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第二章
◇27 おかえりなさい
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目が覚めると、何かが密着しているように感じた。
この感じは、よく知ってる。
少し下に視線を向けると見えた、黒髪。そして、寝息も聞こえてくる。
「……ははっ」
おかえりなさい、ヴィル。
お仕事お疲れさまでした。
このサラサラな髪の触り心地も久しぶりだな。暖かい。
それにしても、もっと遅くなると思ってたのに早かったな。まぁ、本当は今日までに帰ってきてほしいなとは思っていたから、嬉しいっちゃ嬉しい。
そう、今日は……ちょうど俺がこのメーテォスに来て一年の日だ。そして、結婚一周年でもある。
いやぁ、長いようで短かったな。ここに来るまで色々とあった。婚姻届にサインした後すぐに離婚届を出されたりとか、白ヒョウと仲良くなったりとか、俺が風邪引いたりとか、それからヴィルがおかしくなったりとか。
今考えると、だいぶ濃い一年だった。俺は少し前までずっと離宮で過ごすもんだとばかり思ってたから、いきなり厄介払いで結婚って言われてこの後どうなるのかだいぶ不安だったからな。まぁ、あの古狸がちゃんと俺の事を認識してたというところにもびっくりだが。
俺の持参金を利用してここにしかない青バラを狙った事はまだ許せないけど。あの野郎共に俺も利用されたってところが気に喰わないし。
しかも、今度は俺を首都のあの野郎共の所に呼び出そうとしやがって。まぁ、その解決策としてこのタイミングで子供を作ったんだけどさ。
俺が妊娠したことはあいつらの耳にも入ってる。一体どう思ったのやら。また何か言ってくるかな。まぁ、その時はヴィルが何とかしてくれるか。
「ん……」
そんなヴィルの声が聞こえてきて、俺に埋めている頭が動いた。ぎゅ~っと、俺を抱きしめる手が強くなる。これは起きたな。
「起きました?」
「……」
「おはようございます、ヴィル」
「……」
……起きてるよな? 寝息聞こえないし。いや、黙るなって。
「お疲れさまでした。怪我とかしませんでしたか?」
「……リュークが足りなかった」
あ、はい、そうですか。それだけ寂しかったと、そういう事ですか。まぁ、俺もそうだったけどさ。でも口が裂けても言えない。
でもその意味を込めて頭を撫でてやった。きっと疲れてるだろうからな。
「今日、帰ってきてくれて嬉しいです」
「当たり前だろ」
そう言って、俺から顔を離し、俺の目の前まで上がってきた。あ、結構疲れた顔してる。
「覚えてました?」
「忘れるわけがないだろ。リュークがここに来て一年が過ぎた大切な日なんだから」
「あと、結婚一周年記念日?」
「あぁ」
へぇ、覚えてたんだ。そういうの気にしないタイプだと思ってたのに。ここまで疲れた顔は見た事ないから、きっと間に合うように頑張ってくれたのかな。
ありがとうございます、ヴィル。
「俺、ここに来れてよかったです。きっかけはどうであれ、ヴィルに会えて幸運でした。俺、今幸せですよ」
「……あぁ、俺も幸せだ」
けれど、浮かない顔をしている。一体何を思っているのやら。
「……もし、あの日俺が出した提案通りにリュークが首都に行ってしまっていたら、きっとこの幸せな日々は訪れなかった。そう思うと、色々と後悔してるんだ」
あぁ、なるほど。そういう事か。まぁ、俺もアレにはびっくりしたけどさ。でも……
「今更何言ってるんです? 今幸せなんですからそんなの関係ないじゃないですか。結果よければすべてよし!」
今幸せなんだから、過去の事は気にせず今の幸せを大切にすればいいだけだ。
「もう少しでお腹の子が生まれてくるんですよ? これからが大変なんですから、後悔する暇もないと思いますけど?」
「……ククッ、そうだな。後悔してる暇なんてないな」
お、やっといつものヴィルに戻ったな。
まぁでも、何か面倒な事をヴィルが起こしたら、離婚届出してきたことを出してやろうか。これだけ後悔してるなら効果覿面かもしれない。あの呪いの言葉は、余程の事がない限り言わないようにしてるしな。
「ヴィルが帰ってくる前に何回かルファさんが遊びに来てくれたんですよ。お子さん達全員連れてきてくれたんです。とっても賑やかで楽しかったですよ」
「……そうか」
うわぁ、複雑な顔だ。まぁそうなるだろうなとは思ったけれど。
「ルファさん、またもう一人妊娠したみたいですよ」
「またか。あの家は一体家族を何人増やすつもりなんだか」
「旦那さんはもう泣きが入ってるみたいですけどね」
「リューク、俺は一人でいい」
「アメロだったらどうするんです?」
「関係ない。一人でいい」
あ、はい、そうですか。真顔だし、結構真剣な目を向けられてるからマジらしい。
「ま、家族がいっぱいいるのは楽しそうですけどね?」
「……リュークはもう一人欲しいのか」
「ん~、今はいいかな、って思ってます。でももしかしたらあとで、もう一人欲しいかも? って思うかもしれませんよ」
「……」
うわぁ、超不機嫌じゃん。まぁ、だいぶヴィル我慢してたしな。さすがに5人は無理だけど、もしかしたら、もう一人いけるかも……? いや、今考えるのはやめておこう。うん。
「でも、まずは今お腹にいる子供を可愛がりましょうか」
「そうだな。リューク似の可愛い子供で頼むぞ」
「あの、それ俺無理ですからね」
ルファニスさんみたいな事言うな。さすが兄妹。
果たして、生まれてくる子はどっちに似るだろうか。ヴィルだったらいいなぁ、って勝手に思っているけれど。出産日が楽しみだ。もう腹は括ったからな。いつでも来い。
とはいえ、それより前にするべきことがある。
それは、結婚式だ。
この感じは、よく知ってる。
少し下に視線を向けると見えた、黒髪。そして、寝息も聞こえてくる。
「……ははっ」
おかえりなさい、ヴィル。
お仕事お疲れさまでした。
このサラサラな髪の触り心地も久しぶりだな。暖かい。
それにしても、もっと遅くなると思ってたのに早かったな。まぁ、本当は今日までに帰ってきてほしいなとは思っていたから、嬉しいっちゃ嬉しい。
そう、今日は……ちょうど俺がこのメーテォスに来て一年の日だ。そして、結婚一周年でもある。
いやぁ、長いようで短かったな。ここに来るまで色々とあった。婚姻届にサインした後すぐに離婚届を出されたりとか、白ヒョウと仲良くなったりとか、俺が風邪引いたりとか、それからヴィルがおかしくなったりとか。
今考えると、だいぶ濃い一年だった。俺は少し前までずっと離宮で過ごすもんだとばかり思ってたから、いきなり厄介払いで結婚って言われてこの後どうなるのかだいぶ不安だったからな。まぁ、あの古狸がちゃんと俺の事を認識してたというところにもびっくりだが。
俺の持参金を利用してここにしかない青バラを狙った事はまだ許せないけど。あの野郎共に俺も利用されたってところが気に喰わないし。
しかも、今度は俺を首都のあの野郎共の所に呼び出そうとしやがって。まぁ、その解決策としてこのタイミングで子供を作ったんだけどさ。
俺が妊娠したことはあいつらの耳にも入ってる。一体どう思ったのやら。また何か言ってくるかな。まぁ、その時はヴィルが何とかしてくれるか。
「ん……」
そんなヴィルの声が聞こえてきて、俺に埋めている頭が動いた。ぎゅ~っと、俺を抱きしめる手が強くなる。これは起きたな。
「起きました?」
「……」
「おはようございます、ヴィル」
「……」
……起きてるよな? 寝息聞こえないし。いや、黙るなって。
「お疲れさまでした。怪我とかしませんでしたか?」
「……リュークが足りなかった」
あ、はい、そうですか。それだけ寂しかったと、そういう事ですか。まぁ、俺もそうだったけどさ。でも口が裂けても言えない。
でもその意味を込めて頭を撫でてやった。きっと疲れてるだろうからな。
「今日、帰ってきてくれて嬉しいです」
「当たり前だろ」
そう言って、俺から顔を離し、俺の目の前まで上がってきた。あ、結構疲れた顔してる。
「覚えてました?」
「忘れるわけがないだろ。リュークがここに来て一年が過ぎた大切な日なんだから」
「あと、結婚一周年記念日?」
「あぁ」
へぇ、覚えてたんだ。そういうの気にしないタイプだと思ってたのに。ここまで疲れた顔は見た事ないから、きっと間に合うように頑張ってくれたのかな。
ありがとうございます、ヴィル。
「俺、ここに来れてよかったです。きっかけはどうであれ、ヴィルに会えて幸運でした。俺、今幸せですよ」
「……あぁ、俺も幸せだ」
けれど、浮かない顔をしている。一体何を思っているのやら。
「……もし、あの日俺が出した提案通りにリュークが首都に行ってしまっていたら、きっとこの幸せな日々は訪れなかった。そう思うと、色々と後悔してるんだ」
あぁ、なるほど。そういう事か。まぁ、俺もアレにはびっくりしたけどさ。でも……
「今更何言ってるんです? 今幸せなんですからそんなの関係ないじゃないですか。結果よければすべてよし!」
今幸せなんだから、過去の事は気にせず今の幸せを大切にすればいいだけだ。
「もう少しでお腹の子が生まれてくるんですよ? これからが大変なんですから、後悔する暇もないと思いますけど?」
「……ククッ、そうだな。後悔してる暇なんてないな」
お、やっといつものヴィルに戻ったな。
まぁでも、何か面倒な事をヴィルが起こしたら、離婚届出してきたことを出してやろうか。これだけ後悔してるなら効果覿面かもしれない。あの呪いの言葉は、余程の事がない限り言わないようにしてるしな。
「ヴィルが帰ってくる前に何回かルファさんが遊びに来てくれたんですよ。お子さん達全員連れてきてくれたんです。とっても賑やかで楽しかったですよ」
「……そうか」
うわぁ、複雑な顔だ。まぁそうなるだろうなとは思ったけれど。
「ルファさん、またもう一人妊娠したみたいですよ」
「またか。あの家は一体家族を何人増やすつもりなんだか」
「旦那さんはもう泣きが入ってるみたいですけどね」
「リューク、俺は一人でいい」
「アメロだったらどうするんです?」
「関係ない。一人でいい」
あ、はい、そうですか。真顔だし、結構真剣な目を向けられてるからマジらしい。
「ま、家族がいっぱいいるのは楽しそうですけどね?」
「……リュークはもう一人欲しいのか」
「ん~、今はいいかな、って思ってます。でももしかしたらあとで、もう一人欲しいかも? って思うかもしれませんよ」
「……」
うわぁ、超不機嫌じゃん。まぁ、だいぶヴィル我慢してたしな。さすがに5人は無理だけど、もしかしたら、もう一人いけるかも……? いや、今考えるのはやめておこう。うん。
「でも、まずは今お腹にいる子供を可愛がりましょうか」
「そうだな。リューク似の可愛い子供で頼むぞ」
「あの、それ俺無理ですからね」
ルファニスさんみたいな事言うな。さすが兄妹。
果たして、生まれてくる子はどっちに似るだろうか。ヴィルだったらいいなぁ、って勝手に思っているけれど。出産日が楽しみだ。もう腹は括ったからな。いつでも来い。
とはいえ、それより前にするべきことがある。
それは、結婚式だ。
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