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■73 正体
しおりを挟む目の前で音を立て砕け散ったリザードマン。
良かった、倒せた。
「バートン様っ!!」
そうだ、囮になってふっ飛ばされてしまったんだ!!
急いで碧鉱石の壁に駆け寄ると、土魔法で作った足場の外壁にめり込んでいて。血も出ていて痛そうだ、大丈夫だろうか。
「バートン、様……?」
だけど……〝彼〟を見て止まってしまった。
ずっと思っていた、違和感がようやく解けた。
何で気が付けなかったんだろうか。
「ラン、ディさん……?」
彼の姿が、そこにあったのだ。
私が呼んだその名前を聞き、目を覚ましていた彼は目を見開いていた。そして、驚いた顔で私を見ていて。
「……あっ」
マズい、やってしまった。そんな声が聞こえてきそうだ。え、まさか。うそ、そんな事が……!?
「……やぁ、久しぶりと言ったほうがいいのかな?」
「……な、何で……?」
「そうだね、説明するには長くなるかな? 君、聞きたいことが色々とありそうだ」
「へ、変身魔法……?」
「いや、ちょっと違うかな。この姿を錬成して作り出している、と言った所かな」
で、でも何でわざわざそんな事を……
「どうしてそうしてるのか、でもそれは少し時間がかかりそうだ」
「そ、ですね……」
それよりも、第一にしなければいけないことが沢山ある。
さ、こうしてはいられないね。そう言いスッといつものバートン様に戻るランディさん。事情は分からないけれど、今やるべきことは、
「ルシル!!」
上から様子を伺ってくれていたルシルが降りてきてくれて。まずは今の状況を見なければ。そうして、私達は彼女の背に乗った。
壁でモンスターが入ってこないようにした村には、見た所被害はなさそうだ。警備兵に村人たちを避難させるよう言ってあるから、大丈夫だろう。私達は、町の方に向かったのだ。
「皆さん、無事だといいのですが……」
「私達が討伐したあのリザードマンならあの結界を破壊したとなれば納得できるが、他のリザードマンが絶対にいないという確信はないからな」
もう一体だなんて勘弁だが、と呆れ顔のバートン様。いや、ランディさん。あははー、二人でやっとだったからなぁ。マナはもう半分しか残ってないよぉ。
「みなさーん!! 大丈夫ですかー!!」
ルシルから飛び降りて第二騎士団の方々の所へ。怪我人が何人かいるけれど、皆無事で良かった。
「ご無事ですか!」
「はい、状況は?」
ギルバートさんから、大体のモンスターは大方片づけたとの報告を貰えた。町民達も無事らしい。良かった。
「我々は引き続きモンスターの殲滅を」
「分かりました、でしたら私は、すぐ結界を修復しに行ってきます」
壊されたのは、結界の一部分。すぐに直せるはずだ。結界を壊せるモンスターはいなかったとしても出口があるならこちらに降りてきてしまう。だからすぐに閉めなければ。
では、と私達は別れた。バートン様もルシルの背に乗って結界に向かう事になった。
「ッ……!?」
一部が破壊された湿地帯の結界。そこを通っていったであろうモンスター達が残していった傷跡。
以前も酷かったけれど、全てなぎ倒され壊され悲惨な場所となってしまっていた。たぶん、あの大群は湿地帯の奥から来たモンスター達。きっとこの奥も酷いことになってしまっているのだろう。
私は、ルシルの背から降り風魔法で地面に着地した。
もう既に、翠水晶は埋め込まれている為、マナを繋げる感覚で破壊された部分を復元する。
周りには、モンスターも何もいない。
下に降りたら上から見たものよりもっと酷いことになっている事がよく見える。
「……」
大地の女神、ガイア。
彼女からの贈り物である、〝大地の恵み〟
「終わったか」
「あ、はい」
上からルシルと一緒に降りてきたバートン様。けれど、私が今考えている事に気が付かれてしまった。
「君がしたいようにすればいい。ここは君の領地なのだから」
「わ、たしの……」
君は責任感がある。きっと領民達の為にしたい事なのだろう、と言ってくれて。まぁ、それもあるけれど……自分がしたい事でもある。
「ルシル」
私の呼ぶ声に、頬を摺り寄せて答えてくれて。そっか、付き合ってくれるんだね。じゃあ行ってきます、と言いたかったけれど……
「一人で行かせるわけがないだろう」
と、さも当然のように一緒に乗ってきてくれた。あはは、手伝って下さるだなんて何とも頼もしい事です。きっと、私が気が付いている事に気が付いているようだ。まぁ、戦闘の様子を見ればわかる。
錬成している所を見れば、すぐに。
ルシルに、湿地帯の中心辺りの空中に運んでくれた。やっぱり、中はもっと酷いことになっていたようだ。
「さて、どうする?」
ニコニコとこちらを見てくるバートン様。何だか楽しんでません? と思いつつも私は収納魔法陣からとある物を取り出した。
それは、マナ蓄蔵鉱石。
〝悪魔の心臓〟を錬成させて取り除き氷魔法で閉じ込めたあの鉱石の事である。全部で4つあり、1つ1つが大量のマナを含んでいる。
「これだけあればいけますよね」
「あぁ、私は補助として付こう」
こんなに広い範囲なんてした事ないよ、と笑われる。私も初めてですって。
ルシルも大丈夫ね、という私の声に大丈夫と答えてくれる。
右手には私の黒い杖。
それを、目の前にいる彼が左手でそっと掴んだ。
そして、彼の右手には鞘に納めたレイピアを。
「私の本来の杖はこれなんだ」
やっぱりそうだ、あの時使っていた短い杖は代替品という事ね。それを私は、左手で掴んだ。
「よし、行きます」
「いつでも!」
『『展開』』
『 翳りの中にいる者よ
大地に根差す小さき命よ
汝らに祝福を
この地を産みし彼女の祝福を与えん
彼女の愛した者達よ
〝 命を紡げ 〟
全ては、大地の女神ガイアの名の元に______________』
「チッ……使えないわね、折角…」
「見つけたぞい」
「……」
赤い髪をなびかせた女性に話しかけたのは、長い杖を持った男性。その人物を見た瞬間に、女性は息を飲んだ。
「ちっとばかし、おいたが過ぎるのぅ」
そう言った瞬間、彼女は彼の姿を認識できなかった。探そうとした時にはもう既に目の前にいて、杖を振り回され腹に直撃。強い力でふっ飛ばされてしまっていた。が、
「……チッ、逃げ足だけは速いのぅ」
短髪の髪が生えた頭を掻きながら、行方をくらませた女性が直撃した跡を見ていた。
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