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■24 S級討伐対象

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 この国には、王宮依頼専門部署というものがある。

 サーペンテイン王国内での依頼は、まず王宮のその部署に全て送られる。

 上級モンスターの討伐などは上に送られ任務として騎士団が処理し、他の上級以外のモンスター討伐・採取・護衛・配達などはギルドに送られるのだ。

 だが、もし騎士団が諸事情で討伐をこなすことが出来無くなればそれはギルドに送られる。A級、S級などの高ランク依頼として。


「へぇ、じゃあこの前のウガルルムの件もそれだったんですね。確か、ベヒモス討伐の任務だったんですよね」

「そうですね。なので、我々騎士団の仕事は王宮での公務と、任務という事になりますが」

「成程……あ、来た!」

「パンケーキ、どうぞ!」


 ここは、ルナンさんの宿。朝と昼は普通の食事の場となるので食べに来ていた。そしたらバッタリとアルさんと出くわしたわけだ。という事でご一緒させてもらっている。


「最近は上級モンスターの出現が異常なくらい多発していまして、こちらも手が回らずギルドの方に要請を出している案件もあります」

「ワームと、ワイバーンでしたよね。今あるのは」

「……まさか、受けたんですか」

「実は……受けてはないんですけど、昨日出くわしてどっちも倒してきたんです」

「……は?」

「私、実はまだC級で。だから、どうにかなりませんかね?」

「ステファニーさんんんんん!?」


 確か、どちらもS級だった気がする。私はまだB級依頼までしか受けられないし……どうしたものかと悩んでいた所だ。タイミングが良かった。


「あ、死骸は収納魔法で保存してありますので、王宮に持っていった方がいいでしょうか?」

「……ステファニーさん」

「え?」

「……いえ、何でもないです。これから何か用事はありますか?」

「ありません」

「でしたら、騎士団に持って行きましょう。たぶん、何とかしてくれると思いますよ、リンデルバート元帥が」

「申し訳ないです。あ、アルさんは大丈夫ですか? 休日なんですよね?」

「あぁ、全然大丈夫ですよ。気にしないでください」

「ありがとうございます……」


 良かった、何とかなりそう。と、安心して王宮に向かったんだけど……




「え? 元帥いないんですか……?」

「あぁ、さっき呼ばれて行ったぞ」

「マジですかぁ……」


 王宮に着きアルさんの案内で王宮騎士団の鍛錬場? に来ていたんだけど、タイミングが悪かったらしい。

 見たことのない人達ばかりだから、ここの人達は第二騎士団の人達ではないらしい。


「それよりアル、何こんな美人と一緒に居るんだぁ?」

「羨ましいぜくそぉ!」

「彼女? え、そんなことないよな? 俺達仲間だよな??」

「えっ違いますって!?」

「だよなだよな! お前は裏切らないって知ってたぜ!」

「……裏切るとか、約束したつもりないんですけど……」

「あ”? 何か言ったか??」

「いえ……」


 とっても仲がいいらしい。共に戦う仲間だからか。いいね。

 そんな時、



「アル、お前今日休み……だ……ろ!?」



「あ、ダルベルト団長」


 騎士団の制服を着たダルベルトさんを発見。私達を見て吃驚してるみたい。まぁ、こんな所にいるはずのない人がいるからそうなるよね。


「……何故このような所に?」

「リンデルバート元帥に用があって会いに来たんです。けど、入れ違いになってしまって」

「な、るほど……」


 あら、何だかアルさんとダルベルトさん目で会話しているような……?


「リンデルバート元帥には王太子殿下の執務室へ行く廊下で見かけました。よろしければ、代わりにご用件をお聞きしますよ」

「えぇっと、ですね……」


 それから、ぜーんぶアルさんが説明。それを聞いてどんどん彼の顔の表情が強張っていくのが分かった。


「そう、ですか……分かりました」

「すみません…………」

「なぜ謝るのですか? 偶然出くわしただけ・・・・・・・・・ではありませんか」

「は、はぁ……?」

「出くわした人物が変わるだけですから、ご安心ください」

「ありがとう、ございます……」


 おぉ、見事にすり替えてくれそうだ。ありがとうございます。

 ご迷惑をお掛けしました。


「あ、錬成素材に必要な部分がおありでしたらおっしゃってください」

「いいんですか?」

「はい、構いませんよ。デイム・ステファニーのお願いでしたらいくらでも」


 え、笑顔が眩しい……!!


「何を作るのですか? ステファニーさん」

「ワイバーンの血で熱を閉じ込められる緋水晶を作ろうと思っているんです。あと、ワームの皮膚では暖かい布を作ろうかと」

「へぇ、暖かい布は見た事はありますが、緋水晶は見たことがありません」

「緋水晶は暖房として使うことが出来るんです。そろそろ寒い時期になってきますから、今のうちに用意しておこうかなと思って」

「へぇ、いいですね。ここサーペンテイン王国の冬は結構冷え込みますから」

「お二人にも、お作りしましょうか」

「えっ、いいんですか?」

「はい、いつもお世話になっていますから。日頃の感謝を込めてプレゼントさせてください」

「そんな、お世話になっているのは私達の方ですよ」

「そうですよ」

「それでも、どうか受け取ってください」


 で、でしたら……とすごく嬉しそうなお二人。……あら???


「……皆さんも、如何ですか??」


「「「本当ですか!?」」」


 お、おぉ……圧が凄い……


「俺らにも作ってくださるんですか!?」

「超嬉しいっす!!」

「これで冬越しが出来るぜ~!!」

「こら! ステファニー様が困ってるぞ!!」

「お前抜け駆けしやがって!!」

「そ、それは……」

「あ、はは。はい、出来るだけ早く完成させて皆さんにお届けしますね」


 こんなに喜んでいただけるなんて。よし、気合入れて作ろう!!


「完成したら受け取りに行きますね」

「持ってきますよ。出入りも多いですし、収納魔法使えますので」

「おや、言ってませんでしたっけ。私も使えるんですよ、収納魔法」


 じゃじゃん! っと懐から短い杖を取り出したダルベルトさん。黒くてかっこいい。


「第二騎士団だと、私とあともう1人ですかね。任務の時はとても便利です。まぁでも、本格的な錬成とかはできませんが」


 ぽっ、と火、水を展開させた。紙を使わず出来るのか。


「野営の際の焚火や飲み水ですかね。それくらいです。ですから、出来上がった際には私の方から受け取りに行きますね」

「わかりました、ありがとうございます」





 それから次の日、モダルさんの店に来ていた。ポーションを納品するために。


「こんにちは、モダルさん」

「おう、ステファニーちゃん。ポーションか??」

「はい、いつもの所でいいですか??」

「おう、よろしく」


 いつものように、奥にある倉庫に運ぶ。

 なんだか、いつもより多く在庫がある気がする。


「あぁ、そういえばモンスターが多発してるって言ってたな。アルさん」


 モダルさん、忙しそうだったし。注文が多いのかな。

 異常なくらいって言ってたな。ギルドの依頼書も沢山張られてたし。


「ポーションの納品量、増やそうかな……」


 こちらは、数が決まっているわけじゃないし。増やしてもいいはず。

 後で、王宮に納める量も多くして持っていこう。

 こっちはそれくらい何とでもないし、困っているならね。


「異常なくらい、か……」


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