上 下
74 / 110

■73 正体

しおりを挟む

 目の前で音を立て砕け散ったリザードマン。

 良かった、倒せた。


「バートン様っ!!」


 そうだ、囮になってふっ飛ばされてしまったんだ!!

 急いで碧鉱石の壁に駆け寄ると、土魔法で作った足場の外壁にめり込んでいて。血も出ていて痛そうだ、大丈夫だろうか。


「バートン、様……?」



 だけど……〝彼〟を見て止まってしまった。


 ずっと思っていた、違和感がようやく解けた。


 何で気が付けなかったんだろうか。



「ラン、ディさん……?」


 彼の姿が、そこにあったのだ。

 私が呼んだその名前を聞き、目を覚ましていた彼は目を見開いていた。そして、驚いた顔で私を見ていて。


「……あっ」


 マズい、やってしまった。そんな声が聞こえてきそうだ。え、まさか。うそ、そんな事が……!?


「……やぁ、久しぶりと言ったほうがいいのかな?」

「……な、何で……?」

「そうだね、説明するには長くなるかな? 君、聞きたいことが色々とありそうだ」

「へ、変身魔法……?」

「いや、ちょっと違うかな。この姿を錬成して作り出している、と言った所かな」


 で、でも何でわざわざそんな事を……


「どうしてそうしてるのか、でもそれは少し時間がかかりそうだ」

「そ、ですね……」


 それよりも、第一にしなければいけないことが沢山ある。

 さ、こうしてはいられないね。そう言いスッといつものバートン様に戻るランディさん。事情は分からないけれど、今やるべきことは、


「ルシル!!」


 上から様子を伺ってくれていたルシルが降りてきてくれて。まずは今の状況を見なければ。そうして、私達は彼女の背に乗った。

 壁でモンスターが入ってこないようにした村には、見た所被害はなさそうだ。警備兵に村人たちを避難させるよう言ってあるから、大丈夫だろう。私達は、町の方に向かったのだ。


「皆さん、無事だといいのですが……」

「私達が討伐したあのリザードマンならあの結界を破壊したとなれば納得できるが、他のリザードマンが絶対にいないという確信はないからな」


 もう一体だなんて勘弁だが、と呆れ顔のバートン様。いや、ランディさん。あははー、二人でやっとだったからなぁ。マナはもう半分しか残ってないよぉ。


「みなさーん!! 大丈夫ですかー!!」


 ルシルから飛び降りて第二騎士団の方々の所へ。怪我人が何人かいるけれど、皆無事で良かった。

 
「ご無事ですか!」

「はい、状況は?」


 ギルバートさんから、大体のモンスターは大方片づけたとの報告を貰えた。町民達も無事らしい。良かった。


「我々は引き続きモンスターの殲滅を」

「分かりました、でしたら私は、すぐ結界を修復しに行ってきます」


 壊されたのは、結界の一部分。すぐに直せるはずだ。結界を壊せるモンスターはいなかったとしても出口があるならこちらに降りてきてしまう。だからすぐに閉めなければ。

 では、と私達は別れた。バートン様もルシルの背に乗って結界に向かう事になった。






「ッ……!?」


 一部が破壊された湿地帯の結界。そこを通っていったであろうモンスター達が残していった傷跡。

 以前も酷かったけれど、全てなぎ倒され壊され悲惨な場所となってしまっていた。たぶん、あの大群は湿地帯の奥から来たモンスター達。きっとこの奥も酷いことになってしまっているのだろう。

 私は、ルシルの背から降り風魔法で地面に着地した。

 もう既に、翠水晶は埋め込まれている為、マナを繋げる感覚で破壊された部分を復元する。

 周りには、モンスターも何もいない。

 下に降りたら上から見たものよりもっと酷いことになっている事がよく見える。


「……」


 大地の女神、ガイア。

 彼女からの贈り物である、〝大地の恵み〟




「終わったか」

「あ、はい」


 上からルシルと一緒に降りてきたバートン様。けれど、私が今考えている事に気が付かれてしまった。


「君がしたいようにすればいい。ここは君の領地なのだから」

「わ、たしの……」


 君は責任感がある。きっと領民達の為にしたい事なのだろう、と言ってくれて。まぁ、それもあるけれど……自分がしたい事でもある。


「ルシル」


 私の呼ぶ声に、頬を摺り寄せて答えてくれて。そっか、付き合ってくれるんだね。じゃあ行ってきます、と言いたかったけれど……


「一人で行かせるわけがないだろう」


 と、さも当然のように一緒に乗ってきてくれた。あはは、手伝って下さるだなんて何とも頼もしい事です。きっと、私が気が付いている・・・・・・・事に気が付いているようだ。まぁ、戦闘の様子を見ればわかる。

 錬成している所・・・・・・・を見れば、すぐに。


 ルシルに、湿地帯の中心辺りの空中に運んでくれた。やっぱり、中はもっと酷いことになっていたようだ。


「さて、どうする?」


 ニコニコとこちらを見てくるバートン様。何だか楽しんでません? と思いつつも私は収納魔法陣からとある物・・・・を取り出した。


 それは、マナ蓄蔵鉱石。

 〝悪魔の心臓〟を錬成させて取り除き氷魔法で閉じ込めたあの鉱石の事である。全部で4つあり、1つ1つが大量のマナを含んでいる。


「これだけあればいけますよね」

「あぁ、私は補助として付こう」


 こんなに広い範囲なんてした事ないよ、と笑われる。私も初めてですって。

 ルシルも大丈夫ね、という私の声に大丈夫と答えてくれる。

 右手には私の黒い杖。

 それを、目の前にいる彼が左手でそっと掴んだ。

 そして、彼の右手には鞘に納めたレイピアを。


「私の本来の杖はこれなんだ」


 やっぱりそうだ、あの時使っていた短い杖は代替品という事ね。それを私は、左手で掴んだ。


「よし、行きます」

「いつでも!」


『『展開』』







『 かげりの中にいる者よ 
 


  大地に根差す小さき命よ
 


  汝らに祝福を



  この地を産みし彼女の祝福を与えん



  彼女の愛した者達よ






         〝 命を紡げ 〟






  全ては、大地の女神ガイアの名の元に______________』


























「チッ……使えないわね、折角…」

「見つけたぞい」

「……」


 赤い髪をなびかせた女性に話しかけたのは、長い杖を持った男性。その人物を見た瞬間に、女性は息を飲んだ。


「ちっとばかし、おいたが過ぎるのぅ」


 そう言った瞬間、彼女は彼の姿を認識できなかった。探そうとした時にはもう既に目の前にいて、杖を振り回され腹に直撃。強い力でふっ飛ばされてしまっていた。が、


「……チッ、逃げ足だけは速いのぅ」


 短髪の髪が生えた頭を掻きながら、行方をくらませた女性が直撃した跡を見ていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

目の前で不細工だと王子に笑われ婚約破棄されました。余りに腹が立ったのでその場で王子を殴ったら、それ以来王子に復縁を迫られて困っています

榊与一
恋愛
ある日侯爵令嬢カルボ・ナーラは、顔も見た事も無い第一王子ペペロン・チーノの婚約者に指名される。所謂政略結婚だ。 そして運命のあの日。 初顔合わせの日に目の前で王子にブス呼ばわりされ、婚約破棄を言い渡された。 余りのショックにパニックになった私は思わず王子の顔面にグーパン。 何故か王子はその一撃にいたく感動し、破棄の事は忘れて私に是非結婚して欲しいと迫って来る様になる。 打ち所が悪くておかしくなったのか? それとも何かの陰謀? はたまた天性のドMなのか? これはグーパンから始まる恋物語である。

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...