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■58 不思議な果物屋さん
しおりを挟む次の日、また街で人探しを始めた。
最近思い始めた。町の皆の顔が明るくなってきている、と。まぁ、中心都市だけだけれど。水問題を少しだけど一応は解決した。まぁこれからまた問題が出てくるかもしれないけれど。鍛冶屋は、これからではあるけれど今までより多くお金が入る。
けど、未だに職に就けていない人達はいる。そんな人達が働ける環境を作っていかなければ。……と言っても一番の課題は湿地帯なんだけどさ。
以前、調査で一度ちょっと奥まで入った。その時、何かを感じたんだ。これ以上は入ってはいけない、と思い引き返したけど。あれは一体、何だったのだろうか。
「……?」
ふと、とあるお店が目に入った。果物屋だ。その店員さんが、とある人物と似ていた。それは、昨日一緒に採取したあの男性だ。
けど、何だか違う。容姿は似ているけれど、マナの感じとか。まぁ昨日は夜で光魔法で照らすだけだったから私の思い違いであろう。
そんな時、目が合った。果物屋の男性とだ。疑っていると言ったような顔。見すぎてしまったのか、と反省しつつお店に近づいた。
「こんにちは」
「……いらっしゃい」
まだ、疑っている男性。おすすめは? と笑顔で聞いてみる。これ、これ、と教えてくれて。じゃあそれ全部1つずつ下さい。と彼に頼んだ。
かごは? と言われ、持ってませんと答える。そっか、紙袋ってないのか。「有料」と言われ金額を言われる。あぁ、ちょっと高いと言えば高い。だけど仕方ないか。
それからやはり素っ気なく無言で紙袋に果物を入れてくれる。「まいど」と渡してくれたのだった。
……思い違い、なのだろうか。ちょっと声似てたし。けど、性格は真逆だ。う~ん、わざと? なのかな。でも、何故? まぁ予想にしかならないけどさ。また、行ってみようかな。
今日も狩りをさせつつあの川辺に足を運んだ。ビルランカや、他の植物を採取する用もあったけれど、一番は、
「こんばんは」
「……こんばんは」
昨日会った男性に会うためだった。
私から話しかけ、雑談をしつつ昨日のことなどで聞きたかったらしい質問に答えた。
少しの会話で、この人は錬金術がとても好きなのだと感じた。どんな腕なのかは分からないけれど、きっと沢山練習して経験を積んでいるのだろう。そんな人に出会えてとても嬉しい。
けれど、私はここの領主ですって明かしたら果たしてどんな反応をするのだろうか。まだ領民の皆さんに良く思われていないだろうし……離れていってしまう? だけど、何だか嘘をついてしまっているように感じてちょっと嫌だし……でも言う勇気もない。こんな時って、一体どうしたらいいのだろうか。
でも結局言えなくて、今日もそのまま別れたのだった。
人付き合いというものはとても難しい、それが複雑になっていくと特に。
ん”~、錬金術方面だったら解決する糸口が分かるんだけどなぁ……
とある、閉め切った部屋にモストワ領の領民達が集まっていた。ほとんどが男性だ。その中には、村長などの村のまとめ役などもいる。そして、集まっている理由はこれだ。
「それで、どうする」
「屋敷には何人か潜り込ませた」
屋敷、とはこのモストワ領の領主、最近領主となったステファニー・モストワの屋敷だ。常時使用人の募集をしていた為、こちらの人物を送ったのだ。
「俺らは生活がかかってるんだ、あんな錬金術しか出来ない小娘なんかに良いように使われるなんて御免だ」
「そうだな、すぐにでも決行しよう。お前ら、分かってるな。ノックス」
「あぁ、もう言ってある」
「そうか、さっさと小娘には退場してもらおうか。……最後の手段を取る事になる前に。」
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