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■25 偽装
しおりを挟む「ねぇねぇステファニーちゃん、知ってる?」
ルナンさんの宿の食堂に訪れてお昼ご飯を食していた時、こんなことを聞かれた。
「この国の王太子殿下にまだ婚約者いないじゃない? けど、それらしい人物がいるかもしれないのよ!」
「へぇ、王太子殿下って今17歳でしたっけ?」
「そう、次の18歳の成人式に決まるんだけど……とある令嬢と何度もお茶をしてる所を目撃した人が何人もいるらしいのよ!
確か……鮮やかなスプリンググリーンのロングヘアーで、色白の御令嬢って言ってたわ」
……ん???
「まぁでも、深く帽子を被っててちゃんと顔を見たことがある人はないんだけどね」
「へ、へぇ……」
「まぁ、スプリンググリーンのロングヘアーって中々いないじゃない。だから何人か候補になってて噂になってるらしいのよ」
「あ、はは、そうなんだ……」
「ま、ここにもいるけれどね~。ほんとステファニーちゃんの髪は綺麗ね」
「そ、ですね。ありがとうございます……」
……そういえば明後日王宮錬金術師さん達のところ行ってから、その後王太子殿下にもお茶に誘われていく事になってたなぁ………
「あぁ、友人の王宮侍女に聞いたんだけど、4日前にも見て、お召しになってた黄色のドレスがとてもお似合いだったって言ってたなぁ」
「……」
「ん? ステファニーちゃん?」
「ごっご馳走様でした!!」
「あ、うん……?」
殿下ぁぁぁぁ!?
とりあえず着ていた外套のフードを被り、朝受けた依頼の報酬を貰いにギルドへ向かった。速足で。
いきなり速足になったから、置いてくなと言いたそうな顔をしたルシルが視界に入ったが無視をした。というより、かまってあげられるほど余裕はなかった。
「はい、確かに。ラノの花の抽出液ですね。お疲れさまでした」
採取依頼の受け取りカウンターに行き、依頼の品を納品しに来た。
ラノの花の抽出液。それは、ドレスなどの布を作る際に使用されるものである。
結構数があったけれど、何とか採取し抽出液を作ることが出来た。
「はい、ではこちらが報酬です」
渡されたのは、白金貨1枚。金貨10枚と一緒の価格だ。
まぁ、採取や抽出するのも難しいし、数も多いけれど、これで白金貨1枚は太っ腹だよね。この依頼者。貴族の方かしら。
……あら?
「……あの、鑑定士はいらっしゃいますか?」
「えっ……? 何か、問題がございましたか……?」
「これ、――偽装金貨です」
それからは慌ただしかった。
焦ったギルド職員がギルド長を連れてきて、それから王宮に連絡を入れた。
ここの鑑定士は、レベルが低かったらしくて気が付かなかったらしい。
鑑定術には、5段階のレベルに分けられるらしい。
Ⅰが一番下のレベル。初等の鑑定士。そしてⅡ、Ⅲ、Ⅳとレベルが上がっていき、そしてⅤが一番高い高等鑑定士という事になる。
「ここの職員は、鑑定レベルはⅢなのですが……それでも気が付かなかったという事は、それくらい偽装技術が高いという事でしょうな。今、高等鑑定士をお呼びしていますので少々お待ちください」
確かに、これはなかなか気が付かない。結構巧妙に作られている。
そして、すぐに駆け付けてきた王宮からの鑑定士。それは……
「モワズリーさん!」
「ステファニー様、お久しぶりでございます」
まさか、モワズリーさんが来るなんて。ここの国では高等鑑定士は一人しかいない。ということはサーペンテイン王国唯一の高等鑑定士というのはモワズリーさんだったという事になる。凄い!
「確かに、これは青銅を錬成したものになりますね。流石でございます」
「い、いえいえ……」
「こちらの落ち度です、申し訳ございません……今日、午前にとある商会と取引をしていて、恐らくその時の硬貨だと思われます……」
「でしたら、すぐに取り調べが始まる事でしょう」
それから、ギルドにも商会にも取り調べという事で王宮から使者がすぐに送られたそうだ。
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