25 / 110
■24 S級討伐対象
しおりを挟むこの国には、王宮依頼専門部署というものがある。
サーペンテイン王国内での依頼は、まず王宮のその部署に全て送られる。
上級モンスターの討伐などは上に送られ任務として騎士団が処理し、他の上級以外のモンスター討伐・採取・護衛・配達などはギルドに送られるのだ。
だが、もし騎士団が諸事情で討伐をこなすことが出来無くなればそれはギルドに送られる。A級、S級などの高ランク依頼として。
「へぇ、じゃあこの前のウガルルムの件もそれだったんですね。確か、ベヒモス討伐の任務だったんですよね」
「そうですね。なので、我々騎士団の仕事は王宮での公務と、任務という事になりますが」
「成程……あ、来た!」
「パンケーキ、どうぞ!」
ここは、ルナンさんの宿。朝と昼は普通の食事の場となるので食べに来ていた。そしたらバッタリとアルさんと出くわしたわけだ。という事でご一緒させてもらっている。
「最近は上級モンスターの出現が異常なくらい多発していまして、こちらも手が回らずギルドの方に要請を出している案件もあります」
「ワームと、ワイバーンでしたよね。今あるのは」
「……まさか、受けたんですか」
「実は……受けてはないんですけど、昨日出くわしてどっちも倒してきたんです」
「……は?」
「私、実はまだC級で。だから、どうにかなりませんかね?」
「ステファニーさんんんんん!?」
確か、どちらもS級だった気がする。私はまだB級依頼までしか受けられないし……どうしたものかと悩んでいた所だ。タイミングが良かった。
「あ、死骸は収納魔法で保存してありますので、王宮に持っていった方がいいでしょうか?」
「……ステファニーさん」
「え?」
「……いえ、何でもないです。これから何か用事はありますか?」
「ありません」
「でしたら、騎士団に持って行きましょう。たぶん、何とかしてくれると思いますよ、リンデルバート元帥が」
「申し訳ないです。あ、アルさんは大丈夫ですか? 休日なんですよね?」
「あぁ、全然大丈夫ですよ。気にしないでください」
「ありがとうございます……」
良かった、何とかなりそう。と、安心して王宮に向かったんだけど……
「え? 元帥いないんですか……?」
「あぁ、さっき呼ばれて行ったぞ」
「マジですかぁ……」
王宮に着きアルさんの案内で王宮騎士団の鍛錬場? に来ていたんだけど、タイミングが悪かったらしい。
見たことのない人達ばかりだから、ここの人達は第二騎士団の人達ではないらしい。
「それよりアル、何こんな美人と一緒に居るんだぁ?」
「羨ましいぜくそぉ!」
「彼女? え、そんなことないよな? 俺達仲間だよな??」
「えっ違いますって!?」
「だよなだよな! お前は裏切らないって知ってたぜ!」
「……裏切るとか、約束したつもりないんですけど……」
「あ”? 何か言ったか??」
「いえ……」
とっても仲がいいらしい。共に戦う仲間だからか。いいね。
そんな時、
「アル、お前今日休み……だ……ろ!?」
「あ、ダルベルト団長」
騎士団の制服を着たダルベルトさんを発見。私達を見て吃驚してるみたい。まぁ、こんな所にいるはずのない人がいるからそうなるよね。
「……何故このような所に?」
「リンデルバート元帥に用があって会いに来たんです。けど、入れ違いになってしまって」
「な、るほど……」
あら、何だかアルさんとダルベルトさん目で会話しているような……?
「リンデルバート元帥には王太子殿下の執務室へ行く廊下で見かけました。よろしければ、代わりにご用件をお聞きしますよ」
「えぇっと、ですね……」
それから、ぜーんぶアルさんが説明。それを聞いてどんどん彼の顔の表情が強張っていくのが分かった。
「そう、ですか……分かりました」
「すみません…………」
「なぜ謝るのですか? 偶然出くわしただけではありませんか」
「は、はぁ……?」
「出くわした人物が変わるだけですから、ご安心ください」
「ありがとう、ございます……」
おぉ、見事にすり替えてくれそうだ。ありがとうございます。
ご迷惑をお掛けしました。
「あ、錬成素材に必要な部分がおありでしたらおっしゃってください」
「いいんですか?」
「はい、構いませんよ。デイム・ステファニーのお願いでしたらいくらでも」
え、笑顔が眩しい……!!
「何を作るのですか? ステファニーさん」
「ワイバーンの血で熱を閉じ込められる緋水晶を作ろうと思っているんです。あと、ワームの皮膚では暖かい布を作ろうかと」
「へぇ、暖かい布は見た事はありますが、緋水晶は見たことがありません」
「緋水晶は暖房として使うことが出来るんです。そろそろ寒い時期になってきますから、今のうちに用意しておこうかなと思って」
「へぇ、いいですね。ここサーペンテイン王国の冬は結構冷え込みますから」
「お二人にも、お作りしましょうか」
「えっ、いいんですか?」
「はい、いつもお世話になっていますから。日頃の感謝を込めてプレゼントさせてください」
「そんな、お世話になっているのは私達の方ですよ」
「そうですよ」
「それでも、どうか受け取ってください」
で、でしたら……とすごく嬉しそうなお二人。……あら???
「……皆さんも、如何ですか??」
「「「本当ですか!?」」」
お、おぉ……圧が凄い……
「俺らにも作ってくださるんですか!?」
「超嬉しいっす!!」
「これで冬越しが出来るぜ~!!」
「こら! ステファニー様が困ってるぞ!!」
「お前抜け駆けしやがって!!」
「そ、それは……」
「あ、はは。はい、出来るだけ早く完成させて皆さんにお届けしますね」
こんなに喜んでいただけるなんて。よし、気合入れて作ろう!!
「完成したら受け取りに行きますね」
「持ってきますよ。出入りも多いですし、収納魔法使えますので」
「おや、言ってませんでしたっけ。私も使えるんですよ、収納魔法」
じゃじゃん! っと懐から短い杖を取り出したダルベルトさん。黒くてかっこいい。
「第二騎士団だと、私とあともう1人ですかね。任務の時はとても便利です。まぁでも、本格的な錬成とかはできませんが」
ぽっ、と火、水を展開させた。紙を使わず出来るのか。
「野営の際の焚火や飲み水ですかね。それくらいです。ですから、出来上がった際には私の方から受け取りに行きますね」
「わかりました、ありがとうございます」
それから次の日、モダルさんの店に来ていた。ポーションを納品するために。
「こんにちは、モダルさん」
「おう、ステファニーちゃん。ポーションか??」
「はい、いつもの所でいいですか??」
「おう、よろしく」
いつものように、奥にある倉庫に運ぶ。
なんだか、いつもより多く在庫がある気がする。
「あぁ、そういえばモンスターが多発してるって言ってたな。アルさん」
モダルさん、忙しそうだったし。注文が多いのかな。
異常なくらいって言ってたな。ギルドの依頼書も沢山張られてたし。
「ポーションの納品量、増やそうかな……」
こちらは、数が決まっているわけじゃないし。増やしてもいいはず。
後で、王宮に納める量も多くして持っていこう。
こっちはそれくらい何とでもないし、困っているならね。
「異常なくらい、か……」
14
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
目の前で不細工だと王子に笑われ婚約破棄されました。余りに腹が立ったのでその場で王子を殴ったら、それ以来王子に復縁を迫られて困っています
榊与一
恋愛
ある日侯爵令嬢カルボ・ナーラは、顔も見た事も無い第一王子ペペロン・チーノの婚約者に指名される。所謂政略結婚だ。
そして運命のあの日。
初顔合わせの日に目の前で王子にブス呼ばわりされ、婚約破棄を言い渡された。
余りのショックにパニックになった私は思わず王子の顔面にグーパン。
何故か王子はその一撃にいたく感動し、破棄の事は忘れて私に是非結婚して欲しいと迫って来る様になる。
打ち所が悪くておかしくなったのか?
それとも何かの陰謀?
はたまた天性のドMなのか?
これはグーパンから始まる恋物語である。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる