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■60 毒殺
しおりを挟む領主ステファニーの弟子であるジョシュアは、偶に彼女の契約獣ルシルと夜寝る事がある。普段は主であるステファニーの寝台の枕の隣に腰を下ろしているのだ。
以前首都の王が作ってくださったあの家にいた頃は偶に3人でベッドに並んで眠っていた事があったそうだ。だが、此方に来て一緒に眠るのはやめにしようとなったらしい。その為、偶にルシルと一緒に寝ている。
そして、今日もルシルは弟子ジョシュアの寝室へ。彼女の寝室には主のみ。
そんな寝室に、声を潜めた女性が入ってきていた。入口には一人の女性が待機している。そしてもう一人が静かに入り彼女に近づく。女性の手には小さな小瓶。毒々しい紫色をした液体が入っている。
女性は、少し震える手で小瓶の蓋を開けて彼女の口に。口から零れないよう細心の注意を払い流し込む。そして、彼女の喉が動いた。これで任務は終了、長居は無用だと女性二人は静かにその場を去ったのだった。
だがしかし、彼女達は知らなかった。
そして、この液体を飲ませてこいと言い渡したあの男性達も。
朝。
食堂で、とある侍女1人は心の中で混乱していた。
この屋敷の主であるステファニーは、何事もなく朝食堂に現れたのだから。
そう、この侍女こそが昨日の夜寝室に忍び込んだ人物の1人なのだ。
いつも通り、ハウススチュワードであるスティーブンから今日の予定を聞きつつ朝ご飯を食べて隣の弟子たちと話をしていて。血色も良い、食欲もある。一体どういうことなのだろうか。
「一体どういう事よッッッ!!」
その日の夜、その犯人である女性は腹を立て言い渡した男性を怒鳴りつけていた。周りには、この作戦を練った仲間達、そしてその毒を仕入れた人物もこの報告を受け困惑していて。
昨日彼女が飲ませたあの液体は本当に毒だったのか、それしか思いつかなかった。何故失敗したのか、その理由を。
彼女達は知らなかったのだ、彼女には毒の耐性がある事を。
彼女が主に使う錬金術の素材は植物の種だ。植物の中には、かぶれ、怪我、有害な花粉、毒、麻痺など人間の身体に害を及ぼすものが数多くある。彼女の師匠であるヒューズ・モストワはこう言った。
『自分が錬金術で使う素材に振り回され殺されかけるのは実に滑稽だなぁ』
これは、丁度猛毒を持つと言われる植物の種に直接手で触れてしまい死ぬ直前でお師匠様に聖水をぶっかけられた時の言葉だ。
自身を馬鹿にしてきたその言葉のせいで、というよりお陰と言ったほうがいいか。彼女はこの750年間あらゆる植物の耐性を身に付けたのだ。あんな事を言われて頭に来ない訳ないだろう、と。まぁ、仕方のない事なのだけれども。
だから、そんじょそこらの毒では彼女は死なないのだ。むしろ耐性が付いて体が強くなるだけである。化物か、まぁそうなるけれどもっとハイレベルの化け物もいるのだ。お師匠様という名の化け物が。あと無慈悲。
「仕方ない、少々荒っぽくなるが」
「分かった、明日奴らに会ってくる」
我々には、生活がかかっているのだ。少々やり過ぎとは思っていてもここまでくれば手は引けない。
頼んだぞ、周りの皆がその言葉を掛けたのだった。
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