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■15 流行り病
しおりを挟む「ちょっとステファニーちゃん!! やぁーっと起きてきたわね!!」
「……おはようございまぁす……」
あれから、すぐに帰ってベッドに突っ伏した。瘴気には慣れているとはいっても、体力は持っていかれる。だから、昨日は丸一日寝ていた。一日ご飯を食べていなかったから、流石にお腹が空いて機能しない頭を動かしながら一階の食堂に顔を出していたという事だ。
「ほら、朝ご飯ちゃんと食べな」
「ありがとうございます」
「あ、また来てたわよ。昨日」
「アルさんと、もう一人の騎士さん、でしたっけ」
「そうそう、ステファニーちゃんが寝てるときに。明日来れないから明後日また来るって言って帰っちゃった」
明後日、という事は明日か。そういえばポーション納品日が明日だったね。一緒に持ってってもらおうかな。
「あ、そうだ。あとでポーション売ってくれない?」
「怪我したんですか!?」
「私はしてないわ。隣町の友人が倒れちゃって。旦那と揃って倒れちゃったの」
「それは大変ですね……原因は?」
「さぁ、それが分からないのよ。とりあえずHP回復ポーションを持っていってあげようかなと思って」
「隣町、ですか……」
「あ、噂でその隣町の領主様のご子息様も倒れちゃったらしいわよ?」
「ご子息様も?」
「そう、何か病気でも流行ってるのかしら。とりあえず、ちゃんとお金は用意してあるからポーションお願いね」
「もう作ってあるのがあるので、食べ終わったらすぐに持ってきます」
ありがとう、そう残してカウンターに戻っていったルナンさん。
それにしても、
「病気、か……」
いや、流行り病?
「こんにちは、モダルさん」
「よぉステファニーちゃん、今日も持ってきてくれたんか!」
「はい、これお願いします」
この人はモダルさん、マルギルさんの友人である。毎回私が作ったポーションを買い取ってくださる人だ。
「いや~最近はポーションが品薄でさ、助かったよ」
「え? 何かモンスターが出たんですか?」
「いや? 隣町からの注文が多くてさ。何でも病気が流行ってるらしくてな。医者も原因が分からず、結局HP回復ポーションがどんどん売れんだよ」
ルナンさんも言ってたな。そんなに流行ってしまってるのか。
HP回復ポーションは、体力・外傷を回復させるものだ。原因が分からないのならば、これはその場しのぎという事になってしまう。
「そんなに売れてるんですか?」
「あぁ、買い占める客もいたりするからなぁ。あ、隣町の領主様のご子息様もかかっちまってHP回復ポーションを売ってくれって大量に持っていっちまったしな」
「へぇ……」
そんなに広がってるのか……
それから、ルナンさんに許可を取ってその友人さんの所へ案内して貰えることになった。
コンコンッと彼女がノックをして、友人の名前を呼んだルナンさん。だけど、物音がしなくて。もう一度してみると慌てたような音がしてすぐにドアが開いた。
「ルベルトじゃない。ママは?」
出てきたのは、小さな男の子。顔色が悪そうだ。
「ルナンおばさん、ママ寝てるよ」
招いてくれた男の子に案内されて寝室であろう部屋へ。
「マーガレット!?」
眠っていたのは友人であろう女性と、旦那さんであろう男性。そして、男の子より年上の少女。
「姉ちゃんも、昨日倒れちゃって……」
今にも泣きそうな男の子。
ベッドに横たわる女性に近づいてみた。青白い肌で、触れてみると体温が低い。
「……ッ!?」
「ステファニーちゃん……?」
「ルベルト君、だっけ。手、出して」
「手?」
恐る恐る出してくれて、手の甲へひっくり返した。
「爪が、黒ずんでる……」
「どこか触っちゃったの?」
「ううん……」
ベッドで寝ている彼らの布団をめくり、手を見たら同じように爪が黒ずんでいた。
この症状が出るものは多くない。
「アケケ草、トラン草、ランドル菌、ウェスラーの花粉……」
候補はこれくらいだ。
「ステファニーちゃん、何か、分かる……?」
「いくつか、思い当たる点があります」
「だ、大丈夫よね……マーガレット達は元気になるわよね……?」
「私は医者じゃありませんが……何とかやってみましょう」
「私、信じてるから」
「え……?」
「ステファニーちゃんの事、信じるからね」
「お母さん達、助かるんだよね……? 頑張って、お姉ちゃん……!!」
「!?」
この言葉を言われるのは、いつぶりだろうか。以前人里に寄った時?? そしたらずいぶん昔になっちゃうな。やっぱり、この言葉はいつ聞いても嬉しくなる。絶対に何とかしなきゃ。
「とりあえず、ここの地図が必要になります」
「私持ってるよ! でもお店にあるんだけれど……」
「ルシル」
「!」
「直ぐに行きましょう、乗ってください」
「え……」
隣町だった為にすぐに辿り着いた。ちょっと目立ってしまったけれど今はそれに構っていられない。
「この子、お利口さんなのね。ありがとう」
「♪」
地図を持ちまたルシルの背に乗った。
モルティアート領を上空から観察した。川の位置、家の密集地や林、森の位置などをざっと確認はしたけれど、やっぱり上からだと限界がある。
「ねぇステファニーちゃん」
「??」
「王宮に、応援を出してもらうのはどうかしら。私達だけじゃ難しいんじゃない?」
「そういうのって、お願いしてもいいのでしょうか……」
「いいに決まってるじゃない!! 死者も出てるって聞いたもの!!」
そうか……その手があるなら、早い。
「ルナンさん、アルさん達が今日来れない理由って聞いてます?」
「え? なんか、鍛錬がとかって言ってたかも」
「じゃあ、王城にいるんですね?」
「えぇたぶん」
早速収納魔法陣にある種を取り出す。
『展開』
〝ドワールアの種〟
『Aqua』
『Ventus』
『Creare』
目の前に現れた、ふわふわと浮かぶ薄く透明な長方形の形をした膜。指でこの状況を書いていく。
「それは?」
「ちょっと特殊な書簡ですね。ちょっとやそっとじゃ開けない仕組みになっているんです。特定の人しか読めないようになっています」
「成程、重要な内容を知らせるのにはもってこいね」
くるっと丸め特殊なリボンで結ぶ。それを銜えたルシルは羽根を広げて飛び立った。
さて、こっちはこっちで出来る事をしなければ。
アケケ草、トラン草、ランドル菌、ウェスラーの花粉。候補はこの4つ。
「さて、ルベルト君に質問してもいいかな?」
「何でも答えるよ! お母さん達を助ける為なら何でもする!」
「そっか、ありがとう。じゃあ、今から言うものを見たことがあるか聞きたいんだけれど………」
アケケ草:黄色い花をつけ、ギザギザした葉をつける。
トラン草:青と白のグラデーションのようになった色をした花をつけ、茎が私の手の手首から中指の先までくらいの高さ。
ランドル菌:ラーラントというモンスターが持つ菌。
ウェスラーの花粉:ウェスラーという木がつける花粉。
「んー……見たこと、ないかも……」
「そっか……」
という事は、ルベルト君があまり行かない場所にある可能性があるという事。それかまだ候補があるという事。何かあったっけ……
早くしないと、死者がもっと出ちゃう可能性がある。何とかしなきゃ。頭をフル回転しないと……
『いいか、焦れば焦るほど視野が狭くなっていく。お前は焦ると頭が干上がっちまうからな、とりあえず落ち着くことを覚えろ。そこからだ』
……うん。そうだよね、お師匠様。
「よし」
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