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■27 A級指定依頼
しおりを挟む「指定依頼、ですか」
「はい、ステファニーさんにと」
いつも通りギルドの依頼を受けようと思い依頼ボードを眺めている時、声を掛けられた。マルギルさんかな? そう思ったが、違うらしい。聞いた事のない名前が書かれていた。
「モノリア伯爵、ですか……」
「はい、少し遠くの南部にある領地の領主様です。今は首都に来ていらっしゃるようですね、直接納品となっていますよ」
「分かりました」
「ですが……少し問題があって。依頼がA級のものなんです」
今の私はC級、だからまだB級までの依頼しか受けることが出来ない。
「ですが、向こうは貴族様でいらっしゃいまして……断ることが出来なかったんです。申し訳ございません……」
「大丈夫ですよ。ちょっと難しい依頼ですけど、何とかいけそうです」
「お気をつけて」
「ありがとうございます」
さて、依頼はマグリア鉱石。これは、特定の場所でしか採取は不可能。その場所は……
「わぁ、結構深い崖だなぁ……」
フレヤ渓谷の崖。
ここまで来るのに結構遠かったけれど、ルシルの背に乗って短時間で来ることが出来た。
それに、この深い崖。A級となっていたのが頷けるけど、ルシルちゃんのお陰で問題なしだ。
採取を始めて、カンッカンッと鳴る音に反応したモンスターがいた。
「これは……蜘蛛ね。ラードアスパイダー」
私の背の2倍くらいの大きな蜘蛛。前方に生えている鋭い二本の太い脚と吐き出す毒性の糸がとても厄介なモンスターだ。
「え? ルシルちゃんやってくれるの?」
とてもやる気満々の彼女が、こちらを向いていて。それならお願いしようかな。
私はすぐに風魔法を展開、彼女の背から降りると彼女は火魔法を展開した。
魔法を使えるモンスターは、高等のモンスターのみ。彼女はそれにあたる。けれど、それはあくまで一つの属性だけだ。
だけど、私の聖獣となった為にもう一つの属性の魔法を使うことが出来るようになった。
そう、彼女が使えるのは雷魔法と火魔法なのである。
彼女は、毒蜘蛛が放った毒の糸を避け、火魔法で炎を放ち一撃で仕留めた。
「ちょっと、丸焦げじゃない。え? 中まで火は通ってない?」
まぁ、許そう。後で解体しようかな。そう思いながら収納魔法陣に仕舞い込んだ。
採取も終わったし、すぐに帰ろう。
帰りは、違うルートを通る事にした。ダルベルトさんのあの言葉に引っ掛かったからだ。
上級モンスターが異常なくらい増えている。
「……甘い匂いが、する」
ルシルも気が付いたらしい。というより、よく見てみると顔色が優れない。
「大丈夫……?」
駄目らしい、ゆっくりと地に降り私は直ぐに彼女の背から降りた。
『展開_____聖水』
すぐに飲ませたら、少しは楽になったらしい。だけど、その場しのぎであった為に着ていた外套のフードに入れた。
幸いなことに、ここは歩きで数時間で戻れるくらいの場所。
そんな時、物音がした。固いものと、金属がぶつかる音。私はすぐにその音のする方へ急いだ。
「……第二騎士団様!?」
アルさんと、ダルベルトさん、他にも見かけた事のある方々が武器を持ちモンスターと戦っていた。
数が多く、一際大きなゴーレムが二匹。苦戦しているようだ。
〝カヴェアの種〟
『Creare』
『鉄縄』
足元に出現させてゴーレムを縛り上げた。
「れっ錬金術師様!?」
「何故こんな所にッ!?」
聞きたいことは沢山あるだろうけれど、今はそんな事をしている暇はないと理解した騎士団の皆さんは、締め上げたモンスター達を確実に倒していく。
それにしても、数が多い。
ここら一帯に集まってくるなんて。やっぱりおかしい。
そして、終わったらしいゴーレムが倒れる地響きが鳴った。
「な、何故こんな所に……? ステファ、あっいえっ錬金術師様……」
「慣れているならそちらで構いませんよ、アルさん」
こっちで慣れてしまったらしい、けど今は公務中だからと錬金術師様になってしまった。
「採取の帰りだったんです。あの、これ聞いてもいいですか」
「ここら一帯のモンスターの事ですよね」
後から来た皆さんも怪我してない。良かった。
「数日前からです。ここら一帯のモンスターが暴れ出しているという報告があり我々が調査に来たのですが、ウルフ達が森に入りたがらなかったのです。何かあると思い調査を開始したのですが、移動手段にウルフが使えず、調査中もモンスターが集まってきてしまって難航している状態です」
「先程調査したところ、E~C級までのモンスターが見当たらなかったのです」
「……共食い」
「恐らく」
じゃあ、何故?
この森に入ってから感じた、この甘い匂い。
これで、ルシルは調子が悪くなった。それに、騎士団の皆さんのウルフ達も入りたがらないと聞いた。
もしかして……
「調査している最中に、何か鉱石か何か見つけませんでした??」
「鉱石、ですか……」
「見当たらなかったと思われます。ここらの森は鉱物は取れないですから……」
「錬金術師様!」
いきなり手を上げた騎士団の団員。
「おいっ!」
「あっ……申し訳ありません……」
「あ、いえいえ。それで?」
「鉱物ではないのですが、水晶なら見ました」
「水晶……」
「あぁ、俺、あ、私も見ました。半分が地面に埋まっていて」
「案内してください」
案内してくださったのは、先程の場所と差ほど離れていない場所で。けれど、この甘ったるい匂いが強くなっている場所だった。
辿り着くまでモンスターには出くわしたが、だいぶ暴れまわっていた。まぁ、騎士団の皆さんが対応してくださって助かったが。
危ないなと思いあの場所に残る事になった団員の一人にルシルを頼みここに来たけれど、正解だったね。
「これ、ですか……」
「どうでしょうか……?」
「恐らく原因はこれでしょうね、見つけてくださってありがとうございます」
「お役に立てて光栄です!」
さて、これは一体どんな仕組みになっているのだろうか。
とりあえず、ここら一帯を隔離しよう。そう思い収納魔法陣を展開した。
「あの、お願いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「何なりとお申し付けください」
「すみません、ありがとうございます。でしたら、これを」
渡したのは、袋。この中には、
「水晶石、でしょうか……?」
「そうです、これを、ここら一帯の外側の四方に埋めてほしいのです」
「結界、でしょうか」
「それもあります。けど一番は範囲の一番外側を把握する為です」
ルシルちゃんの背にのり移動していた時にこの森の大きさは把握した。これくらい範囲が広いと、端がどこなのかをここからじゃ把握するのは難しい。だからこそ、これが必要になってくるのだ。
「それらを埋め込んだら、ここから離脱してください」
「っ!?」
まだ、ここにはモンスターが沢山いる。ここは特にこの香りが強い為に一番危険だ。
「私は残ります」
「えっ……」
言い出したのは、ダルベルトさん。
皆は行け、と命じている。
「いえ、でも……」
「ここには、まだモンスターが残っています。貴方の聖獣がいない今、処理をしている間無防備となってしまいます」
「結界を張れば大丈夫ですよ」
「モンスターに気を取られてしまえば作業が滞ってしまいます」
「……」
「私が、剣となり盾となりましょう」
剣と盾……
「凄いこと言いますね」
「そうですか? 男としては当たり前でしょう」
凄く、眩しい……ルナンさんの言葉を借りると、これだから美男子は。というやつか。
「……これは、断っても駄目そうですね?」
「はい、ステファニーさん」
「今、それはずるくないですか……?」
「はいっ!! はいっ!! 僕も残ります!!」
「……アルさんもですか」
「団長だけずるいですよ!! 俺らも活躍させてください!!!」
「そうだそうだ!!」
アルさんに続いて騎士団の皆さんが便乗してくる。え、さっき言った私の言葉は一体どこへ行った……??
「という事ですが、どういたしますか、ステファニーさん?」
「……無茶は、しないでくださいね」
「はい」
「はいっ!」
「はいっ!」
おぅ、いい返事だ。
けど、凄く心強い。
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