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■19 第一王子殿下
しおりを挟むやぁっと謁見室から出てきて、笑ったダルベルトさんとリンデルバート元帥が来てくれた。ちょっとダルベルトさん、謁見室に着く前に教えてくださいよ。どうすればよかったのか。
そんなニコニコ顔してても起こってるのは怒ってるんですからね。
「お疲れ様でございました」
「……教えておいてくださいよ」
「それは申し訳ございませんでした」
「むぅ……あ、さっきのって何だったんですか?」
「あぁ、陛下が最後に送られたものの事でしょうか」
「はい」
「これは、十字勲章です」
「功績や業績を表彰するために与えられるものです」
「……えっ」
「おめでとうございます。デイム・ステファニー様」
こんなの、貰っちゃっていいの!? 返したほうがいいのかしら……
「デイム……?」
「叙勲を受けた女性にはデイムを敬称に用いるんです」
「は、ぁ……」
「そちらは、困った時にはとても役に立ちますから、大切に保管して下されば」
困った時ってどんな時……?
とりあえず、収納魔法陣の中に入れておけばOK?
「デイム」
「え?」
先程見た、並んでいた人たちの一人に声を掛けられた。50代くらいの男性だ。
「先程も会ったな。ライドン・ソルリタ・アグリジェンドラだ」
「初めまして……」
ん? 待て? この人アグリジェンドラって名乗った……?
「今、時間は…」
「デイム」
「…ほぅ」
声を遮るように掛けてきたのは、ついさっき見た方。
「あぁ、話を遮ってしまいましたか。申し訳ありません、叔父上」
この人、王様の隣にいた……ん? 叔父上……?
「先程は名乗っていなかったな。フレデリック・シャルトス・トリルト・アグリジェンドラ。サーペンテイン王国第一王子だ」
この人達……王族!? 王様の兄弟と息子!?
「えっ、あっ、錬金術師のステファニー、です……」
「ははっ、そんなに畏まらないでくれ。叔父上、デイムと少々話をしたいのですが、よろしいでしょうか」
「そうか、ではデイム、失礼する」
あら、行っちゃった。
さっきからデイムと何度も呼ばれているけれど、変な感じする。
「それで、時間はあるだろうか」
「あ、はい。ございます……」
「そうか、それは良かった。なら、少し歩こうか。庭園を案内する」
手を出してくれた、という事は乗せろという事だよね。殿下にだなんて恐れ多いけれど……
「あ、りがとうございます」
あの時の王様のように静かに笑う殿下。それから、護衛はいいと元帥さんとダルベルトさんを下げさせて庭園に案内されてしまった。
流石王宮とあって庭師に手入れされている庭はとても綺麗だ。だけど、こんな格好で平民の私を第一王子自らエスコートされている所を見た使用人さん達はどう思うだろうか。殺される? いや、それは考えすぎか。
「今回の件、私からも礼を言わせてくれ。本当に助かった、感謝する」
「い、いえ。微力ながらお役に立てたようで……」
「過小評価しすぎだ。誇っていい」
「……あ、りがとうございます」
「あぁ、それでいい」
王太子、いい人……?
「あぁ、そういえば」
「え?」
「あの北の森で不思議なことが起きてな」
「……」
「あの一件から数日後に瘴気に侵されていたはずの北の森が綺麗さっぱりなくなっていたと報告を受けた。調べてはいるのだが何も分からずじまいなのだ。賢者である君から意見を聞きたいのだが、どうだろうか」
「……わ、たしはまだまだ未熟な錬金術師です。そんな私の意見など役には立ちません……でも、北の森から瘴気が消え去ったのでしたら安心ですね」
「そうか」
ばれ、ちゃった……? 殿下は、たぶん私が何かしたのだろうとお思い、だよね? いや、殿下だけではなく王様もかな。ランディさんが何か言った?
でも、あの場で何も触れてこなかったよね。どうしてだろう?
「デイム、この王宮には務めてくれている錬金術師がいるのだが、仕事場を見たくはないか?」
ま、いっか。
「ありがとうございます、ぜひ」
「そうか、では案内しよう」
殿下自ら案内されるなんて恐れ多いけれど、見せていただくなんて嬉しい。
庭園から数分で辿り着いた別の建物。こちらへ、ととある部屋に案内された。
扉の先には、あれは本だっけ。それを収納している棚がずらりと囲んである部屋だ。中には2.30人くらいの、緑の制服を着た大人の方が悶々と資料と向き合っていたり、ポーションだろう物を作っていたりしていた。
他のテーブルには恐らく錬成に必要な素材だろうものが並んでいた。
「ここにいる彼らが王宮術師だ。君のような賢者は残念なことに一人もいないが、皆優秀な術師達だ」
その言葉で、向こうのお仕事中の人達が気付いた。
「でっ殿下っ!?」
「お久しぶりでございます、殿下!」
「いい、何も言わずに来てすまない」
「滅相もございません。それで、こちらにはどんなご用件で……?」
「今日は、紹介したい人がいてな。こちらはデイム・ステファニー、〝賢者〟の称号を持つ錬金術師だ」
〝賢者〟
その言葉を出した瞬間、この周りの人物達はどよめいた。
「私はこの王宮術師統括のレドモンド・モワズリーでございます!」
「ステファニーです、初めまして」
「賢者様にお会いでき光栄です」
王宮術師統括のこの方は、大体60代くらいだろうか。
そして、殿下が私をこの方達に紹介したという事は……ゆくゆくはこの王宮に努めさせようと思っているのだろうか。
「少し、見学させてやってくれないか」
「分かりました、ではこちらへどうぞ」
モワズリーさんによって、私達は中へ招かれた。周りからの視線が痛いけど、無視しよう。
「我々王宮術師は全部で52人でございます。今は、地方に散らばっており王城には20人ほどしかいません。
王宮術師は、主にモンスターとの戦闘に必要なものを作成することが仕事です。ポーションや、強化武具などですね。
あとは、貴族の方々からの依頼で此方に回ってきたものを任務としてこなすこともあります」
ちらっと、陣を展開している術師を見た。素材は、モルシアの葉。上級のMP回復ポーションだ。だけど、あのお店のように乾燥させてしまっている。
「……どうした」
「え?」
私が凝視していたのに気が付いた殿下。その声にモワズリーさんも反応して。
「何か、至らない点がございましたでしょうか……?」
「あ、いえ……ここの植物は長期保存の為に乾燥させているんですね、って思っただけです」
「え?」
「え?」
「モルシアの葉、の事でしょうか……あれは乾燥して使用するのでは……??」
「……あのモルシアの葉は、そのままでも使用可能ですよ? 乾燥させると効力が落ちてしまうんです。乾燥なしならその3分の1で済みます」
「3分の1、ですか……!?」
「はい、」
「成程……」
顎に手を当てて考えるような仕草をしているモワズリーさん。余計なことを言ってしまっただろうか。乾燥させるにも、量が多くなってしまうが長期保存が効くし……
「それは知りませんでした。詳しくお教えいただけないでしょうか……」
「あ、はい……」
それから、錬成まで見せることになってしまい周りの人達に凝視されながらポーション作成を見せた。
ちらっと見た皆さんの顔は、こちらがぎょっとするくらいの顔で。口が開いたまま目が飛び出すんじゃないかというほど目を見開いて固まってしまっていた。
なにか、やらかしただろうか?
ちゃんと聖水じゃなくて浄水にしたし、今までと色も一緒だし……
「……もっ」
「…もっ」
「も?」
「「「「もう一度お見せくださいませんかっ!!!!」」」」
またまたぎょっとしてしまった。
「賢者様は我々とは違った杖をお使いになられるのですね!」
「あ、はい、まぁ……長年使ってて使いやすいので」
「その陣は見たことがございません!! どういったものなのでしょうか!!」
「え、えぇと、使いやすいよう組み替えたものです……」
「「「組み替えた!?」」」
「え?」
「我々は陣の書を使用するのです。自身のマナを混ぜた特別なインクで書き込み使用するのです」
「へ、へぇ……」
開いた陣に手を当て、使用するらしい。知らなかった。あぁ、あのお店にあったあの錬成陣紙か。
「詠唱は?」
「え? 詠唱ですか? 省略しています」
「「「省略!?」」」
「あ、はい……」
それから色々と質問されて、圧倒されてしまったがちゃんと全部答えた。大丈夫だっただろうか。こんな、先生の真似事なんて初めてだったし……
というより、自分のと彼らの錬金術が違っていてとても吃驚した。
また来てはくださいませんでしょうか!! そう声を揃えて言われるものだから、じゃあ、と承諾すると目を光らせてとても嬉しそうに喜んでくれた。まるで、どこかの第二騎士団騎士さんのように。あぁ、そういえば今日は会ってないな。
そして、殿下の声でその場を後にしたのだった。
「ふぇっくちっ!!」
「どうしたアル、風邪か?」
「い、いえ、」
「マナ残量は大丈夫か」
「あ、はい。まだ全然。ご心配頂きありがとうございます、殿下」
「そうか。流石、と言ったところか」
「いえいえ……」
「術師達の申し出を引き受けてくれて感謝するよ」
「ちゃんと務まるかどうかは分かりませんが、尽力いたします」
「そうか、礼を言う」
それから、忙しいのであろう殿下の所に使いの人が急いで来て何かを伝えていて。すまないと一言残して戻っていった。私には、ダルベルトさんが迎えに来てくれて宿まで送ってくださった。
「そういえば、殿下も言ってたな。ふかふか布団を私にも作ってくれって……」
なんか、ウガルルムの死骸全部貰っちゃったし。王族の皆さんは大変そうだから、気合いを入れて作らせていただきます。お待ちくださいね。
因みに、帰ってきたらルナンさん達による質問攻めの嵐に見舞われてしまった。
応援ありがとうございます!
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