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第二章
◇20 この英雄譚の主人公は……
しおりを挟むここメーテォスの屋敷にある大きな図書室には、数えきれないほどの本がある。
その中には、ラブロマンス、童話、絵本、図鑑などなど。そして……冒険ものやファンタジーなどもあるのだ。
「うわぁ、これシリーズものか。しかも分厚いな。1、2……13冊!? なにこれやばっ!」
そんなものまである。これは気合いを入れて読まなければならないやつだな。
そして、隣にあった少し古ぼけた本。これもファンタジーものだな。このシリーズ本よりも少し薄いし、シリーズになっていないから比較的読みやすそうだ。
「……英雄?」
何やら面白そうだな。今日はこれをバラの間で読もう。そう思い、本を手にしてバラの間に向かった。
けれど……
「あっ」
「ん? どうしたピモ」
「……いえ、何でもございませんよ。紅茶を淹れましょうか」
「うん……?」
ピモが、俺が持つ本を見た瞬間に何やら気が付いた様子だった。この本を知っているのだろうか。まぁでも、予告されるのは嫌だから早く読み始めよう。
重たいお腹を抱えつつ、ソファーに座り込んだ。
これは、とある英雄が主人公の物語。
主人公は、元はただの平民だった。貧乏人だった為、一番お金を稼げる傭兵という仕事をしていたそうだ。
彼には家族がいなかった。父と母はどちらも流行り病で亡くなっている。途方に暮れた主人公は生きるために傭兵として雇ってもらい毎日を過ごすことになった。
その時は、どの国でも戦争が勃発していた。だから、傭兵は身分関係なく雇ってもらえたのだ。
彼は恵まれた事に体も大きく頑丈だった。そのため大きな大剣を振り回し、戦場に派遣されても死に物狂いではあったが生きて帰ってこれていた。
そして、傭兵生活を続けていくにつれて仲間が増えていった。といっても、いつものメンツというやつか。主人公を入れて5人だ。その5人は一緒に戦場を渡り歩いた。派遣されていくにつれて力を付け、強くなっていっのだ。
ある時には敵陣に5人で突っ込み総大将の首を持って、一人も欠けることなく戻ってきた。ある時は劣勢だった戦争をひっくり返し勝利に導いた。
ある時には……突如として現れたドラゴンを打ち取った。
彼らは、最後に英雄として称えられたのだ。
「まぁ、どこにでもありそうなファンタジーだな。というか、大剣を振り回す大男……」
身近にそんな感じの男がいたような、いないような……ほら、面倒くさがりで、狸寝入りの好きな、大きな子供の……
「何を読んでるんだ、リューク」
「……仕事は?」
「終わった」
噂をすれば何とやら。まさかの本人、ヴィルのご登場だ。
だが、ヴィルは俺の手に持つ本を見て何かに気が付いた様子だった。そのまま、俺の隣に座る。
「それを読んでいたのか」
「これ読んだ事あるんですか?」
「あぁ、何度かな」
へぇ、何度も読んだのか。ヴィルって意外とこういうの好きなんだ。英雄とか、そういうの。まぁ、男のロマン的な? ……まぁ、それを言っちゃったらこの世界の奴ら全員そうなるんだけどさ。
「確か、ヴィルのお父上って凄い剣士だったんですよね」
「俺も強いぞ」
「……」
いや、何張り合っちゃってるのさ。ドヤ顔だぞ、ドヤ顔。まぁ、自分で強いって言っちゃうところがさすがヴィルだと思うけどさ。
「まぁ、辺境伯って隣国との境界線を守る仕事をしてますからね。隣国に睨みを利かせられる軍事力があるんでしょ?」
「あぁ。この国では、騎士団を持つ事が出来る貴族は限られている。謀反を起こされては、王族はたまったものではないからな。そして、そのうちの一つがこの家だ。隣国から進撃された時に止められなければ、この国との境界線近くにいる意味がない」
「なるほど……じゃあ、この国一強いって事ですか」
「そうだな。王宮騎士団に匹敵するだろう」
……いや、もしかしたらそれさえも凌ぐかもしれないぞ。もし白ヒョウが加わったら。大変だ大変だ。
けれど、思った。そういえば……
「……ヴィル、ここの初代辺境伯って、ここに住んでいた人なんですか?」
「違うぞ? 王に辺境伯という爵位を貰いここの領地に来た、元平民だ」
「……」
元、平民……
「どうして、爵位貰ったんですか……?」
「腕のある傭兵上がりの騎士だったからだ。だいぶ手柄を上げて爵位を貰ったんだ。まぁ、こんな何もない土地を当時の国王が渡したのだから、手柄を上げ英雄と謳われた奴への妬みだろうがな。分かりやすいだろ?」
……いや、まっさかぁ。
だけど、さ。この本の中に出てくる主人公……デカい剣を振り回す、身体が大きくて頑丈な男だったよな。
そして、この本の著者の名前。
M.M
いや、さすがにメーテォスのMじゃないだろ。
「ちなみに言うと、2代目メーテォス辺境伯夫人は小説作家だ」
「……」
……まじか。
でもさ、本に出てきた武勇伝の中に……ドラゴン、ってあったよな。……いやいやいや、ないないない。
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