大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫

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■108 大賢者様

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 悪魔は余裕がなくなり結界を解いてしまい、私は見事悪魔を気絶させ捕まえることが出来た。『多重聖白結壁』が解除された時には第一騎士団の方々がアズライトに剣を向けていた所が見えたため、ストップをかけた。


「ありがとうございました」

「……いや」

 
 彼のお陰で、この悪魔から皆を解放出来た。一番の功労者だ。

 この場合どうしたらいいのだろうかと困っていたら、そんな私の心境を察してくれた第一騎士団長がこの者を牢に入れておきますと言ってくれて。あまり乱暴にしないでくださいねと言っておいた。


「お師匠様の最期は、君が看取ってくれたんだな」

「あぁ、そうですよ」

「そうか」


 彼が、ついさっきまで使っていた杖を渡してきた。

 君が預かっていてくれ、と。

 彼は、この杖で何をしてきたのか。どんな事をして、どんな人達を助けてきたか。私は分からないけれど、それでも、この杖はきっと彼にとってとても大切なものなのだろう。そして、これからも必要なものだから。

 周りは、もう参加者達は気が付いたらしい。騎士団達が宮廷医師達を連れてきて診ていた。


「外傷などでしょうか」

「いえ、一度魂が出ていますので……」


 魂が出てる、その言葉に周りの人達が顎が外れそうなくらい口を開けていて。あ、これはちゃんと説明したほうが良かったな、と反省した。



「あら? 終結しちゃった?」



 透き通った女性の声が、この場所の頭上から響いてきた。そして静かに、降りてきたのだ。そう、上から降りてきた。

 水色の髪、金色の瞳、そして……手の甲に金色の刻印。


「だ、だ、だ、大賢者、さま……?」

「あら? かっわいい子がいるじゃな~い♪」


 タタタッと私に掛けより抱き着いてきた……大賢者様……?


「あっ、挨拶よね。ルリティア・ミル・スーザン・トワレ。隣国のスピネル帝国の使節団として明日来日する予定だったのだけれど……嫌な予感がして来ちゃった♪」


 あ、あぁ、はい。そうです、か……ん? ルリティア・ミル・スーザン・トワレ、って、言ったら……スピネル帝国の、上皇后様ぁ!? あ、あぁそっか、スピネル帝国の上皇后様は大賢者様って聞いてたな。


「もっ申し訳ございません!! わ、私、えぇと…ステファニー・モストワ男爵でございます……!!」


 ……つい数日前に公爵の養女になるって事になってはいるけれど……まだ手続きもしてないし……これで正解だよ、ね……?


「モストワ? 貴方、ヒューズの弟子?」


 あ、この人知ってるのか……? と思いつつ、はいと返事をした。それからくんくんと匂いを嗅がれる。あ、戦闘後で汗臭い……? あっドレスボロボロだぁ……


「はぁ!? あのジジイの匂いがする……!!」


 ……あのジジイ? とはてなを浮かべていると、左手の手袋を取られ、やっぱり!! と声を上げる彼女。

 私の左手の甲には、紫の刻印が入っている。これは、メルディアースさんがここにキスしたら浮かび上がってきたものだ。匂いで分かるものなのか……?


「あんのジジイ!! 何もされなかった? 大丈夫だった!?」

「え、あ、はい」

「本当に? 本当に何もないのね??」


 真剣に聞いてくるものだから、ビビりつつも何度も頭を縦に振った。ほっ、落ち着いてくれたみたいだ。

 とりあえず、上皇后様を貴賓室にお連れして。と近くの者にお願いをしたのだった。





「……あ、の……近…い、のですが……」

「え~? 私はもっとステフちゃんと仲良くしたいなぁ♪」

「あ、はい……」


 貴賓室に、いっそいで着替えて向かい席に座ると、いきなり私の隣に座ってきたのだ。凄く密接していて、私はもうどうしていいのか分からない。

 陛下達は一応意識は戻っていたけれど、酔う安全のため私が駆り出されたのだ。だけど、どうしたらいいものか……


「あ、あの、ど、どうして、上皇后様がわざわざこちらにいらしたのでしょうか……?」

「え? あぁ、最近この国に賢者がいるって聞いたものだからね。ちょっと見てこようと思って。けれどまさかこんな可愛い子だったなんて~、来てよかった♪」


 あ、の、腕にくっつかれるのは構わないのですが……紅茶、冷めちゃいますよ……??

 とりあえず、陛下、殿下、助けて……。


「ステフちゃん、良いこと教えてあげよっか」

「え? 良い事、ですか……?」

「そう! 私とヒューズ、あとあの変態爺のメルディアースはね、実は同じ師匠の下で育ったのよ」

「……え?」

「あーやっぱ知らなかったのね! ほんっとアイツは自分の事は何も言わないからぁ」


 上皇后様とお師匠様が……全然知らなかった。確かにそういうの全然聞いた事なかった。だって、私に兄弟子がいた事すら知らなかったんだから。それに、このサーペンテインの事も。


「そうねぇ、アイツ乱暴だからいっつも私と喧嘩してたのよね。それで師匠に何度怒られた事か」


 乱暴……まぁ、確かに乱暴だ。蹴り飛ばされ、落っことされを何度やられた事か。今ではもう思い出ではあるけれど……死ぬかと思った思い出はいくつもある。


「とある谷に潜む大きな火龍に3人でちょっかい出して、コテンパンにされて師匠に助けて貰ったこともあるの!」


 えぇえ!? ひ、火龍!?


「結構楽しかったのよ? それから色々とあって私達は大賢者となって導く側になった。私が一番最後だって事が今でも気に食わないけれどね。悔しいけど、一番最初になったのはヒューズよ」


 上皇后様は、とても懐かしむように窓の外を見つめてから私に微笑んでいて。それは、とても大切な思い出なのだろう。


「あのヒューズがどんな子を育ててるのかなって結構興味があったの。こんなに可愛くて、礼儀正しいなんて、アイツが本当に育てたのかって疑っちゃうわ」

「あ、はは……」

「でも、やっぱり癖とかはアイツと似てるのね」


 癖? と聞いてしまい、そうよと笑った上皇后様。この短時間で同じ癖を見つけるとは、観察力が優れている、っていう事なのかな。自分では、お師匠様と似ている点だなんて全く分からないけれど……


「それで、ね。貴方、第三の席に座る気はなぁい?」

「……へ?」


 いきなりぶっ飛んだ言葉を言われ、私は思考が停止した。それから、ぐるぐると回転し出したけれど処理が間に合わない。

 第三の席……第三の席……お師匠様の、座っていた、席……?


「だい、けん、じゃ……??」

「そう♡」


 ……ちょっと待ってください。私が? 私が大賢者??


「大賢者とは、元々優れた錬金術の使い手に与えられる称号と本に記されているわ」

「そ、ですよね……私なんかに、それは……」

「そんな事ないわ。最初はそんなこと考えていなかったのだけれど、ついさっき会って見た時思ったのよ。

 大賢者とは、大地の女神ガイアに一番近しい存在。それはすなわち、錬金術や人へ対するガイアの心、考え方、想いが全て影響されてきて、やがて彼女自身になっていくの」


 彼女自身と、同じくなっていく……知らなかった。じゃあ、お師匠様とメルディアースさんもってことか。


「称号が貰えれば、もっと力は強くなっていく。溢れ出るほどのマナを与えられ、世界の全てと言ってもいいくらいの知識を与えられる。

 けれど、それと一緒にガイアから使命というものを課せられる。完了しない限り、ガイアの元へ還ることは出来ないわ。それがどういう事なのか、貴方は身をもって実感しているはずよ」


 長すぎる時間、周りとは生きる長さが違う。違い過ぎる。私は今まであまり人と関わってこなかった為に感じたことは無かったが、この国に来て、陛下と再会しよく分かった。彼女の言った意味はよく理解できる。



 __それは、孤独だ。



「それでも、大賢者としての道を歩みたいと願うのならば、私は導くわ」


 でも、これは強制じゃない事は分かって。と言って下さる大賢者様。彼女は、称号を貰いどんな人生を歩んできたのだろうか。

 きっと、辛い事も、孤独も感じた事だろう。でも、こうして言って下さるという事は、とてもお優しくたくさんの人々を助け、手を差し伸べてきたはずだ。


「私、は……」


 私は、少しだけ迷った。私に、出来るだろうか。

 けれど、すぐ決心した。

 今まで触れ合ってきた人々の笑顔、そして、お師匠様のあの言葉が頭の中に浮かんだからだ。



 『 ま、大きくなってもお前は俺の一番弟子の癖してまだまだだからなぁ 』



「ここに来て、色々な事を学び、沢山大切なものが出来ました。まだ全部は守れないけれど……でも守りたい。私は、この国が好きだから、大好きだから。だから、どんなに辛い道でも、私は進みたいです……!!」


 お師匠様がここに訪れて、どう思ったかは分からない。あの肖像画では仏頂面だったけど、でも絶対笑ってたと思う。そんなこの国を、私は愛したい。


「うん、わかった。良く伝わったわ」

「よろしく、お願いします」

「えぇ! まっかせて~♪」


 この、上皇后様のテンション。付いていけない……
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