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■37 初めてのお客様

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 今日はお客さんがこれから来訪することになっている。その人物とは、


「こんにちは、ダルベルトさん」

「こんにちは、ステファニーさん」

「どうぞ入ってください」

「お邪魔します」


 そう、ダルベルトさんだ。この家に人を呼ぶのは初めてかな? そして呼んだ理由、それは……


「完成しましたよ、これです!」


 以前約束していた、暖房魔鉱石が完成したのだ。

 両手で持てるくらいの大きさで、中心がとても鮮やかな赤になっている。


「ここに手で触れると発動します、止める時も同じ場所に触れてください」

「分かりました。……おぉ、とても暖かいですね。これなら部屋中が温まりそうです。この中に火魔法が込められているのですね」

「そうなんです。4ヶ月くらいは持つと思うのですが、何かあったら言ってください」

「分かりました、ありがとうございます。有難く使わせていただきますね」


 実は、自宅の暖炉にも置いてある。試作品ではあるけれど。あ、ダルベルトさんに渡すのはちゃんとしたものだから安心してください。


「お礼と言っては何ですが、こちらをどうぞ」


 渡されたのは、中くらいの箱。中を開けてみたら、暖かそうなコートだった。


「えぇと、ステファニーさんの好みは分からなかったのですが……どうでしょうか。あ、ちゃんと暖かい保温性のある生地のものを選んだので普通のコートより暖かいと思います」

「わぁ、とっても嬉しいです! 色も気に入りました!」

「良かった……!」


 ふふっ、ここに来てからこういうプレゼントは初めてでとっても嬉しい。もう肌寒い季節だからすぐに使える。嬉しいなぁ!


「皆も、お礼に何がいいか聞いてくるように言われました。何がいいでしょうか?」

「大丈夫ですよ、お気持ちだけで」

「うーん、でしたらこれから何かあればお力になりますので、何でも言ってくださいね」

「分かりました、ありがとうございます」


 そんな時、部屋のドアからちらっと顔をのぞかせている少年、ジョシュアだ。


「こんにちは」

「ジョシュ、おいで」


 ぱぁ! っと喜びながら速足で入ってきた。ダルベルトさんとは顔見知りだからだろうか、王宮の侍女さん達に見せた様子ではない。


「挨拶」

「こ、んにちは」

「久しぶりだね、ギルバート・ダルベルトだ」

「ジョシュア、です」


 うんうん、よくできました。


「君の分のコートも用意すればよかったかな、ごめんよ」


 首を横に振る彼。あ、でもまだ頭を撫でさせてはもらえないらしい。

 そんな時、


 ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるる。


 おっと、何の音だろうか。

 これは、ジョシュアのお腹の音だな。


「ははっ、お腹が空いたのか」


 真っ赤な顔をするジョシュア。ごめんね、お腹が空いてるって気が付いてあげられなくて。


「えぇと……食事、まだですか? 良ければご一緒しませんか?」

「僕はまだですが、いいんですか?」

「はい、どこがいいでしょうか」

「……ん?」

「あ、えぇと……実は、お恥ずかしながら、料理が出来なくて、ですね……」

「あぁ、なるほど。でしたら僕が作りましょうか」

「……え?」

「どうでしょうか」

「いいん、ですか?」

「えぇ、任務で野営する際に作ったりしますから。味は保証できませんが、どうでしょうか?」

「ありがとうございます!」



 この家には、一応キッチンはある。けれど、異常に綺麗。それもそうだ、あまり使ってないんだから。


「一つ一つの作業は何とか出来るのですが、知らない食材ばかりでして……」


 フレッシュで食べれるものはカットして食べてはいたけれど、それ以上は難しくて出来ていなかったのだ。まぁ、カットと言っても風魔法を使っていたのだけれどね。


「ここに来てあまり日は経っていないと聞きました、良ければ僕がお教えしましょうか?」

「いいんですか? お仕事忙しいのでは?」

「そこら辺は大丈夫ですのでご心配なく」

「ありがとうございます!」


 という事で、食材を買い込んでからの料理をしてくれて。とりあえず、美味しかった。これがルナンさんの言っていた女子力の差というものなのか。

 果たして、私はお嫁に行けるのかしら。まぁ、今は行く気はないが。


「何時でも言ってくださいね、お作りしますから」

「ありがとうございました!」


 ジョシュアも胃袋を鷲掴みされたみたいだ、目をキラキラさせていた。

 では、と一言残して帰っていったギルバートさんだった。

 あ、最後にお願いされたのだ。名前で呼んで欲しいと。あの人の名前はギルバート・ダルベルトさんだからね。

 そんなのお安い御用だ。


「私も頑張ってみようかな、料理」


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