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■62 遠き日の思い出

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 それは、凍え死ぬような寒々とした雪が降る日だった。


「おいチビ、凍死したいのか」


 初老の男性が話しかけたのは、木の下に身を縮こませて座る少女。


「ったく……ほれ、こい」


 少女は驚いた。自分にこんな事を言ってくれる人がいるなんて。


 そして、こんな自分に手を差し伸べてくれたことも。


 彼は手を少女の目の前に出した。掌から出てきたのは、暖かい火。掌の上で静かに燃えている。そして、もう片方の手には白い花。


 それらは、光り溶け出した。


 目の前で、混ざり合い形を成す。


 出来上がったのは、ふわふわした布。


 彼は、それに見とれていた少女の首根っこを掴みいきなり引っ張り上げ布に包んだ。


「行くぞ」


 少女は、口を開いたまま目を見開き驚いた顔をしている。


「……何だ、やりたいか」


 少女は、頷いた。




 __未知の世界に、足を踏み入れた瞬間だった。

























 カタカタと魔鉱車に揺られ、窓からの陽の光で目を覚ます。おっと、転寝をしてしまっていたらしい。


「ししょー」


 車内の私の隣に座るジョシュがこちらを覗いてきて。目の前のサマンサは「とても気持ちよさそうに眠っておられましたね」と。

 気持ちよさそうに、か。……うん、とても良い夢だった。とても懐かしくて、そしてとても大切な、夢。きっとこれは、何十年、何百年経っても忘れる事はないだろう。


「屋敷に戻ったら、錬金術見てあげるね」

「ほんと!」


 まぁ、帰ってからスティーブンに何か言われそうだけれど。新しい仕事を渡されそう。簡単に終わるものだといいんだけれどなぁ。

 今日はローレンスは屋敷で一人修行中。さて、まずは収納魔法陣を習得したいと言ってはいたけれど……どうなったかなぁ。因みにジョシュも練習中である。

 そんな時、ガタッと魔鉱車が大きく揺れた。外にいる警備兵ユウラに声をかける。どうしたのかと。だけど……コンコンとノックをしてきて、ちらりとカーテンを開けると彼が。そして、


「絶対に出てきてはいけません」


 えっ。それはどういう事、と聞こうとする前にユウラは行ってしまった。それから、大きな複数の怒鳴り声がしてきた。





「へぇ、結構良い魔鉱車じゃねぇか」

「お前らっ!!」





 これは……狙われてる? 山賊というやつなのだろうか。とにかく、少し外を覗くと、武器を持った男達が十数人。けれど、ここから見ての人数だ。この周りを囲っているのか分からないけれど……

 ここには戦えないサマンサやジョシュもいる。今日連れてきた警備兵も数人しかいない。

 サマンサ達はここにいてね、と伝えドアを開ける。そこから、思い切り私の肩に乗っていたルシルが大きく飛び出して。私も杖を取り出し外に。ごめんね、ユウラ。出てくるなって言ってくれたのに。


「アンタがかの有名な男爵様か」


 知ってたのか。まぁ紋章が刻まれてるからね、この魔鉱車に。有名、とは言っても山賊さん達の耳にまで入っていたとは。

 男爵様、お下がりください。と周りの警備兵は私を隠すよう立つ。けど、どうしたものか。


「そのまま捕まえた方が、いいよね?」

「で、ですが……」


「何だぁ? 錬金術の嬢ちゃんが俺らを捕まえるってか、可愛い事言ってくれるじゃねぇか!!」




「そうですねぇ……『展開』」


 収納魔法陣を開き、取り出したのは〝カヴェアの種〟


「あっ…!?」


 矢が魔鉱車に向かって撃たれてきて。捕まえる事よりも、魔鉱車を守らなきゃ。


〝トラドラの種〟


Aquaアクア


Luxルクス


Creareクレアーレ


 半透明の青い膜が錬成された。それは、魔鉱車を囲うように大きく広げられていて。警備兵も一緒にだ。そして、その後に飛んできていた矢はその膜にぶつかり……貫通する事はなかった。そのまま全て地面に落とされてしまっていた。

 そう、これは少しの弾力性がある。余程のものが当たらない限り、これは破ることは出来ないだろう。


〝カヴェアの種〟


Ignisイグニス


Luxルクス


Creareクレアーレ



「せーのっ!!!」


 錬成した白い紐を、山賊達の横から囲うかのように風魔法で飛ばす。白い紐は大量に作ったからどんどん飛ばして飛ばして。よっしゃぐるぐる巻き!!


「なっ切れねぇぞっ!?」

「ちょっなんじゃこりゃ!!」


 そう、これには粘着性があり一度くっついたら中々離れない。武器である斧や剣にもくっつき使い物にならない。そして近くの木に引っ掛かり幹にぐるぐる巻きだ。

 そして、森の中からひょいっひょいっとこちらに飛んでくる山賊達もそれに巻き込まれていく。これを飛ばしてきたのは、ルシルちゃんだ。彼女の鼻はよく利く為、山賊が逃げられるはずもない。例え隠れる場所が沢山ある森の中でも、だ。


「一丁上がり?」


 周りを見渡しても、粘着紐にかかっていない山賊はいない。というよりそんな人がいたらルシルちゃんに突っつかれている。

 さ、終わった。とこの囲っていた膜を消すと中にいた警備兵達が血相を変えて此方に寄ってきて。お怪我は!? と聞かれるけれど全然大丈夫です。何の為の私達なのでしょうかと気を沈ませている人達も少々。すみませんね。


「サマンサ、ジョシュ大丈夫?」

「お嬢様っ!!」


 ちょっと怖かっただろうか、けど私が怪我をしていないかきょろきょろと探している。ジョシュは私の手を握ってきて。心配させちゃってごめんね。


「さて、この人達をどうすればいいか……」

「王宮に連れていきましょうか」


 ここの山賊達は何度も強盗を繰り返し貴族達の間で困っていたらしい。なら、陛下に報告したほうがいいかも。

 さて、これはどう運ぶか……と思ったら、ルシルがこちらを見てきて。それから私達が通ってきたほうの道に視線を変えてきた。あ、何かの足音。人間のじゃなくて、魔鉱車でもない。


「……あっ」


 視界に入ってきて、あれは……ウルフだ。それにあの乗っている人達の服装……あまり見えないけれど、もしかして。


「騎士団?」

「あら、もしかしてこちらに来てくださる王宮騎士団でしょうか。ですが、到着は明日と……」


 うん、私もそう聞いたけれど……何だか、以前にもあった木がする。魔鉱車で明日到着するはずが今日到着って事か。……どこかに近道でもあるのかしら。


「……ギルバートさん!?」


 複数の騎士団さん達がこちらに近づいてきて。陛下、遣わしてくださったのは第二騎士団の皆さんでしたか。


「お久しぶりでございます、男爵様」

「はい、お久しぶりです」


 それで、如何いたしましたか。と、この現状に驚いているようで。けれど、何があったかは大体わかっているようだ。だって、山賊達がぐるぐる巻きにされているのだから。

 この山賊達は我々にお任せ下さいとのことで。思っていた通り、この山賊達は国の牢に放り入れられるそうだ。助かりました。


「驚きましたね、ここで山賊が出るとは」


 確かに、ここはモストワ領だ。あまり人が寄り付かない。狙うなら貴族様達がよく使う道をポイントにするはずなのに、どうしてここに?

 この件に関しては、第二騎士団の方で調べてみますとの事で。ありがとうございます。

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