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■46 モストワ男爵
しおりを挟む私達が乗った魔鉱車が首都に到着した。
私の家の前で降ろしてもらい、すぐ近くにいるルナンさんのお店へ。ジョシュアを迎えに行った。
おかえり、そう言い出迎えてくれた。けど、変わったところが一つ。
「ししょー!」
「……ししょー?」
ジョシュアの、私に対する呼び方が変わっていたのだ。ルナンさんによると、アルさんのとある一言の影響らしい。
『ジョシュアって、ステファニーさんの弟子だろ? 師匠って事じゃないか』
そこから、その呼び方に変わったらしい。と言っても、中々私の名前を呼んでくれなかったのだけれどね。ま、いっか。ちょっと恥ずかしい所もあるけれど。
あと、マルギルさんのお店にもすぐに行った。途中で依頼放棄しちゃったからね。申し訳ない。
「なぁに、代わりにあの公爵様の部下が送ってくれたんだ。別に気にせんでいい」
「マルギルさん……ありがとうございます……!!」
「いいって事よ、報酬は半分だがな」
「え? 貰えるんですか?」
「何だぁ? それくらい当然だろ。本来の目的のソビエラ採取も出来たんだ」
「ありがとうございます、マルギルさん!!」
とりあえず、お店で大量購入させてもらった。お礼とまではいかないけれど。ありがとうございます、マルギルさん。
因みに、子供達は無事公爵邸へ。マギーさんとエマさんは、途中で降りたらしい。やっぱり、首都に居ちゃまずかったのか。
一体、どんな人達だったのだろか。気になるけれど、まぁいっか。
「それで、邸宅で何があったかってのは聞いていいやつか?」
「やっぱり何かあったって思いますか」
「あぁ」
「まぁ、色々ありましたからね。でも、公爵様が何とかしてくださったのでもう大丈夫だと思いますよ」
「……ほぉ」
「何です、その反応」
「いんやぁ~、何でもねぇよ」
「……」
その後、国王陛下に呼ばれ王太子殿下に貴賓室に呼ばれた。こんな所に呼ばれていいのだろうかとも思ったけれど、折角招いてもらったから大人しく座った。
「謝罪をさせてくれないか」
「いえ、謝罪する相手が違いますよ」
謝罪というのは、あの人攫いの件での子供達の事だろう。
子爵に保護させてくれと連れてかれ思惑に気付けなかった。公爵を向かわせていたけれど、そんな事になっていたとは思いもしてなかったらしい。
「これは、こちらの落ち度。彼らを保護したのはお主だ、謝罪するのは当たり前であろう」
「保護したのは、あのマギーと名乗った女性達と、公爵様です。私は何もしていませんよ」
「おや、公爵からの報告で子供達を守ってくれていたとあったのだが」
……公爵様。私何もしてませんよ。
「それでだ、お主にはあのドラグラド領を任せたいと思っているのだが」
「……え?」
今、何ておっしゃいました……?
「私に、でしょうか……?」
「これは公爵からの提案だ」
手を貸したいとは言ったけれど、そこまでは言っていませんよ……!?
「わ、私はただの錬金術師です。領地を管理するとなると、知識がありませんし、経験もありません」
「これから積めばよい、公爵も支援をすると言っていたからな。任せても良いと思っている」
「……」
私が、領地の管理だなんて……経験もないし知識なんてからっきし。やるとなると……猛勉強だ。
「やってくれるだろうか、デイム・ステファニー」
「……そう言われてしまうと、やる以外の選択肢がないじゃないですかぁ……!!」
「ハッハッハッ、そうだな。ではYESという事で良いのだな?」
「……微力ではありますが、手を尽くします」
「お主は過小評価しすぎだ」
思わぬ方向に進んでしまった。だけど、困っている人達が沢山いるんだ、私は一介の錬金術師ではあるけれど、手を貸さない手はない。
やるとなったら、生半可な気持ちでは務まらない。覚悟を決めよう。
「モノリア伯爵の偽装硬貨他偽装物品。奴隷商からの奴隷買収。レドンス領のモンスター騒動を解決。
そして、ドラグラド子爵の悪行を暴く際の助力に努めた。よって、デイム・ステファニーに桔梗勲章を授ける」
褒章式に呼ばれた私は、周りにいる貴族や官僚がいる中、王座の前に立つ。
綺麗な彫刻で描かれた桔梗の勲章の付いた、青のサッシュを掛けられた。
「そして、デイム・ステファニーに男爵の爵位、そして以前元ドラグラド子爵が管理していた領地を授けようではないか」
その言葉に周りがざわめく。男爵の爵位なんて聞いてないのですが。あ、領地を管理するって事はそうなるって事か。
「さて、領主が変わるという事は、領地の名を改名する事になる。だが、デイム・ステファニーには性がないからな。どうしたものか」
……どうしてだろう、嫌な予感がするのは。その陛下と殿下の顔。そして、殿下が最初に口を開いた。
「国王陛下、私に良い案があるのですが」
「ほぅ、申してみよ」
「今は亡き、デイム・ステファニーの錬金術の師匠であった方の性をお借りするのはどうでしょうか」
「……えっ」
「ほぅ、良い案ではないか。どうだ?」
「え、えぇと……それは、どういう……」
「他に案がないようだ、ではそれで決定しようではないか。頼んだぞ、ステファニー・モストワ男爵」
周りがどよめく中、私は混乱の渦に飲み込まれていた。
何故、
何故、
私の師匠の名を知っているのですか……?
「はっはっはっ。上手くやられてしまったではないか、モストワ卿」
「モルティアート侯爵様……」
「まさかあの第三の席の大賢者様が師匠だったとはな、納得してしまったよ」
「……お師匠様には到底及びませんよ、お師匠様には少し申し訳なく思っています……」
「そうだろうか、まぁこれからが楽しみではあるな。モストワ領には問題がありすぎる、力の見せ所だということだ。当然、こちらからも支援させてくれ」
「ありがとうございます」
あぁ、やることが沢山だ。けど、任せられたのなら全身全霊でやるのが当然。
「君は今日から男爵となったが、十字勲章に、今回の桔梗勲章、そしてモストワ大賢者様の弟子であるから、注目度が高い。何かあれば言ってくれ」
「感謝します、ありがとうございます」
モルティアート侯爵様との話の最中、私は侍女に話しかけられた。
「王がお待ちです」
そう、言われたのだ。
王宮の庭にいらっしゃると聞き急いで向かうと、聞いた通り陛下が庭の花を見ている様子が見えた。
「お待たせして申し訳ありません」
よいよい、とこちらに来るよう手招く陛下。
「さて、疑問があるようだが」
「……お聞きしてもよろしいでしょうか」
言ってみなさい、と許可を頂いた。
「何故、私の師匠の名を知っているのですか」
ニコリ、と微笑む陛下。そして、懐から何かを取り出したのだ。その手には、ボタンがあって。
「こ、れは……!?」
「ほぅ、覚えていたのか」
どこかで、どこかでこれを見たことが……あっ!?
慌てて、私は収納魔法陣を開き手を突っ込んだ。そして、とあるものを取り出す。
そう、それは……今陛下が手にしているものと、同じものを。
「ど、して……」
「おや、ちゃんとは覚えていなかったようだな」
__そして、王は話しだした。
それは、70年前の事だった。
当時8歳だった私は、母上達に連れられとある小国に出向いていた。その道中で迷子になり海に落ちたことがあった。
それを、とある少女が助けてくれたのだ。
「あ、ありがとう、ございます……」
「こんな所で何してるのよ。全く、こんな所で遊ぶから落っこちちゃうのよ。気をつけなさいね」
錬成でタオルを作り出して、私に掛けつつ注意をしてきた。こんなに怒ってくる人が周りにいなかった為、とても驚いた。
どこから来たのと聞かれたけれどわからないと答えた。けど多分ここで待ってれば執事のセバスが探しに来てくれると。
じゃあそのセバスが来るまで一緒にいてあげる、と私の隣に座り込み彼女はお喋りをしだした。
まぁ、半分愚痴だったな。お師匠様にあの崖に似たような場所で私を蹴り飛ばし落とされたことあるのよ、とか。凄いお師匠様だな、と少し恐ろしく感じた。
そして、使用人達の私を呼ぶ声が聞こえてきて。じゃあもう大丈夫ねと彼女が行ってしまいそうになっていた時、私は彼女の手を掴んだ。
「も、もう行ってしまうのか……?」
「え?」
彼女は、ここには旅の途中で寄ったらしくて、私達の国、サーペンテインに来てくれるかと聞くと、断られてしまった。
だから、自身が着ていた服のボタン。国の紋章が刻まれているこのボタンを渡した。
「返しに、来てくれ」
「これ?」
また会いたかった、だからこれを渡したんだ。
彼女は、笑顔で分かったと言ってくれて。
じゃあね、と去っていってしまったのだ。
「この歳でやぁっとお主にまた会えた。あの謁見で思い出してもらえなかったのは少し悲しかったがな」
す、みません……と謝ったが、もうこんな歳だったのだからよいよいと笑顔を返してくれた。
うん、そんな事あった、気がする。うん、あった。丁度海の中に入って採取してる最中に上から子供が落ちてきて。驚きつつ捕まえてルシルちゃんに引き上げてもらったんだ。
あんなに小さかった子供が、こんなに大きくなっていたなんて。しかも、王太子殿下、だったとは……
「またこうして会えて、嬉しく思うぞ。あの時は、本当に助かった。ありがとう」
「い、いえ」
この歳までだいぶ生きてはいるけれど、こんな事もあるものなのかとちょっと嬉しかった。
あの日助けた少年が、こんなに素敵な国の王様になっていたなんて。
「だから知ってたんですね、師匠がヒューズ・モストワだって」
「色々と愚痴っていたからな、いやでも覚えてしまった」
「……すみません」
「ククッ、よいよい。
お主にまた会える日を本当に楽しみにしていた。恥ずかしくないよう、勉強なども頑張った。この国の王となった時には、平和なこの国を見て欲しいと必死に努めたのだ。
どうだろうか、この国は」
「えぇ、とても素敵な国ですね」
「そうか、そうか。それは良かった」
とても、嬉しそうな陛下。それにつられて、私も自然と笑顔になっていて。
「デイム、そう畏まるのは変に感じるのではないのですか?」
……へっ!? 敬語!? い、いや、まぁあの日の少年が大きくなって今話をしているのは分かるけど……でもこの国の王であって、私なんて今日男爵になった訳だし……
「何とも不思議なものですな。どうですか、あの日より背も伸びて大きくなりましたよ」
まぁ確かに私より断然小さかった少年が今や私より頭一つ大きくなってしまっているわけで。幼さが無くなり、今はもうダンディなおじさまだ。特殊な私と違って普通の人間の成長とは速いものだ。
こんな体験は初めて。あまり人との関わりをしてこなかったのだ、当たり前だろう。何とも不思議な事だ。
「貴方がこの国で、一緒に民を支えてくれるのは、とても心強く思います。これからもよろしくお願いします」
「は、はい。
それより、何時まで私に敬語を使うおつもりですか~!」
そんな私の声に、陛下は笑って「命の恩人で年上の方ですから、ずっとですよ」と答えられてしまった。このままじゃ私の胃に穴が空いてしまいます!!
「よいではありませんか、今は私達しかいませんよ」
「そういう問題じゃありません!!」
だけど、陛下のその笑顔は、あの日の私が去る際に見せてきた笑顔に重なったように見えたのだった。
「サーペンテイン王国1の錬金術師は賢者である貴方だと今回の件で皆に知れ渡りました。爵位を与えられた件もあり問題事がきっとある。
ですから、何かあれば遠慮せず言って下さい。力になります」
知れ渡らせたのも、爵位を与えたのも王である貴方ですけどね。というツッコミに彼ははっはっはっと笑う。笑い事じゃない。
「では、よろしく頼みましたよ」
「はは、分かりました。お師匠様の名も借りてしまったし、全力を尽くします」
今回の件は、どうかあの地方の民を助けてほしいとの陛下の頼み。私としても、あの人達を助けたいと思っている。だから、何とか頑張ってみようかな。
それと同時に、こう思った。
私と、彼らとの進む時間は、こんなにも違うのだ、と__
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