厄介払いで結婚させられた異世界転生王子、辺境伯に溺愛される

楠ノ木雫

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第二章

◇16 愛の力は偉大だな

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 それは、次の日の午前中の事。ヴィルが連れていきたいところがあると言い出した。

 こんなに外は猛吹雪なんだ。連れていきたいところって言ったら屋敷内しかない。

 けど、ヴィルが呼んだのは……白衣の男性。大体60代くらいだろうか。

 一緒に来たピモは、何故か大きな上着を持ってきていて。お腹が大きいからとヴィルの上着を持ってきたらしい。それを俺に着せた。


「重くないか」

「大丈夫です」


 まぁ、お腹大きくなってから外に出る事はなかったから妊婦用の上着ってなかったからな。でも、上着だなんて……外出るわけじゃないだろうし、どこに行くんだ?

 じゃあ行こう、とヴィルが手をつないできた。一緒に男性に付いていった。


「どこに行くんですか?」

「行けば分かる」


 なんか、いつもこんな感じじゃないか? 言ってくれてもいいじゃん。まぁ、分かってたけどさ。

 でも、気が付いた。ここ、そういえばあまり通った事がないかもしれない。運動のためにと屋敷内の廊下を歩き回ってるけど、こんなところがあったのは知らなかったな。

 この屋敷の廊下は全部同じく青で統一されてるから、迷ったら大変な事になる。ここで一人にされたら戻れるかな俺。自信はないな。


「この先です」


 茶色くて大きな扉があり、そこを開けるとまた青いカーペットがかれた廊下ろうかが続いていて。一体この先に何があるんだろう。

 何やら作業しているような音がするような、しないような。この先に誰かいるのだろうか。

 そして、辿りついた。またまた大きな扉に。これ、なんか見た事があるような、ないような。茶色くて、何かの植物の装飾がされている。一体この奥に何があるんだろう。すっごく気になる。

 一緒に来ていた白衣の男性がゆっくりと扉を開けた。


「……温室?」

「あぁ。薬草園だ」


 中には、何人もの作業員? 庭師? 白衣を着てる人もいるから、研究員もか。皆が植物を植えている作業をしている。温室やバラの間のように植物が敷き詰められているわけではなく、所々にまだ植えられていない場所や、芽の状態のものもある。作ってる最中って事か?


「リュークが風邪で寝込んだ後から作り始めたんだ。また体調を崩した時に対処出来るようにな」

「マジですか……」


 俺のために薬草園作っちゃったの? あの温室にも一応薬草は植えてあるけど……こんなに広い温室に植えるくらいの量はないはずだ。確か、首都からかき集めたって言ってたけれど、ここにないものも持ってきて植えてるって事か?


「リュークの出産日は残暑より前ではあるが、いつまた体調を崩すか分からないからな。だから今急がせているんだ」

「そんな事してたんですか……知りませんでした」

「大体準備が整ったら言う事にしていたんだ。あともう一つあるんだが、あちらはまだ上手くいってなくてな」

「もう一つ?」

「あぁ。この屋敷には温室が4つある。野菜を作っている一番大きい温室に、バラの間、そしてここと、あともう一つ隣にあるんだ」

「えっ?」

「温室の温度調節をしている装置がこの屋敷には二つある。バラの間と野菜用の大きな温室をまかなっているものと、ここと隣をまかなっていたものの二つ。何年か前までは全て使っていたんだが、燃料削減という事でこちらの装置は使ってなかったんだ。だがまだ装置は使えるからな。今回の件を踏まえて使う事にしたんだ。燃料に関しては問題ないしな」


 そうなんだ……温室が4つもあったのは知らなかったな。バラの間と野菜温室よりも遠いみたいだし……なるほど、だから装置が二つあるのか。


「そして最後の一つも薬草を育てる場所となるんだが……温室として使うわけではない」

「え?」

「雪山に生えていた薬草をあそこで育てられれば、という事で今実験中なんだ」


 ……え、マジ?

 もしかして、ジローに乗って薬草を探し回ったっていうあれか。あれで見つけた薬草を温室の場所で育てようと、そういう事か。


「気温を下げて育てるのであれば、温度調節の装置をフルで使う必要はない。ここでは温度を上げるより下げる方が燃料を食う量が少ないからな。夏には使う量が多くなるだろうが、夏の期間は短い。それくらいなら負担は少ないだろう」


 ……なんか凄いことし始めちゃってたって事か。俺の知らない所で。


「……血は争えないですね」

「は?」


 メーテォスの当主は代々奥様に尽くす。ある人は大図書室を作って、ある人は宝石をたくさん集めた白い間を作って、そしてある人は青バラとトゲのない安全なバラを作った。

 そして今の代のメーテォス当主は雪山の薬草を植えた薬草園を作ろうと今奮闘ふんとうしている。

 ……やばいな、メーテォスの当主様方って。優秀だから余計だ。


「……ありがとうございます、ヴィル」

「当たり前だ。リュークには何事もなく出産してほしいからな。それに、あんなにひどい熱を出して苦しむリュークを見る事しか出来ないのは辛いんだ。だから、リュークにはずっと健康でいてほしい。俺の為にも、元気でいてくれ」

「はい」


 でもこれは全部、愛から来るものなんだろうな。愛妻家、ってやつか。

 結構、嬉しい。歴代のご夫人達も、きっとこういう気持ちだったんじゃないかな。

 ありがとうございます、ヴィル。

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