大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫

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■83 ターメリット侯爵家

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 聖夜祭が終わりを告げ、私達は領地にまっすぐ帰らずに違う領地に寄る事になっていた。

 その理由は一つ。


「いやぁ、モストワ卿と契約が結べて本当に良かった」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 ストラム伯爵に用があったためだ。

 彼は、鉱物関係の売買をする商会の会長なのである。今回、湿地帯調査で大量に発見された鉱物を売りに出そうと考えたのだ。この鉱物はとても貴重なものであるため、言値で取引してくださることとなった会

 まぁ、頑張ってくれたのはスティーブンなのだけれど。やっぱりこういった取引は私はまだまだだね、尊敬します。


「まさか、一番の問題であった湿地帯にこんなお宝が埋まっていたとは」

「そうね、錬金術師にとって必要なものが沢山あるとは分かっていたけれど、こんなに高価なものがあるとはね」

 
 もっと何か埋まっているだろうし、少しずつではあるけれど調査していこう。


 さ、早く帰ろう。そう思い魔鉱車に乗り込みふと窓の外を見た。私は、直ぐに走り出そうとしていた魔鉱車を止めて飛び降りる。


「あ、あの……!!」


 窓の外から思いがけない人を発見したのだ。それは、以前出会ったことのある人物。今のモストワ領が、ドラグラド領だった時期にこの方と、もう一人の家に泊まらせてもらった。

 あれから、私が子爵邸に行く時でお別れとなってしまった。アスタロト公爵に、子供達と首都に行く途中で降りたと聞いていたけれど、ここにいたのか。


「エマさん、お久ぶりです」

「えっ、ス、ステファニー様!?」


 今はお買い物帰りなのだろうか、彼女が持っている籠に沢山入っている。


「マギーさんはお元気ですか?」


 ……ん?

 エマさんは、暗い顔をして視線が右下に降りてしまった。なにか、あったのだろうか。どうしたんですか、と聞くと何かを言いたそうだけれど、でも、と困っているようで。


「私に出来る事でしたら、手を貸しますよ」

「あ……た、助けて、下さいますでしょうか……!!」


 え? 

 ここまで必死な顔をするなんて、マギーさんに、何が……


「何があったんですか……?」


 ここではちょっと、と言われ案内してくださることに。魔鉱車は目立ってしまうからマズいらしい、スティーブンに任せ途中で待機してもらう事に。


 そして、連れてこられたのはボロボロな一軒家。以前泊めさせてもらった建物より酷い。場所もだいぶ外れているからとても静かで周りには建物がない。

 エマさんが、玄関を開けて下さった。中に入って椅子に座っているマギーさんを見つけることが出来た。けれど、以前会った時と違った点がある事にすぐに気が付く。


「ステファニー、様……」

「……お久しぶりですね、マギーさん」


 エマさんに視線を送っていて、一体どういう事だと驚いているようだ。そして、エマさんが説明してくれて。

 つい先程、助けてくれと言われた。その意味が、彼女に会った時に予測出来てしまった。だって、彼女のお腹が膨れていた・・・・・からだ。

 そう、彼女は身籠っているのだ。


「申し訳ありません、ですが、事情があり誰の手も借りることが出来なくて……」

「お嬢様が身籠っている為、こんな所にいてはお体に触っていまうのは分かっているのですが……」


 そして、彼女達は話し出した。どうしてこんな所にいるのか、どうして首都に行きたくなかったのか。

 マギーさんは、貴族出身だったらしい。そして、エマさんはマギーさんに仕える侍女。

 ある時、そのお屋敷の騎士と恋に落ちたらしい。そして、このお腹の中にいる子供はその騎士との子らしい。 

 けれど、それは許されない事。直ぐに、彼女の父親にあたる当主にこの事がバレてしまった。


 そして、殺されたのだ。

 愛し合っていた騎士が、マギーさんの目の前で。


 もし、お腹の子供の事もバレてしまったら同じく殺されてしまう。そう考えお屋敷からエマさんと一緒に逃げ出したらしい。


「頼れるような人物もいなかったので、見つからないよう点々としていたのです」


 目の前で殺された、だなんて……実の父親がする事なのだろうか。

 いや、決して許されない事だ。


「ステファニー様のお噂は知っております。ですから、きっと知っている人物だと思います」

「私は、――マグダレン・ターメリット・・・・・・と申します」


 えっ……ターメリット……?

 えぇと、デビュタントで話したな。ご令嬢と。ターメリット家は確か侯爵家だった気がする。一度お会いしたこともあるけれど、雰囲気からしてそんな事をするような人には見えなかった。


「……分かりました、安全な場所をご用意します」


 彼女は、あまり外には出ていなかった為に顔を知る者は少ないらしい。だから屋敷に連れていっても大丈夫なはず。

 私は、客人として彼女達を屋敷に招き入れた。

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