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■43 ドラグラド子爵邸
しおりを挟むあれから、すぐに公爵と一緒に家に戻ることが出来た。落とされなくてほんと良かった。
物珍しそうなまなざしを向ける子供達。
驚きと、同じく珍しいものを見た顔をするマルギルさん。
そして……恐怖を感じている顔をしたマギーさんとエマさん。
お二人の反応を気にしながら説明をした。
「行き先は首都で構いませんか?」
「あ……」
「……」
首都じゃ駄目なの……? やっぱり訳ありか。
「残りたいのなら残ればいい、途中で降ろしてほしいならそうしよう。どうする」
「っ……」
貴族様? でもこんな所にいるという事は事情がある訳だし……家出? まぁ詮索はしない方がいいよね。
公爵家は、答えを聞かずにすぐに仲間のいる魔鉱車の方と合流してくると一言残し行ってしまった。
「おいおいおめぇさん、あの公爵様と知り合いか」
「はい。王宮で一度会っただけですけれど」
「ほぅ、それで俺らに手助けとはなぁ。いい貴族さんもいたもんだ」
「とてもいい人ですよね」
「惚れたか」
「いやまさか、公爵様ですよ?」
「憧れるってのもあんだろ?」
「それでも、その類は私はよく分からないので」
「何だい、その歳にしちゃあ冷めてんじゃねぇか」
まぁ、私貴方より何十倍も生きてますからねぇ。そんなのに興味を示さなかったし。というより、人との交流があまりなかったからね。
それからしばらくして、コンコンッ、と家の扉がノックされた。知らない男性の声だ。
皆に、隠れているように指示をして扉の方へ。
「デイム・ステファニー様でいらっしゃいますか」
「どなたですか」
武装した警備兵が2人。そして高そうな服装をした男性が1人か。やっぱりマルギルさんが言っていた通りになったな。
「王宮術師であるデイム・ステファニー様がいらっしゃるとは知らず申し訳ありません。ここの領主様が、デイムにお会いしたいとおっしゃっておりまして。どうぞ邸宅の方へいらしてください」
「……」
「勿論、お連れの方々も一緒で構いません」
マルギルさんも一緒、か。いや、巻き込むわけにはいかないな。でもまず、私は王宮術師ではありませんよと正した。間違われてしまったままでは王宮術師の皆さんが困ってしまうこともあるかもしれない。
「……分かりました。ですが、依頼主の方は別の仲間に任せますので私のみでお願いします」
「分かりました」
マギーさんやエマさん、マルギルさんがいるからこっちは大丈夫だよね。任せましたよ。
静かに扉を閉じて彼らが乗ってきた魔鉱車に乗り込んだ。エスコートは気付かないふりをした。別に私そんなに偉くないもん。
街の様子とは打って変わってとても豪華でお金がかかっているなと思わせられるお屋敷に連れてこられた。
入口の門からしてとても素晴らしい彫刻がしてある。まぁ、当然王宮とは比べ物にはならないけれど。
「初めまして、錬金術師ステファニーです」
「ドルード・ドラグラド子爵だ、よく来てくれた。君の話は聞いている。会えて嬉しいよ」
「ありがとうございます、お会いできて光栄です」
60代くらいの男性だろうか。着ている服、装飾品もとても豪華なものに見える。一体どこからそのお金が来ているのだろうか。聞いてみたいものだ。
「部屋を用意させた、君の為に夕食を用意しているからそれまで休んでいてくれ」
「ありがとうございます」
侍女に案内させよう、そう言われてついていこうとしていた時、後ろの大きな扉が開き慌てた様子の召使いさんが入ってきた。
「ア、アスタロト公爵様がお着きです!!」
「なっ!? 明日の予定では……!?」
……え? い、今ですか?
「申し訳ない、早く事が済んでしまい早く着いてしまいました」
つい数時間前に会った人がもうそこにいた。半日弱って言っていた気がしたのですが……今何時でしたっけ?
「先約がいたのですか、悪い事をしてしまいましたね」
「いっいえいえ!!」
「デイム・ステファニー、久しいな。ここで会えるとは思わなかった」
「オ、ヒサシブリデス……」
「ククッ、元気そうで何よりだ」
「お、お部屋へご案内いたします……!!」
ではまたな、と一言残され別れた。
まさかこうなるとは。
後でマギーさん達の事を聞いてみよう。
「わぁ、凄い」
連れてきてもらったお部屋はとっても高そうなものばかり。使ってもいいのだろうか。
つんつんっ、とベッドをつついたらすっごくふわふわしてる。とっても寝心地がよさそう。色々と疲れているから今すぐにでも寝たい。けれど、これからお夕飯が待ってるんだよね。我慢だ我慢。
「おや」
「あっ」
呼ばれて、着いていくとバッタリ公爵様と会った。丁度部屋を出た所だ。ここが公爵様のお部屋か。
「……」
「……?」
「こちらに来てくれ」
「え? あっ!?」
部屋に引っ張り入れられてしまった。えっ!? と、私を案内してくれていた侍女さんをぽつんと残して。
「それで行くのか」
「え?」
「レディは収納魔法陣を使えたな、ドレスは……あぁ、王宮に行く際の服は持っていないのか?」
「王宮の時の、ですか……『展開・収納魔法陣』」
とりあえず引っ張り出す。スプリンググリーンに、スカイブルーの2着。
やっぱり、この採取用の動きやすい服での食事は貴族様達との食事では失礼だったか。申し訳ない。
そして、スカイブルーの方を着るよう指示されて公爵様が出ていきすぐに着替えた。
「あぁ、それでいい。あとは、これだ」
ん?
彼は、プチっと飾られていた薔薇の葉を二つ千切った。と思ったら、懐から何か取り出したかと思うと……
「えっ!?」
取り出したものは、黒と赤で装飾された短い杖。まさか、
『陣よ、開け__________そして、構築せよ。錬成』
その声で葉っぱが錬成され、鮮やかなグリーンのリボンが形成された。
「失礼する」
「えっ!? あの、公爵様………」
私の聞きたいことが分かったらしい、秘密だと言っているように口に人差し指を当てていた。事情があるのかと理解して口をつぐんだ。
あれよあれよという間に髪が結い上げられてしまっていた。公爵様ってこんな事も出来るんだと感心してしまっていたら、行くぞと手を引かれてしまった。
お部屋に入った時と変わっていた事に吃驚した侍女さん達には何も言わずに連れていってもらったのだ。
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