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■29 王宮
しおりを挟む暖かい。
身体の中を、私に蓄積されたマナが巡っていっている。
そして、身体の中心に一際暖かいものが存在している。
これは身体にとって一番重要な臓器であり、私の内部にあるマナの宿る場所。
それは、とても心地よくトクンッ…トクンッ…と音を立てる。
頬が、くすぐったい。
それによって、今まで私の意識が沈んでいた事に気が付かされる。
そして、意識を浮上させ目を開こうと……
「……ふえっくちんっ!!」
頬には、茶色い毛並みがすり寄っている。
これは、
「ルシル!?」
仏頂面のルシルが、私が眠っていたベッドの枕に寄り添うように腰を下ろしていた。
一体、ここは……
「れっ錬金術師様!?」
「気が付かれましたか!?」
ベッドにカーテンがされていて、その向こう側から慌てたような声と足音。
失礼します! と シャーっと音を立てて入ってきた。
「お加減いかがですか、錬金術師様」
白い服を着た男性と、同じく白い服を着た女性が二人。
「どこか、頭痛などはございませんか?」
「あ、はい、大丈夫です。あの、ここは?」
「あぁ、ここは王宮医務室ですよ」
「……えっ」
えぇと、森に埋め込まれていた水晶を封じ込めて空気中の毒素も処理してから……あれ、記憶がないぞ?
「討伐に向かわれていた第二騎士団が血相を変えて一直線にここへ錬金術師様を運んできたのですよ」
「も、しわけありません………」
そうだ、血を吐いちゃったんだっけ。吃驚させちゃったのか。あそこ、首都から離れれたのに、申し訳ない。
「マナを一度に沢山お使いになられた為だと思われます」
「はい、あんなに大量にマナを放出したのはだいぶ久しぶりだったので、身体が吃驚したんだと思います」
詠唱まで使う羽目になるとは思ってもみなかったからねぇ。大体半分くらいか。ごっそり持ってかれた。
一気に流すマナの量が多すぎたという事だ。普段はそういったことがなかったから、経路やらが驚いて亀裂が入ったと言ったところか。
今はもう、その亀裂は回復済みだから大丈夫。
これを今は亡きお師匠様が知ったらどんな反応をしただろうか。
「……喝を入れられるな、確実に」
蹴り飛ばされる可能性もある。あぁ、恐ろしい。
「え?」
「あ、いえいえ何でもないですよ。もう元気なので私はこれで失礼しますね。ありがとうございました」
「今お目覚めになられたのですからまだお休みになさってください!!」
「え、でも、ベッドを一つ使ってしまうのは……」
「なら、違う部屋を用意しよう」
「「「「えっ……!?」」」」
いきなり違う声が扉の方からしてきて、私達は揃ってそちら側を凝視。
「おっ王太子殿下ッ!?」
「でっ殿下!? 何故こちらに……!?」
「報告を受けてな、ちょうど目覚めたところでよかった。大事ないか」
「あ、はい……」
え、わざわざここに……?
頭にはてなを浮かせていたら、ベッドの隣にあった椅子に腰をかけてしまった王太子殿下。
「報告は聞いた。よくやったな、助かったよ」
「あ、いえ……」
「モンスターを狂わせていた水晶は、今は君が所持していると聞いたのだが」
「あ、はい。収納魔法陣にあります。……殿下?」
収納魔法陣を開こうとしたら、右腕を掴まれてしまった。
「倒れたんだ、後にしよう。無理はさせたくはない。ただ、君が保管していることを確認したかっただけだ。報告は後でいい」
「は、い……」
いや、もう回復しきって完全復活してるんだけれど。いいのかな?
ではまた、と言い残して出ていった。お忙しいのに、わざわざ来てくださるなんて。呼べば行くのに。
それから、複数の足音が聞こえてきた。
それはどんどん大きくなってきて、コンコンッとこの部屋のドアをノックしてきた。
返事をすると、入ってきたのは……
「「「錬金術師様!!」」」
「えっ……」
「目を覚まされたとお聞きして……」
「お元気そうで安心しました!」
まさか来てくださるなんて思いもしなかった為に口が塞がらなかった。
よく見たらアルさん含め何人かは泣きそうな顔をしている。あぁ、申し訳ない。
「あの、すみませんでした。運んでくださりありがとうございます」
「いえいえ! そんな!」
「あの、皆さんお忙しいのでは……?」
「休憩時間ですのでご心配なく!!」
いやいやいや、休憩時間は休むための時間ですよ?
それから、本当にお部屋を用意されそうだったので丁重に断らせてもらった。
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