大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫

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■26 お茶会

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 あれから数日後、殿下との約束だったお茶会の為に王宮に赴いていた。

 殿下からの報告によると、商会には大量の偽装白金貨が発見された。商会の会長はそれを聞き青ざめていたらしい。

 だが、商会は色々な所と取引をしていて一体どこから流れ込んできたのかがまだ分からないでいる。


「……まさか、こうなるとはな。助かったよ」

「いえ、ですが大事に至らなくて安心しました」


 ここ、サーペンテイン王国は偽装硬貨は固く禁じられている。まぁ、当たり前だ。

 だから、もし犯人が見つかったら重い刑で罰せられるだろう。

 早く解決してくれるといいんだけど……


「……それで、殿下」

「ん?」

「最近、殿下に関する噂を聞いたんです」

「ほぅ、どんな?」


 その笑顔は、分かっているな。


「婚約者のいない王太子殿下が、最近頻繁に招いてお茶をしているご令嬢がいるらしくて、もしかしたらその方が婚約者に選ばれるのではないかと」

「ほぅ、興味を引く噂だな」

「……図りました?」

「さぁ?」

「殿下!」

「ククッ、悪かったよ」


 ほらやっぱり! 可笑しいと思ったんだ、ご多忙な殿下がわざわざ私の為に何度もお茶の時間を空けて下さるなんて!


「黙っていてすまないな。だが、こちらにも事情というものがあるんだ」

「事情、ですか……」

「君も言っていただろう、王宮に貴族令嬢の出入りが多くなったと。私もそろそろ婚約者を決めなければいけない為、文官やら貴族のやつらが煩くてね。それに、とある令嬢の態度に困っていてな」


 とある、というのは候爵家の令嬢らしくて、勝手に王太子殿下の婚約者気取りをしているらしい。本人である殿下は全くその気はないらしくて。それは、大変ですね。


「公務中に休憩を取ろうにもその時間を狙って押しかけられては敵わないからな」


 成程、私を使って休憩時間を作っていたわけか。でも、私が来ないと休憩できないって……お疲れ様です。


「君には感謝しているよ。そのお陰で周りが少しだが静かになったし、令嬢の矛先が名前の知らぬご令嬢になったからな。だが、君は貴族ではないから君自身には悪影響はない。それに君としても私と情報交換ができているから、得だと思っているのだが」

「……そ、ですね」

「勝手にしてしまったことは謝ろう。だが、このまま続けてくれると助かる」

「……殿下のお力になれるのでしたら」

「あぁ、ありがとう」


 やっぱり、この親子は策士だ。


「何だったら、このまま婚約者になってくれても良いのだが?」

「でっ殿下!?」

「私はそれでも構わないぞ?」

「ご、ご冗談を……」

「ククッ」


 なんてことを言い出すんだ、この人は……そんな事になったら大問題だ。
















 賢者ステファニーとのお茶会がお開きになり、フレデリック王太子殿下は自室の執務室へ足を向けていた。


「無事、魔鉱車に乗られお見送りいたしました。殿下」

「ついさっきターメリット侯爵令嬢を見かけたが、見つかってはないな」

「はい」

「そうか」

「それと、つい先程王宮騎士団から報告書が」

「2日前のゴーレム討伐か」

「恐らく」


 4日前に、ゴーレムが2匹発見された。

 普段は好戦的ではないモンスターのはずだが、様子がおかしく、まるで興奮しきったように暴れていると報告が上がった。

 場所が場所なだけに、早急に処理しなければならないと騎士団を要請した。

 何か、引っ掛かる。

 まるで、あの時の瘴気のようだ。

 だが、報告ではそんなものは無かったとあった。

 これは、デイムに相談すべきだったな。次に訪れるのは3日後だったか。


「……!?」


 向こうから、足音が聞こえてくる。カツカツとヒールの音を鳴らした音だ。これは、見なくても分かる。

 くるっと向きを変え、本来なら左に行くべき曲がり角を右に。


「殿下」

「何、今日中に片をつけるべきものが山程あるからな。構ってられない」

「分かりました」


 この大陸には、大きな国は3つ。我が国と、スピネル帝国、ヘリオドール王国だ。その三国は、隣接した位置にある。

 そして、スピネル帝国には大賢者様が2名、そしてヘリオドール王国には1名いる。

 だがこの国には、1人もいない。2国とは和親を組んではいるが、それは表面上。錬金術に必要な素材が豊富なこの国を乗っ取ろうと思えば簡単にできてしまう。


「賢者か……」


 ウガルルムを一人で倒し、奴隷の件も、モルティアート侯爵領の疫病事件の件も、彼女が解決した。そして、あの北の森の浄化は彼女がしたことだと私は踏んでいる。

 随分前にお亡くなりになられた第三の席ヒューズ・モストワ大賢者。私の勘ではあるが、彼の後継者となるのではないだろうか。

 大賢者達は、金の瞳に両手の甲に刻印がある。それは、称号をもらったと同時に出現するもの。だが、彼女の瞳は青で、手の甲には印は無かった。


「この国に留まってくれたのは良いことだが、だがそれではこの国に繋ぎ止めておくには弱すぎる」


 スピネル帝国の、第1の席の方は帝国の相談役。そして、第2の席の方は女性である為に皇妃となり今は上皇后だ。

 ヘリオドール王国も、第4の席の方は王国内の術師達を集め団を率いている。

 だからこそ、彼女にはここに居てもらわなくてはならない。


「やはり、婚約者になってもらうのが手っ取り早いか?」

「確かに、それが一番最適だと思われます」

「まぁ、下手をすればそこで機嫌を悪くさせてしまいここを去ってしまうだろうな」

「成人式までもう時間がありませんよ」

「はぁ、面倒な……」


 隣国の姫を娶るか、候爵家の令嬢を娶るか。選択肢はあるにはある。


「賢者殿とのお茶会は、とても楽しまれているようですね」

「まぁ、心休まる時間ではあるな」

「成程」

「違う意味で興味を引く女性ではあるかな」

「珍しいですね」

「自分でも驚いてはいるよ」


 3日後がとても楽しみだ。


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