丈夫か? こいつに任せて。
「テイラー公爵令嬢、弁解の余地はあるか」
「えっ……」
「自分の意見をはっきりと告げる事はとても大切な事だ。君も、それはよく分かってると思うんだが」
「殿下……はい。私、エレノア・テイラーは、デイバー侯爵子息が先程おっしゃった事は一つもしていません。誓います」
「だ、そうだ」
周りは、そのはっきりとしたその一言でより一層騒めき出す。きっと、その中にはこの事を知っている者達もいるだろう。複数な。言いたくても言えなかった、そういう者達だろう。
「う、嘘よっ!! あ、あれはほんとの事ですもの!! 殿下、私の事、信じてくださいますよね!!」
がっしりと俺の腕を掴んでそう言ってくるが、そう言われてもなぁ。知ってるし、俺。
「ならここで、その場での事を事細かに証言してみるといい。そうだな、あのお茶会の事でいいぞ」
「っ……」
あのお茶会。その日は、周りの者達にいくつもの罵声をかけられたと聞いた。馬鹿にされて俺らの所に飛び込んできたのだ。何だ何だと分からなかったが、それは全部嘘。逆だった。
この場で、本当の事が言えるだろうか。お茶会で参加している人物達は、そんな事言ってもいないのだから。しかも、この人数。学園生徒全員がここに集まっている。
「……」
「さて、これでは少なくとも未来の皇妃は務まらないだろう」
「でっ、ですがっ」
いや、絶対無理だろこいつは。周りの奴らを振り回して、皇子まで徹夜させて自分は訳も分からずサインだけする。そんな事になってしまうのだから。これでは、領地管理すらままならん。一体どんな教育をしてきたんだ?
「という事で、エレノア・テイラー令嬢、これからも頼むぞ」
「はい……!」
「でっ殿下っ!!」
周りが盛大な拍手を送る中、隣の男爵令嬢は騒ぎ出す。周りのレオ君達は黙り込んで静かだ。これ、どうすんだ?
「あぁそうだ、エバンズ嬢。あとで君の父上、男爵に伝えておいてくれ。近い内に、監査官を送るからよろしくな、と」
「え……監査官、ですか……?」
あぁ、この子は知らないのか。ま、当然だろうな。エバンズ男爵家は商人として成り立っている。そして、実は密輸売買もしているのだ。それはーー奴隷。
奴隷売買はこの国では禁止している。その罪は重罪である。ゲームでは、皇太子妃になった後それが発覚しエバンズ嬢は牢屋入りとなったのだ。
奴隷なんて絶対ダメなんだよ? てかそれ知ってて買う人とか馬鹿じゃないの? 駄目だって言ってるのにさぁ。阿保かよ。
「さてと、騒がしくしてしまって悪かったな。これは我々卒業生の為のパーティーだ、まだ始まったばかりだから皆楽しんでくれ」
エバンズ嬢は、早く帰った方がいいぞ。そう言い残し婚約者(復活)の元へ。いや、これ俺踊ってやらなきゃ駄目な展開だろ。だって、初っ端に始まるダンスは一番位が高い者達が踊ってから始まるんだから。
……まぁ、いけるだろ。だって俺今皇子に乗り移ってんだから。性格以外はこいつ優秀だし。最強だし。性格さえよければな。身体が覚えてんだろ、大丈夫大丈夫。
「殿下」
「踊って頂けますか、俺の婚約者殿」
いや~マジこの人美人だよな。さっきも一人堂々として立ってたしさ。さすが公爵令嬢だ。ダンスも綺麗だし。お陰で助かったよ。
よし、これで俺は任務完了。阿保ポンコツ皇太子の称号もなし!
「で、殿下……ありがとうございました」
「え?」
やる事やったし逃げようかと思ったのに、逃がしてもらえなかった。テイラー令嬢によって。俺もう早く帰りたいんだけど、やった事もない事頑張ってやってもう疲れたんだから。ねぇ。
「私に、機会を与えて下さって。それと……私、感動いたしました。エバンズ男爵での件、監査官を向かわせるという事は、男爵家内で何か問題が起きたのでしょう。もしかして、エバンズ嬢に近づいたのは情報を集める為でしょうか。ですが私、全く知らず……気付く事さえできませんでした。これから皇太子妃となるのに、これでは殿下をお支え出来ません。ですから、これからはより一層婚約者としての務めを果たして見せます」
「え、ちょ……」
「それと、私、勘違いしていたみたいで……殿下の本心に気付けなくて……ですが、こんな素晴らしい方の婚約者になれて、将来結婚してくださるなんて、私、本当に幸せ者です……! これまで、沢山の方にお褒めの言葉を頂きましたが、つい先程の殿下のお言葉が、とても、とても嬉しく思えました。ありがとうございました……!」
「……」
わぁお、ここまで言われるとは思わず固まってしまったけど、これは誤解がありすぎるぞ。俺このゲームの事知ってただけだし、この皇太子はそんなこと微塵も思ってなかったぞ。素晴らしくも何ともない、ただの馬鹿だ。
こいつと結婚だなんて、苦労の連発だらけだ。てかそれよりテイラー嬢ってこんなキャラだったか? クール美人なテイラー嬢はどこ行った? これじゃあちょっと照れ屋な乙女じゃないか。そんな顔と仕草を今俺の目の前でしてるんだが、俺はどうしたらいい? 大丈夫か、戻ってこい、いつものテイラー嬢さんよ。
「そ、それで、殿下……あ、明日、お時間頂けないでしょうか」
「……あ、明日?」
めっちゃもじもじしてんな。調子狂うんだが。
「お茶を、一緒に頂きたいのですが……」
「……」
これ、どしたら、いい……?
「もっ申し訳ありません! お忙しいのに、私ったら……」
浮かれてしまって……と何だか垂らしたわんこの耳が見える。幻覚か?
「あ、まぁ、時間空けておきます、ので」
「本当ですか!」
うわぁ、めっちゃ喜んでるぞ。周りに花が沢山咲いてるぞ。ギャップが激しすぎて付いていけてない。
かくして、俺の皇太子ライフが幕を開けたのである。不安ありありの、勘違いされまくりなセカンドライフ(?)が。
「これまで、エバンス男爵令嬢にしてきた悪事。どうお考えですか」
あーマジかー、これってあれだろ? 女性向け漫画とかでよくある断罪シーンってやつ。
確かこれ、姉ちゃんがめっちゃハマってたゲームだよな。俺に何回も話してきたから覚えてる。さすがに俺男だからゲームをやれとは言ってこなかったけどさ。
ここは、とある国の学園卒業パーティーだ。このタイミングで、俺はこのキャラクターに乗り移ったって所か? てか、これって……
「殿下」
そう、不運な事に俺は今この国の皇太子に乗り移ってしまったのだ。そこに立つエレノア・テイラー公爵令嬢の婚約者である。そう、俺の立ち位置はそこなのだ。
テイラー公爵令嬢との婚約を破棄しこの俺の隣にいる、ポピー・エバンズ男爵令嬢を次の婚約者にしようとしているこの人物。
あ~まじか~俺今めっちゃ危うい状況じゃん。だってこの後の展開知ってるもん。姉ちゃんがビール飲んで酔っ払いながら何度も何度も嫌っちゅう程聞かされたからな。この皇太子だってボロクソ言ってたし。え、何そのアホ皇太子。頭ポンコツか? そう俺だって思ったし。
さ~てさて、これどうするんだ? え、何? 破棄する~とかって言わなきゃ駄目? でもエレノアちゃん(姉ちゃんがそう呼んでた)可愛いしクール美人でかっけぇからそんなの言いたくないんだけど。ほら、この状況に至ってもあんなに凜と立ってられるなんてやっぱりすげぇよな。マジで惚れそう。
さっきから俺の隣にいる秘書(なる予定)がこれまでの学園での悪事をつらつらと述べてるんだけどさ、でも俺この後馬鹿皇太子って言う称号貰っちゃうし、皇太子の座降ろされて第二皇子が後継者になるって未来が待ってるわけだ。
まぁ、皇帝に何てなりたくないしその点に関しては万々歳なんだけど。
ん”~、これはどうしたものか。
学園内でのいじめ、男爵令嬢に届くはずの招待状が届かない、私物が無くなったり壊されたりだとか何だとかって言ってるけどさ、俺それ知ってるんだよなぁ。全部嘘だって。
「以上の事から、テイラー公爵令嬢には皇太子殿下の婚約者にふさわしくないとみなし、婚約破……」
「そういえば、エバンズ嬢」
俺が口を挟んだ。その言葉に、周り全員が目を見張る。そう、俺は『エバンズ嬢』と言ったからだ。これまで、彼女に対して俺(正確にはこの皇太子)は『ポピー』と、名前で呼んでいた。それを今俺は他人行儀にファミリーネームで呼んだのだ。
「今回の学園卒業試験、君は何位だったか」
「で、殿下……?」
困惑しているようだ。彼女も、周りにいる俺の連れ(?)も。
「に、237位、です」
「そうか、あぁそうだったな。600人いる中で237位。まぁちょっと上の方か」
まぁ、テスト前に俺らが教えたからな。あ、因みに皇太子は主席だからな。そりゃもう猛勉強してましたよ。皇太子とあって小さい頃から勉強ばかりさせられて頭に叩き込まれてましたから。それと、あとはこの皇族の血ってやつ? いや~優秀ですな。
「俺はこれから学園を卒業し、本格的に皇太子として動き出す事になる。それと同時に、婚約者も毎日宮廷に通い本格的な妃教育を受ける事になり、近々皇太子妃になる予定だ。それまでに、令嬢は全て身に付けられるか?」
「えっ……」
「皇太子妃になるという事は、将来皇妃になるという事。皇妃とは、皇帝を支え国民に手を差し伸べる存在だ。完璧な皇妃でないと、その使命を果たす事は出来ない」
「が、頑張ります! 殿下の為なら、私は……」
「ほぅ、そこまで意気込んでくれるのか。ーーテイラー公爵令嬢」
「は、はい、殿下」
「令嬢は、確か学年2位だったかな」
「は、はい」
「妃教育は、6歳からだったか。10年間以上受けてきたという事だ」
いや~小さい頃からお疲れ様です。もう頑張っちゃってマジ可愛いよな。姉ちゃんも言ってたわ、断罪で追放なんて可哀想だってな。俺もそう思ったよ。
「そんなテイラー嬢よりも上に行けると思うか?」
「ッ……」
「少なくとも、婚約者がいる男にずっとくっついて回る所からして、貴族としての教育がなっていないようだが」
彼女は、婚約者のいる俺は勿論、俺が連れて回っていた階級の高い子息達とも長い時間交流していた。さぞかし、相手側の婚約者達は不安がった事だろう。
いやぁ、すっごく悔しそうだな。滑稽滑稽。あ、でもちょっと言い過ぎたか? でもこれくらい言わなきゃな。俺のこれからの未来がかかってるんだ。
「でっですがっ!! 私と違ってエレノアさんは悪質な行動をする方です!!」
「そうか、そうだな……だが、確かな証拠はあっただろうか」
今までの悪事を調べ上げたレオ君は黙り込んだ。ま、調べるのであればもっと完璧にしないとこうなってしまうのだよ。てか、未来の秘書君よ、大丈夫か? こいつに任せて。
「テイラー公爵令嬢、弁解の余地はあるか」
「えっ……」
「自分の意見をはっきりと告げる事はとても大切な事だ。君も、それはよく分かってると思うんだが」
「殿下……はい。私、エレノア・テイラーは、デイバー侯爵子息が先程おっしゃった事は一つもしていません。誓います」
「だ、そうだ」
周りは、そのはっきりとしたその一言でより一層騒めき出す。きっと、その中にはこの事を知っている者達もいるだろう。複数な。言いたくても言えなかった、そういう者達だろう。
「う、嘘よっ!! あ、あれはほんとの事ですもの!! 殿下、私の事、信じてくださいますよね!!」
がっしりと俺の腕を掴んでそう言ってくるが、そう言われてもなぁ。知ってるし、俺。
「ならここで、その場での事を事細かに証言してみるといい。そうだな、あのお茶会の事でいいぞ」
「っ……」
あのお茶会。その日は、周りの者達にいくつもの罵声をかけられたと聞いた。馬鹿にされて俺らの所に飛び込んできたのだ。何だ何だと分からなかったが、それは全部嘘。逆だった。
この場で、本当の事が言えるだろうか。お茶会で参加している人物達は、そんな事言ってもいないのだから。しかも、この人数。学園生徒全員がここに集まっている。
「……」
「さて、これでは少なくとも未来の皇妃は務まらないだろう」
「でっ、ですがっ」
いや、絶対無理だろこいつは。周りの奴らを振り回して、皇子まで徹夜させて自分は訳も分からずサインだけする。そんな事になってしまうのだから。これでは、領地管理すらままならん。一体どんな教育をしてきたんだ?
「という事で、エレノア・テイラー令嬢、これからも頼むぞ」
「はい……!」
「でっ殿下っ!!」
周りが盛大な拍手を送る中、隣の男爵令嬢は騒ぎ出す。周りのレオ君達は黙り込んで静かだ。これ、どうすんだ?
「あぁそうだ、エバンズ嬢。あとで君の父上、男爵に伝えておいてくれ。近い内に、監査官を送るからよろしくな、と」
「え……監査官、ですか……?」
あぁ、この子は知らないのか。ま、当然だろうな。エバンズ男爵家は商人として成り立っている。そして、実は密輸売買もしているのだ。それはーー奴隷。
奴隷売買はこの国では禁止している。その罪は重罪である。ゲームでは、皇太子妃になった後それが発覚しエバンズ嬢は牢屋入りとなったのだ。
奴隷なんて絶対ダメなんだよ? てかそれ知ってて買う人とか馬鹿じゃないの? 駄目だって言ってるのにさぁ。阿保かよ。
「さてと、騒がしくしてしまって悪かったな。これは我々卒業生の為のパーティーだ、まだ始まったばかりだから皆楽しんでくれ」
エバンズ嬢は、早く帰った方がいいぞ。そう言い残し婚約者(復活)の元へ。いや、これ俺踊ってやらなきゃ駄目な展開だろ。だって、初っ端に始まるダンスは一番位が高い者達が踊ってから始まるんだから。
……まぁ、いけるだろ。だって俺今皇子に乗り移ってんだから。性格以外はこいつ優秀だし。最強だし。性格さえよければな。身体が覚えてんだろ、大丈夫大丈夫。
「殿下」
「踊って頂けますか、俺の婚約者殿」
いや~マジこの人美人だよな。さっきも一人堂々として立ってたしさ。さすが公爵令嬢だ。ダンスも綺麗だし。お陰で助かったよ。
よし、これで俺は任務完了。阿保ポンコツ皇太子の称号もなし!
「で、殿下……ありがとうございました」
「え?」
やる事やったし逃げようかと思ったのに、逃がしてもらえなかった。テイラー令嬢によって。俺もう早く帰りたいんだけど、やった事もない事頑張ってやってもう疲れたんだから。ねぇ。
「私に、機会を与えて下さって。それと……私、感動いたしました。エバンズ男爵での件、監査官を向かわせるという事は、男爵家内で何か問題が起きたのでしょう。もしかして、エバンズ嬢に近づいたのは情報を集める為でしょうか。ですが私、全く知らず……気付く事さえできませんでした。これから皇太子妃となるのに、これでは殿下をお支え出来ません。ですから、これからはより一層婚約者としての務めを果たして見せます」
「え、ちょ……」
「それと、私、勘違いしていたみたいで……殿下の本心に気付けなくて……ですが、こんな素晴らしい方の婚約者になれて、将来結婚してくださるなんて、私、本当に幸せ者です……! これまで、沢山の方にお褒めの言葉を頂きましたが、つい先程の殿下のお言葉が、とても、とても嬉しく思えました。ありがとうございました……!」
「……」
わぁお、ここまで言われるとは思わず固まってしまったけど、これは誤解がありすぎるぞ。俺このゲームの事知ってただけだし、この皇太子はそんなこと微塵も思ってなかったぞ。素晴らしくも何ともない、ただの馬鹿だ。
こいつと結婚だなんて、苦労の連発だらけだ。てかそれよりテイラー嬢ってこんなキャラだったか? クール美人なテイラー嬢はどこ行った? これじゃあちょっと照れ屋な乙女じゃないか。そんな顔と仕草を今俺の目の前でしてるんだが、俺はどうしたらいい? 大丈夫か、戻ってこい、いつものテイラー嬢さんよ。
「そ、それで、殿下……あ、明日、お時間頂けないでしょうか」
「……あ、明日?」
めっちゃもじもじしてんな。調子狂うんだが。
「お茶を、一緒に頂きたいのですが……」
「……」
これ、どしたら、いい……?
「もっ申し訳ありません! お忙しいのに、私ったら……」
浮かれてしまって……と何だか垂らしたわんこの耳が見える。幻覚か?
「あ、まぁ、時間空けておきます、ので」
「本当ですか!」
うわぁ、めっちゃ喜んでるぞ。周りに花が沢山咲いてるぞ。ギャップが激しすぎて付いていけてない。
かくして、俺の皇太子ライフが幕を開けたのである。不安ありありの、勘違いされまくりなセカンドライフ(?)が。
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