大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫

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■16 調査

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 それから、数十分後にルシルを連れたアルさんが来てくれた。ウルフに乗り、鎧を着て。


「陛下にはちゃんとご報告いたしました、許可を得ています」

「ありがとうございます、それと……」

「……第二騎士団団長ギルバート・ダルベルトでございます。お久しぶりです、錬金術師様」


 あの時助けてくれた、そして3日前に一応会っている彼が鎧を着てそこにいた。あの甘党お兄さんだ。

 『様』とつけたという事は……

 ちらっと目線をアルさんに向けたら、オロオロした顔をしている。彼は私の事を賢者だと疑っている。まさかそんなことは無いけれど、余計なことを喋ったな?

 まぁ、あの時聖水を使ってしまったから同じ事をこの人も思っているかもしれない。

 だって、あんなに重症だったんだもん。魔法を使って浄水に見立てたから周りには気が付かれていないだろうけれど。

 そして、頭を下げられた。


「その節は、騎士団を助けて頂きありがとうございました。第二騎士団を代表してお礼を言わせてください」

「頭を上げてください。騎士様達のお役に立てたのでしたら良かったです」

「騎士様など……」

「私はただの錬金術師ですから」


 それで、この件に関してですが……と話をそらした。

 とりあえず簡単には伝えてあったから状況は把握しているため、もっと詳しく説明して。

 それを聞いたダルベルトさんは、でしたらこの領主であるモルティアート侯爵の屋敷にお連れいたしますと魔鉱車に乗せられてしまった。あの魔鉱石をエネルギーに動く車だ。

 
 因みに、ルナンさんはポカーンとしていた。ウガルルムの件を話していた時からかな。






 モルティアート邸に到着し訳を話すと応接室に通された。そして、出てきたのは60代くらいの男性。モルティアート侯爵家当主だ。それと、夫人と思われる女性も一緒に入ってきた。

 挨拶をして、私が錬金術師だと言うと不安がった顔を見せた。


「錬金術師、ですか」


 この国の錬金術師は、出来る事は限られている。

 この事態に錬金術師の出来る事なんて、と思っているのだろうな。

 まずは、ご子息様の容態を見せて頂けないでしょうかと言ったけれど、渋っているようで。


「ご安心ください」

「っ!?」

「ステファニー様は錬金術師の中でもかなりの実力者です」


 いきなり言い出した、甘党お兄さ……ダルベルトさん。その言葉に、侯爵様は了承してくださり案内してくれた。

 実力者とか、買いかぶりすぎですよ。




 大きなベッドで眠っているのは、侯爵様によく似た若い男の人。17,8くらいか。

 ルベルト君の家族に似た様な症状だ。


「数週間前に、高熱を出してからどんどん体温が下がって来てしまって……」

「……え? 高熱を出していたんですか?」

「え、えぇ……」


 高熱……


「む、息子は助かるのよね……?」

「……今、原因解明の為調査中です。とりあえず、その場しのぎにはなってしまいますがこれを」

「えっ……!?」


 私が出したのは、最上級HP回復ポーション。それを複数。あと、最上級MPポーションもだ。


「マナが安定していません。そうですね……この状態でしたら、4時間という所でしょうか。4時間に1回HP、MPポーションを飲ませてあげてください」

「わ、かりました……本当に息子は大丈夫なんでしょうね?」

「何とかやってみます」


 ここの詳しい地図を頂けませんかと言うと、不安な顔で渡してくださった。


 まずは一つ一つ潰していくのがいいだろう。


「この地域に生息するモンスターを教えていただけませんか」

「そうですね……ここらだと、マルガミラ辺りでしょうか。あと……」


 教えてくださった中に、ラーラントという名前は出てこなかった。という事はランドル菌はナシ。


「トラン草という、青と白のグラデーションのようになった色をした花をつけていて、茎が私の手の手首から中指の先までくらいの高さの花を見たことは?」

「我々はそこまでは……」


 ここは広い領地だから、全部を把握するのは難しい。領民全員に聞いてみなければいけないか……


「あとは……ウェスラーの花粉と、アケケ草」

「ウェスラーだと?」

「え? あるんですか??」

「あ、あぁ……だが、領地の東に森がある。その奥の方に植わっている。だが、だいぶ端にあり遠い所にある。息子もそんな所になんて行っていない。そこは暗く広い為皆入らないからな」


 ここだ、と地図に指をさした場所を見てもやっぱり言っていた通りに遠い場所にある。それに、高熱を出していたと聞いた。それにはそんな症状は出ると聞いた事がない。

 とりあえず……行ってみるべき?


「失礼します、コーヒーをどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 とりあえず落ち着こう、このままじゃお師匠様にぶっ飛ばされそうだ。

 このコーヒーというものは、ここに来て初めて飲んだけれどとっても苦くて。初めて飲んだ時は近くにいたルナンさんに笑われてしまった。お子ちゃまね、と。

 砂糖とミルクを入れてくれて何とか飲めたんだけど……ん?


「これ、甘いんですね。美味しい」

「え?」

「え?」


 私、マズいこと言った?


「甘い、のか……?」

「確かに、言われてみれば」


 私とダルベルトさんは甘く感じるのに、領主さんや夫人には感じない。何度も飲んで慣れてしまっているのだろうか。


「……すみません、お水を貰ってもいいでしょうか。冷たいものと温めたものをお願いします」

「は、はい!」


「な、なにかあるのかね……?」

「えぇと、まだはっきりしてはいないのですが……」


 お待たせいたしました! と焦ったような侍女さんが私の前に置いてくださったティーカップとグラス。分かりやすくしてくださったのだろう、ありがとうございます。


 まずは、冷たい方。うん、普通の水だ。


 そして、温かい方。……ほのかに甘い。見落とすくらいの甘さだ。私はコーヒーが苦いために苦手、それに舌が敏感だから気が付けたけれど、普通に何も考えずに飲めば気が付かないだろう。


「水、飲まないようにしてください」


「「「「えっ!?」」」」


「あと、水路と水源の位置が分かるものってありますか」

「いっ今すぐ持ってこい!!」

「はっはい旦那様!!!」



 甘い、という事は水に問題があるという事。そして、水に溶け甘くなるものの多くは、毒素だ。


「水源、水路……どちらも森と離れてる……」

「如何いたしましょう」

「向かいます、森に」


 それが一番の近道だ。


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