大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫

文字の大きさ
上 下
98 / 110

■97 マナの大暴走

しおりを挟む

 狩猟大会が終わり次の日、私達は王宮に赴いていた。そして、王宮内にある聖宮に足を運ぶ。

 以前来たように、自然のエネルギーの様なものが感じられない。けれど、エネルギーがどんなものかもよく分からない。そんな感じ、というだけだ。


「……ししょー?」

「ん?」


 だいじょうぶ? と聞いてくるジョシュア。大丈夫だよ、ただ考え事をしていただけ。

 お師匠様に聞きたい。

 私の他にも兄弟子がいたのですか。

 あのアズライトは本当に兄弟子なのですか。


 ……お師匠様から教わった錬金術を、小さな子供を傷つけるような使い方をしたあの男が。

 モンスターを狂わせる、危険なモノを作り出したあの男が。


 そんな時、後ろから私を呼ぶ声がした。王宮術師の、一人の若い男性だ。

 
「賢者様ッ!! 公爵夫人がッ!!」

「夫人?」


 早くスラモスト公爵邸に来てほしいとの事だった。直ぐに向かいますとルシルの上に乗る。ししょー、と近くにいたジョシュアがこちらを見ていて、一緒に乗るよう言い三人で屋敷に向かったのだった。

 向かいながら説明を聞いた。何でも、今夫人の出産が始まったようで、赤ん坊が取り出された後に夫人と赤ん坊のマナが不安定になってしまったらしい。いつも、王宮術師の方が待機しているのだけれど、それでもどうにもならないようで。

 ただでさえ、出産で身体が疲弊している状態でマナが不安定となると……ちょっと危ないかも。間に合ってくれ、と願いつつすぐに邸宅に辿り着き部屋まで急いだ。




「賢者様ッ!!」


 部屋に入ると、マナが大暴走を起こしていて。そのマナは……あの赤ん坊か。

 何とかモワズリー卿が簡易結界で抑え込んでいるようだけれど、このままでは赤ん坊がマナ枯渇症を起こしてしまう。

 夫人の方は……やはりマナが不安定だ。どうしてこんな事に? とは思うけれどまずは赤ん坊の方だ。


「夫人にマナポーションを与えないでください。HPポーションで」

「はいっ!!」


 次に、収納魔法陣を開いた。取り出したのは、マナ蓄蔵鉱石。たぶん一つで間に合う。

 今、赤ん坊はマナを身体の中で正しく循環できていない状態。その原因に量が多い事も含まれる。

 モワズリー卿が作り出した簡易結界の外側に私の結界を作り出す。私も中に入り込みモワズリー卿の結界を解いてもらう。


『展開』


 結界の中に充満している赤ん坊のマナを、私が開いた陣に吸収させる。そして、吸収したものを全てマナ蓄蔵鉱石に。揺り籠の上に置かれていた赤ん坊を抱き上げ、身体の中に巡るマナの経路に聖水を流し込んだ。暴走して傷ついた経路が少しずつではあるが修復し始める。

 よし、これで大丈夫。直ぐに結界を解きジョシュアを呼んだ。


「ジョシュ、この前教えたもの覚えてるよね」

「マナのじゅんかん?」

「そう。今のこの子は上手く循環できていないから、ジョシュが循環を促すの。出来る?」


 少し不安そうだけれど、頷いた。モワズリー卿にも手伝ってもらう事に。この子の右手をジョシュが握り、ジョシュの右手をモワズリー卿が、そしてこの子の左手をモワズリー卿が。そうすると輪っかが作りあげられる。


「右回りでゆっくりと回してください」

「畏まりました」

「うんっ!!」


 よし、赤ん坊は大丈夫。そしたらすぐに夫人の方を。

 やはり疲弊していてHPポーションで何とか、と言った所か。以前、聖水を使った時アルさんに大賢者様ですかと勘違いされ浄水ばかり使っていたけれど、ついさっき使ってしまった。どうこう言ってられなかったからだ。だから、夫人にも私のマナと一緒に聖水を流し込み身体を癒す。

 
「あぁ、顔色が……!!」

「アイシャ……!! アイシャ……!!」


 顔色も戻り、規則正しい呼吸をしている。何とか、と言った所かな。夫であるスラモスト公爵はありがとうと何度もおっしゃられてきて。周りの助産師や侍女達もほっと安心しているようだ。中には涙を流している人もいて。間に合って本当に良かった。


 そういえば、どうしてこんなにマナが乱れたのだろうか。確かに今まで母親の身体と繋がっていたのだから離れる時にマナが不安定になる事は分かる。けれど、ここまで暴走するのだろうか。と言っても、あまり人と関わってこなかった私が言えないけれど。


「王家の方々は、マナが特殊なのでございます」

「マナが?」


 そう教えてくれるモワズリー卿。夫人は陛下の妹君だ。確かに、他の一般人達とは違う感じがした。人それぞれマナは違うけれど……それでも。


「母親と赤ん坊のマナの経路が強く結ばれていたという事でしょうか」

「そうです、ですので毎回王家の方々の出産時に王宮術師が近くで待機しているのですが……今回は稀なケースでしたので、ステファニー様に来ていただき助かりました」

「いえ、間に合って良かったです」


 特殊、とはどういうことなのだろうか。まぁでも、ここは王宮と近いから私が王宮にいて良かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...