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■17 毒の正体
しおりを挟む私達は、森に急いだ。
私はルシルと行きますと言うと、本当に驚かれた。
けれどアルさんは分かっている為、でしたら僕達はウルフで行きましょうと団長であるダルベルトさんに。騎士団の皆さんの移動手段はウルフらしい。
という事で空から向かってはいるけれど、
「風が強いな……」
くんくんと鼻を動かすルシルちゃんは何かに気付いたらしくて、こちらに目線をくれた。
恐らくウェスラーの花粉が飛んできていると伝えたかったのだろう。こんなに風が強いんだから当たり前だ。だけど、街には届かないくらいのものだ。
「確か、水源って……あった。ルシルちゃん、行き先変更。水源の方に」
もしかして。
その考えは肯定されることになったのだ。
ここの中心都市の領民全員の飲み水として使われている、このとても広い湖。
陽の光に当たりとても綺麗に光っている。
……けれど、
「アケケ草だ」
湖の周辺に無数に広がる黄色い花。ギザギザした葉をつけたアケケ草だ。
『展開』
『Ignis』
ひと掬いした湖の水を火魔法で温め口に含んだ。
見つけた。これだ、この水だ。
「ステファニーさん!!」
あ、アルさんの声。ダルベルトさんや他の皆さんも到着してきた。
「いきなり行き先を変えたので焦りました、何か見つかりましたか」
「えぇ、たぶんここです」
「水源ですか」
「この花は、ごく少量の毒素を持つ植物です。それと、ここに来た時に強い風を感じませんでしたか?」
「えぇ」
「その風によってウェスラーの出す花粉がこちらにも飛んできている。その花粉にもごく少量ですが毒素があるんです。そしてその二つがここで混ざり合ってしまっていた」
「毒素が二種類も、ですか」
「はい。ですが、その二つが溶けた水を一度飲んだ所であの症状は出ないんです。直ぐに身体が分解してしまいますからね。ですが、長い時間大量に摂取すると分解が間に合わなくなりどんどん蓄積してしまいます」
「成程、それが一定量溜まってしまい症状が出てしまったわけですね」
「はい、その通りです。ですから、まずはここの水から毒素を取り除いてから薬を皆さんに配らなければいけません」
「……これは全部、燃やして処理いたしますか?」
「いいえ、そんなことしなくても大丈夫ですよ。まずは……」
ぱっ、と取り出した黒く装飾された私の杖。
それを、湖の水に付けた。
『展開』
『Aqua』
私の中にあるマナが、杖を伝って水に流れ込む。と、
「ッ!?」
「水が、逆流して……」
湖から町へ流れていた川から水が逆流して、どんどん空中で丸く形取る。そして、それはどんどん大きく集まってくる。
「……さ、これで全部でしょうか」
「こ、れ、」
「まさか、街全体の、」
「はい、そうですよ」
「「「「ッ!?」」」」
口が開いてますよ、皆さん。町の皆さんには何も知らないから、ちょっと騒ぎになってしまっているだろうけれど、すぐに処理しないといけないからね。申し訳ない。
『収納魔法陣』
収納魔法陣から、大量のニレミ木片を引っ張り出した。これは、マルギルさんのところから大量に買い込んだものだ。量は、ギリギリ足りるかな。
そしてそれは、浄水によって飲み込まれた。すぐに大量の水を包む。
ふわふわ浮かぶ大量の水の下に、金色の錬成陣が出現。それはどんどん広がっていき、湖よりも大きく一帯を飲み込んだ。
そして、現れた浄水が球体を飲み込んだ。
周りに生えたアケケ草も浄水が飲み込んでいっている。
「……こんなに、大きなものを……」
「こんなの、初めて見ました……」
『Creare』
大規模な球体の水から、分離して色の違う球体が出てきた。こちらは、抜き取った毒素の方だ。
「はい、出来上がりましたよ!」
「え?」
「専用の解毒ポーションです!」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」
毒素だけを錬成素材とし抜き取り、清潔となった水を湖に戻すと、水路から勢いよく町の方へ流れていく。
瓶詰めしますから手伝ってくださいませんかとお願いすると、慌て始めて。収納魔法陣からごそっと取り出した薬瓶にどんどん封入していく。
「さ、これで街全体に回ると思いますよ」
「毒から、解毒ポーションを、ですか……??」
「はい、そうです」
「信じ、られない……」
「こんなの、初めてです……!!」
「無理もありませんね、皆さん毒は害だというのは当たり前のことだとお思いでしょ?」
「は、はい」
「それは当たり前のことです。ですが、錬金術ではその事実が覆されるんです。時には物になり、時には力になる。そして、時には薬になる。
ね? 錬金術って面白いでしょ?」
だから、私は錬金術が好きになった。面白くて、奥が深くて、まるで、未知の世界だ。
それから、ダルベルトさんは兵士達に渡し配りに行かせてくれた。子供や高齢者、体の弱い方を優先して配って頂くようお願いして。
「……錬金術師様」
「……?」
「お疲れのことでしょう、少し、失礼いたします」
「えっ!?」
いきなり近づいてきたかと思うと、体が浮かんで。横抱きされてしまった事に気が付いた。
「……マナ、全然残ってますよ? 歩けますよ?」
「このままお運びいたします」
「……重いでしょ?」
「そんな事はございませんよ」
「……そんなに、畏まらないで下さい。甘党お兄さん」
「う゛っ……」
「……?」
「あ、の……それは、団員達の前では……」
あら、禁句だった? 甘いものが好きなのを隠しているのか。可愛い。
「ふふっ、分かりました」
「……ありがとうございます」
「でも、その代わり畏まらないでくださいね」
「うっ……い、まは職務中ですので」
「ふふっ、分かりました」
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