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■96 アズライト
しおりを挟む私が今入ったこの森はあまり広くはないしモンスターも多くはない。だから参加者達はすぐ見つかるはず。まぁアスタロト公爵は心配いらないだろうし、他は大体が騎士達を連れている。もしさっきのようなA級モンスターが出たとしても大丈夫だろう。
「また…憎悪」
モンスターを狂わせる憎悪。あのラファール領の森で発見した水晶、変異したリザードマンに、今回のネックレス。あれはモンスターを引き寄せる為のものだったのだろう。あのネックレスを渡した令嬢が情報が入手できればいいのだけれど……
「また会ったな」
突然声を掛けられ足を止める。聞こえてきた方向に目を向けると……あの日、聖夜祭の夜聖宮にいた彼が立っていた。あの日の彼はローブを被っていたから見えずらかったけれど、見た目と声が一緒だ。
「……アズライト」
「そう、正解だ」
さすが妹弟子だ、と褒めてくる。
「君に会いたかったよ」
「……あのモンスターは貴方が?」
ニヤリ、と笑っていた。正解のようだ。
「君を森の中に入らせるための招待状だよ」
「悪趣味な招待状ですね」
なら、憎悪を作り出したのは高確率で彼なのだと予測できる。
「同じ師を持つ私達だ、ずっと話をしたいと思っていたんだ」
「……」
「久しぶりに師匠の話をしたいと思っていてな。スラント酒も用意しようか」
そう言い微笑みを見せる彼。スラント酒は、お師匠様が好んで飲んでいた果実酒だ。いつも作らされていた思い出がある。でも、これで彼が本当にお師匠様の兄弟子だという証拠にはならない。
「……ジョシュアの手に錬成陣を刻んだのは貴方?」
ジョシュア? と一瞬考えこむ仕草をしていたが、思い出したようだ。あの人の血族だったな、と言っていて。
血族? ジョシュアの両親の事はあの後調べても分からなかった、一体どんな人物達だったのだろうか。
「ただ教育してあげただけだ。計画の為だったからちょっとあの歳では可哀想かなと思ったけれどな。まぁ上手くはいかなかったが」
「……は?」
あれが教育? 可哀想だった? 計画の為? 分かってて、あんな事をしたって事……?
「さ、立ち話もなんだ、場所を変えないか?」
……落ち着け、今感情的になってはいけない。
彼はきっと私より優れた錬金術師、高確率で賢者の可能性がある。そして、未知の力を持っている。
これは、行くべきじゃない。乗り込んだとしても、罠だったとしたら私は逃げてこられるだろうか。
そして、
「……私は人を、自分の弟子を傷つけた人と話すことは、1つもありません」
「そうか、残念だ。なら……」
私は、彼が動くのを察知し杖を握りしめ陣を展開した。予測していた通り、私目がけて掌サイズの球を投げてくる。何か、エネルギーを凝縮されたものだろう。そのエネルギーが一体どんなものなのかは分からない。
収納魔法陣を開き種を取り出す時間はないと判断、あの日ランディさんが行っていた空気中の物質と魔法をショートカットで錬成、盾を作り出し防いだ。作り出し球を防ぐわずかな時間で種をいくつか引っ張り出す。
〝カヴェアの種〟『Ignisイグニス』『Luxルクス』
〝ウェスティアの種〟『Terra』
粘着糸を彼の足元に出現させ足からどんどん絡ませ動きを封じ、その地面に花を咲かせた。人を丸呑みに出来る食人花だ。花びらには棘があり、毒も含まれている。
「おっと、やはり君相手には分が悪かったか」
花で閉じる直前、そう彼が言い、咄嗟に鉄縄を錬成、縛り上げた。でも、足元から煙が噴き出してきて。直ぐ風魔法で煙を払うが……
「逃げられた、か……」
食人花でも捕まえられなかったみたい。それにもう既に彼の姿は見えない。食人花、けど鉄縄で咄嗟に締め上げたのに、簡単に抜けられてしまうとは……詰めが甘かったか。
「……プレゼントにしては、趣味が悪いな……」
彼が去ってからすぐに、周りから獣モンスターが現れた。1、2……5匹か。あはは、憎悪に当てられてるな。ま、当たり前か。だけど……
「……私、今猛烈に虫の居所が悪いんだよね」
それから、怪我人はいたけれど無事に皆森から帰ってきたのだった。
憎悪に当てられたモンスターは、私が倒したものだけだったようで。皆何も知らず狩りをしていたそうだ。私が森に入ってから陛下達の方にはモンスターは来ておらず何事もなかったと聞いた。
まぁアスタロト公爵は勘づいているようだったけれど。
この事で、私を狙っていたという事に間違いはないだろう。何事もなく終わってよかった。
あのアズライトが言っていた、計画とは……一体どんなものだったのだろうか。
今回の件で、私に関係のある事なのはよく分かったけれど……
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