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第二章

◇25 そんなもん、寂しいに決まってる。

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 大仕事である雪かきが大体なところまで終わったが、それでも仕事は山積みだ。特に、うちの騎士団達と、ヴィルだ。


「悪いな、リューク」

「別に大丈夫ですよ。俺は俺でやることありますし」

「そんなに拗ねないでくれ。早く戻ってくるよう尽力する」

「……気をつけて」

「あぁ」


 また、ヴィル達は屋敷を後にした。これから屋敷を長く空けることになる。

 領地が広すぎるわ現状把握が中々出来ないわで大忙しだ。領地を雪かきしないといけないし、きっと長い冬越しで底がつきかけているかもしれない食糧やら何やらを配らないといけない。壊れたものも直さないといけないし……

 それに、商会も早く起動させないといけないって言ってたし。あとはあの銭湯だな。銭湯も雪かきしないと、雪かきで冷え切った体を温泉で温めなきゃ風邪引いちゃうもんな。

 これを毎年やってるなんて……よく知らないやつじゃここに住めない。それに何より、ここを治めているメーテォス家も、優秀じゃなきゃ務まらない。

 領民達の安全を第一に。それが一番大事だって言ってた。さすが、メーテォス家だな。

 俺はその一員になっちゃってるわけだけど、まだまだ知らない事が多すぎる。だから、少しずつ知って、経験していこう。とりあえず、年越しのタイミングは覚えたな。


「とりあえず、ヴィルがいないんだから俺が結婚式の準備を進めなきゃな」


 とはいえ、大体のことは出かける前にヴィルがやってくれちゃったんだけどな。あとは俺がしなきゃいけないことだけが残ってる。


「いやぁ、よ~やく奥様にお会いできて嬉しいですわぁ~。冬眠明けすぐに奥様とお会いできて元気いっぱいですわぁ~」

「……お元気そうで安心しました」

「奥様の晴れ姿をこの目で見るまではポックリいけない思うとったんですよぉ~。楽しみですねぇ」


 ……うん、ミヤばぁさんはいつもと変わらず元気だ。だいぶ長生きしそうですね。さすがメーテォス領の領民さんだ。

 そして、お願いしていた結婚式で俺が着る衣装を持ってきてくれた。


「いやぁ、お腹の中の若様が大きくすくすく成長されていて安心しましたわぁ。とってもお腹が大きくなりましたなぁ。ほら、冬越し前とは全然違うでしょ」


 うわぁ、マジか。自分でも大きくなったって感じてたけど、こんなに変わってたのか。

 じゃあサイズ合わせ大変だな。と思ってはいたけれど……さすがプロだ。さらっとやってのけてしまった。


「へぇ、もこもこですね」

「こんな寒い地ですよ? 結婚式が原因で風邪なんて引かれたら大変やないですかぁ。奥様に関しては妊婦さんですから、体を冷やしたらお腹の中の若様まで風邪を引いてしまいますからねぇ」

「なるほど……」


 若様、ですか。まだ生まれてもないのに。

 俺の中の結婚式での新婦像は、ウェディングドレスだからなぁ。露出はあるだろ、と思ってたんだけど全然でむしろ暖かそうだ。

 よく分からないからってデザインはミヤばぁさんに丸投げしてたんだけど、お願いして正解だったな。ショールももこもこ、袖も襟ももこもこだ。外でも全然大丈夫そうだな。


「あとは、旦那様のタキシードですね。ご本人はいらっしゃいませんが、サイズ調整は微調整だけで十分でしょう。幸せ太りしてなければ、の話ですけどねぇ。あっはっはっはっ!」

「あ、はは……」


 うん、太ってません。というか、ヴィルが太ってる姿なんてこの先見る事が出来るのかも考えどころだが。見てみたい気もするけれど。でも、たとえ太っていたとしてもカッコいいんだろうなぁ……悔しい。

 ヴィルのタキシードも見せてもらったんだけど、ここにいないから直接本人が着たところは見られない。でも分かる。これを着たヴィルは……ヤバいと思う。ここにいなくてよかった。けど俺、本番耐えられるかな。

 それを思うと、だいぶ結婚式が不安になってくる。殺人的にかっこいいヴィルと、あとはルファニスさんが参加して顔合わせをした瞬間の喧嘩。あぁ、それを考えただけで頭が痛い……

 まぁ、でもルファニスさんはご家族揃って参加してくれるみたいだから、大丈夫、だよな……? 旦那さん、頼みましたよ。

 ではまたお会いしましょうね、とミヤばぁさんは帰っていった。お気をつけて。


「寂しいですか?」

「え?」


 カフェインの入っていないハーブティーを淹れてくれたピモに、そう聞かれた。

 寂しい、か。

 ヴィルが屋敷を空けたのは、喧嘩した時と、首都に行った時。それ以外はず~っと一緒にいた。

 妊婦になってからは前以上に一緒にいる時間が増えて、それが段々慣れてきていた。

 寂しくない……と言ったら嘘になるな。でも、仕事だから仕方ない。そう割り切っていかなきゃダメだよな。そうしなきゃ、ヴィルも、周りのみんなも困らせちゃうんだから。

 俺はここのもう一人の主人、メーテォス辺境伯家の夫人だ。なら、やることはやらなきゃ。寂しがってる暇はない。


「まっ、帰ってきたらどうせず~っと離れたくないだの何だのって駄々こねるんだから、今のうちに自由を満喫しないとな」

「それ、旦那様が聞いたら拗ねますよ」

「だろうな」


 帰ってきたら十分に構ってやるつもりだから、大丈夫だろ。

 だから、怪我せず無事に帰ってきてくださいよ、ヴィル。

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