42 / 110
■41 あの日の子供達
しおりを挟む建物の中は、外から見たよりも脆くなっている所が何ヶ所か見えた。こんなに子供達がいるからちょっと危ないな。
そして、長いテーブルのある部屋へ招かれた。どうぞ、とイスに座るよう促されて。エマと名乗った、マルギルさんよりちょっと若い女性の方がお茶を出してくださった。
「あの、実はここにいる子達は私達とは全く血の繋がりのない子達なのです」
「拾われた、と聞きました」
「えぇ。……貴方方は、この領地の現状を知っていますか」
現状。さっき聞いた通りだろうか。
「この領地は、納めなければならない税金が高すぎて皆生まれた子供を報告せずに捨ててしまう事が多いのです。ここにいる子達の何人かがそれです。後は、領主がどこからか連れてきて捨てたと思われます」
「……」
「ひでぇ事すんだな、今の領主様ってのは」
「町の様子を見ればわかります」
「ま、一目瞭然だな」
「……お願いです。どうか、ここの事は言わないで欲しいのです。この家の事も、子供達の事も」
成程、バレてしまえばこの子達の分の税金を払わされてしまう。ここの建物からしてもお金がない事は分かる。けど、どうして食べていけているのだろうか。税金を納めていないにしても、食料や水、衣服と掛かるものは沢山ある。こんなに人数がいるんだ、結構かかるだろうに。
「分かりました、お約束しますよ」
「ありがとうございます……!」
見たところ、冒険者のようには見えない。まるでお嬢様のような、か弱そうな人に見える。他に支援者がいるのだろうか。
外が暗くなってきていて、今日はどうぞ泊っていってくださいと誘われたのでお誘いに甘えた。
ルシルに乗って帰るのは嫌だと言われてしまったから魔鉱車を捕まえなければいけないけれど、こんな時間じゃ魔鉱車はない。助かった。
「おねーちゃん あのときのみせて!!」
「え、あの時??」
「てつのぼうけしちゃったやつ!」
「きれーな、まるいのでたでしょ?」
「あぁ、陣の事かな」
「じん?」
「そう、錬金術って言うんだけれど……ほら、『展開』」
手に出現させた陣を凝視しては目をキラキラさせてくる。何とも珍しいものを見て好奇心が湧いているのだろうか。
あの双子の女の子達以外にも他の子供達が集まってきて、違うのもやって! とねだられて。収納魔法陣から材料を出した。何もない所から物を出したものだから、子供達は、わぁぁ!! と拍手までしてきた。やっぱり、錬金術を知らない人からすると不思議な事に見えるのかな。
「ほーら、あったかい毛布だよ。どうぞ」
「わー!」
「どこからだしたの!?」
「錬成で作ったんだよ、一人ずつ持っていっていいよ」
「もらっていいの!?」
「その為に作ったんだよ」
「わーい!!」
「ありがと! おねーちゃん!!」
何だか、ジョシュアを見ているようだ。ジョシュより少し下の歳だもんね。何か、嬉しいな。とっても健気で、無邪気で、素直で。そんな子達が、捨てられてしまったのだと思うと……とても心が痛い。
「人気者じゃねぇか、錬金術師さんよ」
「喜んでくれる事をするのは、とっても嬉しいですから」
「まぁそんなもんだろ。
……何考えてんだ、おめぇさんよ。手ぇ出していい所といけねぇ所の区別くらい出来んだろ」
「まぁ、そうですけど」
けれど、こんな現状を知ってしまうと、思う所はある。あのパンのお店の女性は、生まれ故郷だからこんな土地でも離れられないんだよねぇ。と言っていた。
「ねーねーおねーさん! もっとみせてー!」
「うん、ちょっと待ってね」
「おい」
「分かってますよ。じゃあマルギルさん、おやすみなさい」
「……おう」
知らないふりなんて、出来ないんだよなぁ……
湿地帯は、人間にとって暮らしを豊かにしてくれる場所だ。
生活や農業にも使える水もあり、錬成に必要な木や植物なども沢山ある。
〝モンスターさえいなければ〟
8
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
目の前で不細工だと王子に笑われ婚約破棄されました。余りに腹が立ったのでその場で王子を殴ったら、それ以来王子に復縁を迫られて困っています
榊与一
恋愛
ある日侯爵令嬢カルボ・ナーラは、顔も見た事も無い第一王子ペペロン・チーノの婚約者に指名される。所謂政略結婚だ。
そして運命のあの日。
初顔合わせの日に目の前で王子にブス呼ばわりされ、婚約破棄を言い渡された。
余りのショックにパニックになった私は思わず王子の顔面にグーパン。
何故か王子はその一撃にいたく感動し、破棄の事は忘れて私に是非結婚して欲しいと迫って来る様になる。
打ち所が悪くておかしくなったのか?
それとも何かの陰謀?
はたまた天性のドMなのか?
これはグーパンから始まる恋物語である。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる