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■40 湿地帯

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 ドラグラド地方の湿地帯に足を踏み込んだ。

 とてもじゃないけれど、一般人が足を踏み込んではいけないと分かるほどの場所だ。入った瞬間にモンスターに遭遇してしまうほどのモンスターの多さ。直ぐに倒したけれど、気を抜いてはいけない場所である。

 それに空気も悪く、足場が悪い。気を抜けば、冠水された水の中へ真っ逆さまだ。絶対に落ちないでくださいね、マルギルさん。


「うわぁ、凄い匂いですね」

「モンスターで汚染されてんだ、あたりめぇだろ」

「それはそうですけど……」

「おら、さっさとソビエラ探すぞ」

「はぁーい」


 今回の目的である〝ソビエラ〟とは、青い花びらの植物である。池に生息していて、地下茎から長い茎を伸ばし水面に葉や花を浮かべる植物だ。

 浮かぶ花の丁度下の部分に膨らんでいる部分があり、そこに液体が溜まっている。その液体は、生地を作る時に重要となってくるものだ。恐らく、仕立て屋に依頼が来たのだろう。


「〝モニアトの蜜〟があったら万々歳だなぁ」

「そうなんですか?」

「なんだい、知らないのか」

「知ってますけど、そんなに珍しい物なんですか?」

「そうだな、希少価値が高いせいで結構高値で売れちまうくらいだ」

「へぇ、じゃあもし大量に見つかったら大金持ちですね」

「馬鹿か、そんな事になりゃ狙われちまうに決まってんだろ。周りにゃ人間っちゅう名の金の亡者でわんさかなんだからよ」

「言い方酷くないですか?」


 その言い方だと私達も入っちゃう気がするのですが。

 金の亡者か。ついさっき聞いたここの領主も、その金の亡者らしいけど。私は、お金とかあまり気にした事なかったな。お金の価値だなんてものはここに来てちゃんと知ったくらいだし。


「あぁ、そういや今日はあの坊主どうしてんだ。今日遅れたのあの坊主のせいだろ」

「友人に預かってもらってます。朝、着いていくって聞かなくて」

「苦労してんじゃぁねぇか。まぁ、あの歳の坊主は難しい年頃だかんな。おめえさんだってあーゆう年頃ん時があったろ」

「あー、はい、そう、ですね……」


 何百年も前の話だけどね。全っ然覚えてないよ。


「あのくらいの子の接し方が分からないんですよね……一応錬金術を教えてはいるんですけれど、これで合ってるのかなって」

「なぁに、そんなに悩んでんのはそれだけあいつを思ってやってるって事じゃねぇか」

「まぁ……」

「んなら、そのまま愛情を注いでやれればいいだけだろ。弟子なら駄目なものは駄目、いい事は目いっぱい褒めてやりゃあいい。あとは自分で成長するもんだ」

「なるほど、参考になりました」


 いつもは口が悪いのに、こういう時にはちゃんと助言してくれるのよね。ありがとうございます。

 何となく、ジョシュアとの向き合い方が分かった気がした。


「おい、ありゃマンドラゴラじゃねぇか」

「わぁお。採取するつもりですか」

「したいのは山々だが、何も準備してねぇかんな。鼓膜がやられんのは勘弁だ」


 マンドラゴラとは、地面に埋まっている野菜のようなモンスターである。引っこ抜くと、叫ばれて鼓膜がやられてしまうのだ。以前私も間違えて引っこ抜いてしまった時鼓膜が破れて最高級HPポーションを使わされてしまった。


「じゃあ________『展開』」


 収納魔法陣から〝ルマンドワールの種〟を取り出す。そして土魔法を合わせた。

 こいつは、眠らせた方が手っ取り早い。


「睡眠薬の粉、これで鼓膜やられませんよ」

「ほほぉ。前にも見たが、やっぱり凄腕錬金術師は腕が違うなぁ」

「それ、褒めてます?」

「安心しろ、誉め言葉だ」


 という事で、マンドラゴラ採取完了。



 それから、無事お目当てだったソビエラも採取完了し湿地帯を後にした。

 帰りは絶対グリフォンには乗らんぞと言い張るものだから、魔鉱車がある所までルシルに運んでもらおうかな。

 そう思ってはいるものの、あの町が気になって気になって仕方がない。


「……あら?」


「あれ?」



 来る時に通った町。

 そこに、見たことのある子達がいた。

 双子の女の子だ。


「どうしたぁ? そいつらは」

「あ、あぁ。以前、助けてあげたことがあって」


 そう、あの人攫い事件の時、牢屋に入れられていた人達の内の二人。鉄格子を取っ払った際に、最初に出てきてくれた二人だ。

 保護されたって言っていたけれど、こんな所にいたなんて。


「おねーちゃん、このまえたすけてくれてありがと」

「ありがとー」

「うん、今はどこにいるの?」

「えっとね、マギーさまのところにいるの」

「マギー様?」

「そう、わたしたちひろってくれたの」

「みんなそうだよ」

「皆?」


 拾ってくれた? 国が保護してくれたはずなのに……?

 きてー! そう言いながら私の手を引っ張ってくる。

 マルギルさんに視線を向けたら、構わないぞと言った顔をしてくれた為着いていく事にした。



 辿り着いたのは、私の家と同じくらいの大きさの建物。所々壊れている。その庭に、この子達と同じような年頃の子供達が走り回っていた。結構いるな。

 その中に、双子同様見たことのある子達が複数いる。同じく人攫いで捕まっていた子共達だ。

 一体、どういう事……?


「こっちこっち!」

「えっ私入っていいの!?」



「テレサ、パメラ、やっと帰って……」



 建物から出てきたのは、17.18くらいの女性。私を見るなりとても驚いていた。


「マギーさま!」

「あっ……」


 少女が、マギーと呼んだからこの人が拾ってもらったって言うマギー様という事なのだろう。

 だけど、マズいっと言ったような顔をしている。

 名前、知られたくなかったのだろうか。


「まえにたすけてくれたひとなの!」

「助けてくれた……?」

「そう!」

「あのね、あのね、わたしたちがつかまってたとき!」

「てつのぼうがきえてね、だしてくれたの!」


 鉄の棒……鉄格子の事だろう。確かに錬成で発光草を作り出したな。


「あの、こんにちは。錬金術師のステファニーと言います。こちらは首都でお店を開いている、マルギルさん」

「おう、マルギルだ」

「え、えぇと、マギーです。あの、とりあえず中へ」

「あ、はい」


 このまま立ち去ろうと思っていたけれど、中に招かれてしまった。


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