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■97 マナの大暴走
しおりを挟む狩猟大会が終わり次の日、私達は王宮に赴いていた。そして、王宮内にある聖宮に足を運ぶ。
以前来たように、自然のエネルギーの様なものが感じられない。けれど、エネルギーがどんなものかもよく分からない。そんな感じ、というだけだ。
「……ししょー?」
「ん?」
だいじょうぶ? と聞いてくるジョシュア。大丈夫だよ、ただ考え事をしていただけ。
お師匠様に聞きたい。
私の他にも兄弟子がいたのですか。
あのアズライトは本当に兄弟子なのですか。
……お師匠様から教わった錬金術を、小さな子供を傷つけるような使い方をしたあの男が。
モンスターを狂わせる、危険なモノを作り出したあの男が。
そんな時、後ろから私を呼ぶ声がした。王宮術師の、一人の若い男性だ。
「賢者様ッ!! 公爵夫人がッ!!」
「夫人?」
早くスラモスト公爵邸に来てほしいとの事だった。直ぐに向かいますとルシルの上に乗る。ししょー、と近くにいたジョシュアがこちらを見ていて、一緒に乗るよう言い三人で屋敷に向かったのだった。
向かいながら説明を聞いた。何でも、今夫人の出産が始まったようで、赤ん坊が取り出された後に夫人と赤ん坊のマナが不安定になってしまったらしい。いつも、王宮術師の方が待機しているのだけれど、それでもどうにもならないようで。
ただでさえ、出産で身体が疲弊している状態でマナが不安定となると……ちょっと危ないかも。間に合ってくれ、と願いつつすぐに邸宅に辿り着き部屋まで急いだ。
「賢者様ッ!!」
部屋に入ると、マナが大暴走を起こしていて。そのマナは……あの赤ん坊か。
何とかモワズリー卿が簡易結界で抑え込んでいるようだけれど、このままでは赤ん坊がマナ枯渇症を起こしてしまう。
夫人の方は……やはりマナが不安定だ。どうしてこんな事に? とは思うけれどまずは赤ん坊の方だ。
「夫人にマナポーションを与えないでください。HPポーションで」
「はいっ!!」
次に、収納魔法陣を開いた。取り出したのは、マナ蓄蔵鉱石。たぶん一つで間に合う。
今、赤ん坊はマナを身体の中で正しく循環できていない状態。その原因に量が多い事も含まれる。
モワズリー卿が作り出した簡易結界の外側に私の結界を作り出す。私も中に入り込みモワズリー卿の結界を解いてもらう。
『展開』
結界の中に充満している赤ん坊のマナを、私が開いた陣に吸収させる。そして、吸収したものを全てマナ蓄蔵鉱石に。揺り籠の上に置かれていた赤ん坊を抱き上げ、身体の中に巡るマナの経路に聖水を流し込んだ。暴走して傷ついた経路が少しずつではあるが修復し始める。
よし、これで大丈夫。直ぐに結界を解きジョシュアを呼んだ。
「ジョシュ、この前教えたもの覚えてるよね」
「マナのじゅんかん?」
「そう。今のこの子は上手く循環できていないから、ジョシュが循環を促すの。出来る?」
少し不安そうだけれど、頷いた。モワズリー卿にも手伝ってもらう事に。この子の右手をジョシュが握り、ジョシュの右手をモワズリー卿が、そしてこの子の左手をモワズリー卿が。そうすると輪っかが作りあげられる。
「右回りでゆっくりと回してください」
「畏まりました」
「うんっ!!」
よし、赤ん坊は大丈夫。そしたらすぐに夫人の方を。
やはり疲弊していてHPポーションで何とか、と言った所か。以前、聖水を使った時アルさんに大賢者様ですかと勘違いされ浄水ばかり使っていたけれど、ついさっき使ってしまった。どうこう言ってられなかったからだ。だから、夫人にも私のマナと一緒に聖水を流し込み身体を癒す。
「あぁ、顔色が……!!」
「アイシャ……!! アイシャ……!!」
顔色も戻り、規則正しい呼吸をしている。何とか、と言った所かな。夫であるスラモスト公爵はありがとうと何度もおっしゃられてきて。周りの助産師や侍女達もほっと安心しているようだ。中には涙を流している人もいて。間に合って本当に良かった。
そういえば、どうしてこんなにマナが乱れたのだろうか。確かに今まで母親の身体と繋がっていたのだから離れる時にマナが不安定になる事は分かる。けれど、ここまで暴走するのだろうか。と言っても、あまり人と関わってこなかった私が言えないけれど。
「王家の方々は、マナが特殊なのでございます」
「マナが?」
そう教えてくれるモワズリー卿。夫人は陛下の妹君だ。確かに、他の一般人達とは違う感じがした。人それぞれマナは違うけれど……それでも。
「母親と赤ん坊のマナの経路が強く結ばれていたという事でしょうか」
「そうです、ですので毎回王家の方々の出産時に王宮術師が近くで待機しているのですが……今回は稀なケースでしたので、ステファニー様に来ていただき助かりました」
「いえ、間に合って良かったです」
特殊、とはどういうことなのだろうか。まぁでも、ここは王宮と近いから私が王宮にいて良かった。
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