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■98 一時の休憩時間
しおりを挟む初夏が過ぎ本格的な夏がやってきた。そろそろフレッド殿下の誕生日が来る。そして、18歳となるため成人の儀が行われる訳だ。
そのためここサーペンテイン国の周りの小国は、自国から親善大使を送り今続々とこの国に集まってきている。今頃王宮は大忙しになっている事だろう。
私も王宮に少し用がある訳なのだが……
「先日のリヴァイアサンの件につきましては、まことに感謝申し上げます。賢者様!!」
私の屋敷にもたくさんの者達が訪れるようになってきた。
彼らの国には優れた錬金術師がいないことが一番の理由らしい。宝石などの贈呈品を沢山持ってくる辺り、私を「小娘だからよい品物を持っていけばよい」とか思っているんだろうなぁ。
残念、私は宝石で喜ぶような少女ではないのだ。と言っても君達の倍以上生きているのでね。
「男爵様」
やっと客人が帰っていった頃に、スティーブンが近づいてきた。何かあったのだろうか、と思っていると王宮から使者がやって来たとの事。
「殿下がお呼びです」
「フレッド殿下が?」
相談があるらしく、直ぐに来てほしいとの事で。何かあったのだろうか。
とりあえず、準備してすぐに向かうと返事をした。
通されたのは、殿下の書斎だ。わぁお、書類が沢山。ここに来るまでもせかせかと動く王宮の人達を目撃した。それと、他国の者達も。女性が沢山いたから、きっとお姫様かな?
「早かったじゃないか。さ、座ってくれ」
お茶が出てきて、それから殿下は全員下がらせた。使用人達に聞かれてはマズい事なのだろうか、その相談とは。
「大変そうですね」
「そうだな、明後日にはもう私の成人の儀だからな」
それで、相談とは? と聞いた時、彼の口から出てきた答えに私は口をあんぐりしてしまった。
「ないぞ?」
「……あの、すみません、聞き間違いをしてしまったようなのですが……」
「だから、ない」
え、ない? 相談がない? じゃあ私は何で呼ばれたの……??
……いや、まさか。いやいや、でも……
「以前も使っただろう、この手を」
あぁ、あったな。婚約者事件で。
話を聞くと、小国の姫達が押し寄せてきていたらしい。移動する度に引っ付いてくると、頭を悩ませていて。まさか、また私が使われるとは……
「ステファニー殿の方にも他国の使者達が来ているのではないか?」
「ま、まぁ……」
では丁度良かったではないか、とクスクス笑う殿下。まぁ、どうせこれからも来るようだけれど……こうも立て続けに来られると休む時間すらないから助かったっちゃ助かった。
それに、訪問ではなく手紙になってくれると助かるなぁ。贈呈品に、小国の訪問に、お見合い話までだったから、本当に勘弁してくれだよ。
殿下を見ていると、ちょっと疲れ気味なのが分かるな。クマが少し出来てる。どれだけの仕事をしているのだろうか。
ん~~~、まぁいっか。
『展開』
「ん?」
私が錬成したのは、最上級HPポーション。だけど、これは他とはちょっと違うものだ。
これはポーションか、と聞かれ最上級HPポーションですと答えると何事も言わず普通に小瓶の口を開けて飲んでしまった。
「え、そんなあっさり飲んじゃっていいんですか……!?」
目の前で作ったけれど……殿下は鑑定が出来るがそんなに高くないらしい。もし毒とか入っているのではないかって確認するのが普通なんじゃないの……? まぁ分かっていて私は作って渡しちゃったんだけれど。
「何だ、毒でも入ってたのか?」
「いえ……」
それから、彼は気が付いたようだ。これは、浄水じゃなくて聖水で作られたものだろうと。大地の恵みは人間を癒す力。疲れも取れると思ったから作った。
まぁ、大賢者ですかと勘違いされてしまった事はあるけれど、この前公爵夫人に使ってしまったし……ま、いっかと最近は思ってしまっている。
でも、殿下の様子ではあまり驚いている様子ではないようで。
「例えここで毒を盛ったとしても捕まるの一択だ。 ステファニー殿なら逃げる事は容易いと思うが、今まで結んできた縁を簡単には捨てられないだろう」
どうだ? とこちらを見ている。確かに違う国、もしくは未開拓地へ行くとなると心が痛む。ずっとここにいたいという気持ちがある。
「それに、信頼している」
「え? 私を、ですか……?」
他に誰がいるんだ? と聞かれたけれど答えられなかった。まさかここまで信頼されているとは思わなかった。嬉しい、というよりかは驚きの方が大きいか。
元気が出たよ、助かった。とお礼を貰えたけれど……何も言えなくて。やはり君は褒められるのが苦手だろうと見破られてしまった。ギルバートさんにも同じことを言われた……しょうがないじゃないですか、ここまで言われるなんて予測できないでしょ。
そんな私の心境に気が付かれてしまった殿下は、ニヤニヤとこちらを見ながら紅茶を飲んでいて。言い返せないのがとても悔しい……!!
そ、そういえば婚約者の件はどうなったんですか? と強引ではあるけれど話題を変えた。
「ま、どうにかなりそうだ」
「え”っ」
「ステファニー殿は作法は知っているか?」
作法……どういう意味だろう……あ、成人の儀?
「一応成人の儀でどうすればいいかは聞きました」
「ほぉ、そうか」
その時、殿下の目が光っていた事に私は気が付けなかったのだった。
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