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■84 ストレー伯爵
しおりを挟む屋敷の皆は、思っていた通り彼女達を歓迎した。
妊婦さんという事で、サマンサに一任して過ごしやすい環境作りや、妊婦専用の食事などへの気配りをお願いした。
確か、私一度出産に立ち会った事あったな。とある村に立ち寄った時、数日後に丁度出産が始まって。とっても大変そうだった。
新しい命を産むことがこんなに大変だったのだと痛感した。生まれてくる命が、こんなにも小さく儚いものなのだと、でも、確かにしっかりと生きていて。とても感動した体験だった。
「触ってもいいですか……?」
「ふふっ、どうぞ」
マギーさんのお腹の中にいる小さな命。その存在をとてもよく感じる。
「あ、動いた……!!」
「ステファニー様に会えて嬉しいのだと思いますよ」
「本当ですか? 私もとっても嬉しいです!」
……この幸せを、父親となった騎士さんと分かち合いたかったに違いない。
ターメリット侯爵か……
私は、絶対許さない。
「スティーブン、調べて欲しい事があるんだ」
「畏まりました」
それと、とスティーブンが話し出す。
「えっ? 客人?」
「ストレー伯爵の使者だそうです」
ストレー伯爵……ストレー伯爵……あ、いたな。聖夜祭の後の晩餐会で話した。錬金術が何だとかって言ってたな。
何でも、私に話がありもう既にそこまで来ているらしい。いや、事前に言ってくれよ。
近くにいたマギーさんに聞いてみたら、彼女はあまり社交界には出ていなかったし、家族からもあまりその人の名前は出なかったらしい。なら、マギーさんがバレたわけではないかも。
「スティーブン」
「畏まりました、お任せください」
じゃあ、マギーさんとエマさんには違う部屋に移ってもらおう。あまり見つかりにくい位置にある部屋と、あと隠蔽結界も付けようか。
「ようこそいらっしゃいました、ストレー伯爵」
丁度準備がもう少しで終わるタイミングで到着した伯爵御一行。伯爵と、息子だろうか。とても顔が似ている。16くらいかな?
客間にご案内し紅茶を出して落ち着き、伯爵が口を開いた。さぁ、自己紹介をしなさい。と隣の子供に。やはり、息子であったようだ。名前は、チャーリーと言うらしい。
「いやぁ、いつも賢者殿の話は耳に入ってきているよ。病も解決し、モンスターも倒せるらしいではないか」
あぁ、ギルバートさんが助けてくださった時のか。王宮術師達に助力しているとも聞いた、と大絶賛。一体何の意図が?
「それでだ、実はチャーリーは錬金術に興味を持っていてね。毎日励んでいて、将来は王宮術師となると志しているのだよ。だから、錬金術に長けた賢者殿に錬金術を伝授して欲しいのだ」
こういう事か。途中でまさかと思っていたけれど……
どうか弟子にしてやってくれないだろうか、と。弟子、かぁ……でも、私より爵位の高い伯爵のお願いだ。断りづらいし……
「私の様な者に子息の師匠は務まりませんよ」
「そんな事ないだろう、現にもう既に弟子がいるではないか」
「二人には基礎を教えているだけですよ」
「王宮術師にも教えているではないか」
「私の持つ知識を王宮術師の方々に教えているだけであって、私も勉強させて頂いているのです」
「それでも、弟子にしてくれ」
困ったな……弟子に、となるとここに置いてくれという事。マギーさん達のこともあるし……
「……これは、モストワ男爵ではなく、賢者ステファニーとしてのお願いという事で合っているでしょうか」
「当たり前だろう」
それでどうなのだ、と再三聞いてくる。どれだけ強引なんだろうか。まぁ、仕方ない。近くにいたスティーブンに、ジョシュアとローレンスを連れてくるよう伝えた。
「……では、錬金術を見せて頂いても宜しいでしょうか」
「何だと?」
「ある程度レベルが高くなければ、私にはついてこれませんよ……?」
私は結構厳しいので、という言葉に顔を歪める伯爵。さて、ではまず何を作ってもらおうか。収納魔法陣を展開して手を突っ込み取り出したのは……ミルド石。
「これで、モルラ石を錬成してください」
目の前のテーブルに置いたが、子息は分かっていないようだ。これは、ローレンスが一番最初に見せてくれたものだ。魔法とミルド石を錬成、そして出来上がった物とまた魔法を組み合わせて錬成してを繰り返す。最終的には4回の錬成でモルラ石にするのだ。
「ではまず、このミルド石と火魔法を」
慌てて錬成陣紙を広げて短い杖を持つ子息。唱え始めて錬成に入るけれどやはり遅い。あの日ローレンスが見せてくれた時のよりだ。
やっと出来上がった所で、さぁ次ですと指示を出して。その途中でローレンス達が来た。何も聞かされず連れてこられたらしい、きょとんとしている。
「遅いですよ、錬成に時間をかけすぎです。そのせいで魔法も保っていられなくなっています」
なっ……!! とキッとした目を向けてくる。だが、本当のことを言ったまでだ。もう一つをローレンスに渡して。ちゃんと指示した通り杖を持ってきていた為同じことをさせた。
ローレンスは、首都で別れてここに一人で来るまでにだいぶ成長していた。以前は、この錬成も錬成陣紙を使用していたけれど今はたいていのものは使用せずに出来ている。だから、4回の錬成もそのまま難なく終了した。
「これくらいは出来ないといけません」
恥ずかしくなったのだろうか、子息が悔しがり顔を真っ赤にしていて。隣で見ていた伯爵が口をはさんだ。
「それはお主が教えているからであろうっ!!」
「そうではありません、これは彼自身が一人で努力したからです」
ただ他人に、そうしなさいと指示されるだけなら成長しませんよ。そう子息に言い放つ。そう、自分で努力しなければ成長はしないんだ。
「なら、10日間でいい」
その期間だけ、ここに置かせてくれ。そう言われてしまった。賢者である君の隣で学ばせるのであればよいだろう。と言われてしまって。
どうしたものか、でも10日間だけだし……これを断ったらまたいちゃもん付けられそう。また来られたりとかして。
心の中で溜息を付きながら、伯爵の提案を飲んだのだった。
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